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Heartventure  作者: -
2章 魔法大国マギカルト
13/48

13話 砂漠の老婆

 魔法女王マァリンと彼女の部下によるアイの結晶が終わり、明日の朝には女王の塔に行く事になった。きっと詳しい話を聞くのだろう。

 それまでにもっと魔法の練習をしておきたいと、メイとディアの授業の後にチルルとキィは図書室で勉強する事にした。

 だがしかし。

「……ええと、チルル。現在地わかる?」

「ぜんぜん……。地図も今の場所が書いてないし……」

「うーん……」

 またしてもチルルとキィは図書室で迷子になったのである。

 もはや図書館と言ってもいいほど広い広い図書室。迷子になってもおかしくない、知恵の迷宮。

 昨日も迷子になったのに、まさか今日も迷子になるなんて。こんな事になるならメイとディアに案内してもらうなり誰かに尋ねるなり、失敗から学習しておくべきだったと後悔していた。

「誰か探してみる?」

「いいよ。じゃあチルルはあっちを……げっ」

 キィが本棚から向こうを覗いた途端、昨日も聴こえた嫌な足音が耳に入る。アドマ・タウィーザ、彼女もここにいる。

 下手に相手をしてもまた喧嘩寸前になるだろう。キィは慌てて首を引っ込め、チルルに小声で彼女の存在を伝える。

「ほ、ほんとに?」

「うん。いいかい、何言われても怒っちゃダメ。テキトーに返事すれば大じょ……」

「アタシに何か用かしら?」

 チルルとキィがひそひそ話し合っていると、ムッとした顔のアドマが睨みつけてきた。

「べ、別にぼくたち、きみとケンカしたいわけじゃないから……」

「それともまたイヤミでも言いに来た?」

「たまたまアナタたちと会っただけよ」

 しかし、今日のアドマの目には昨日ほどの嫌悪が混じっていない。少しつんけんしているだけで、ごくごく普通の女の子の目だ。

「今日は本当にたまたまよ。普段から図書室で勉強するのが趣味なの」

「……ホントに?」

「本当よ」

 それでもしつこいのは嫌なのか、次第にアドマは不機嫌そうな顔になっていった。

 とにかく今日のアドマは本当に偶然会っただけらしい。お互いが刺激し合わなければ昨日の様な事にはならないだろう。

「ところでアナタたち、あれから上手くいったのかしら?」

「うまくいったって……」

「ぼく、炎の魔法が使えるようになったんだよ」

 そんなはずないだろ、とキィが言いかけると、横でチルルがひまわりの様な笑顔を浮かべた。

「すごいじゃないの」

「ありがと。えへへ……」

 チルルの顔がぽっと赤くなる。昨日は喧嘩した相手だというのに心から嬉しそうだ。

 そんなチルルにアドマは険しい目を向ける。

「でも満足しちゃダメよ。人間にとって魔法は道具の1つだけれど、練習をサボればたちまち鈍るわよ」

「うん。わかった」

「魔法で大切なのはイメージする事。考えるのをやめたら魔法使い失格よ」

 厳しくも、しかしながら教師の様にアドバイスをするアドマ。本当に彼女はいけ好かないだけの天才女の子なのだろうかとキィは横で思う。

 しかしキィの頭に残っているのは昨日のわざわざ嫌味を言いに来た彼女の姿だ。どうしても裏があると疑う気持ちが大きかった。

「それから……キィでしたっけ? アナタが刃の魔法を完成させられない原因に心当たりがあるわ」

「……えっ!?」

 キィは思わず叫んだ。するとチルルとアドマが人差し指を口元に近づけ「しーっ」と睨みをきかせる。

「……ええと、マジ?」

「マジよ」

「マジ? ……いや、でも…………」

 あんなヤツに教えてもらうなんてイヤだ! 情けないし腹が立つ! 図書館で叫んではならないためキィは心の中で怒鳴った。

 だが、自分が刃の魔法を完成させられないのも、どうして完成させられないのかわからないのも事実だ。首を横に振る自尊心を無視して、メイとディアを上回る彼女のアドバイスを受けた方が賢明である。

