15話 それゆけ魔法使い達
砂漠の一族の町を出たチルル達は、老婆の瞳に向けて出発していた。手掛かりは両親のノートに書かれた小さな小さな地図。
どうも老婆の瞳は、老婆の手のひらの真ん中にあるらしい。現在地は老婆の瞳から少し南東に離れた場所、魔法のコンパス片手に進んでいる最中だ。
しかし気がかりなのはここまで大きなトラブルが起こっていない事だ。昨日は一度水が無くなったが、誰かに襲われるだの殺されかけるだのそんな事は起こらなかった。
それがむしろ不気味すぎたのだ。
ずっと歩き続けて1時間。時々喉を潤しながら進んでいくと、ようやく大きな建造物が見えた。
砂を固めて作った石の建物。目を模した装飾がいくつも施され、不気味な雰囲気を醸し出している。
「あの目の模様は砂漠の老婆のマークなの。可愛いでしょ」
入り口らしき門の装飾を指差しながらメイが呟く。彼女はそうとは言ったが、ぎらぎらした瞳やぴんぴんと尖ったまつげがチルルとキィには気味が悪く思えた。
チルル一行がそっと門を抜けると、固く閉ざされた扉があった。持ち手も無ければ鍵穴も無く、キィの魔法でどうにかできるものではない。押しても引いても駄目だ。これではらちが明かない。
「ここはあたしたちに任せて」
するとメイとディアが前に出て、マァリン女王から聞いた詩を口ずさむ。
〽黄金色の肌に紫水晶の瞳、永遠の魔女に並ぶ砂漠の魔女。
魔女が笑えば雷落ちる。魔女が泣けば嵐が来る。
砂漠の魔女はどこにいった? 砂漠の魔女は砂になった。
魔女の瞳はどこにいった? 魔女の瞳は砂の中。
がたんがたんと扉が下へと引っ込み、入り口の様子が露わになる。らんらんと燃える魔法のロウソクが通路を照らし、見知らぬ子供達を歓迎した。
「この遺跡を作ったのは砂漠の老婆その人らしいわ。彼女はあの詩を気に入っているのよ」
「魔法史の授業で習ったんだけど、砂漠の老婆はここを根城にしていたらしいわね」
これが扉の鍵だったのだろう。メイとディアは入り口を進む。早く来て、と後ろのチルル達に言いながら。
それならば早く行かないといけない。チルルとキィも恐る恐る足を踏み入れる。
「……ちょっと待って」
突然、メイとディアが足を止めた。そして長い杖を構える。それから「誰かがいる」と警告した。
誰かがいるという事は、自分達より先に誰かが来ているという事だ。あるいは元々誰かがいたのかもしれないが。
いずれにせよ一番怖いのは。
「モノクロの魔女の仲間だったらどうする……?」
先にあの魔女一味が遺跡で待ち構えている事だ。ひょっとするとマギカルトですでに誰かの『ココロ』を奪い、手駒にしているかもしれない。
だが、それならそれでチルル達も戦うまでだ。新しい力を得たチルルとキィ、双子の魔法使いメイとディア。4人で力を合わせれば、恐ろしい敵がいたとしても勝てるかもしれない。
「2人とも、戦う準備をして! 向こうから足音が聞こえるわ! どんどん近づいてくる……」
メイとディアは魔法の炎を杖に灯し、通路の向こうに向けた。赤い炎に照らされ、ぼんやりと四角い影が映る。
影はどんどん近づき、とうとうチルル達の前に現れた。チルルよりも大きく、石をくっつけて作った様な人型の何か。まるで巨大な人形だ。
「こ、この人? ……って、だぁれ……?」
「あれはゴーレム。魔法と石の人形ね」
「作った人の命令に従う人形なんだけど……うわぁっ!?」
その時、石の人形ゴーレムは勢いよく腕を振り下ろした。メイとディアはとっさに後ろに飛び、間一髪で攻撃を避ける。あと少し遅れていればぺしゃんこになっていた。
あの攻撃は威嚇ではない。敵を排除するための本気の攻撃である。間近で見たメイとディア、それとチルルとキィは確信する。
