普通な私のおかしな友達たち
私の名前は広瀬秋帆。ここ白風高校に通う高校1年生。
自分で言うのもなんだけど、身長、体重など実に平均的な体をしていると思う。容姿だって良くも、悪くもない。しいて上げるとするならば、幼いころに両親を亡くしており、バイトや家事をたくさんしているから引き締まった体をしているくらいだ。
「おはようございます、秋帆様。」
「おはよう、萌希さん。」
安藤萌希さん。中性的な見た目で、私と比べて20cmも小さいのに体重はあんまり変わらない。太っているわけでもないから、筋肉が多いのかな?平均的な私の頭じゃよくわからないが。しかし、萌希さんの頭はこの学校どころか、全国で見てもトップクラスにいいから聞いてみたらわかるかもしれない。
「おっはよーございまーす!」
「お、おはよう、つばささん。」
「おはようございます、つばささん。しかし、朝から秋帆様に抱き着かないでください、往来の邪魔です。」
「はぁい。ごめんなさい、秋帆ちゃん。」
「あはは……」
天使つばささん。神様が作ったと評される程の美貌を持ち、ボン、キュッ、ボンの、私の平均的な国語力では伝えられない、それはそれはすごい体つきをしている。さらに身長はクラスの男子の大半を抜かすほど高く、今のように抱き着かれると私の平均的な体は埋まってしまう。しかし、不思議と圧迫感はあまりなく、むしろ心地いい。
「おはようございますぅ。」
「おはよう、魔子さん。」
阿久澤魔子さん。つばささんを神様が作ったのならこっちは、悪魔が人間を堕落させるために作った、なんて言われている。
比べてみると、身長は魔子さんの方が高いかわりに、その、胸が無い。……一番差があるのは髪で、欧州あたりの血を引いているらしい、つばささんが金色で、肩より長いのをポニーテールにしているのに対して、魔子さんは純日本人らしい黒いきれいな髪を、男の子みたいなベリーショートにしてしまっている。あとは、なんとなくだが、魔子さんはちょっとえっちな気がする。
「おはようございます!みなさん!」
「おはよう、千陽さん。」
二宮千陽さん。見た目に関しては、この場にいる私以外の4人の中で一番没個性的な気がする。私よりは低いものの、萌希さんよりは高い身長。体重も重すぎるわけでも、軽すぎるわけでもない。童顔のせいで年齢よりやや幼く見られることがある、ということくらいだろうか。
しかし、高校生ながらに中二病を患っているみたいで、時に雰囲気がまるっきり変わることがある。その時には千陽、ではなく千陰と名乗っていて、ちょっと、痛い子だ。
そんな少しおかしな彼女たちは、それでも私のかけがえのない友達なのである。
しかし、彼女たちが私のことを友達だと思っているのか、それはちょっと怪しいところがある。
萌希さんはどこか距離があり、私を呼ぶとき、様を付けて呼んでくる。苗字に様を付けて呼ばれていた時よりはましだが、なんだか寂しい。さらに、事あるごとに私の世話を焼きたがる。これではまるでご主人様とメイドだ。
つばささんはむしろ近すぎる。先ほど抱き着いてきたのもそうだが、こちらが隙を作るとすぐに抱き着いて来たり、さらにはキスをしてきたりする。しかしそれは恋人に対するもの、というよりは母のような穏やかにこちらを見守っている感じがする。たまに泣きそうになってしまうのでやめてほしい。
魔子さんは、なにか、誘惑してきている気がする。勉強をしている時に目の前でゲームを始めたり、深夜にラーメンを食べる映像を急に送ってきたり。そのくらいならかわいいのもだが、みんなで遊んでいる時にたまたま2人きりになったことがあった。すると暑くなってきただのなんだのと脱ぎだして私にしなだれかかってきた。その美貌でそんなことをされると、いくら友達とはいえ、なんだか、その……。幸いにもすぐに他の3人が戻ってきて、魔子さんを止めてくれて、その時は大丈夫だった。
千陽さんは、まあ、問題はない。本人の言うことを信じるのであれば、問題は千陰さんにある。千陽さんは、つばささん程ではないものの、よくスキンシップを取ってくる。しかし、千陰さんとやらは、面と向かって私に嫌いと言い放つなど、攻撃的になるのだ。近づこうとすると逃げていくし、話しかけるとそっぽを向いてしまう。ちなみに千陰さんの時は体温が上がるのか顔や耳が赤いことが多い。中二病に身体的な症状が出るなんて聞いたことはないが、もしかしたら萌希さんなら知っているかもしれない。