「うーん……、ううーん……。……その、お、教えてくれるなら、教えてほしい」

「いいわよ」

 ウンウン唸りながら悩んだ末、結局キィは教えてもらう事にした。このままではチルルに後れを取るどころか、魔法を憶えられないまま次のアイの結晶を探しに行く事になるかもしれない。

 そしてアドマも根っからの嫌味ではない。相変わらずつんけんとした顔だが、快く了承してくれた。

「ひょっとすると刃を作りたい気持ちが先行しているんじゃないかしら」

「ど、どーいう事……?」

「早く刃を完成させたいって焦っているでしょ、アナタ」

「ぎくっ!?」

「しーっ」

 またも大声を出したキィに向かって「静かにして」を意味するジェスチャーを送る。次は無いとばかりのじっとりした視線がキィに深く突き刺さった。

「で、でも魔力を刃の形に固めるイメージはしているよ。でもずっと"もや"しかできないんだ」

「そうね。やっている事は正解よ。でもどういう刃を作りたいの?」

「どういうって……はっ」

 まさかどういう刃にするか具体的なイメージが無かったせいで、曖昧な"もや"しかできなかったのだろうか。キィの身体から血の気が引く。

「理解してくれるならこっちも嬉しいわ」

「しまったぁ……。ぜんぜん考えてなかった……」

 キィは頭を抱えながら呻き声を上げた。もしもここに穴があったら自ら入って蓋をしているだろう。そんな相棒の痛々しい姿は見てられないとばかりにチルルが心配する。

「刃の魔法を習う子はイメージを固めている子が多いわ。こういう格好いい刃を、綺麗な刃を作りたいって。刃を作りたい気持ちだけが先行するなんて感心するわね」

 アドマはため息交じりに言う。もちろん褒めているわけではない。

 刃の魔法は初級の魔法。この学校で習う者は幼い新入生ばかりである。だが、彼ら彼女らは思い思いの刃を作れる喜びに胸を躍らせ、すぐに自分の作りたい刃をイメージし魔法を成功させた。

 キィの実力は刃の魔法を完成させるのに十分である。ただ具体的な刃のイメージが足りなかったのだ。

「お、教えてくれてありがとう……」

「キィを助けてくれてありがとう」

「いいわ。どうって事無いわよ」

 それじゃあ出よっか、とチルルとキィは言い合う。最高の知見が得た以上、とにかくそれを実践したいのだ。

 しかし、その前に気になる事があった。

「どうしてオイラたちに親切してくれるのさ。それだけ気になるんだ」

 するとアドマは涼しい顔で答える。

「とてもじゃないけど見てられないだけよ」

「そう……なんだ」

 アドマは昨日に嫌味を言った時も「とてもじゃないけど見てられない」と言っていた。しかし、今日は昨日よりもずっと嫌悪感がかんじられない。彼女は意地悪なのか、チルル達を助けてあげたいのか、ますます彼女の事がわからなくなった。

 いまいちすっきりしないものが胸につっかえたまま、チルル達はアドマの元から去る。

「あ、そっちは出口じゃないわ――行っちゃったわね……」

 ところが、出口とは全くの逆方向に直進してしまっていた。




 翌日の朝、約束通りチルルとキィはマァリン女王の住まう魔法の塔へと向かっていた。

 背負ったカバンにはふわふわのパンとお金、綺麗な水をたっぷり入れた水筒、その他もろもろ。言われたと通りに冒険の準備は済ませておいたのである。

 学生寮から魔法の塔まではそれなりに遠い。歩いて20分かかるほど。しかし、なぜかこの日は教師らしき人を見なかった。

「まだ仕事の時間じゃないからじゃない?」

 チルルが尋ねた時、キィはあくびをしながら答えた。彼曰く、どうも昨晩は雷の音が聞こえて目が覚めてしまったらしい。

 しかし、確かにそうかもしれない。そうでなければ不自然なほど教師を見かけなかった。

 やけに静かな廊下を進み、記憶を頼りに魔法の塔へと行く。魔法のエレベーターは今日も動き、チルル達を乗せて昇っていった。


「あ、あれ……? メイ、ディア?」

「チルル、おはよう」

「キィ、おはよう」

 意外にもメイとディアが校長室にいた。彼女らは2人を見るなりにっこり笑う。

 2人ともすでにチルルとキィの冒険に関わった者達だ。呼ばれても何らおかしくない。

「お、おはよ……う?」

「あなたたちも呼ばれたのね。ねーっ、ディア」

「あたしたちも呼ばれたのよ。ねーっ、メイ」

 相も変わらず双子の魔法使いが仲良く声を合わせていると、マァリン女王が「オホン」と咳払いをする。まだここに来ていないのか、彼女の横に魔剣の花嫁ラナーの姿は無かった。

