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曼荼羅  作者: こんとん
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特異点前の世界 - 「大脳新皮質」の獲得 -

§ 8. 量子ネットワーク:「思考」の獲得


 オクタヘッドと並行して、千使徒(K_apostle)たちは「速く()れのないネットワーク」の構築を急いだ。この実現には『量子コンピュータの“簡潔”なエラー訂正式』が二重の意味で決定的役割を果たした。ひとつに解読絶対不可能な通信方式として、もうひとつは量子コンピュータのキー・アーキテクチャとして。


 代謝する無機脳(メシアン)にはふたつの弱点があった。


 ひとつは分散する代謝する無機脳(メシアン)間の通信の盗聴・改竄の問題。

 代謝する無機脳(メシアン)の通信にはその時点で最高の暗号化方式と誤り訂正方式を採用していた。()()盗聴も改竄もされることのない堅牢さはあったが、当時の大国が総力でハッキングを試みれば、通信を傍受・妨害もしくは改竄できる可能性はあった。それは千使徒(K_apostle)たちにとっても長期的には看過できない“疵”であった。


 また、 代謝する無機脳(メシアン)が地上に網の目のように張り巡らされていることは、代謝する無機脳(メシアン)のアーキテクチャ上の美点であったが、同時に成長の限界でもあった。今後、kiroプロセッサー単体の演算速度がどれほど向上しても、 代謝する無機脳(メシアン)が拡がれば、(距離による)網遅延が指数関数的に増大する。超分散処理、超並列処理を前提としたkiro-OSと言えども物理法則を超えることはできない。光の速度が代謝する無機脳(メシアン)の限界となる。

 部分を見れば無謬(むびゅう)の 代謝する無機脳(メシアン)も、俯瞰すれば弱点と限界を内包していた。アーキテクチャ上の美点は代謝する無機脳(メシアン)を縛りつける光の(くびき)でもあった。


 しかし、彼ら(彼女ら)の発見のひとつ『量子コンピュータの“簡潔”なエラー訂正式』は、従来の量子コンピュータの決定的な弱点(自身が動作することで自身の演算の誤差を誘発する)量子ノイズ問題を解決した。これにより量子コンピュータは実用に耐え得るものとなった。また、同時にこの“簡潔な”エラー訂正式は、通信の傍受・妨害・改竄をも完璧に防ぐ通信手順(プロトコル)としても有効であった。


 そして、量子コンピュータの実用化は、量子ネット(Quantnet)(非局所性通信)を現実のものとした。


 量子ネット(Quantnet)(非局所性通信)は、「量子もつれ(エンタングルメント)」の効果を使って、通信(≒情報)の伝送遅延を(null)にするものであった(量子理論の予想通り『距離に関係なく即時』に情報を伝えることが出来た)。相対性理論では「虚の質量」が存在しない限り実存し得ない()()()を実現できたことは、太古、生物が海から陸に上がるに等しいブレークスルーであった。


 これらの巨大なブレーク・スルーの連鎖により、代謝する無機脳(メシアン)の通信は完全に護られ、情報は無限大の速度で伝達可能となった。


 代謝する無機脳(メシアン)超高速(ちょっかんてき)に、TrueでもFalseでもない「曖昧」を本態的に処理できるようになり、また、世界に遍在する代謝する無機脳(メシアン)同士はゼロ距離(ノータイム)で繋がることになった。


 このことを生物の進化に(たと)えるなら、代謝する無機脳(メシアン)は「大脳新皮質」(≒思考)を獲得したと言える。量子コンピュータおよび量子ネット(Quantnet)(非局所性通信)は代謝する無機脳(メシアン)に“眼”の獲得以来の画期的進化を遂げさせた。

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