「秋帆様、気になることがありましたら、なんなりと。」
「秋帆ちゃん?どうかした?」
「んぅ?秋帆ちゃん?考え事?」
「……」
いけない、立ち止まってしまっていたみたいだ。気がついたら、みんなが私の顔を覗き込んでいた。
「いや、大丈夫、何でもないよ。」
「そうですか、それならよかったです。」
「何かあったら私を頼ってね!秋帆ちゃん!」
「なんでも、相談に乗るよぉ。」
「……」
「あ、ありがとね、みんな。」
なんか、やっぱり距離感が友達って感じではないな。
そして、千陽さんは千陰さんになっている。やっぱり顔が赤いな、熱でもあるのかな。でも体調が悪いようには見えないし、大丈夫かな。
まあ、今日も普通に、学校頑張ろう。
今日は私のバイトが休みなので私の家にみんなで集まって遊ぶことになった。
私の家は、両親が遺していったもので、1人で住むにはとても広い。そのため、4人が家に来たらちょうどいいくらいになって私はとてもうれしい。
「どうかしましたか?秋帆さん。」
「秋帆ちゃん?話してみて?」
「私にも聞かせて?」
「秋帆さん?どうかしました?」
ああ、また、心配させてしまったみたいだ。
「ごめんね、なんでもないよ。ただ、みんなのこと、好きだって思って。じゃ、いこ?」
恥ずかしくなっちゃって、みんなの顔見えなくて、それから後ろを振り返らずに帰った。
今日はなんだか、いつもよりみんながおかしい。
まず萌希さんは、お茶を用意してきます、と言って勝手知ったる私の家のキッチンへ向かった。申し訳ないから、と止めたのに聞く耳を持たなかった。
つばささんは、部屋に入るなり、私を膝の上に乗せて抱き着いてきた。埋まった。私の平均的な筋力じゃあ抜け出せないし、呼びかけても返事がない。
そもそも、魔子さんが私に覆いかぶさる形で抱き着いてきているので、抜け出すのは困難だ。サンドイッチの具みたいだな、ははは。
「ち、千陽さん、ちょっと、助け……」
千陽さんは、いや、あれは千陰さんだな、赤い顔でぼうっと私を見つめていた。
「失礼します。」
控えめのノック音と共に、萌希さんが入ってきた。
「萌希さん!助けて!ちょっと!」
「えへへ、秋帆さん、紅茶持ってきましたよ、えへへ。」
「えええ、萌希さんまで変になってる……ちょっと!だれかまともに戻ってよ!」
「ぐえっ」
「あっ」
抜け出そうと暴れた拍子に手がつばささんに当たってしまった。結構勢いよく、顔に当たってしまった。
「う、なんか、とても嬉しいことがあったような……」
「つばささん、魔子さんどかすの手伝って。」
「う、うん。」
私は怒っている。最初は彼女たちが私のことを友達とは違うように接してきていたことだ。それが、今回、急にみんなおかしくなったことで爆発したのだ。
彼女たちに私の話をちゃんと、友達として、聞いてもらう。
「萌希さん、つばささん、魔子さん、千陽さん。正座して。」
自分でも驚くほど低い声が出た。それでようやく、みんな私が怒っているのに気が付いたようで黙って正座してくれた。どんな時でもニコニコしていたつばささんでさえその表情に怯えを見せている。
「あなた達は、私のことをどう思っているの?」
私はみんなの顔を見回す。
「あなた達は私のこと、友達だなんて思ってないんじゃないの?」
「え?いや、私たちは、」
「私はあなた達のこと、ずっと、出会ってからずっと、友達だと思って大切にしてきたの!」
気持ちが昂っちゃって、千陽さんの言葉を遮っちゃって。
「一生一緒にいようって!ずっとこの5人でって!それなのにみんな私のこと友達以外のなにかとして見ている感じがして!」
「あ、あの、秋帆様?」
「なによ!」
「あの、私たちは友達だったのですか?」
「え?」
目から涙が溢れてくる。自分の心が崩れ落ちる音がする。体に力が入らない。
「秋帆ちゃん!」
つばささんに抱きしめられる。とても温かい。それは母のような温かさで、崩れ落ちる心が救われていく感じがする。
「秋帆さん、あのね、聞いて。」
「う、うん。」
聞くのは怖い。だけど、優しく微笑んだつばささんが抱きしめてくれているから、なんだか安心できる。
「え、あ、あの、あのね、その。」
「秋帆ちゃん、私たちはあなたのこと、恋人だと、思っているのよ。」
「え?……えっ!?」
頭が追い付かない、なに、なんだって?
