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Heartventure  作者: -
2章 魔法大国マギカルト
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10話 ようこそ! 魔法大国マギカルト

「マギカルト魔法大会アンダー12の部、準決勝ッ! この試合を制した者が決勝に駒を進めまァす!」

 司会が高らかに叫ぶと共に、拍手や声援が巻き起こった。大きく広い会場中にも隅々まで響く観客の声に負けないほど、司会は声を上げる。

「それではァッ! 選手入場ッ!!! 星々の姉妹、チーム・プレアデスッ!!!」

 高い天井が一瞬暗くなったと思いきや、満天の星が現れた様にぱっと明るくなる。そして、7人もの女の子が会場に姿を現し、綺麗なお辞儀をした。

「対抗するはァッ! 期待の新星ッ! 双子の魔法使いことチーム・メイ&ディア姉妹ッ!!!」

 だが、星々の姉妹が作り上げた夜空にひびが入る。観客達が目を奪われた途端、ガラスを突き破ったが如く2人の女の子が現れ、夜の帳はバラバラに砕け散った。

 星の瞬く夜は終わらせた。我々こそが太陽である。宣戦布告にも見える演出に7人の姉妹はむっと顔をしかめる。

「それではァッ! 準決勝、開始ィィッ!!!」

 喉が裂けそうなほどの叫び声が響いた途端、大銅鑼が鳴らされる。魔法大会準決勝の合図と共に、双子の女の子はさっと手を繋ぐ。

「次は決勝よ。ちゃちゃっと終わらせるわよ」

「あたしとあなたならこれぐらい、ぱぱっと終わるわね」

 互いの魔力と魔力を高め合い、空いた手に集まっていく。右手には赤い火が、左手には青い火がぼっと現れた。

「食らいなさい! あたしたちの大魔法よ!」

 それぞれの手に握られた火がまるで油を注がれた様に燃え上がり、一気に放たれる。

「デュアルファイアーッ!!!」

 赤青2つの炎は螺旋模様を描き、2色の大きなうねりとなり襲いかかる。哀れチーム・プレアデス。何もできぬまま、双炎に飲み込まれていった。






 眩い光が薄れ、徐々に視界に色が戻る。チルルとキィの目に映ったのはグリルブルクの城とは違う、豪華な建物の廊下。青空を直接はめ込んだ様な窓や曲がりくねった観葉植物がぽんと置かれ、荘厳な様で奇妙にも見える。

 確か自分達は魔法大国マギカルトなる場所まで虹の扉でワープしたはずだ。だとすればここがマギカルトだろうか。

 幸か不幸か周りには誰もいない。ここがマギカルトのどこかはわからないが、見当を付けるためにも両親のノートに助けを求めた。


『魔法大国と呼ばれるだけあり、マギカルト王国は魔法で栄え、魔法に長けた国だ。

 かのマギカルト魔法学校やマァリン女王ともお目にかかりたかったが、部外者は立ち入り禁止らしい。魔法学校名物であるうねる草をお土産に欲しかったが仕方が無い。

 西の方では砂漠地帯があり、そこで砂漠の一族と会った。彼らは伝説の魔女"砂漠の老婆"の末裔で、生まれついての魔法使いと言えるほど魔法に優れている。彼らの町で少し休むとしよう』


