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ナケナシノチカラ

「はぁ……はぁ……」

「肩で息してるね。苦しいんだね」

 満身創痍の花奈流に元気溌剌な凪紗。


「わたしは……負けません……」

「無理だよ。私の勝ちで終わらせるからね」


 凪紗は駆ける。花奈流に向かって。容赦なく。手抜も手加減もなしで。


「負けな……ぐっ!」

 駆けてきた凪紗は無言で、無慈悲に連撃を流れる水のように花奈流に浴びせる。


「あぅ……はぅ……!」


 凪紗の攻撃を受ける度に体が大きくよろめく。だが、半月の構えだけは崩れてはいない。


「気を抜くな……意識を保て……」

 花奈流はこらえながら、吐き出す苦肉の言葉。それは……


「勝ちにこだわれ……勝利を手探れ……勝っていづみセンパイを−−騎士長に!」


 それはまるで自身にかける魔法のようで−−勝ちへの呪い。


「集中を……途切れさせるなぁあああぁぁあぁああぁぁ〜! わたしぃいいいぃいいぃい〜〜!」

 凪紗の攻撃を受け続け、防御無視の捨て身の一撃を繰り出す。


「ダメだよ。なにも考えない捨て身の一撃なんて通らないよ!」

「うおぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉおおおぉぉおお〜〜〜〜!」


 花奈流は咆哮し、凪紗へ『防御無視の捨て身の攻撃』を仕掛ける!


「くっ……!」

 いままで優勢だった凪紗が気圧されて、後ずさる。


「はぁああぁああああああぁあぁ〜〜〜〜〜〜っ!


 花奈流の放った閃光が凪紗の偽剣と交わる。


 意識を途切れさせるな! 気をしっかり持て! すべてを保て!

 

 花奈流は自身に言い聞かせる。呪詛のごとく。


 センパイに集中しろ。攻撃を止めるな! 気をしっかり持て! 意識を持って行かれるな!


 凪紗の十八番の連続攻撃を盗んだかのような雨のような連続攻撃。


「はうっ……!」

 しかし、凪紗には攻撃は一撃も当たらない。すべて偽剣でいなさせ、軽い身のこなしでかわされ、大振りのスキを突かれ一閃や閃光を入れられてしまう。


「頑張れわたしの身体! 頑張れぇ! 動いてええぇええぇえ〜〜〜!」


 花奈流の捨て身の攻撃は続く。


「止まるなわたし! 走ってわたし!!」


 痛みを押し殺し、凪紗への猛撃を止めない。


 止まるな! 走れ! 攻撃し続けろ! 意識のすべてを目の前のセンパイに集中しろ! 気を緩めるな! 意識を掴んでいろ!


 一瞬でも……意識を手放したら、離れたのなら−−今までの『痛み』が全部くる!


