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新魔王への道2

本日二話目となりますのでご注意ください。

「先月、連合からルオース王国が離脱しました。連合解体は時間の問題と思われます。そのせいか、各砦とも所属不明の部隊からの攻撃が増加しているとのことです」


『穢れ地』にも、少数だが人は住んでいる。境界線沿いに行き場のない者が身を寄せ合って暮らしている場所があった。わずかな水と作物で日々をしのいで暮らしている空の暮らしは、救世主が現れたことで大きく変化した。――魔物の暴走の的になったのだ。

 偶然その場に遭遇したとき、魔王は迷わず瑞葵を魔物の群れの中に放り投げた。村人たちは呆然としていた、と聞いている。魔物は倒れたが、最後に虫の息で残っているのもまた魔物にしか見えないので、喜んで良いのかどうかわからなかったのだ。気持ちは、よくわかる。

 不可解な状況をまとめ上げたのはシノーシュで、魔王は魔法使い、瑞葵は魔法使いの使い魔として村人たちを安心させた。しかし下心ありの人助けはろくに結果にならないなと、シノーシュは未だにそう愚痴っている。

 恩を売って少しばかりの食料を分けてもらうだけの計画だったのに、剣聖の名が無駄に功を奏した。ここに剣聖がいると聞きつけた付近の住民たちが次々と集まって、いつの間にか自警団まで作り上げてしまったのである。


「所属不明か。取り込めそう?」

「今のところ話し合いに応じる様子が無いので難しそうですが、やってみます」


 今魔王と話している偵察員は、最初に助けた村の青年だ。自ら自警団にも志願して、その頭にシノーシュを据えようと説得していた一人だと記憶している。結局、シノーシュは全責任を魔王になすりつけて、自分も自警団の一人に収まった。

 魔王は瑞葵を鍛えることと食事と寝床の保証が同時に得られると、二つ返事で請け負った。村人たちは喜んだが、瑞葵は複雑だった。新たな魔王軍の誕生にしか思えなかったからである。


「引き続き報告します」


 連合側も新たな勢力の誕生を快く思わなかった。魔王がいなくなった今、各国の覇権争いは激しくなる一方で小競り合いはそこかしこで起きている。暴走した魔物を討伐できる力となれば、取り込むのが一番だが正面から勧誘に来ることは少なく、主に力ずく、という方法が取られている。


「キアユ神殿の大巫女どのが病を理由に辞されたそうです。後任は決まっておりません」


 右端の青年の報告に、魔王は薄く笑った。


「もう、誰もその座を欲しがらないでしょうね」

「今じゃキアユ神も魔神と同一視され始めてるようだしな」


 知った顔で、シノーシュ。

 瑞葵たちが各国からの勧誘を断り続けているうちに、一つの噂が流れ始めた。


『あいつらのリーダーは、魔王に寝返った救世主だ』


 これまで魔王は連合側との交渉の場には出ていない。素顔を晒しているのも、ごく少数の仲間だけだ。瑞葵の方はといえば、魔王の使い魔になりすましているし、『穢れ地』に亡霊が一匹いたところで誰も不思議に思わない。

 それでも、どこからか真実は漏れていくようだ。新勢力の陣地には亡霊が彷徨いている、亡霊は魔王からの指示をリーダーに伝えているらしい、リーダーは元は救世主だったらしい――噂はどんどんと広まり、最近では、元救世主が新たな魔王になろうとしているらしい、となっているそうだ。意外にも核心を突いていると魔王は感心していたが、そうなると今度は勧誘目的ではなく、討伐目的の団体が押し寄せてくるようになった。先ほどの所属不明の団体は、新たに名をあげようとしていたのかもしれない。


「あの、エナの状況は?」


 噂が広まると同時に、キアユ神殿の権威は急速に落ちていった。主神の加護を受けた救世主が魔族側に寝返ったので当然である。大巫女がこれまでのように各国へ意見できなくなったために、神殿を中心とした連合の屋台骨は傾き始めた。魔王の言うとおり、大巫女の座からは、誰かを暗殺してでも奪取したいほどの魅力は欠けていた。


「馬鹿弟子のところで『嫁入り準備』中だ」


 シノーシュの答えに、瑞葵はほっとした。

 エナとゼマーは、それぞれの国に帰っていった。二人とも王族として、投げ出せない義務もある。命を狙われるという危険もあるが、それも含めて身辺整理をしてこいとシノーシュが厳命したのだ。