「……んじゃあ、ここがその魔法学校ってヤツ?」

 ぐにゃぐにゃに曲がりくねった観葉植物を横目で見ながらキィは言った。あの植物はノートの隅っこに描かれていた"うねる草"の落書きにそっくりである。

 となるとここがマギカルト魔法学校と考えてもいいだろう。

「ぼ、ぼくたち……、マギカルトに来ちゃったんだ!」

「しかも魔法の学校だぜ! オイラ、すっごく緊張しちゃうよ……」

「魔法学校かあ……。どんな勉強をするんだろう……」

 チルルは学校に行った事がない。故郷のロピ村には学校が無く、代わりに教会で神父やシスターが授業を行っていた。だから学校というものに憧れを持っていた。

 しかもここは魔法の学校だ。文字の読み書きや計算だけではない。魔法も学ぶからこその魔法学校である。普通の学校ではない。特別な学校なのだ。

「ちょっとだけここを見てみない? ぼく、すっごくワクワクしてきちゃった」

「ははーん。実はオイラもだぜ」

「よし! じゃあちょこっとだけ……」

 意気投合したチルルとキィがにししと笑った時、遠くで小さく足音が鳴る。誰かいるのだろうかと2人が顔を向けた途端に何かが2人へと迫った。

 2人が身構える間も無く鎖に似たそれは一気に近づき、2人の身体をぎゅうぎゅうに縛り上げる。

「うぐぇぇぇぇーっ!? ぐ、ぐるじい……」

「キィ!? こ、これ、なぁに!?」

「そこの者、何者だ!」

 明らかに敵意の混じった大人の声にチルルとキィは身震いする。なぜこんな目に遭わねばならないのかと怖がっていたが、すぐに理解した。

 すっかり忘れていたのだ。両親のノートに「部外者は立ち入り禁止らしい」と書かれていた事に。

「……ぼくたち、"ぶがいしゃ"だって」

「ま~あ当然こうなるよね」

「達観的になる暇があれば、己の身分を明かせ! なぜここに来た!」

「ひぇええええっ!」

 子供の2人には刺激が強すぎるほどの怖い顔でその大人は怒鳴る。ワープしたのがここだったとはいえ、どう考えても自分達が悪者の様な状況だ。

 このままだと侵入者として捕まってしまう。アイの結晶集めも楽しい冒険もお終いだ。

 そんなのは絶対に嫌だ。だが、いくらもがけど拘束は解けない。

「無駄だ。ここはかのマギカルト魔法学校。お前達がなぜここに来たのかは知らないが、女王陛下もお認めになった最高級の魔法使いがいるのを知ってでの侵入行為か?」

「し、知りませんでした……」

「ちょっと待ってよ! オイラたち、まだ子供だよ! こんなぎゅうぎゅうに縛らなくても……」

「子供だろうが大人だろうが関係無い! 詳しい話は職員室で聞かせてもらおう!」

「そそそ、そんなぁ~!?」

 魔法使いは魔法の鎖を引っ張りチルル達を連れて行こうとする。新たな冒険の始まりにして絶体絶命、そう思ったその時だ。

「ま、待って! その子たちはダメーッ!」

 すたすたと慌ただしい足音と共に2人の女の子が現れる。長い杖を携え、綺麗なオレンジ色のローブととんがり帽子に身を包んだ彼女らはまるで魔法使いの見習い。この魔法学校の生徒だろうか。