 花奈流は意識的に目の前の凪紗(てき)に全集中し、痛覚を無理矢理ねじ伏せている。簡単に言えばそれは『やせ我慢』や『根性』といった精神論。


 しかし花奈流にはいづみの思いだけでその精神論が通っている。


 −−勝っていづみセンパイを騎士長に。


 ただ、その一点だけで。痛覚すらも押さえ込み、消し去っている。


「負けてたまるかぁあああああぁあああぁあああ〜〜〜!」

 花奈流の捨て身の猛連撃は徐々に凪紗を圧倒する。だが−−


「くっ……!」

 凪紗はすんでの所ですべての攻撃をかわし、いなし、よけている。


「あぐっ……!」

 攻撃をかわされた後に待っている凪紗の反撃。よけられず、またはよけずにすべてを食らいながら攻撃を続ける。


「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで! なんで一発も、一度も一振りも当たらないの!」


 そう。花奈流の攻撃は『凪紗には一度も当たっていない』


 唯一食らった攻撃は衛宮火燐の『斬空一陣・疾風 零』だけだった。花奈流の攻撃は一度たりとも凪紗にはヒットしていない。


「どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして! ねぇどうして!」


 疑問の怨念を凪紗に放つ。


「見えてるからだよ」

 平淡に答える凪紗の一撃が花奈流に通る。


「がはっ……」

 攻撃を放った凪紗。攻撃は花奈流に直撃。


「ちょ……とぉ……?」

 攻撃はヒットし武器を引いた。が、花奈流から武器が離れない


「あ……ぅ……あはは……捕まえたぁ……」

 花奈流は攻撃を食らいながらも、凪紗の武器を左手でがっちりと掴んでいた。


「……この距離なら……ゼロ距離なら……はずさない……!」

 花奈流の眼がするどい眼光を放っている。


「いづみセンパイ……あの技、借ります!」


 花奈流の右腕が瞬時に後方に引き、そして……


「レイピアあぁあぁぁぁああああぁぁぁあああぁあぁぁあ〜〜〜〜エクレール!」


 超高速の突き技。


 レイピア・リュミエール以上にいづみがこの技をさらに昇華させようしている。そんな思いで一緒に練習した技。いづみと花奈流の思い出が詰まったこの技。この技で花奈流は勝利しようとしている。


 自分の身体を犠牲にして、囮にして、凪紗の武器を掴んで離さずに。もっとも近い超近距離で放つこの最速でいて高速のひと突きで。勝ちを−−


 掴み取ろうとしていた。


「甘いよ。キャラメルマキアートにモカシロップとチョコソースを加えたぐらいに甘い!」


 武器に未練もなく手放し、身体を後方へのけぞらし、突きの軌道を変え、勝利を掴み取る高速の突きをあっさりとよけた。


「なんで……偽剣が……」

 凪紗がレイピア・リュミエールの軌道を変えたのは偽剣だった。

 ふと、花奈流は自分が掴んでいたはずの、今はコンクリートの床に落ちている偽剣を見た。


「あ……」

 そこにあったのは−−


「鞘……」

 落ちていたのは鞘。花奈流が必死になって掴んで離さなかったのは、偽剣ではなく鞘だった。周りが見えていなかった。


「言ったよね? 状況判断が遅いって」

「なんで……ねぇ、なんでかわせるの……? なんで知ってるの?」

「言ったでしょ? みんなの事『見てる』って」

「見てる……って……」

「必ずこの突き技で勝負をかけてくると踏んでいたよ」


「……! ぅく……ゆ……雪見、雪見凪紗あぁあああああぁああぁあぁぁあぁああ〜〜〜!」

「……完膚なきまでに、徹底的に負けを認めさせるから。覚悟してね」



 躊躇なく偽剣を振るう。



「が……うぐ……」

 


