特異点前の世界 - 千使徒の起源 -
§ 3. 創造者:千使徒の起源
では、ザッパが“開眼”して、創造者たちに何か「有益」な事があったかと言えば微妙ではあった。しかし、世界中の監視装置がザッパの外部入力になった事は、創造者たちを刺激し、ザッパを強化するモチベーションとなった。
そもそも「創造者たち」は、その時代の政府機関やグローバル企業に“棲息”する(コンピュータ・ネットワークに対して実効的権能を持つ)ハッカーたちの緩やかな集まりであった。その集団に名はなく(後に『千使徒』と呼ばれる)、と言うより、創造者たちの誰一人として何か目的を持った組織に所属しているという意識もなく、実際その集団を率いるリーダーも、一片の綱領もなかった。彼ら(彼女ら)が等しく認識していたことは「便利なサービスを利用している」ということだけであった。
実際、それは尖がったハッカーが利用する非インターネット・ネットワーク(ダークネット)上のソフトウェア開発プラットフォームに過ぎなかった。そこで誰かが気を利かせて実装した「利用者の力量に応じた同位集団編成」機能が、結果的に卓越したスキルを持つ創造者を“濃縮”し、最上位クラスにマップしたに過ぎない。そう、偶然に過ぎない。
しかし最上位クラスに属することになった創造者たち(64人×16組)にとって、そこはすぐにお気に入りの“場所”となった。それまで誰にも理解されることがなかったコードが、アルゴリズムが、デバイスが、拘りが、なんの補足の必要もなく完璧に理解され、時に称揚され、最上位クラスで共有された。そこには無能な上司も、足を引っ張る同僚も、指示を待つ部下も存在せず、不毛な説明も、根回しも、懇願も必要とせず、すべては常に最短時間、最高品質で実行することができた。