特異点前の世界 - 特異点 -
§13. ポスト人口爆発:次の世界
生命の脅威が遠ざかり、金の悩みがなくなり、寿命が伸びると、種の保存本能は減退し出生率は下がった。
メシアンの目論見はここに果たされた…… ように見える。
たしかに人々を豊かにすることで人口爆発問題を収束させた。
世界人口は120億人をピークにして、その後減少に転じた。平均出生率は2.0を割り込み、平均余命は100歳を超えた。当然、人口ピラミッドは右肩上がりの歪なものに変容した。人口爆発の果ての世界は老人が多数の世界だった。
とは言え、困ることは何もない。
ザッパの恩恵により、年代に関わらず誰もが非労働人口であり、数十億人を支えるのはザッパ配下の機械労働。かつてのように少ない労働人口で大勢の老人を支える訳ではない。
また、医療の発展により、70歳台は当たり前に社会的活動をする世代でもあった。何より、すでにこの時代は老人であったとしてもデジタル・ネイティブ世代であり、頭脳さえ健全であれば仮想現実経由で社会参加が十分に可能であった。むしろVRが未熟なころから使い倒してきた経験値は、年齢をアドバンテージに変えることすらあった。
この時代の老人は代謝する無機脳、量子ネット(非局所性通信)、そしてザッパ(ZAPPA:非人格プログラマー・デーモン/Non Human Programer Daemon)の勃興期と共に生きてきた。当然、千使徒たちもこの世代である。
彼ら(彼女ら)は世界で唯一無二の特権 - 代謝する無機脳のアドミニストレータ権限 - を行使して自分たちの生きる“世界”を構築した。それを従来世界から見れば「自滅」としか言いようがなかったし、未来世界から振り返れば正に「進化」であった。このふた通りの見方は相反しているが、これが技術的特異点の有り様であった。
技術的特異点に起きたことについて、それが「特異点」であるがゆえに、ヒトの視座で正しく語ることはできない。ゆえに、技術的特異点の前後の事柄については、特異点後の世代の視座から俯瞰する。