 わき腹への直撃を受けて花奈流は大きくよろめく。


 後方へと退避しようとする花奈流を凪紗は最速で追いつめ……


「おしまいだよ」

 秒で追いつき、花奈流の眼前で告げる。



「迅雷一襲・風斬」


 高速よりも音速。ハイスピードを越えるフルスピードな連撃。


 目にも留まらない怒濤の連続斬撃が上下左右から縦横無尽に花奈流を襲う。


「なに……あうっ! ぐ……はう……!」

 花奈流には今、どんな攻撃を食らっているか理解できない。


 痛みだけが身体を走り抜け、凪紗の姿が見えない。だが、確実に攻撃は受けている。

視線を向けても、どこに向いてもそこにあるのは−−だたの『痛み』だけ。


「痛みだけが−−あうぅ……!」

 防御も回避もできずにただ、ただ攻撃を受けてよろめくだけ。


「いづみ……センパイ……」

 斬撃をまともに受けている最中、いづみの事を思う。


『少しでも、長引かせたかったら凪紗ちゃんをよく見て』


 そして、いづみの言葉を思い出す。


「いづみセンパイ……すみません……速すぎて見えません……雪見センパイがぜんぜん見えないんです……」


 嘆くように、詫びるように言葉を漏らす。


 花奈流は防御もせずにただ、ただ、攻撃を受けるのみ。


 その表情は上の空。眼はただ虚空をみつめ、顔は虚ろな表情を描く。


 手を伸ばし何かを掴もうとする。だが、凪紗の斬撃がそれを許さない。伸ばした腕は無理矢理撃ち降ろされた。


「あうっ……いづみセンパイ……ごめんなさい……」


 続く凪紗の高速の連撃。花奈流の身体はすでに痛みを通り越して、痛覚がマヒしている。身体が痛みのキャパシティを通り越して痛みを拒絶している。


「だけど……だけど……せめて一矢だけ……!」


 花奈流は腰を落とし、そして凪紗を見据えてぶり返す痛みを堪えて偽剣を引いた、そしてするどく放った。


「あっ……」


 その死にものぐるいの突き攻撃は凪紗の体さばきであっさりとかわれた。


「……斬空一陣・疾風」


 無情な言葉に、無慈悲な攻撃。


 駆け斬り。すれ違い様の一撃で花奈流は完全に沈黙し、膝から崩れ落ちた。


 衛宮火燐から『勝負あり。それまで』の声が響く。落ちた鞘を拾い、偽剣を納め倒れた花奈流を見おろし、話しかける。


「わたしの勝ちだよ」

「……」

 花奈流は答えなかった。いや口を動かすと全身に痛みが走り気絶してしまう。そしてそれは指一本を動かしても、身体を動かしても同じ答えに辿り着く確定された感覚。


「……最後の突きは焦ったよ。あの突きだけはいづみちゃんを越えてた」

「……かわしたクセに……」

 痛みで意識を持って行かれないように必死にたったひと言だけいい切った。


「ううん。本当のことだよ。見事だった」

 衛宮火燐から助け船のように『同意見です。越えていましたよ』と言葉をかけた。


「……ウソつき……わたしがセンパイを越えられるわけない……のに……」


 その言葉を残して花奈流の意識は完全に消え去った。


 太陽は世界を夕日に染める。雲は夕日に照らされて紅く染まっていた。



 ◆



「う……うん」

 本渡花奈流はゆっくりと眼をあける。眼にはいるのは白い天井。そして身体を覆う白い掛け布団。


「あ、起きた!」

 花奈流は声の聞こえた方へと向く。


 そこには不安な表情で花奈流をのぞき込む和気いづみの姿があった。


「いづみセンパイ……?」

「よかったぁ〜このまま起きなかったらどうしようかと思った!」

 花奈流の姿を見て安堵したいづみはパイプイスに座りぎゅっと花奈流の手を握る。その手は安心したのか少し震えていた。


「すいません……心配をかけて……」

「ううん、いいの」

「えっと……ここは……」

 花奈流は天井と壁をぐるりと見渡す。


「保健室だよ」

「保健室……そっかわたし……あの後、意識が落ちちゃったんですね」

 そして、窓の外を見る。空は黒く染まっていて、数個の雲を残して太陽はすでに仕事を終えていた。


「そうだよ。大変だったんだからねここまで運ぶの」


「すいません……それと……負けてすいません」

「それもいいの。言ったでしょ。負けるのはわかってたった」

「……」


 花奈流は沈黙でいづみの言葉に答える。


「あ、そうだ凪紗ちゃんにも連絡入れるね」

 スマホを取り出し猛スピードで画面をスワイプさせ始める。


「雪見センパイ……いるんですか?」

「もちろんだよ。花奈流ちゃんが起きたらのど乾いてるだろうからって飲み物を買ってきてるよ」

「そうですか……」


 数秒の沈黙後、うつむいた花奈流は『いづみセンパイ』と言葉をかける


