第二話 探索
「……なんだ、今の音?」
大河が何となく後ろを振り返った。
「どうした?」
「いや……気のせいかな」
翔は大河のほうをちらりと見たが、すぐ興味は探索に移ったようだった。
「玄関近くとはいえ簡単な地図とかは……ねえな。そもそもここは病院じゃねえ」
下駄箱を横目に見ながら進むと両側へ進む廊下があり、右奥には二階へ進む階段が見える。左側に進めば突き当りには体育館の文字がうっすら見える。外から見た限りでは何もなかったはずだから、体育館とはいってもただの広い部屋かせいぜい二階分の吹き抜けの部屋といったところだろう。
体育館の手前はおそらく用具室か。その手前には保健室。そして目の前には教室。都市伝説の少女が自殺したという、今回の肝試しのメインディッシュだ。
反対に右側を見れば、教室の隣には幼稚園のように男女が分かれていないトイレがあり、その奥が階段だ。おそらく二階には男女別のトイレがあるのではないだろうか。さすがに職員がこのトイレを使っているとは考えにくい。
「まあ、教室はラストだろ。俺が気になったのは……」
大河は左側を見る。この小さな建物で、体育館というのがどういうものなのか単純に興味があった。あるいは用具室でもいいだろう。普通の学校でも、生徒がこの部屋に入ることはまずない。少なくとも安心して入れる場所かどうかは分からない。
「それもいいかもだが……まだ温まってねえぜ。肝試しならまずはあそこだろう」
竜也はトイレをライトで照らす。
安直だが、特に異論はない。
男女が別になっていないトイレなんてそうそう入れるところではない。
その時、ふと体育館のほうを見た翔が絶句したように動きを止めた。
「どうした?」
こんな状況だ。一応大河は声をかける。
「……だ」
「え?」
「女の子だ。確かそうだよな? ここで死んだ女の子」
「そうだけど……」
「見たんだ! 明らかに俺たちより背の低い女の子が……」
「? なんで女の子ってわかったんだ?」
「さっき用具室から出てきて、その時に揺れたんだ、ポニーテールが……」
そこで翔はハッと気づいたように言った。
「そうだ、ポニーテールだ……。ここで自殺した子は、縄に髪が絡まっていた……。その子はどんな髪型だったんだ?少なくとも伸ばしていないと絶対に絡まらない。例えばポニーテールとかな……」
やり取りを聞いていた竜也が言った。
「いいじゃねえか、見たのか? 幽霊」
「分かんねえよ……」
「まあ、そういうアクシデントでもねえとな。肝試しにならねえよ」
大河は嫌な予感を抱えていた。
「俺もちょっと、いやな感じする。この建物」
心霊スポットには大抵、不良なんかが残したスプレーの落書きがあることが多い。心霊スポットには人が寄り付かない分、彼らにとっては格好のアジトなのだ。逆に言えば落書きがあるということはその心霊スポットには実は幽霊なんて出ないという証拠にもなる。だからそういうところは安心して回れる。しかし……。
「なんで一つも落書きがないんだ? 何年も放置されてたんだろ? この建物」
「あのなあ、こんだけ山ん中にあるんだぜ? 誰がこんなとこアジトにするかよ。現に俺たちもしたくもねえ山登りをしてまでやってきたようなとこなんだ。原付やらやつらのバイクでもここまでこれねえよ」
「あれ?」
翔は、気づいてはいけないことに気付いてしまった。
「今、夜だよな? 懐中電灯を持ってたのは竜也だ。さっきライトはトイレのほうを向いてた。なのになんで揺れるポニーテールが見える? なんで落書きがないってわかる?」
今のところただのホラーです