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第一話

「和斗くん。これはどういうことかしら?」

「それは……俺のスマホですね」

「私が聞いているのは、そういうことではない……分かってるわよね?」

 

 怒りに満ちた瞳を向けてくる美少女を前に、正座をしている俺は心底震えあがる。

 どうしてだろうか……アイドルの自室に来て早々、説教されているのは。

 目の前で仁王立ちしている髪の長い美少女は【水樹凛香】。

 静かな怒りを全身から迸らせて、こちらを凍てついた眼で見下ろしていた。


「和斗くん、もう一度聞くわね? この子たちは誰かしら?」


 凛香がスマホの画面を見せてくる。表示されているのは、とあるMMOのフレンドリスト。ネトゲプレイヤーらしい愉快な名前がズラリと並んでいた(5人だけ)。


「その人たちは……普通のプレイヤーだよ。この間、たまたまダンジョンで一緒になって仲良くなったんだ」

「そう。私がログアウトしている間に浮気したのね」

「いやいや! その人たち、中身は男だから! アバターはバリバリの美少女だけど、中身は普通のオッサン(?)だから!」


 美しくも鋭い瞳に睨まれた俺は慌てて弁解する。

 しかし凛香は納得しなかったらしく、髪の毛を掻き上げて「言い訳しないで」と言ってきた。


「言い訳って……。この俺がオッサンと変な関係になると思うのか?」

「思うわね」

「なんでだよ! 迷いなしに即答されたのがショックなんだが……」

「和斗くんはネカマおじさんが好きかもしれないわ」

「そんな特殊性癖はないよ、俺は!」


 断言しよう。絶対にありえない! 

 もう一つ断言しよう! 彼らはネカマじゃない! 

 美少女キャラで遊んでいるだけの男性です…………多分ね!


「本当にそうかしら? 和斗くんが私に飽きておじさんに走る可能性は否めないわ」

「その可能性は意地でも否定してほしいです! 仮に凛香に飽きたとしても、おじさんに走ることだけはない!」

「……そう。やっぱり私に飽きたのね」


 悲しげに項垂れる凛香。

 ともすれば涙すら流しそうな気配を漂わせた。


「例えばの話だって! 凛香と俺は中学からのフレンドだろ? 飽きるとかそういうのはないってば」

「……証明して」

「え?」

「和斗くんが私に永遠の愛を誓っていると、証明して」

「い、いやいや……」


 お、重い。永遠の愛とか言われても普通に困る。

 だって俺たちは……。


「私たちは結婚したのよ?」

「ネトゲ上でね」

「ええ、つまりはリアルでも夫婦ということになるわね」

「いやその……リアルでは――――」

「リアルでは……なに?」


 静かな迫力を伴わせて凛香が尋ねてくる。

 さながらバッドエンドに直行する選択肢を突きつけられているようだ。

 AorB。

 誤ったほうを選べば即終了。

 セーブどころかロードすらない鬼畜ゲー仕様だ。

 俺は冷や汗を流しながら慎重に言葉を紡ぐ。


「リアルでは……仲良しですね。それも凄く仲良し」

「そうね。まるで熟年夫婦のような絶対的な絆を育んでいるわ」

「……」


 付き合ってすらいませんけどね。

 なんならリアルで知り合って、まだ一ヶ月も経っていませんし。


「確かに私はアイドル活動で忙しいわ。それでも和斗くんを忘れたことはないの」

「へ、へぇ……」

「だから和斗くんも私のことを忘れないで」

「も、もちろん」


「ありがとう……。というわけで私以外のフレンドは消去しておくわね」

「分かっ――なんでだよ! みんな優しい人なのに!」


「ならこうしましょう。今度、私がその人たちと一対一で話し合うわ。それで和斗くんに邪な思いを抱いていないのが分かったらフレンドになるのを承認してあげる」

「そこまでされると俺が恥ずかしいんですけどっ」


「これが私の譲歩できる最低ラインね。ダメなら私以外のフレンドは諦めて頂戴」

「まじかよ。最低ラインの見直しをお願いしたいのですが……」

「無理ね」


 ピシャリと嘆願を拒否された。どうやら凛香は本気らしい。

 はぁ……。どうしてこうなったんだろう。

 俺の人生が急変したのは二週間前のことだったか。


 ネトゲで結婚したフレンドが、同じクラスの人気アイドルだったのだ――――。


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