第三話
――――最近、凛香先輩の様子がおかしい。
私、清川綾音はスター☆まいんずの最年少でありながら、みんなを優しく支えるポジションを確立してしまっている。最年少といっても高校一年生だけれど……。
お嬢様として活動しているせいか、しっかり者のイメージを持たれることもあり、必然、グループ内で支える役割に収まったのだと思う。
私としても不満はない。性格に合っている。
誰かが失敗すれば優しく励まし、誰かの調子が悪そうであれば自然に話しかけて励ます……。先輩たちはエネルギーがある分、振り返ることが苦手な一面がある。そこを後輩である私がそっとフォローしてあげるのが生き甲斐でもあった。
尊敬できる先輩たちに囲まれ、日々色んなことを教えてもらうことで自分の成長を実感できる……。なんて素晴らしい人生なんだろう。結成当時は険悪な雰囲気になることが多く、主に凛香先輩が発端になることが多かった。
けれど、その凛香先輩がある日突然、きれいになった。
とてもひたむきに真っすぐに、情熱的に、しかし冷静に周りをフォローする。
まさに理想的な振る舞いだった。
かつては練習を強要してきたり、誰かがミスをすれば必要以上に怒りをあらわにした。
そんな凛香先輩が良い意味で変化したからこそ、スター☆まいんずのみんなは再び前を向いて頑張り始めた。言うまでもなく凛香先輩が私たちの中心になっている。
もちろんリーダーの奈々先輩もグループの柱になっているけれど、凛香先輩はその奈々先輩からも頼られる存在。
5人全員、誰一人として欠けてはいけない。
その前提の上で、凛香先輩がスター☆まいんずの核になっているのは誰もが理解していた。
私は凛香先輩を尊敬している。ストイックすぎて体調を崩すことがあるけど、それだけの情熱があるということ。そして物事の本質まで見ようとする強い姿勢……。尊敬に値する先輩だ。グループ内ではメンバーを励ますポジションになっている私。それも凛香先輩を見習っての部分が大きい。
つまり、私はそれだけ凛香先輩を見ている。
一挙手一投足、すべてを見逃さないように見ている。
どのような状況でどのようなことを考えているのか……。
尊敬する凛香先輩のすべてを吸収したいと願っている。
だからこそ、気づいた。
最近の凛香先輩は――――おかしい。
なんだあれは。
今までの凛香先輩は、つねにキリッとした勇ましい表情を浮かべていた。
いつどんな時でも自分の目標に向かって走り続ける、そんなカッコいい女性だった。
でも近ごろの凛香先輩は、だらしない笑みを浮かべる瞬間がある。
レッスンの休憩中、ふとスマホを見てにやけるのだ。
それだけではない。
なにやら大きなバッグを持ってきては、中から見たことがない人形を取り出して可愛がることがある。他のメンバーが「なにそれー」と尋ねると、「ふふ、可愛いでしょ? 毎晩抱きしめて眠っているの」と幸せそうに言うのだ。
私はその人形を必死にネットで調べた。しかし出てこなかったので、おそらく凛香先輩の手作り人形。さすが器用な人……すごい。
ただ、問題なのが、その人形がどこぞの男を模していること。
私以外のメンバーは気にしなかったけど、私は気になって仕方がない。
なぜならアイドルは恋愛禁止だから。
スター☆まいんずは明確に禁止とは言われていないけど、そこは暗黙の了解になっている。ファンの人たちもそう願っていることだろう。
それにスター☆まいんずは現在成長中。ちょっとしたトラブルも避けたい。
道に転がる石ころを取り除くが私の役目でもある。
男嫌いと言われるあの凛香先輩が、どこかの男と付き合っている……。
とても考えにくいことだけれど、だからこそ、誰かを好きになった時に止まらなくなってしまうのでは?と思ってしまう。
『凛香先輩に恋人はいるのか?』
その疑問を解消するべく、私は意を決して直接尋ねてみた。
すると凛香先輩は一切表情を変えることなく『いないわ』と言った。
私はウソを見抜くのが得意で、特技でもある。
だから、ウソではないと確信できた。
しかし、何かが違和感があった。
その違和感が何なのかは分からない。
「これは調査する必要がありますね。私、清川綾音が……!」
スター☆まいんずを守るために、そして先輩たちを支えるためにも……。
私が、凛香先輩の日々の行動を見守る必要がある。
幸いにも同じ学校なので問題はない(凛香先輩を追いかけて入学した)。
凛香先輩のお家も知っている(こっそり後をつけたことがあるから。でも普通にお呼ばれして何度か遊びに行ったこともある。乃々愛ちゃんが天使のように可愛らしくて鼻血が出てしまった)
もし……もし、凛香先輩に男の影がちらつくようであれば――――。
「私の凛香先輩――――ではなく、スター☆まいんずのためにも……その男には血を見てもらう必要がありますね…………ふふふ……」
 




