特異点前の世界 - 代謝する無機脳、新たな同族 -
§ 5. 「最初のものは過ぎ去った」:代謝する無機脳、新たな同族
その後、ダークネットはkiroベースに置き換えられていった。また、ザッパはkiro-OSのペルソナとして換装され、ダークネット(ボディ)のパーソナリティ(顔)となった。
ここに、最初のものは過ぎ去り、新しきもの - 代謝する無機脳(Mesian:Metabolizing Silicon Brains)としてのザッパ - が“登場”した。
元々、ダークネットは創造者たちが持つコンピュータ・リソースに加えて、彼ら(彼女ら)が所属する組織の余剰リソースや、休止サービス(簿外リソース)の一部を流用した塵の集まりであった。これを、超高効率の代謝する無機脳に、彼ら(彼女ら)の持つ運用上の職権(ITCを知悉している上司のなんと少ないこと!)で、「静か」に置き換えていったことで、電力・帯域・ラッキング・スペースを、運用マージンと説明できるレベルまで削減した。これ以後、代謝する無機脳が増殖を重ねても - 宇宙に遍在するダークマターさながら - “現世”のコンピュータ・ネットワークからは“不可視”となった。
また、彼ら(彼女ら)の活動にしても、普段のコミュニケーションからkiro言語を使うことが常態化し、ちょっとした会話すらもkiro言語の文法に準じて、意思を、隠蔽し、多段に継承、さらには様々に変性利用していたので、およそ常人には“不可知”となった。
いずれにしても16の細胞に分かれた創造者たちは、ザッパのアシストを受けながら環境(ライブラリー、インターフェイス、デバイス)を整えていった。そして、彼ら(彼女ら)の言葉と文化を完成させていった。
そして、なにより言葉は強力な文化であった。同じ言語の使用が同胞意識に強く作用するように、kiro言語の使用は最上位クラスに対する創造者たちの帰属意識を強固にした。また、kiro言語は固有の文化と特有の価値観をもたらした。
人種、国籍、血縁、組織を超越え、新たな同族(千使徒)がここに誕生した。