「あれ、ラナー先生は?」

「いいえ。まだ来てませんよ」

「そ、そうなんですか……。そういえば女王さま。今日はあまり先生を見ませんでした」

「あら、おかしいですね……」

 マァリン女王曰く、この時間帯なら授業の準備を始めている最中らしい。教師の姿を見ないのはずいぶんと妙だ。

「ところでぼくたちを呼んだのって、もしかしてアイの結晶の場所がわかったんですか!?」

「ええ。昨晩、本校の教師達が発見しました」

 さすがはマギカルト魔法学校、たったの3日で発見したのである。

「場所は西の砂漠、『老婆の手のひら』にそびえる遺跡『老婆の瞳』です」

「ありがとうございます! それじゃあ、ぼくたち行ってきますね!」

 チルルとキィはぺこりと礼をして部屋を出ようとする。次なる目的地は決まった。冒険の準備が整った今、胸をときめかせ出発するする時だ。

「でも場所知ってる?」

「あ、ごめん。知らないや……」

 問題はチルルもキィも目的地の場所を全く知らない事である。

 これでは行っても迷子になるのがオチだ。2人はすごすごと引き返し、ちょこんと座った。

「『老婆の手のひら』は西の砂漠ね。魔法学校の西にあるわ」

「『老婆の瞳』は、老婆の手のひらの遺跡よ。普段は立ち入り禁止なの」

 メイとディアは簡単な説明をすると、また「ねーっ」と声を合わせた。つまり、西にある砂漠でそびえる遺跡にアイの結晶があるという事である。

 目的地が砂漠となると厳しい冒険になるだろう。昼は暑く夜は寒い。空気も地面も乾燥し、すぐに喉もカラカラだ。

 両親のノートにも『西の方に砂漠地帯』と軽く書かれていたが、さぞかし大変な冒険をしたのかもしれない。

「なるほどー。でも『老婆』って? パパとママのノートにもちょこっと書かれていたような……」

「砂漠の老婆は偉大な魔女よ! 女王さまなら詳しく知ってるわ!」

 老婆の話を振られた時、メイとディアは目を輝かせた。きっと彼女達にとって老婆は素晴らしい魔法使いなのだろう。

「女王さま! 砂漠の老婆の話をお願いします!」

「お願いします!」

「はい。丁度私もしたいと思っていたところです」

 メイとディアが何かの話を催促すると、マァリン女王はしたり顔になる。

 砂漠の老婆についてはチルルとキィも興味があった。新しい友達メイとディアが尊敬する魔女。チルルの両親が「伝説の魔法使い」と記したほどの魔女。むしろ2人が気にならないはずがなかった。


『黄金色の肌に紫水晶の瞳、永遠の魔女に並ぶ砂漠の魔女。

 魔女が笑えば雷落ちる。魔女が泣けば嵐が来る。

 砂漠の魔女はどこにいった? 砂漠の魔女は砂になった。

 魔女の瞳はどこにいった? 魔女の瞳は砂の中』


 砂漠の老婆に纏わる詩を口ずさみ、マァリン女王は話をする。

 彼女は大昔に名を馳せた魔法使いであり、雷や嵐を自由に操れるほどの強い力の持ち主であった。その子孫は"砂漠の一族"と呼ばれ、皆が元来強い魔力を持っていた。

 そういえば砂漠の一族については両親のノートにも『生まれついての魔法使いと言えるほど魔法に優れている』と書かれいていたとチルルはぼんやり思い出した。

 老婆の瞳は砂漠の遺跡。つまり砂漠の老婆か、それとも彼女に関連のある者がアイの結晶を受け取ったのだ。


「へえ~。すっごい人だったんですね」

「砂漠の老婆は女王さまのライバルだったのよ」

「何回も戦ったんだからね」

 メイとディアは頬を赤らめながら言う。何百年も生きる魔女と伝説の魔法使い、魔法を憶えたてのチルルとキィ、それどころかメイとディアもずっと上回るほどの魔法を操り、天地を揺るがすほどの力を使ったのだろう。チルルとキィには想像すらできなかった。

