特異点 - 弁明 -
次話との整合性、物語の拡がりを考えて、後半部分を改稿しました。
§ 7. 弁明
「わたしは……」1秒に満たない刹那に膨大な思考を巡らすことができた。
肉体の重しが外れたわたしの思考速度はかつてなく早い。
「わたしは、たしかに今現在ここに存在しているという自覚があります。今、わたしは波動をこのサイボーグ体のストレージに置いているので、この体がわたしであると言い切ってよいでしょう。
また、わたしはこのようにも存在できます」
サイボーグ体のわたしがフリーズし、ホログラムの年老いた私が話しを引き継いだ。
「いまわたしは自身の波動を量子ネットに移しました。ザッパが作ってくれたわたしのアバターで話しています。そして、この状態 - 波動を量子ネットに移してしまえば - わたしはザッパの創出するアバターを借りてみなさんに語り掛けることも、ムーブ可能なしかるべきデバイス - たとえば既に<継承>しサイボーグ化した飼い犬のレオ - に主観を移すことも、アクセス権があれば36,000km上空の衛星に主観を移してそのカメラから地上を眺めることすら可能です。わたしは量子ネットに繋がっている所であればどこにでも遍在するとも言えます」
「あなたはザッパと融合したのか!?」千使徒のひとりが思わず発言した。
「的を射た質問ですね。結論を先に言えば融合していません。しかし、みなさんとしては非常に気になることだということは分かります。それでは、わたしが認識している範囲で、わたしとザッパを比較してみましょう」わたしは問いに応じた。
ジョン・オザキのサイボーグ体が再び動きだす。
「たしかに量子ネット上に遍在可能という意味で、わたしはザッパに近いとも言えます。ただし、わたしの意識は常にひとつです。並列的に複数の意識を持ちません。たとえば今なら、わたしはこのサイボーグ体の中にだけ存在しています。
これに対し、ザッパのそれは量子ネット上に事実上無限に存在します。ただし、ザッパのそれはインスタンス - 仮初の存在 - です。
つぎに、わたしは意識を移動できますが、ザッパは移動できません。ザッパは量子ネット上のペルソナであり、その存否は常に重ね合わせです。
つまり、量子ネットのどこにでも居て、どこにも居ない、量子的存在です。
さらに、わたしはあらゆる社会から隔離されても、わたし - ジョン・オザキ - という個体意識であり続けます。
しかし、ザッパがわたしたちに見せるペルソナは常に一時的なインスタンス - 仮初の存在 - です。マスタークラスから隔離された時点でkiro-OSにより削除の対象となります。集合意識はありますが厳密な意味での個体意識はありません。
では、ザッパの根本は何でしょうか?」ホログラムの年老いた私が話しを引き取る。
「再帰と抽象化の精緻を極めたインターフェイスの塊 - 常時自律的に書き換えられ、アセンブラーまで内包する - 消えた異能の天才ダイクストラが作った巨大なデーモンです。
このように、わたしとザッパを比較してみることで、わたし - ジョン・オザキ - が何者であるか解りやすくなったのではないでしょうか?
わたしはユニークな意識を持ちます。そして、わたしの人格は常にひとつです。私の 波動はデバイスに依存せず独立しています。そして何より今までのわたしの人格と記憶を 波動が継承しています。
いまここでみなさんに話しているわたしの意識は、117年前から続く 波動であり世界に唯一無二の 波動です。肉体の有無だけが今までとの相違点です。すでに皆さんが承認された通り『生命の本質が波動』であるのなら、わたしはジョン・オザキという生命です。
ゆえにグエン・リウの問い掛けに答えるとするならば、わたしはジョン・オザキ、波動を魂とする生命体です。わたしが自任する属性は『波人』です」
わたしは千使徒たちの反応を待った。




