音ゲーマニアがまたユニーククエストに巻き込まれるようですよ
亜三に神殿内での出来事を聞かれたので事細かに説明すると一つ指摘された。
「GENZI君はジョブを選ぶときに三つじゃなくて四つ出てきたの?」
「ああ、それで四つ目のジョブが『修羅』だった」
亜三は少し考え込む仕草を取ると、ふぅと息をつきこちらへ向き直った。
「うーんやっぱりGENZI君のジョブ、修羅はユニークジョブだと見て間違いないかな。普通二次職って選択肢が三つしか出ないはずなんだよ」
「ユニークジョブ?」
「うん、ユニークジョブっていうのは特定の条件を満たさないと成ることが出来ないジョブのことね」
「ほー…俺何かしたか?」
「私も知りたいよ…でも十中八九ユニーククエストをクリアしたことが関係してるんじゃない?…本当にお兄ちゃんはユニーク尽くしで心配になるよ…」
亜三が小声でぼそりと呟くが俺の耳には届かず何と言ったのか聞き取れなかった。
「最後何か言ったか?まあ、それは置いといて、俺のステータスポイントの割り振り方をどうすれば良いと思うかエイミーにも一応聞いておきたくてさ」
「自分の思うままに決めて良いと思うよ、誰かにあれこれ言われて決めるのってGENZI君嫌いでしょ?」
「お、流石エイミー。よく分かっていらっしゃる」
「もー何年兄妹やってると思ってるの?……それじゃあGENZI君とはここでお別れだね」
「え?これから一緒にクエスト行くんじゃないのか?」
「私がGENZI君のサポートをするのはここまで。確かに私が一緒にプレイすればすぐにレベルも上がると思うけど、それじゃGENZI君が真の上級者にはなれないもん」
確かに亜三の言う通りだ。そうやって亜三に頼って強くなったとしてもそれはキャラクターだけの話だ。本当に強いのはプレイヤーの強さもある。俺は少しばかり妹に甘え過ぎていたのかもしれない。
「分かった、それじゃあまたな」
「うん、GENZI君も早く強くなって私に追いついてね」
そこで亜三とは別れた。いつか亜三…いやエイミーに追いつくためにも、強くならないとな。そのためにもひとまず落ち着ける場所でステータスポイントを割り振るとしよう。
王都の中心付近を外れ、路地裏の方をぶらぶらと歩いていると落ち着いた雰囲気のカフェを見つけた。
店内に入ると芳醇なコーヒー豆の香りとモダンな音楽が心を落ち着かせてくれた。
その店に入ることを決めるとカウンター席に腰かける。
「ご注文は?」
マスターは黒いエプロンを付けた片目に傷のあるダンディーな男性で服越しにも隆々とした筋肉が分かる。
「何かおすすめはありますか?」
「うちのおすすめはこれだな」
そう言って後ろに置かれた一つの豆が入った容器を指さす。聞いたこともない品種の豆だ。
「現実のキリマンジャロみたいな味だ」
「じゃあそれでお願いします」
目の前でマスターがコーヒー豆をスプーンで軽量しコーヒーミルでそれらを砕いていく。砕き終わるとそれらをドリップペーパーの敷かれたドリッパーに移しポットでお湯を注いでいく。
(さて、この間にステータスポイントを割り振っちゃいますか)
新しいジョブの修羅とのシナジーも考えてステータスを決めていく。何となく脳内で構成を決めるとその通りにポイントを割り振った。
Player:GENZI
Gender:男
Job:修羅
Clan:無所属
HP:10
MP:20
STR:200
DEX:200
VIT:10
AGI:150
INT:20
MND:10
LUC:50
見事なまでの紙装甲、そして脳筋だ。ステータスポイントを割り振っているとあっという間にコーヒーがカウンターに出てきた。
「どうぞ、それとこれはサービスだ」
そういうと木製の皿をコーヒーカップの隣に置いた。
「クッキーですか?」
「ああ、そのコーヒーにはそれが合う」
「ありがとうございます」
静かにコーヒーカップを口元に運んでいき慎重に口に注ぐ。
「…!美味い!」
「ありがとよ、飲んだ奴にそう言ってもらえるのが何よりも嬉しいもんだ」
一度コーヒーを置きクッキーに手を伸ばす。
「これも美味い!濃いコーヒーの苦さによく合う」
コーヒーとクッキーの相性は抜群に良く、あっという間に平らげてしまった。そこでふと先程の会話でマスターが現実という単語を使っていたことを思い出した。
「すいません、マスター」
「ん?お代わりか?」
「いえ、マスターはプレイヤーですよね?」
「ああ、そうだが、それがどうかしたか」
「少し聞きたいことがあるんですが、俺このゲームを始めたばかりで、まず何をすべきなんでしょう」
「ああ、そういうことか、それならまず冒険者ギルドに行け。あそこでクエストをこなして行けば何か掴めると思うぞ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「おう、それとこれ持ってけ」
