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曼荼羅  作者: こんとん
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特異点 - 古いわたしと新しいわたし -

§ 3. 古いわたしと新しいわたし


 わたしの主観は新しい“わたし”に移った。


 最新の技術をつぎ込み“不気味の谷”を遥かに超えたロボット、いや、サイボーグ体に。今まで数度、この体にも完全没入(フル・ダイブ)していたが、やはり今回のほうが閉塞感を感じない。


 眼を開き、顔をベッドの方向に向けた。レオと横たわる古い“わたし”が視界に入った。

 吐き捨てた自分の唾と言ったら言い過ぎだろうか。すでにその体が自分とは思えなかった。

 

「古いあなたはさきほど臨終されました」ザッパがそう告げた。

「新旧並存時間は約30分、ただし、同期の瞬間、古いあなたに意識はなかったので存在重複はありません」


「思っていたほど苦しくはなかったけど、自然死だったかな?」「ライフ・ログはどう?」わたしは尋ねた。


「呼吸停止、心拍停止、瞳孔拡大。死の三兆候を確認した1フェムト秒後には“録音”を開始して、念のために1000フェムト秒間“録音”しました」「その間、全量子ネット(Quantnet)の帯域の1%を使いました」ザッパは事もなげに言った。


量子ネット(Quantnet)の帯域の1%って!?」「それに1000フェムト秒の“録音”ってどれだけのストレージが要ったんだい?」「いずれにしても、自殺と言われることはないんだよね?」わたしは立て続けに聞いた。


「ストレージは事前に確保していました。容量(キャパ)はオクタヘッド1億台未満です」

 (1億人の一生(ライフ・ログ)が記録できる容量(キャパ)だ)

「死の三兆候確認後なので100%の自然死です。これはライフ・ログが証明します」


「自然死を証明できそうなのは良かったけれど、“死後”に莫大な費用請求が来そうで頭が痛いよ」

「わたしはわたしの前世を相続するんだっけ?」

「とりあえずスタウブに相談したいな。呼んでくれる?」


 言い終わる間もなく割り込みが入った。対面するソファーにケン・スタウブが投影された。


「やあ、ジョン。随分若くなったもんだ」スタウブが笑った。

「実のところ危篤状態になってからずっと居させてもらっていたよ。無断で申し訳なかったが、ザッパと相談のうえのことだから許してくれ」スタウブが殊勝そうな顔をした。

「今回の一件、ジョンひとりに責任を負わせることはできなくてね。勝手に共謀させてもらったよ」


 スタウブが義理堅いのは昔からだったが、彼の立場を考えるといかがなものかと考えてしまう。スタウブは初代kiroプロセッサーの設計者にして現オクタゴン社のCEOだ。全量子ネット(Quantnet)の帯域の1%にしても、オクタヘッド1億台にしても、スタウブの意向があったからザッパも無茶をしたのだろう。


「やぁ、ケン。100年前の若きジョン・オザキに再会した感想は?」わたしは芝居がかった仕草で彼に会釈をした。つづけて「“共謀”には感謝するけど、まずはお悔やみの言葉じゃないかな?」「それにしてもザッパの30年ぶりの暴走はケンの差し金だよね?」旧知のスタウブを前にして口が軽くなる。


「きみの遺体にはお悔やみを、新しい君にはお祝いを申し上げる」スタウブは器用にも哀しみの表情と喜びの表情を同時に表しながら頭を下げた。「いずれにしても代金については心配する必要はない。今後『継承』する連中で頭割りにでもするよ」「そもそもザッパだって共犯だ。法外な価格(ZIP)にはなるまい」スタウブは顔を上に向けザッパに問いかけるふりをした。


「ミスター・スタウブ。それでは今回の費用はオクタゴン社に1億ZIPということで」珍しくおどけた口調でザッパが応えた。


「いいも悪いもザッパの値付けには逆らえまい」安くて助かったという表情を見せながらもスタウブは悪態をついた。

「ただし決済は個人口座にしてくれ。ジョンに続く命知らずがいたら俺の口座へ1千万ZIPずつ振りこんでもらうことにするよ」


「ケン、それはとても良いディールです。1000フェムト秒の本来価値は10億ZIP以上ありますよ」今度は真面目な口調でザッパは告げた。


「さて、価格交渉はこれぐらいにするとして『お知らせ』はどうする?」スタウトは居住まいを正しながらわたしの目を見た。「千使徒(K_apostle)たちにはすぐ知らせねばなるまい」


 また別な意識が割り込んできた。


「遺体にはお悔やみを、新しいあなたにはお祝いを」

 スタウブの横にミラ・ガトーの姿が投影された。


「ザッパに呼ばれたの」

 かつての量子ネット(Quantnet)開発の立役者で、今も量子ネット(Quantnet)のアドミニストレーターを務めるガトーが一瞬だけわたしを見てウインクをした。


量子ネット(Quantnet)の帯域が1%も食い潰されたらさすがにね」

 つぎにガトーはジト目に切り替え、ふたりを見据えながら話をつづけた。


「アドミン権限で緊急の告知は打ったから」

「詳報はケンから、それともジョンが自分で知らせる?」

「あなたたちがまったりしている間にも量子ネット(Quantnet)は大炎上よ」

「どっちでも良いから早く千使徒(K_apostle)たちに連絡して」


 100年変わらぬ姉御肌と言うべきか。わたしとスタウブはただ頷くしかなかった。

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