「って……あれ、王子様が婿入りするんじゃなかったっけ」

「よく覚えたな、あんた。しきたりの一つで、婚姻を結ぶ両家の顔合わせって奴だ。この後、馬鹿弟子が王女殿下のところに婿入りってこなんだが、ここで呼んでやるのも面白いか」

「ひどい師匠……」


 エナは魔王の話を聞いた直後から、魔神討伐計画に加えて欲しいと申し出ていた。おそらく半分は瑞葵への贖罪、半分はキアユ神に仕える巫女としての使命感からだったのだろう。ゼマーは、エナがいる所ならどこでも良いので横で頷いていただけである。しかし、晴れて夫婦になれる直前に呼び戻されるのは、哀れの一言に尽きる。


「せめて結婚式が終わってからにしてあげるとか」

「やりたいならこっちに来てから好きなだけやれば良いだろ」


 それだって王女殿下次第だと言われて、瑞葵は納得した。エナが結婚しませんと言えばそれっきりだし、断られたとしてもゼマーはエナを思い続けるだろう。これ以上は、瑞葵が首を突っ込めない世界である。


「報告は以上? それなら各自休んで」


 偵察隊は一礼して出て行った。シノーシュも一休みしてから自らゼマーとエナを迎えに行くという。誰よりも安心できる使者なので、魔王も異論は無かった。


「さてと。それじゃ行くわよ」

「え。どこに」


 中心部から魔物の部隊がやってくるのは十日後のはずだ。


「とりあえず、ここから一番近い境界線の砦ね」

「何しに?」


 魔王討伐連合が作り上げた境界線付近の砦は、連合から脱退する国が続出したために駐留軍を維持できなくなり、ほとんどが空になっている。それらを新魔王軍は利用しているのだが、時折、思い出したように連合の兵士が戻って来たり、先ほどのような正体不明の襲撃が増えている。


「隠れているのも終わりにしようと思って」

「……具体的には何するつもり?」


 答えはわかっている。それでも、瑞葵は問わずにいられなかった。万が一にも、自分の考えが外れるかもしれないと、それだけを祈って。


「そうねえ……こういうのはどうかしら。『キアユ神からの正しき命に従い、我、救世主シロムラミズキは哀れな魔王の亡霊を鎮めに向かう。我が言葉に疑いのある者は挑んでくるが良い。キアユ神が正しき道を示すであろう』」


 我こそが正義、文句があるならかかってきなさい。――簡単に言えば、そうなる。


「こっちも力ずくなのね……」

「適当に相手して追い払えばいいんだから、簡単でしょ」

「そしてやっぱりあたしがやるのね……」


 新魔王誕生計画について、瑞葵が渋ったのは人の能力を入り込むことだ。それは相手を死に至らしめる。しかし魔王はこれ以上、人の力を取り込む必要は無いと断言した。それから、可能性はかなり低いが、魔王の力をだから瑞葵も計画に乗ったのだ。


「だいたい、あなたがさっさと前の私と同じだけに成長すれば、こんなめんどくさいことをしなくて済んだのよ?」

「それは、そうなんだけど……」


 神は各地にいる。魔王はそういった。帝国の守護神は去ったが、キアユ神が代わりに多くの国に加護を与えた。今キアユ神が去ったとしても、同じようにどこかに神が台頭してくるだろうと。だから瑞葵は今日もため息を吐きながら、思うのだ。


「はあ……別の神様が新しい救世主を送ってきてくれないかな……」


 そうしたらきっと。世を乱す魔王に戦いを挑んでくるだろう。

 そしたらきっと、自分は新たな魔王として救世主に挑み――その役目を移すことができる。


「あれ、そうしたら……人間に戻れる……?」

「かもしれないわ」


 魔王は珍しく優しい声で言った。逆に怖い。


「それなら、救世主に撃たれるような魔王にならないといけないわね」

「……」

「納得したなら行くわよ。一日も早く強くなってね、魔王様!」


 そして今日も瑞葵は魔王に首根っこを捕まれて引きずられていく。正しく魔王となって、できれば平穏な人生を取り戻すために。


 〈終〉

これを持って、本作品は終了といたします。

最後までお付き合いいただいた方には、何もかもが半端に終わっていると呆れていらっしゃるかと思います。

理由・言い訳はいろいろとありますが、どうやっても当初目指していた内容が書けないと判断しました。

チート溢れる魔王の力に振り回される庶民、のような話をあれこれ考えていたのですが、私には壁が高かったようです。

未完のまま終わっている作品も含めて、また身の丈に合った話を書いてみたいと思いますので、そのときにはまた立ち寄りください。

ありがとうございました。


追伸

「続きます」で投稿してしまったために後から「完結済み」変更しました。

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