第二十三話
三人でのネトゲを終えた翌日。
教室の喧噪を耳にしながら、自席に座る俺は頭を抱えるような姿勢で悩んでいた。
チラッと視線を上げて前方を確認する。すでに凛香は席についており、いつものように綺麗な姿勢で読書をしていた。クール系アイドルらしい真面目な雰囲気が漂っている。
「はぁ…………まじかー」
俺は凛香のことが好きらしい。らしい、ではなく確定した事実だ。
それが分かってからというもの、妙にソワソワする。心がむず痒い。
「あ………」
何かに察したように、凛香が振り返った。
目が合い――――咄嗟に顔を背けてしまう。
「――――ッ!」
なんとなくショックを受けた凛香の気配を感じた。
数秒ほどして通知音が聞こえたのでスマホを取り出すと、リンから泣き崩れた顔文字が送られてきていた。ついでに『ガーン』という吹き出しのおまけつきである。
これがクール系アイドルからのメッセージかと思うと変な気持ちにさせられた。
☆
「こらカズくん! 凛ちゃんに意地悪したらダメでしょ!」
昼休みになり例の場所に向かうと、胡桃坂さんからおしかりを受けてしまった。
「今朝、凛ちゃんに素っ気なくしたよね? 凛ちゃん、すっごく悲しそうにしてたよ!」
「その、それは…………」
「カズくんは好きな女の子に意地悪する男の子なの?」
「そうじゃないんだけどさ、なんか恥ずかしくて思わず…………」
事情を説明するのも恥ずかしい。照れを隠し切れず首を揉みながら言った。
今の俺を見て胡桃坂さんは変に感じるかもしれない。そう思ったが、胡桃坂さんはいやらしくニマニマした笑みを浮かべていた。
「へー、へー……ふーん」
「な、なんでしょうか……?」
「カズくん、ちゃんと好意を自覚できてるんだね……うふふー」
うふふーって。お節介おばさんみたいなリアクションだな。
「ならあとは凛ちゃんに想いを告げるだけだね! ファイト!」
「それはちょっと……」
「え、どうして?」
「もう少し時間が欲しいと言いますか、心の整理をしたいというか」
「うーん。でも確かにね、ただ伝えるだけなのもちょっとあれかも……。や、すっごくいいと思うんだけどね!」
胡桃坂さんは自分の発言をフォローするように言う。
特に気になるところはないが、俺は自分の思いを吐き出す。
「ネトゲではリンから結婚してくださいって言われたんだ。だからリアルでは俺の方から言いたい」
「うんうん! 良いね!」
「で、色々考えたんだけど……リアルでも凛香とデートをしたい。それから告白したいなーと思うんですが……いかかでしょう?」
喋りながら低姿勢になった俺はお伺いを立てるように胡桃坂さんに尋ねた。
「すっごく良いと思う! 何も問題ないと思うよ!」
「でもリスク、高くないか? 凛香も人気アイドルだしさ……」
「変装すれば中々バレないよ! あ、でも目の良いファンの人もいるから……そこは運次第かも」
「やっぱり無理か……」
諦めようとしたが、胡桃坂さんが俺の両手を握りしめ、力強い瞳を向けてくる。
「やるべきだよ! リアルでデート!」
「でも……」
「確かにリスクはあるよ。でもやるべきだと思う! これから先、凛ちゃんはもっと人気が出る。リスクはあるけど、今しかできないと思うの」
「胡桃坂さん…………」
確信したように言われて何も言い返せなくなる。今よりも人気が出れば、変装しても誤魔化せないということだろう。リスクは承知の上で、今回が最後のチャンスだと言っているのだ。
「分かったよ胡桃坂さん。凛香をデートに誘う」
「カズくん……! 応援してる! がんばってね!」
人気アイドルグループのリーダーから熱いエールを受け取り、決意を固める。
今度は俺から凛香に想いを伝えようと。
そして言うのだ、『付き合ってください』と――――。