「本当に?」
確かめるために、1人1人、みんなの顔を見る。
「はい。」
萌希さんは静かに、しかし力強く。
「うん。」
つばささんは微笑みながら、優しく。
「はぁい。」
魔子さんは少し怪しげに、でも確かに。
「はい!……は、はい。」
千陽さんは元気よく、そして一瞬で千陰さんに変わって少し自信なさげに、合わせて2回。
みんな、頷いた。
「え、ええ!?」
「昔、言ってくださったではないですか。一生5人で一緒にいよう、と。あれは婚約であったと認識しております。」
「え、いやそれは……」
「確かに秋帆ちゃんからはなかったけれど、私たちは秋帆ちゃんに愛を、それぞれの形で伝えていたつもりよ?」
「いや、でも、4人同時だなんて……」
「あら、私たちは気にしていないわよ?それに、秋帆ちゃんだって、4人からのスキンシップ、まんざらでもなかったじゃない。」
「え、ええ!?いや、そんな、だって私は普通の友達だと思って……そもそもなんでみんな私のこと好きなの?きっかけはなに?」
「それはね!そ、それはね、みんなのこと、普通に見てくれたからだよ。」
「え?そんなの別に……」
そんなこと、普通のことだ。みんなおかしなところはあるけれど、それでも普通の人間だ。
「いえ、秋帆様、そんなの、ではないのです。」
「ええ。私たちはね、いつも人間たちから特別に見られていたのよ。」
「ふふ、この際だから言うけどね、私たちみんな、普通の人間じゃあないのよ。ね、千陰ちゃん?」
「え?あ、えっとね、萌希さんは機械で、つばささんは天使、魔子さんは悪魔で、私は二重人格なのですよ。」
「え?ええ!?」
まってまって、頭追い付かない!
「そんな私たちを、普通に見てくれる人間はあなた1人だったのですよ。」
「そんなの、好きになっちゃうじゃない?」
「あなただけが、私たちを普通に見てくれるの。敬うわけでも、嫉妬するわけでもなく。」
「それに、疑ってきたり、蔑んだりもしてきませんでした!ま、まあ、私の存在を信じてはいなかったみたいだけどね。」
「そんな秋帆様のことを、私たちは愛しております。」
「ええ、愛しているの。」
「私も、愛してるわぁ。」
「愛しています!ほら、千陰も!……あ、愛してる、ます、うん。」
もう、いっぱいいっぱいだ。あ、無理。
「あっ秋帆ちゃん!?」
あの後、目が覚めてから改めて説明を受けた。
萌希さんは、1人の研究者によって作られて、実験のためにこの近くに送られてきたらしい。
つばささんは、天界の特別な試練のために地上に降りてきているらしい。
魔子さんは、つばささんに着いてくる形で、魔界の特別な試練のために地上に上がってきているらしい。ちなみに、天界と魔界は結構仲がいいらしい。
千陽さん、千陰さんは、まあ、普通の家庭に産まれたらしい。
そして改めて、愛している、と言われた。私は……私は、それを受け入れた。友達だと言ってきていたけれど、そこを恋人と置き換えても、何も、違和感だとかそういうものはなかったし、むしろしっくりきた。なんだったら嬉しかった。みんなから愛しているといわれて、とてもとっても嬉しかった。
「秋帆、どうしました?」
萌希がお茶を持って来てくれた。私の一番好きな味の紅茶を。
「秋帆?どうしたの?」
つばさが後ろから抱き着いてきてくれた。私の一番好きな温もり。
「秋帆ぉ?どうかしたのぉ?」
魔子が私の顔を覗き込んでくれた。私の一番好きな、ちょっとえっちな表情で。
「秋帆、どうしたのー!?……あ、秋帆……?」
千陽、千陰が手を握ってくれた。私の一番好きな、照れて真っ赤な小さな手で。
「みんな、愛してるよ!」
普通な私の、とってもとっても愛してるおかしな恋人たち!
お読みいただきありがとうございました。