「なに?」

「負けて……すいません」

「それ、さっきも言ったよ」

「そうですけど……わたしは雪見センパイに勝てませんでした」

「もしかして……花奈流ちゃんは凪紗ちゃんに本気で勝てると思ったの?」

「はい……戦う前までは……あんなオドオドして自信なさげなひとには勝てると思ってました」

「じゃあ、今は?」

「……とても勝てる相手じゃありませんでした」

 さらに深くうつむき凪紗との戦いを思い出し、震える。


「……そっか」

「センパイ」

「なに?」


 そして、再び数秒の沈黙が過ぎ去り−−


「わたし、雪見センパイと話して……せめて副長をセンパイに……」

「ダメだよ」

 スワイプする指を止め、花奈流の言葉をいづみは声を張りあげ遮る。


「センパイ?」

「それはダメ。絶対にダメだよ」

「でも……わたしなんかより……いづみセンパイの方が……」

「花奈流ちゃん」

「は、はい……」

 いづみの威圧に押されて緊張気味に返答をする。


「確認するよ。花奈流ちゃんが勝てば私を騎士長に。負けたら副長になるって条件で凪紗ちゃんと勝負したんだよね?」

「そうです……」

「その条件で凪紗ちゃんは超本気で戦った……まぁ、火燐センパイに怒られたけど」

「……」

「もし、花奈流ちゃんが凪紗ちゃんとちゃんと話して、それを伝えたらきっと凪紗ちゃんは、私を副長にってことを考えちゃう。本気で。でもそれじゃだめなんだ」

「でも……わたしは」

「花奈流ちゃん」

 鋭い名指し言葉が花奈流を制する。


「それを伝えたら……凪紗ちゃんが超本気で戦った意味がなくなっちゃうんだ」

「センパイ……」

「だから……お願い。それだけはヤメて」

「……」

「もし、花奈流ちゃんが私の言葉を無視して凪紗ちゃんに直談判したら……私は花奈流ちゃんと戦わないといけない」

「え……なんでですか……?」

「花奈流ちゃんが副長になりなさい、っていう条件で。凪紗ちゃんと同じで超本気で」

「そんな……」

「私、本気だから。本気で花奈流ちゃんとバトるから。そして、勝つから。私より花奈流ちゃんのほうが副長に向いてるって、本気で思ってるから」

「いづみセンパイ……」


「本渡さん!」


 勢いよく引き戸をあけて入室してきたのは、戦いに勝利した無傷の勝利者、雪見凪紗。手に持っていた三つの飲料ボトルをすべて落とし、勢いよく花奈流に飛ぶつき抱きついたのだった。


「あ、痛い、あれ痛くない?、あ!、やっぱり痛い! 痛たたたたたた! センパイ痛い、あ、すごい痛いです!」

「よかったよ! なんかごめんね! 大丈夫!? どこ痛くない!」

「効いてます! 聞いてます!? 今です! 今、今ものすごく痛いです! 痛たたたた!」

 必死に凪紗の背中をギブアップしたプロレスラー並に高速タップするが凪紗はお構いなしに強固に抱きついている。


「ふぇっ! どこ、どこが痛いの!?」

「センパイが抱きついているところ全部です! と、とりあえず離れてください!」

「ううっ……本渡さん……そんな悲しいこと言わないで!」

 そういい、凪紗はさらに深く、そして強く抱きしめる。


「ちょっ! 痛たたたたたたた!」

「凪紗ちゃん。そろそろ花奈流ちゃんから離れてあげて。ケガ人だからね」

「ううっ……いづみちゃんだって……」

「でも、だっても、ダメなものはだめだよ。ほら」

 泣き出しそうな凪紗をいづみはなだめ、花奈流から引きはがした。


「花奈流ちゃん。大丈夫?」

「はい。なんとか……」

「本渡さん……そのごめんね」

「いいですよ」

「あ、何か飲む? ……落としちゃったけど……」

「ありがとうございます……って……全部甘いものばかりじゃないですか……」


 花奈流の指摘通り凪紗が買ってきた飲み物のラインナップは甘い物ばかりだった。


「ロイヤルミルクティーにキャラメルミルクティーにカフェラテ……どれも似たような飲み物だね」

 いづみは飲料ラインナップを読み上げ凪紗は『本渡さんはどれが飲みたい』と問いかける。


「……正直飲みたくありませんが……せっかくなのでキャラメルミルクティーを」

「えっ……」

 キャラメルミルクティーを取ろうとした時にみた凪紗の顔はまるで可愛がっていたペットと別れてしまったような、とても悲しそうな顔をしていてキャラメルミルクティーにガッツリと未練がる、とても残念がましい表情だった。


「……と、思ったんですが……ロイヤルミルクティーにします」

「どうぞ!」

 凪紗は嬉しそうに空気と表情を読んだ花奈流にロイヤルミルクティーを渡す。


(……わかりやすいひとだな……)


