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第二十五話

「凛香!? どうしたんだよその格好は!」

「あら、そんなに……おかしいかしら。いつもの格好ですわよッ! ……いたた、舌を噛んでしまったわ……!」

「無理した口調を使うからだよ……」


 昼休みになり、急遽凛香を旧校舎に呼び出した。何度も旧校舎に来すぎて家にいるような安心感がある。そんな場所で俺は金髪凛香に詰め寄っていた。


「クール系アイドルはどうしたんだ。それじゃあ清川と同じお嬢様系アイドルになっちゃうぞ」

「……もとから、お嬢様系ですわよ」

「いや無理だから! 先生もビックリしてたよね!?」


 校則的に問題があるのか知らないが、真面目な凛香が金髪のズラを被ってきたら誰でも驚く。クラスメイトたちは常に動揺し、隙を見ては凛香に話しかけていた。まあ『いつもの私ですわ』と凛香は繰り返してクラスメイトたちを困惑させていたけども……!


「今の私、可愛いかしら?」

「…………可愛いよ、すごく」


 伏し目がちに尋ねてきた凛香に対して、気恥ずかしさ混じりに頷く。凛香は不安そうにしているが、率直に言って可愛い。いつもと違う髪型だからこそ、また違う魅力が引き出されている。ネトゲのリンと同じ髪色だから馴染みもあるし……。


「そう……。ならこれで和斗くんは私から目が離せないわね!」

「色んな意味でね!」


 やたら時間を共有してくると思ったら、今度はこれだ。唐突なイメチェン。理由が分からないので困惑するしかない。


「凛ちゃん! どうしたのその髪型!」

「凛香先輩……? なぜそのような――――はっ、まさか私に憧れて……?」


 時間を置いて胡桃坂さんと清川もやってくる。事前に二人にも連絡しておいた。これは報告しておいた方が良いだろう。凛香を見て動揺していた彼女たちが歩み寄ってきて、凛香に強く事情の説明を求める。


「凛ちゃん、その髪色似合ってて可愛いね。でもね、理由が知りたいなー」

「もとからですわ」

「……さすがにそれは無理があるよ…………」


 珍しく苦笑いする胡桃坂さん。


「凛香先輩。私に憧れてそのような髪型を――――え、待ってください。それズラですよね?」

「いいえ、地毛よ」

「違いますよね!? ズラですよね!? まさか…………ちょっと和斗先輩!? こっちに!」


 凄まじい剣幕を見せる清川が俺の腕を引っ張り、教室の隅に移動する。凛香と胡桃坂さんに聞こえないように囁いてきた。


「……凛香先輩に、私のズラのこと言ってませんよね?」

「言ってないぞ」

「本当の本当にですか? あれは、遠回しにお前の弱みを握ったぞ、と脅しているわけではないですよね?」

「凛香がそんなことするわけないだろ……。ともかく俺はズラのことは言ってない」

「ならどうして――――」

「ちょっと、いいかしら」


 突如、凛香が俺と清川の間に割り込んできた。そして俺の腕をギュッと両手で握りしめる。ふと、凛香の醸す空気に敵意が混じっていることに気づいた。まるで清川から俺を奪うような……そんな感じだ。


「和斗くんは私の夫よ」

「は、はい。それは重々承知しております。とてもお似合いの夫婦ですよ」

「ええ、夫婦なの。和斗くんは妻である私だけを見るべきで、愛人は必要ないのよ」

「はぁ…………?」


 何に対する対抗かは分からないが、なぜか俺を巡って凛香VS清川みたいになっていた。まあ清川の方は意味が分からずキョトンとしているが……。

 混沌渦巻き始める雰囲気を察したのか、胡桃坂さんが明るい声をあげる。


「あ! もうすぐ休憩時間終わっちゃうね! 一旦教室に戻ろっか!」

「…………そう、ですわね。凛香先輩、もし何かお悩みがあるのでしたらお聞きしますよ」

「問題ないわ――――ないですわ」


 無理に言い直した凛香に苦笑を漏らした清川は、胡桃坂さんと共に教室から出ていった。残された俺は凛香の金髪を見つめながら言う。


「金髪も似合ってるよな。今度はリンみたいな髪型にしてみるのはどう?」

「…………お嬢様系じゃないと、意味がないじゃない」

「え?」

「夫の視線を独占するためには――――っ」


 苦々しく顔を歪めた凛香は、それ以上言うことなく教室から去ってしまう。

 理由は不明だが、もしかしたら清川に対抗心を抱いているのかもしれない。 

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