「彼女と会ったのは何百年も昔なのに、昨日の事の様に思い出せます。私の青春でした」

 マァリン女王のまぶたが閉じ、美しき青い春に想いを馳せる。

「あれは700年も昔です。その頃は私も彼女もうら若き乙女でした。事の始まりはマギカルトに美青年の魔法使いが現れ、私も彼女もすっかり魅了された事です……」




「老婆は恐ろしい女でした。魔法でありとあらゆる美女に姿を変え、ありとあらゆる人々を惚れさせました。ですが、彼は彼女にも私にも目をくれませんでした。そこでどちらが先に彼を惚れさせるかを決めるために決闘で……」

 ところがマァリン女王の話は長ったらしく、聞いていて眠くなりそうだった。メイとディアはすっかり聞き入っているが、チルルはうつらうつらとしている。キィに至っては重いまぶたと格闘していた。

 まだまだ子供のチルルとキィには、他人の惚れた腫れただのは退屈で仕方ないのである。2人は気が付かれないようにあくびをした。




「……結局その魔法大会で優勝したのは老婆の方でした。今思い出しても腹立たしいです。ですが、それから2年も経った頃でしょうか、彼女に勝利するための策が……」

 約20分経過。先にダウンしたのはチルルだった。マァリン女王もメイとディアも話に夢中なおかげで気付かれていないのが幸いだ。

「……まだ終わんないの……? ふわぁ……」

 チルルの目がまぶたに押し潰されそうになりながらも、ぼんやり開いている。このままでは寝るのも時間の問題とばかりにうとうとしていた。




「……ミスティカの存在は私と彼女にとって全くの予想外でした。妖精の姫君である彼女は全ての人間の目を奪い、あっという間に心まで奪ってしまったのです。それはあの美青年とて例外ではありませんでした。あろう事かミスティカは私と彼女に見せつける様に、彼と2人っきりでデートを……」

 話は続いてさらに15分経過。キィは突然水でも掛けられた様に「ぎょっ」と声を漏らした。

「んんー……、ミスティカって知ってる人?」

 大声で寝ぼけ眼が覚めたチルルがゆっくりと目を開いた。メイとディアは相変わらずマァリン女王の話に聞き入っている。

「……さまの名前」

「さま?」

「妖精の女王さまの名前」

「うわーぁ……」

 たちまち気まずい空気がチルルとキィを包んだ。




「……結局あの美青年はこの国を離れたのでした。魔法ではなく剣を選んで。かくして砂漠の老婆と戦う理由は無くなりましたが、それでもあの決闘の快感は忘れられませんでした。かくして彼女は私のライバルとなったのです」

 さらにさらに20分経過。夢の中のチルルと半目開きのキィを置いてけぼりにして、ようやくマァリン女王の話は終わったのである。

「さすがマァリン女王さま! いつ聞いても素晴らしい話ね!」

「何回聞いても飽きないわ!」

 メイとディアの拍手がうっすら聞こえる中、チルルとキィは苦々しい笑みを浮かべていた。

「う、うん、すごかった……」

「いやー、イイ話でしたねー! はっはっは……」

 いやいや憶えているワケないじゃん、とキィは小声で呟きながら手を叩く。しかしながら聞かれては非常にまずいのでキィは慌てて笑顔を取り繕った。

 2人は改めて情報を整理する。ここまで砂漠の老婆についてわかった事といえば、彼女がマァリン女王と1人の男を取り合ったライバルだったぐらいだ。さらにそこに妖精の女王が絡んだらしいが、チルルは全く聞いていなかったし、キィは忘れたがっていた。