ゴーレムは作った者の命令に従う、つまりこのゴーレムを作った者はここを誰かに、少なくともチルル達に通ってほしくないという事だ。
「とにかくあいつをやっつけないとダメだ。このままじゃ通れないよ」
「で、でも、ここは老婆の瞳よ! 砂漠の老婆の遺跡で暴れるなんて……」
「ここでやられたら元も子もないよ! 後で女王さまに謝ろう!」
チルルは白金の剣を抜き、メイとディアの前に出る。まずは相手の出方を窺うため、綺麗な青い瞳でじっと見つめた。
あのゴーレムは大人の人よりも大きいし、大きな腕の攻撃を食らえばひとたまりも無いだろう。それでも攻撃の隙はあるはずだ。
再びゴーレムは腕を振り下ろす。その瞬間をチルルは見逃さなかった。相手は腕を振り下ろす"溜め"の動きがある。振り下ろす前に大きく腕を振り上げるのだ。
見切る事さえできれば図体がでかいだけの人形だ。2度目の攻撃は容易くかわす。ゴーレムの拳が床に直撃し、ばきばきと跡を作った。
そしてまたゆっくりと腕を振り上げる。ゆっくりと、振り下ろす時よりもゆっくりと。
「今だーっ!」
素早く剣を構え、ゴーレムに突き刺そうとした。だが、石の身体は硬く、チルルの攻撃を弾き返す。
「ダメだチルル、硬すぎるんだ!」
「ど、どうすればいいのさあ」
攻撃が効かないと見るやチルルは1歩退く。全力の攻撃も簡単に弾き返され、思わず歯軋りした。
その時、背後がじゅっと熱くなる。チルル達の後ろでメイとディアが手に魔力を集中させ、炎の魔法の準備をしていた。
「そうね。熱で脆くすれば良いわ」
「そうよ。あたしたちの出番よ」
双子の魔法使いは互いの手を握り、魔法の力を集中させる。メイの空いた右手には赤い炎、ディアの左手には青い炎が灯った。
2人の必殺技、デュアルファイアの構えだ。
「チルル、あなたにも手伝ってもらうわ! 炎を作って!」
「うん! わかった!」
チルルは目を閉じ、手をぎゅっと握り締める。自分の中の魔力に火を付け、燃え盛る炎をイメージしながら。
深く呼吸をすると、ぼっとチルルの手の中が熱くなる。握りしめた手を解くと朱色の炎があった。
「いい? あたしたちの声に合わせて! 手の中の炎を解き放つイメージを浮かべるのよ!」
メイとディアの炎もごうごうと燃える。同時に、ゴーレムが腕を振り下ろした。
「トリプルファイアーッ!!!」
喉の奥から絞り出した叫び声と共に、赤、青、朱色、同時に3つの炎が手から放たれた。3色もの炎は螺旋を描き、1つの巨大な炎になる。
灼熱の炎はゴーレムの巨体を飲み込み、地獄の如くの熱で焼き尽くす。ごうごう、めらめらと音を立てながら。
1500℃をゆうに超える熱を浴びたゴーレムの身体は一瞬にして焼け焦げた。身体もぱきぱきとひび割れ、所々崩れ落ちている。
「今ね! 剣を!」
「せやぁぁぁーっ!」
チルルは跳躍し、炎に包まれるゴーレムに剣を振り下ろした。白金の剣の切っ先は大きなヒビの中心に突き刺さり、ぱきん、と音が鳴った。
それがトドメだった。ゴーレムの身体はたちまち崩壊し、廊下に崩れ落ちる。黒焦げの岩の炎も徐々に消え、マッチの火の様な小さな残り火が揺らぎ、消えた。
通路を塞ぐ者はもういない。チルル達は先を急ごうとする。その時、チルルが何かを踏んづけてすっ転びそうになった。
よろけたチルルをキィが慌てて支えると、一通の封筒が床に落ちているのに気が付いた。
「……手紙?」
メイとディアが拾い上げ、開封する。中身を見た途端、彼女達は目を白黒させた。
『我は砂漠の老婆。
招かれざる来訪者よ、我が宝が欲しくば遺跡を登るがいい。
ここまで命があれば、だが』
「何こ……れ?」
「砂漠の老婆から手紙!? あの砂漠の老婆から!?」