カウンターに出されたのは一通の封筒に入った手紙の様だった。
「これは?」
「それをギルドに持って行け、そうすれば何かと便利な筈だ」
「はい、コーヒー美味しかったです。また来ます」
そのままカフェを後にし、マスターの言っていた冒険者ギルドに向かうことにした。
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「あいつがユニーク攻略者か…普通の好青年っぽく見えたけどな…」
カフェの外に出ると標識を裏返しClosedが表となる。
マイセットに登録している装備に着替え、特大の大剣を背中に担ぐと歩み出す。
「さて、俺も狩りに行くか」
その獰猛な笑みを浮かべるプレイヤーのことをGENZIはまだ知る由もない。
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ギルドに着いた。そこはプレイヤーが多く騒々しく賑わっている所だった。人波をかき分けてカウンターの方に進もうとするとここでもアレが起きた。
「おいこいつ…」
「ああ、間違いない」
「ユニーク攻略者のGENZIが居たぞ!!」
一人のプレイヤーがアンファングの時のように大声で俺のことを指さしながら叫んだ。
「うげっ…マジ…?」
一斉にこちらを向いたプレイヤーたちが続々とこちらへ向かってくる。
「ヤバいぞ…これ!」
何とかギルドの入り口まで辿り着くとそのまま王都の中を駆け回った。駆け回っていると野次馬として駆け付けたプレイヤーも加わってさらに人が増える。
さっきカフェでステータスポイントを割り振ってAGIが上がったおかげか体が軽くなったような感覚を感じながら王都から出ようと出口を探すもあまりの広大さにどこが出入り口かもわからない。
「クッソ!どうすればいいんだよ!」
屋根の上で身を屈め、隠れていると王都の中央広場に大きな石碑があることに気が付いた。
目を凝らして見るとあの石碑からプレイヤーが出たり入ったりを繰り返している。
もしかしたら…と俺の頭の中を一つの憶測がよぎる。
(あの石碑は転移できるものなんじゃないか?)
確率は0ではないし、今はその希望的観測に賭けるしかなかった。どのみち摑まったら終わりなのだからやってみる価値はあるだろう。
「いたぞー!!屋根伝いに走ってる!北門の方に向かった!」
屋根伝いに走り続けついに石碑の近くまで来た。だが無論のこと石碑付近にもプレイヤーは大勢居り、周りの家屋の屋根にもプレイヤーが登り始め周囲を囲まれた。
正に四面楚歌とはこのこと、絶体絶命のピンチに俺の心臓は早鐘を打つ。一か八かやるしかない。
覚悟を決め助走をつけるとプレイヤーが大勢集まる広場の石碑目掛けて跳んだ。
「と…ど…けぇ!!」
(クソ!このままじゃ届かない!)
届かないそう思った瞬間俺の体を後ろから風が後押しした。
そして指先が石碑に触れた瞬間俺の体は光に包まれた。
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「どうしてあいつのことを助けたんだ?」
「いえ、流石に可哀想だと思って」
抜いた剣を鞘に戻すと踵を返し路地裏の方へ向かう。
「全く変わったこともあるもんだな、この『天翼』様がねぇ」
「私にだって人助けをすることはあります。それに彼があの人のように見えたので…」
「あ?何か言ったか?」
「なんでもありません。行きますよ」
「へいへい」
彼を助けたこと、そして彼女もまた、彼に助けられていたこと、それも何かの縁なのか。二人は再びそう遠くないうちに再会する。
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「何とか逃げ切れたか…ってまた変なところに飛ばされたのか?俺…」
周りには特に何もなく目の前に一枚の手紙が置かれているだけだった。
手に取って中身を確認するとそこにはこう書かれていた。
まずはこのような形でこれを渡すことになってしまったことを謝罪させてもらう、すまない
我としたことが御主にこれを渡すのを忘れていた
御主にはもっと強くなって貰わねばならぬからな
この地図に書かれている場所に向かえば我の古馴染みが居る
奴は全てを望み、得ようとした
そしてその欲望を抑えられなくなり、欲望に蝕まれ始めておる
だから御主の手で奴が欠片の理性を失う前に葬ってほしい
~五輪之介~
「はぁ!?」
【ユニーククエスト『強欲ヨ全テヲ喰ラエ』を開始します】
そしてまた光に包まれた。
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今度は街中でもなく変な空間でもなく、どこか知らぬ草原だった。