 しかし、アイの結晶のありかとその場所がわかったのは大きな収穫である。これで今度こそ新たな冒険が始まるのだ。

「ええと……あ、ありがとうございます! 女王さまのおかげで冒険ができます!」

「私こそ貴方達のお手伝いができて嬉しいです。お話しを聞きたい時はいつでも来てください」

「そ、それは……」

「気持ちだけ受け取りますね! たはは……」

 チルルとキィはマァリン女王にお辞儀をし、部屋を出て行こうとする。すると、横から声がかかった。

「あたしたちもまぜてほしいわ」

 メイとディア、好奇心でいっぱいの魔法使い見習いがチルルとキィを見つめてきた。

 普段は立ち入りを禁じられた、伝説の魔法使いの遺跡に行けるチャンス。マァリン女王も砂漠の老婆も心から尊敬する彼女達が生きたがらないはずがないだろう。

「うん! 一緒に行こうよ!」

 そして、チルルとキィには断る理由も無い。友達と一緒に冒険するのはとても楽しいのだ。

「ありがとう! あたしたちも冒険デビューね」

「みんなで老婆の瞳をのぞいてみるのよ!」

 4人がやいのやいのとはしゃいでいると、遠くからマァリン女王が声を掛ける。もしもし、もしもしと。

「道中でモノクロの魔女の仲間に出会うかもしれないでしょう。ラナーを貴方達の護衛に付けましょう」

「ラナー先生を? やったぁ!」

 メイとディアはまた目をきらきらさせた。ラナーもまた憧れの人、強くて格好良く、美しい魔法剣士。そんな彼女が共にいれば百人力だろう。

 マァリン女王はいくつかの小さなボタンの付いた見知らぬ道具を取り出し、自分の耳元に近づける。

「……もしもし、ラナー。聞こえますか? 応答してください」

 遠くでも会話ができる魔法道具なのだろう。マァリン女王は話しかける様に優しく声を掛ける。だが、返事は返ってこない。

 またマァリンは声を掛けた。だが、ラナーからの返事は来ない。これ以上は呼んでも仕方が無いと考えたか、マァリン女王は魔法道具のスイッチを切った。

「……恐らく眠っているのでしょう。無理をさせてはいけません。他の者を呼ぶとしましょう」

「大丈夫です。ぼくたちだけで行きます!」

「わかりました、ならば貴方達の勇気を信じます。メイ、ディア、チルルとキィを助けるのですよ」

「はい!」


 こうしてチルルとキィ、それからメイとディアを加えた冒険が始まった。目指すは砂漠を越え、老婆の瞳へと。






 チルル一行が校長室を出た後、マァリン女王は身体の力を抜き玉座に身体を預ける。校長の仕事も一旦休憩だ。

 永遠の女王だって疲れる時は疲れる。特に今日は久々に長話をしたせいで口が乾いてしまった。魔法を使ってティーカップとポットをふわりと浮かし、アップルティーを注ぐ。一番信頼する部下のラナーがマカロンでも用意してくれれば最高の休憩時間になっていただろう。

 そういえばラナーは生真面目な教師だ。女王であるマァリンの呼び声に答えないというのはよほど疲れていたのだろう。

 たまにはそういう日もあるのだろう、とマァリン女王はティーを一口すする。と、その時だ。

「じょ、女王様! 大変、た、大変です!」

 1人の教師が慌てた様子で駆け込み、ずざーっと滑り込む。明らかに尋常で無い様子でマァリン女王の下へと走り寄った。

「一体どうしたのですか?」

「ラ、ラナーさんが、ええと、とにかく大変なんです!」

「落ち着きなさい。まずは深呼吸をして、言いたい事を整理するのです」

「も、申し訳ありません……」

 マァリン女王の言った通りに教師は深呼吸をし、ゆっくりと話す。

「……その、ラナーさんがいなくなったんです! 部屋の鍵は開けっ放しで、どこにもいないんです!」

「な、なんですって……!?」

「それどころか! あろう事か我が校の教師が50人もいなくなったんです……! たった、たったの一晩で……!」

 その言葉を皮切りに教師はおいおい泣き出し、玉座の脚にすがりつく。

 明らかに尋常では無い事が起こっている。チルルの言っていた事の真相はこういう事だったのだ。マァリン女王は足下の泣き声を聞きながら、身体から意識と血の気が引いていくのをぼんやりと感じていた。

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