動揺を隠せないメイとディアが呟いた。あの伝説の魔法使い砂漠の老婆から手紙が届いた興奮と、彼女に襲われた衝撃がどくどくと心臓を走らせている。
そんな2人の横からチルルとキィが顔を出し、手紙を覗き見た。
「本当に砂漠の老婆から……!?」
「わからない。わからないわ」
メイとディアの額から脂汗が流れた。本当に何もわからないらしい。
もしも本当に砂漠の老婆が手紙の差出人なら、彼女はアイの結晶をただでは渡さないつもりだ。挑発的な文面をそのまま受け取るなら、まだ何かがあってもおかしくない。
砂漠の老婆は伝説の魔法使い。あのマァリン女王のライバルだった人だ。戦って勝てるはずがないと唾を飲む。
「そういえば砂漠の老婆って生きてる人なのさ?」
「うーん……」
にゅっと顔を出したキィが尋ねると、メイとディアは同時に唸った。
かの老婆があれからどうなったか、あの時マァリン女王は話していなかった。もし彼女がまだ生きているのなら、まさかの戦闘になりかねない。
しかし、既にこの世にいないなら、誰かが彼女の名を騙っている事になる。
「ごめんなさい。わからないわ。まだ習っていないの」
「もし砂漠の老婆さまが生きているなら戦わないといけない。もう亡くなっているならこの手紙はあたしたちの敵の誰かのものよ」
いずれにせよ、今は真相がわからない。とにかく進むしかなさそうだ。
「今は進もうよ。本当かどうか確かめるためにも」
「そうね」
チルル達は進む。だが、ふわふわ歩むキィが妙にうなだれているのに気が付き足を止めた。
「……ごめん、役に立てなくて。まだデザインが固まらないんだ」
「いいよいいよ。こういう時はちゃんと悩んだ方がいいって」
「憶えた魔法は自分だけのものよ。後悔しないように考えてね」
「ありがと、みんな……」
キィは小さくため息をつき、頭の中の刃に意識を向ける。未完成の刃の魔法は今だ"もや"のままだった。
歩けど歩けど通路は続く。石の壁とロウソクが延々と続く廊下、ちゃんと進んでいるのかわからなくなってくる。
途中でチルル達は1つの壁画を見つけた。2人の女性が描かれており、1人はマァリン女王に似て、もう1人は顔が塗り潰されていた。
まるで子供がクレヨンでぐちゃぐちゃにした様だとキィは言う。確かにそうにも見えた。
後からやって来た誰かがいたずらをしたのか、砂漠の老婆が気に入らなくなって消してしまったのか、チルル達にはわからなかった。
「砂漠の老婆は魔法で色んな姿に変身できたからね。きっとこの壁画も別の顔だったかもしれないわ」
「これは女王さまと戦いの準備をしている姿かしら?」
双子の魔法使いにとっては惹かれるものがあったのか、すっかり目を奪われていた。
2人の人間が描かれているだけの絵画、他には何も描かれていない。それでも価値があるものには違いないのだ。
「そろそろ行かない?」
「あー、もうちょっと待って! 目に焼き付けておきたいの!」
チルルが提案するとメイとディアは同時に頼む。仕方が無いとチルルとキィは待つ事にした。
しかしこの壁画のどこが良いのか、キィがそっと手を触れる。その時、かちりと音が鳴った。
突然の妙な音にキィは、それからチルルもメイもディアも耳を傾ける。続いて、がたんがたんと重々しい動作音が響く。
「……や、ヤバい事しちゃった……のかな?」
キィの額から汗が一筋流れ、ただただ壁画を見つめていた。その予感は的中し、がたん、と嫌な音が鳴った。
音の鳴る場所はすぐ頭上。一行は同時に上を向いた。すると、天井の石がぐらぐら揺れる。
「お、落ちるよ!」
チルルが叫んだと同時に、天井の石が1つ落ちてきた。4人は慌てて離れる。幸いにも誰にも当たらず、そして不幸にもこのままじっとしていればペチャンコのせんべいになった勢いで石は落ちてきた。