メニューを開きマップで現在位置を確認すると、ここが始まりの町アンファングの近くであることが分かった。
今初めてマップを確認したのだが既に行った場所は名前と地形が表示されるようだが今までに一度も行ったことのない場所は黒く塗りつぶされており分からなくなっていた。
「こうして見ると大分エイミーと歩いてきたんだな…」
アズマは大陸の最東端の方にあり、どうやら国がこことは異なるようだ。UEOにおける国家は見た所六つ。
始まりの町であるアンファングや王都が含まれ、東西南北を山脈に囲まれた、大陸の中央付近にあるゼルキア王国。
エイミーのクランがあるアズマが含まれ、様々な将軍が居り、戦の絶えない、大陸の東側を領土とする高天ヶ原。
北に存在する、魔法が発達し、魔道に精通する者が多く在籍するとされ、多くを森林に包まれたカトレア連邦。
大陸西に位置し、広大な領土と、薬、武道で有名な、中華風の光芒帝国。
大陸南端に存在する神を信仰し、教皇が治める国家であるディバイン神聖国。
そのディバイン神聖国と山脈の間を東西に広がる、大陸最大の砂漠に存在し、商業で栄えている、バルバロス共和国。
そして海上に浮かびこの大陸の周りを回り続けているアズール王朝。
この六つだとTipsには書かれている。
そして先程手紙で五輪之介に向かえと指示された場所は王都近郊の丘にある荒城だ。
ここからさほど離れた場所ではないため向かうことは容易だろう。
「まあやることもないし強くなれるっていうなら行ってみるか」
その時現実でメールが届いたことを知らせるマークが表示された。
「誰からだ?……麟か…」
どうやらメールの差出人はクラスメイトの麟だったようだ。
メールの内容を確認してみると、どうやら麟もUEOを購入したらしく、チュートリアルが終わったのでせっかくだから一緒に遊ばないか?とのことだった。
これから始まりの町に着いたらフィールドに出てすぐの所に来てほしい旨を伝えしばらく待つことにした。
数分と立たず俺の背後に立つ気配を感じ、後ろを振り返ると麟が立っていた。
「よお!このゲーム凄いな、確かにお前がハマるわけだ」
どうやら昨夜俺がこのゲームのことをメールで送ったことが気になったらしく自分もやりたくなったとのことだ。
「せっかくだし冒険しようぜ」
「了解、ただ俺はうかつに街中に入れないんだよな…」
「何かやらかしたのか?」
「実は――」
俺の身に今まで起こったことを説明すると、
「ははは!流石だな、けん…おっとこのゲームでもGENZIか?」
「ああ、そういうお前も麒麟だろ?」
「やっぱりこの名前がしっくりくるんだよなぁ」
「俺もだよ、今までずっと使い続けてきた名前だからな」
麟とはクラスメイトとして出会う前に音ゲーの中で知り合った。お互いに何度かプレイすることで仲良くなりフレンドとなった。最近ではリアルでも遊びに行ったりする、俺の大切な親友だ。
元々麟は音ゲーがメインではなく、FPSをメインとしてやっていたようだ。どうやらFPSの方はかなり実力があるらしく、有名なプロチームにスカウトされ今では小遣い稼ぎに大会に参加していると言っていた。
「それで?ジョブは何にしたんだ?」
「俺は狩人にしたぜ」
ドヤ顔で決めてくる辺りが流石のウザさだが初期ジョブが俺と同じ狩人とは。似た者同士の様だ。
「俺も初期ジョブは狩人にしたよ。今はもう修羅とかいうよく分からんジョブに就いたけど」
「へー…すげえな、初めて二日目でもう二次職に就いたのか。確か二次職LV30にならないといけないんじゃなかったか?」
「なんで既にゲームの知識をそこまで得てるんだよ…」
「ゲームをやるなら先に情報収集するのは当然だろ」
前言撤回、コイツと俺は似た者同士ではなかった。俺はゲームを買ったら説明書や攻略ページを見ずにガンガン進めるタイプだが麟はガッツリ予習してからゲームを始めるタイプのようだ。
「それじゃあ効率の良い狩場があるみたいだからそこ行こうぜ」
「ああ、何か俺よりもUEOのこと詳しそうだな…」
そこからは麒麟に案内してもらったLV毎の経験値効率が最も良い場所に行って狩り、LVが上がれば次の狩場に行きを繰り返すこと五時間。
途中休憩がてら冷蔵庫で冷やしていたALIENを飲んだ後は狩りの効率が上がった。流石はALIEN素晴らしい作用だ。
「お、ついに俺のLVが30まで上がりましたー!」
「やったな、俺もLV45まで上がったし、新しく手に入れたスキルも試せたし良い狩りだった」
「GENZIはこの後もUEOできる?」
「風呂と夕飯の後なら出来るぞ。そういう麒麟はどうなんだ?」
「俺も同じく、そして今日は土曜で明日の予定は特にない。そうとなればあれしかないでしょ?」
「「今日はオールだー!」」
*この後ALIENを飲みながらオールナイトで狩りをし続けたようです。