 と、花奈流は心中で言葉を漏らし、キャップを回し開ける。


「いづみちゃんは?」

「キャラメルミルクティー」

 即答で答え、凪紗は深いかなり深い悲しみの表情を浮かべた。


「うそうそ、カフェラテもらうね」

「うん!」


 凪紗は手に持っていたカフェラテを渡したのだった。


「あ、そうだ。本渡さん」


 凪紗はキャラメルミルクティーを含んで飲み込んだ後、花奈流に話しかけた。


「なんですか?」

「センパイを呼ぶときは……ちゃんと『センパイ』か『さん』を付けようね。もし次に呼び捨てにしたら……『個別訓練(おしおき)』だからね」


 にっこりと笑顔を浮かべて、花奈流に言う。


 可愛らしい笑顔、だがその眼の奥はまったく笑っていない。そこに潜んでいるのは先代から受け継いだ『厳しさ』と、そして『恐ろしい感情』だった。


「あ……えっと……はい」


 その時、なぜか花奈流は股間を押さえ、尿意を感じていた。


 この瞬間。騎士道部に新たな騎士長が誕生した瞬間だった。



 ◆



「あははは〜〜〜前部長に怒られて本気出すなんてぇ〜〜プリンセスだらしなさ過ぎ!」

「ううっ〜〜言わないでぇ……」


 空は月が照らす出す闇の覆われている。

 時刻は夜の七時過ぎ。


 ここは妻沼駅近く、商業施設リオンの近くにある街のホットステーション。マーソン。その上階に立てられた森羅カンパニーが経営をしているファミリーレストランの『シスター・レイ』そしてそこで食事をとる女子高生三人と女子中学生ひとり。


 ボックス席にはふたりずつ対面で座り、テーブルには大小の皿が積み重なっていた。


「カッコつけて『わたしの勝ちだよ』って……想像しただけで笑けてくるわ!