土煙がふわりと舞い、どすんと重い音が耳に残る。
「……ごめん! ほんっとうにごめんなさい!」
キィがガバッと頭を下げ、ふわふわ浮いたまま必死に誠意を見せる。
そんな彼にチルルはそっと声を掛けた。
「大丈夫だよ。それに上を見て」
天井の空いた穴からロウソクの淡い光と縄ハシゴが見えた。まだまだ通路があるのだ。
「砂漠の老婆の手紙には『遺跡を登るがいい』って書いていたよ。多分、上に行かないといけないんだ」
「そうなのか……。わかった、ありがとう。でも、急にみんなをビックリさせてごめん」
「問題ないわ。あたしたちは平気だもの」
「結果オーライよ。それより、先の事を考えましょっ。キィ、縄ハシゴを下ろしてくれる?」
ディアの頼み通り、キィはふわりと飛んで上の通路に登る。確かに壁にはロウソクが並び、真っ直ぐ続いている。
さっとキィが縄ハシゴを下ろすと、後に仲間達が続く。遺跡はまだ長い。老婆の挑戦を果たすまでもう少しだ。
あれからどれだけ歩いたのか、2度目の通路の奥の奥にロウソクよりも強い光が見える。やっと最奥に辿り着いたのか、一同は慎重に足を踏み入れる。
その予感は見事に的中してしまった。妙に広い部屋と目を象った装飾の数々、あまりにも大きなシャンデリア。
そして奥に飾られた、胸にハートの穴の空いた石像の数々。
「……キィ、あれって」
『ココロ』を奪われた人々の姿だ。モノクロの魔女一味がすでにマギカルトで悪事を働いていたのだ。
「ちょっと、何あれ……! ラナー先生!?」
「他の先生もいるわ! どうして……?」
石像の中から見知った顔を見つけたのか、メイとディアが悲鳴を上げる。一体どうしたのかとチルルが尋ねると、2人は今にも泣きそうな顔になった。
「ラナー先生が、ラナー先生が……!」
「それだけじゃないの! 他の先生まで……!」
どうやらマギカルト魔法学校の教師が標的になったらしい。今朝は教師をあまり見かけなかったのは、まさか『ココロ』を奪われてさらわれたからなのだろうか。
つまり、ここで魔女一味と戦わねばならないかもしれないのだ。
「2人とも、落ち着いて! 敵がいるかもしれない、戦える準備をするんだ!」
「そ、そうよね……」
「ちょっと頭を冷やさないと……」
動揺するメイとディアに警告すると、どこからか拍手の音が鳴り響く。
ずいぶん遅かったじゃないか、お子様ご一行、と。グリルブルク王国でも聞いた、あの嫌味な笑い声と共に。
灰色の髪の毛と瞳、艶やかな燕尾服と黒縁モノクル。モノクロの男、無彩色の術師だ。
「あなたが無彩色の術師ね! 魔法使いの風上にも置けないわ!」
「よくも先生を……! あなたって最低な人よ!」
「最低で結構。わたしは魔女様のためだけの魔法使いなのさ。お前達なんてどうでもいいね」
無彩色の術師はヘンッと鼻で笑うと、髪の毛をかき上げた。相変わらず癪に障る態度である。
「今度こそきみと勝負だね、無彩色の術師」
チルルは白金の剣を抜き、切っ先を術師に向ける。だが、彼はぎぃと歯を鳴らした。
「1対4なんて卑怯じゃないか! 礼儀ってのが無いのかい!?」
「お前が言うなよ……」
至って真面目な顔で言い張る術師に、キィが至極真っ当なツッコミを入れた。
しかし術師はツッコミをガン無視し、ぱちんと指を鳴らす。
「だからスペシャルなゲストをお願いしたよ! おいで、砂漠の老婆さん?」
「砂漠の老婆だって!?」
かの伝説の魔法使い、砂漠の老婆。その名を聞いた途端、誰もが耳を疑った。
まさか邪悪な無彩色の術師の仲間になっているとまではさすがに思ってもいなかった。予想以上に恐ろしい戦いになりそうだとさらに身構える。
