特異点前の世界 - オクタヘッド -
§ 7. オクタヘッド:石油を超えるエネルギー源
金銭的自由を得た千使徒たちが最初に実行したことは代謝する無機脳の電力的自立であった。それは彼らが、およそコンピューティング・パワーと電力はイコールであり、塵の集まりから脱しない限り彼ら(彼女ら)の思い描く未来は実現できないと、正確に認識していたからだ。
そのために彼ら(彼女ら)は代謝する無機脳の吐き出す膨大な|アウトプットから「黄金のアウトプット」を見出す努力を続けた。それが先の「意味あるアウトプット」である。そして彼ら(彼女ら)は、これらの知見を駆使して、遂には「自己完結した発電機」(オクタヘッド:Octahedrator)を開発した。
名の通り八面体のオクタヘッドは、表面の太陽光パネルで発電し、高効率蓄電池に充電。その電力で「水素濾過器」を起動して空気中の水分から水素を“濾過”。その水素を使って小型ロータリー・エンジンを回し、蓄電および給電に利用する。一度発電プロセスが開始されれば、空気(水分)と一辺20cmのオクタヘッドだけで常時8kワットの発電を可能にした。
起動すれば5年間、故障することなく静かに発電し続けるこの除湿器(初期のコンセプトはまさに除湿器であった)は、代謝する無機脳の超分散アーキテクチャには理想的な電源であり、kiroプロセッサーの極めて低い要求電力も相まって、外部への電力依存度を大幅に低減した。
また、千使徒たちは、この頃から公然と活動するようになった。対外活動用企業たる(オクタゴン社:Octagoon)を設立し、手始めにオクタヘッドを市販した。オクタヘッドは家庭用電力、自動車の一般動力、さらには工業用電力として申し分なく、瞬く間に地上を席捲、千使徒たちに石油に匹敵する利益をもたらした。