 大声で笑っているのは今時のファッション誌に載ってそうなコーディネイトできめている『白石涼葉』



「笑っては失礼ですよ。白石さん」

 そう咎めるのは、黒いセーラータイプの制服に身を包んだ『佐倉綾葉』


「いや〜〜やっぱりプリンセスは違うなぁ〜〜」

「からわないでよ……」

 プリンセスと呼ばれる少女をからかう綾葉と同じセーラータイプの制服に身を包んでいる少女は『水瀬いのる』


 そして、プリンセスと呼ばれたパーカーを羽織った少女は『雪見凪紗』


 ある戦いを境に『白い雪のプリンセス』と呼ばれるようになった希少な『色付き』のマテリアルプレートを持つ少女だった。


「さてと……笑けて腹が鳴ってるし、ミラノ風ドリアでも頼もかな」

 涼葉はメニューを舐めるように見る。


「あ、私も頼む、頼む! えっとぉ……よしぺぺロンチーノにしよっ!」

 メニューリストを手に取りメニューを決めるいのる。


「あ、わたしも……え〜っと……じゃあ、ティラミスとプリンのダブルプレートにしよっと!」

 涼葉からメニューリストを受け取り注文を決めた凪紗。


「……三人とも……まだ食べるのですか……」

 それと見ていた綾葉があきれたようにひとくちエスプレッソを含む。


「え〜でも、一番食べているの綾葉ちゃんだよぉ〜」

 ニヤた顔で手を口に当ていのるは綾葉をからかう。


「うっ……わ、私のことはいいんですよ!」

「え〜でも、一番お皿タワーが高いよねぇ〜〜ここの三人よりも……っていうかぁこのお店で一番高いよねぇ〜〜」

「う……うるさいですね! いいったらいいんです!」

 興奮気味に冷めたコーヒーを流し込み『ドリンクバーに行ってきます』と言って席を離れた。


「大食いの綾葉ちゃんがいなくなったからぁ……ペペロンチーノ頼もっと」


 いのるはテーブルに設置してある呼び鈴のボタンを押す。


 ピポーンと店内に呼に音が響く。


「ところでプリンセス」

「なんですか……水瀬さん」

「あ〜〜〜いのるでいいよ。プリンセスは私に勝ったんだから」

「えっでもぉ……」

「いいから、いいから。いのる。ほら」

「わかった。じゃあ、いのるちゃん」

 凪紗はいのるの言葉に甘えて(折れて?)『いのるちゃん』と呼ぶ


「うん、オッケイ。で、今度はいつやる」

「へっ……やるって……」

「やるっていったらアンブレイドバトルの事だよ。来週でいい?」

「ちょっと、待って! イヤだよ! わたしやらないよ!」

 両手を思いっきり前へと突き出し、そのまま手のひらを左右に大きく振って否定の意思表示を必死に訴える。


「え〜〜〜〜いいじゃん。アンブレイドバトルやろうよぉ?」

「いやだ! 今回だってわたしの意志無視されてるしぃ……」

 首を左右に大きく振り、否定の感情を必死に訴える凪紗。


「そんな事言ってもねぇ……私は今日のアンブレイドバトルは納得してないからね」

「えっと……納得してないの……? 負けたのに?」

「そうだよ」

「えっと……それは話して納得してくれる内容かなぁ……」

「無理。アンブレイドじゃないと私、納得しないから」

「ううっ……できれば辞退したいんだけどなぁ……」

「無理ったら無理!」

「じゃあ、涼葉さんと戦うってのは……ど、どうかな?」

「なんでやねん!」


 と、別のアングルの提案をしたが、涼葉がツッコで来たのを凪紗は、『えへへ』と、すっとぼけてそれをかわす。


「ダメダメ、プリンセスがいないと意味ないもん!」

「えっと、意味……って?」


 凪紗は頬を、右手の指先で撫でながら問いかけに問う。


「お待たせいたしました」


 その時、ウェイトレスが来て会話が中断。それぞれの注文を頼んだのだった。


 ◆


「じゃあ、話の続き。意味がないってのはさ、プリンセスは今日のアンブレイドバトルで『白い雪のプリンセス』に変化してないじゃん! それっとどうしてって事」

「えっと……それは……戦いに集中して忘れてたって言うか……その」

「……それって、私が……うん、プリンセスに変化するまでもなく『私が弱い』って事でしょ?」

 いのるは言葉を一瞬だけ止めて、意志を込めて凪紗に認めたくない思いを口に出した。


「そ、そんな事ないよ! わたしだって負けそうだったし。変化しなかったのは……その」

「同情やお情けは結構ですよ」

 ドリンクバーから戻ってきた綾葉がいのるの隣に座りながら言葉を挟む。


「変化しなかったのは『私逹』が脆弱だったから、そうですね」

「いや……そんな事は……」

「凪紗それに関してはウチもそのふたりと同意見やな」

 涼葉が助け船を出してくれるかと思ったが、その船にはすでにふたり乗っており、凪紗が乗船できるスペースはなかった。


「最初に言っておくで、あんたらふたりは決して弱くない。ただ……」


 涼葉はそこで言葉を切り、綾葉といのるを交互に視線を送る。


「ただ……ウチらが『強すぎる』だけや」

「む〜〜〜!! 今、今から再戦する! んで絶対におまえを倒す!」

「ちょっ、涼葉さん! いのるちゃん!」


 テーブル越しに両手をぶんぶん振り回し、涼葉につっかかるいのるを凪紗は制止して止めに入る。そんな涼葉はただ『ははは!』勝ち誇らしに笑っているだけだった。


「落ち着きなさい。いのる」

「綾葉ちゃんはいいの! 『弱くないけど強すぎるだけ』ってさ、それって、」

「いのる」

 綾葉は言葉を遮り、コップに注がれたエスプレッソをひとくち飲む。


「私だって……言われたまま黙っている訳ではありません。プリンセス」


「お待たせいたしました。こちらがぺぺロンチーノとミラノ風ドリア、ティラミスとプリンのダブルプレートになります」


 ウェイトレスの登場で話の折られた形となった。


 そんな事もつゆ知らず、ウェイトレスは淡々と食事をテーブルに置いて、代わりにテーブルに大量に載っていた食器のタワーをキッチンワゴンに乗せて去っていった。


「……では、話の続きをって……言いたいところですが……」


 綾葉が三人に話の続きを降るが……


「涼葉さん。ドリアひと口ちょうだい」

「なんでなんやねん! ほら、ひと口だけやぞ!」

「プリンセス。ティラミスちょうだい」

「ひと口だけだよ? これ絶対だからね」

「いのるぅ〜ぺぺロンひと口くれや」

「上から目線すぎるからイヤだけど……ひと口だけだよ?」


 と、三者三様食事と『ひと口の味見交換会』が開始してしまい話が全く続かないのだった。


第三話『ナケナシノチカラ』 完

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