だが、目の前に現れた魔女の姿を見て、チルルもキィも、メイとディアも、今度は目を疑った。
褐色の肌と紫色の瞳。つんとした表情とまだまだ幼い顔。嫌悪に染まった目。
砂漠の老婆の再来、アドマ・タウィーザ。美麗で奇妙なドレスに身を包んでいるが、彼女そのものだ。
「予想通りの到着時間ね。もう少し早くても良かったのだけど」
「アドマ、どうしてあなたが……!?」
「どうだっていいでしょう?」
長い髪を払い、アドマはメイとディアを睨みつける。困惑する2人を見て、術師はクスクスと笑った。
「ごらんなさいよ。砂漠の老婆の復活さ」
「どこが砂漠の老婆よ! 確かにドレスは壁画のと同じだけど……」
「わたしの仕立ててあげたドレスをご覧よ。どこからどう見ても砂漠の老婆じゃないか? わたしゃ本物を知らないけれど」
「詳しい事はわからないけど、老婆さまの名前を騙らせるなんて……!」
怒りが沸々とたぎるメイとディアは杖に魔力を込める。標的は無彩色の術師。魔法の光線が同時に放たれる。
しかし、術師の前に紫水晶の盾が現れた。メイとディアの魔法は反射され、一瞬にして床を焼く。誰にも当たらなかったのが幸いだ。
「悪いけれどアナタたちを倒し……いや、殺したいの。違うわ。"悪いけれど"なんて言わなくても良かったわ」
リネンのドレスを翻し、アドマは2人の前へと出る。自らも杖に魔法の力を込めた。
「ま、待って! アドマ、どうして術師の仲間になったのんだ!」
「アナタはチルル……でしたっけ? 輝かしい未来のあるアナタには関係無いわ」
アドマが冷え切った目でチルルを睨みつけると、胸に割れたハートが浮かび上がる。半分はオレンジ色の、もう半分は真っ黒だった。
無彩色の術師に半分だけ『ココロ』を奪われたに違いない。優秀な魔法使いである彼女を操るために手を出したのだろう。
彼の呪いの泥を『ココロ』の穴に注がれた者は、身も心も意のままに使われるのだ。
「術師め! どんだけ他の人を巻き込むつもりなんだ!」
「アタシの意志でやってるのよ。彼の呪いの泥……だったかしら。見ればわかるでしょ?」
半分に割れた黒いハートを指差しながらアドマは煽り気味に言い放つ。見れば、彼女のもう半分の『ココロ』は空っぽのがらんどうではないか。
「で、でも、それじゃあ……!」
『ココロ』を半分を失った者は、優しさや思いやりが消え、隠れた悪の心や負の感情が増幅される。道理で突然術師の仲間として現れたわけだ。
つまりこれがアドマ・タウィーザの悪の感情である。
「アドマ、あなたは一体何を思ってるの……!?」
ライバルの本性がこれだというのか。メイが悲痛な叫び声を上げた途端、アドマの杖の宝玉が怪しく光る。お前なんかに話してやるものか、と言わんばかりに。
アドマが杖を振り上げると、チルル達に向けて雷がぱしんと落ちる。4人が間一髪で避けた途端、またアドマは杖を掲げる。すると、部屋がぴかっと光ったと思いきや、紫水晶の壁が現れたのである。
「し、しまった!」
チルルとメイ、キィとディア。アドマの策で4人は分断されてしまったのである。双子の魔法使いは透き通った水晶の壁越しに見える片割れの姿が見えた途端、絶望の悲鳴を上げた。
「ディア……ディア! あたしはここよ! ねえ!」
「こんな壁、2人一緒なら壊せるのに……!」
混乱に陥るライバルを見ながら、心底馬鹿馬鹿しいとアドマは鼻で笑った。
「術師、アナタにはメイとあの"イトコ"を任せるわ。アタシはディアと妖精を殺す」
「グレた途端に物騒な言葉遣いになっちゃって。子供って恐ろしいねえ」
水晶の壁越しに横目で見ながらアドマと無彩色の術師は武器を構える。アドマは杖を、術師は黒い刃をチルル達に向けた。