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第二十三話

 四人で楽しくネトゲをする時間が流れていく。パーティーで洞窟に潜ってモンスターと戦ったり、航海して釣りをしたり、採掘したり……。片っ端から黒い平原で可能な遊びを繰り返し、あっという間に時間が過ぎていった。気づけば当たり前のように俺は人気アイドルグループと遊んでいる。普通のことのように捉えていたが、やはり異常なことに変わらない。俺を変なふうに見ていた清川もネトゲに夢中になり、俺に対する態度も至って普通のものになっていた。


『黒い平原が初めてのネトゲでしたが、中々面白いものですね』


 個人チャットで清川がそう言ってくる。現在、船の上にいる俺たちは釣りをしており、凛香と胡桃坂さんが会話しているからだろう。俺と清川には関係ない話題に発展しているので自然と二人組に分かれている。


『だろ? 俺、何年もしてるからな』

『それはそれでよく飽きませんね……』

『飽きる気配がまるでしない。凛香もいるし』

『……和斗先輩は、善良な男の人のようですね』

『ようやく分かってくれたか』


 唐突に理解を示す清川。落ち着いた雰囲気を感じている中での言葉だったので、俺も素直に受け入れて喜ぶ。というより、悪人要素が俺にはない。ネトゲ廃人というダメ要素はあるけれど。


『ネトゲを通じて分かりました。あの明るいリンというキャラも凛香先輩の一要素であり、夫婦という考え方も真剣なんだと。奈々先輩も全力で応援していますよね』

『うん。そうなんだよ。洗脳なんて馬鹿げた話はないから』

『…………普通は洗脳しているとしか思えませんよ』

『普段から清川がそういうことを考えているせいだろ。普通は思わないってば』

『もしや和斗先輩、私を腹黒キャラとして見ていますね?』

『まあ、うん』


 以前、洗脳技術を持つ俺を利用するつもりだったみたいなことを言っていた気がするし。中々にあくどい考えをする女の子だと思っている。そして勘違い暴走少女だとも。


『昔の凛香先輩を支えたのは和斗先輩だとも奈々先輩からお聞きしました。そしてネトゲで結婚=夫婦を受け入れ、凛香先輩の全てを受け入れている現状についても……』

『戸惑ってはいるけどな……。でも凛香の真剣な想いは伝わってくるし、受け入れたいと思ってるよ』

『なんて寛容な……! 弱みを握っても脅迫せず、凛香先輩の全てを受け入れる度量……。和斗先輩、今ここで貴方を少しだけ認めてあげましょう』

『少しだけなのか』

『当然です。まだまだ和斗先輩について知らないことが多いですから。一応は、凛香先輩の彼氏として認めたまでですよ』


 彼氏として、か。まあそうだよな。ただ、誤解は解けたのなら別に構わない。これからは普通に接してくれるだろう。俺は安心して日常を謳歌すればいい。


『凛香先輩はクールキャラとして見られていますが、その実、誰よりも熱い心を持っています。感情豊かで、あらゆる物事から影響を受けやすい繊細な一面もあります』

『なんとなく、分かるよ』


 でなければネトゲで結婚=リアルでも夫婦というぶっ飛んだ考え方にはたどり着かないと思う。それだけ純粋だからこそ、アイドル活動に素直な思いで取り組めるのかもしれない。


『和斗先輩にしかできない支え方があると思いますので、よろしくお願いします』

『言われなくてもそのつもりだよ』


 かつてのリンも塞ぎ込むことがあった。ネトゲにログインしているのに何もせず、話しかけるとキレてくるのだ。かなり理不尽な話だが、あの時の凛香にとってネトゲが逃げ道だったのだろう。少しでも凛香の支えになれるのなら、多少の八つ当たりくらいはしてくれて構わない(いつも後になって、八つ当たりしたことに対してめっちゃ謝ってくる)。


『なあ清川。さっきから魚を逃がしてばっかりだな』

『む、難しいのです、タイミングが……!』


 魚の挙動に合わせてタイミングよくクリックするだけなんだけどな……。

 もしかしたら清川は、歌って踊る人気アイドルでありながらリズム音痴なのかもしれない。

 そう思うと、ちょっと笑えた。


 ☆


 シュトゥルムアングリフと話をしながら釣りをしていた私は、ふとカズとカカナ・エルレラが何をしているのか気になった。パーティーチャットで二人は話をしていない。

 ――――もしかして個人チャット?

 私がシュトゥルムアングリフとの会話に夢中になっていたせいね……!

 直感で分かった。カズとカカナ・エルレラが、個人チャットを通じて親睦を深めていることが。

 冷たい汗が額から頬に流れていく。嫌な緊張感が襲ってきた。

 綾音が私に縁のない人であれば、直接警告することはできた。

 しかし大切な後輩には強く出ることはできない。

 できれば自分の意思で和斗くんから身を引いてほしい。 

 私と和斗くんの絆の深さをもっと見せつけなくては……!


「なんとか……なんとかして、夫の視線を私に釘付けにするのよ……!」


 これまでの私ではダメかもしれない。

 何かしらの変化を自分にもたらす必要がありそう……。

 本妻として、意地でも負けられない。

 どんな手段を使ってでも、和斗くんの視線を独占してみせるわ。

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