「……双子の魔法使い、メイとディアか」

「そうね! 正解だわ!」

「そうよ! あたしたちは双子の魔法使い――じゃなくて」

 メイとディアと呼ばれた女の子達は、大人の魔法使いを睨みつける。

「その子たち、あたしたちのイトコです。寮暮らしのあたしたちが恋しいみたいで」

「あたしたちに会いたいから来ちゃったみたいです。来ちゃダメって言ったんですけど」

「ふ、ふむ。しかし侵入行為には……」

「家族の面会は可能ですよね? あたしたちの可愛いイトコも家族です」

「それでもダメなら先生の家族の"テイギ"を教えてください」

 さらにメイとディアが睨みをきかせるものだから、先生の魔法使いは苛立ち気味にため息をついた。

「……家族面会として、この2人の学校訪問を認めます。ただし、次からはこんな紛らわしい真似をしないように」

 先生の魔法学校が指を鳴らすと、チルルとキィを縛る鎖がたちまち消えた。鎖から解放された2人はその場にへにゃあと座り込む。

 見知らぬ双子のおかげで何とか窮地を脱せた。だが、なぜ彼女達は助けてくれたのか。そして彼女達は何者なのか。気になる事はあるが、とにかくお礼を言うのが先である。

「2人とも、ありがと……わわっ!?」

「ねえねえ2人とも、せっかくマギカルト魔法学校に来たんだから色々見ていかない?」

「そうよ。メイの言う通り見ないと損よ」

「ちょ、ちょっと!? どこに連れて行くのさぁ!?」

 メイとディアはチルルの手を引っ張り、スキップしながら先生の前を去る。キィも相棒がさらわれてはいけないと慌てて追いかけた。




 双子の魔法使いに連れられて辿り着いたのは椅子と机がずらりと並んだ部屋。いわゆる教室である。メイとディアは他に誰もいないのを確認した後、扉をぱしゃんと閉めた。

 それからやけに改まった態度で2人に話しかける。

「あたしはメイ。ディアとは双子の姉妹なの」

「あたしはディア。メイとは双子の姉妹なの」

 軽く自己紹介を済ませた後、メイとディアは制服ローブの裾を掴んでお辞儀をした。

「あたしたち、あなたたちにすっごく興味があるの」

「ぼくたち、ただの子供だよ?」

「ワープ系の魔法を使ってここに飛んできたのに?」

「ただの子供にはできないのに?」

「え、ええ、ええぇ……?」

 可愛い笑顔のまま畳みかける様に問いかけるメイとディアに、チルルとキィは圧倒される。

 このワープの力もキィが妖精の女王から銀の鍵をもらい、力を引き出しただけで、チルルもキィも非常に特別な力を保っているわけではない。チルルにしては魔法なんて使えないのだ。

「見た感じ、ワープの魔法でうっかり迷い込んだみたいね」

「ワープの魔法は大人でも使うのが大変なのよ。どうやったらできるの?」

「みんなみーんな教えてくれる? あたしたちすっごく気になるの」

「……ねえチルル、この子たちに話しても大丈夫?」

「大丈夫なんじゃないかなあ? 悪い子じゃなさそうだし……」

 少なくとも悪人ではなさそうだし、モノクロの魔女一味に関係があるとは思えない。彼女達になら話してもいいだろう。チルル達は鍵の事から冒険の事、これまでの経緯を全て話した。


「モノクロの魔女のせいでみんな石に……?」

「それで冒険をしているの……?」

 話を聞いたメイとディアは怪訝そうな顔をしている。モノクロの魔女の事も『ココロ』の話もまるで物語の出来事だ。魔法使いの学童とはいえ、信じがたいのが当然だろう。

 だが、双子の姉妹2人で顔を合わせると、大きく頷いた。

「面白そうね! あたしたち、あなたたちに協力するわ!」

「ほ、本当!?」

 今のチルル達にマギカルトの仲間はいない。子供の魔法使いとはいえ、心強い味方になるはずだ。チルルもキィも目を輝かせ、ありがとうとお礼を言った。

 さて、次はこれからどうするかについて考えねばならない。マギカルトのマァリン女王がアイの結晶を持っているはずだし、この国で新たな力を得られるかもしれない。

 両親のノートに描かれた地図に、マギカルトの城らしきものは載っていなかった。今こそメイとディアの知恵を借りる時だ。

「ねえ、マギカルトのお城ってどこにあるか知ってる? マァリン女王に会いたいんだ」

「マギカルトにお城は無いわね」

「えっ!?」

 女王だというぐらいだから城にいるのはずでは、とチルルが尋ねようとするとディアが言葉を続ける。

「マァリン女王さまなら校長室にいるわよ」

「だって女王さまは校長先生だものね」

 ねーっ、とメイとディアは楽しそうに声を合わせる。つまりマァリン女王は一国の長にして学校の長でもあるという事だ。ともあれ行き先ははっきり定まった。

「メイ、ディア、ぼくたちを校長室まで連れてってほしい!」

「いいわよ。校長室は別棟の20階。付いてきて」

「に、20階……!?」

 気の遠くような階数を聞いて思わず頭がくらくらするチルルとキィ。マギカルトの冒険は始まったばかりだ。

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