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第二話

 夏休みが視野に入ってきた今日この頃。

 うだるような暑さが続く時期において、俺が通う学校でも既に水泳の授業が始まっていた。


「なあおい綾小路! 今日は女子と合同だってよ!」

「知ってる。つーか合同じゃないだろ。コース分けをされての授業じゃん」


 水着に着替え更衣室から出るなり、嬉々とした笑みを見せるぽっちゃり体型の男子、橘が声をかけてきた。

 隣にはメガネ男子の斎藤もいる。いや、今はメガネをかけていないな。

 この二人とは高一の頃からの付き合いで、俺がボッチを卒業するキッカケを作ってくれた恩人でもある。

 ちなみに今日の水泳授業では、1~3コースが男子、4~6コースが女子と分けられている。

 決して一緒に授業を受けるわけじゃない。


「くくく、俺の肉体に女子の視線が集中するぜっ!」

「肉体というより贅肉だろ。そのポッコリお腹」

「デブが好きって女の子もいるだろうがよ!」


 そうだなー、と俺は適当に返事をしながらプールに目を向ける。

 太陽の光を反射してキラキラと水が輝いていた。

 今すぐ飛び込みたい……。


「僕の計算によると、綾小路くんが気取っている確率は89%だね!」

「別に気取ってないけど……。ぶっちゃけ今は女子よりも暑さをどうにかしたい」

「何言ってんだよ綾小路! 男はいつだって女の体を考えるもんだろ!」

「……割と最低な発言だぞ、それ」


 汗をたらたらと体に流す橘に半目でツッコミを入れる。

 女子に聞かれたら一生軽蔑されるセリフだろうな。

 俺たち三人は他の男子たちの後に続き、シャワーを浴びてからプールサイドに移動する。


「早く女子来ねえかなー」

「くっ……! どうして僕はメガネ男子なんだ! これじゃハッキリと見えないじゃないか!」


 二人はギラギラとした目つきで女子の更衣室を凝視する。

 気持ちは分かるけど少しくらい我慢したほうがいい。

 とは言っても俺も気になる。

 凛香のスクール水着姿は見たことがない。

 恐らく男女でプールに入る機会は今後ないと思うのでバッチリ目に焼き付けておきたいところ。


「お、女子たちが来たぞ!」


 橘の声に、他の男子たちも反応する。

 思わず俺も女子更衣室の方向に首が動いた。

 スク水に着替えた同じクラスの女子たちが続々とプールにやって来る。

 普段の制服姿とは全く違う印象だ。


「やべぇマジ最高! この絶景を見ながらならピーマン百個は食えるぜ!」

「た、頼む僕の両目……! このときだけでいい、視力が上がってくれ……!」


 必死過ぎる。

 斎藤に至ってはググッと目を細め、睨むようにして女子たちを見ていた。


「うわぁ、なにあいつら……めっちゃ見てくる」

「あの三人ヤバくない? 斎藤とか睨んでくるんですけど」


 俺たちの存在を確認した女子たちが非難の声を上げながら体を竦めた。

 ……ちょっと待て、あの三人ってことは俺もカウントされているのか?

 それだけは勘弁してくれ。

 彼らは確かに大切な友達だが、こういうことに関しては線引を――――。


「おい綾小路! 水樹も出てきたぞ!」

「マジか!」


 やはり俺も同類だったらしい。

 すぐさま凛香の姿を目で探す。

 居た。

 クラスの女子たちから遅れて更衣室から出てくる。

 スク水が凛香の理想的な肉体を浮き彫りにしていた。

 背筋は堂々と真っ直ぐ伸びており、二の腕は女性らしくほっそりしている。

 程よく肉がついた太ももやふくらはぎが非常に魅力的で、脚フェチの男なら号泣するような美しい脚を出し惜しみなく晒していた。


「うひょー、やっぱ水樹は他の女子と格が違うな。しかも割とおっぱいでかいし。着痩せするタイプだったか」

「なあ橘」

「あん?」

「お前の両目えぐるぞ」

「こわっ! いきなり何だよ!」


 俺の本気度を悟ったらしい橘が、ぽっちゃり体型とは思えない速度で遠ざかった。


「まあまあ落ち着きなよ綾小路くん。水樹さんはアイドルなんだし色んな人から見られるのは仕方ないよ」

「……そうなんだけどな」


 頭では理解しているけど微妙に納得できない。

 ……俺って、意外と独占欲が強いのかな?

 ちょっと思い悩んでいると、シャワーを浴び終えてプールサイドに歩いてきた凛香と目が合った。


「……」

「……」


 体中から滴る水を物ともしない彼女は、俺の存在に気がつくと一瞬だけ微笑んだ。

 本当なら俺のところまで駆け寄ってきたいのだろうが、クラスメイトたちの存在を気にして最小限のリアクションに抑えたらしい。

 すると近くに居た男子たちがざわつきだす。


「今さっき水樹凛香がオレを見て笑ったぞ! オレに気があるんじゃねえの!?」

「いやいやいや! 俺を見て笑ったんだって!」

「ていうか、あのクールなアイドルも笑うんだな。校内で笑っている姿を見たのは初めてだぞ」


 凛香が少し微笑むだけでこの騒ぎ。

 久々に人気アイドルの凄さを肌で感じた。

 もし俺と凛香の関係を彼らに知られたらどうなるんだろうな。

 少なくとも学校に来れないくらいの暴動は起きる気がする(大げさか?)。


「お前ら集まれー。準備体操するぞー」


 体育を担当する筋肉むきむきの男性教師が生徒たちを集める。

 しかし殆どの男たちは、女子たちをチラチラ意識して行動が緩慢になっていた。

 恐らく凛香を見ている者が多いはず。

 なんせクール系アイドルのスク水は、そう何度も拝めるものじゃない。

 しかもスタイル抜群で胸も大きいならアイドルじゃなくても視線を集めたことだろう。

 あれほどの女の子が、ネトゲでは俺と結婚していて、リアルではお嫁さんとして振る舞っているんだよな〜。

 人生、本当に何が起きるか分からん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高校で水泳の授業あるところってあまりないんじゃないかな?そうでもないのかな?少なくとも自分の地域では水泳の授業があったのは小学校までで中学以降は水泳部じゃないとプールと関わることすらないです…
[良い点] カズ「筋肉ダルマ!」 体育教師「解せぬ( ‘ᾥ’ )」
[良い点] とても重要な質問です…スク水ですか…?
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