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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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毒蠍ヨ侵シ蝕ミ唆セ 拾捌


『狂い桜』の切っ先を【ウェネーウム】に突きつける。


記憶の深層、そこに答えはあった。

俺とクロエがNPC達に聞き込みをしていた時、ふと耳についた音。

子供達が遊びながら口ずさんでいた童歌。


怖~いサソリがやってきた。ハムサの方からやってきた。皆を惑わし操って。悪い子食べるぞ気をつけろ。逃げても逃げても追ってくる。どうしよ、どうしよ、どうしよう。そんなと~きはオアシスへ。水をかけたら嫌がって。一目散に逃げてった――


この童歌に登場する怖いサソリとは恐らく【ウェネーウム】のことだ。

そう考えればこれまで謎だったことが解決する。

昨日の夜、俺の意志とは反して体が動いた現象。あれは【ウェネーウム】に操られていたんじゃないか?

そして童歌の最後の歌詞。――水をかけたら嫌がって、一目散に逃げてった――

これは【ウェネーウム】の弱点を表していると考えられる。


なら、やってみるしかないだろう。


「うおっ!? やっば……!!」


視線の先、一人【ウェネーウム】と対峙し、応戦していた麒麟の二丁銃が毒針に弾かれ、石畳の上を滑る。二本の尾を巧みに使い、同時に二丁銃を叩き落した【ウェネーウム】は未だ攻撃を残した尾を地面をなぞるように麒麟目掛けて振り上げる。

勢いよく迫る毒針に対し、回避を試みるも麒麟の動作は間に合わない。

だが、尾が麒麟の体を叩きつけることも、尾の先端に光る毒針が麒麟を貫くことも無かった。


俺は【ウェネーウム】の尾が麒麟を捉えるよりも早く疾駆し、麒麟に迫る尾に対し、横から『狂い桜』を振り下ろした。

これまでなら刀は弾かれ、硬い甲殻を断つことは出来なかっただろう。

そう、()()()()()()()()

甲殻に触れた瞬間、ケーキを切るようにすんなりと刃が沈んでいくのが感じられる。

そのまま勢いに任せて刀を振り下ろし、接尾を断つ。


突然のダメージに驚いたのか、【ウェネーウム】はその巨体にそぐわぬ速度で後退すると、これまで浮かべていた妖美な表情を崩し、目を大きく見開いていた。

背後から、コツ、と何かに肩を軽く叩かれる。


「おせーよ、GENZI……!」


肩越しに背後を見ると、俺の右肩に軽く拳を当てる麒麟の姿が目に入る。


「悪い、待たせた」


「……ったく、……それで今見た感じだと解決策は見つかったって感じか?」


「ああ、アイツの攻略(クリア)が見えてきたよ。結論から言えばあいつの弱点は水だ、麒麟は確か銃弾に属性エンチャントが出来たよな?」


「ああ、弱点は水……なんだよな。それじゃあ――」


麒麟はそう言うと、手持ちの弾丸を半分に分け、両手に持った。


「『バレットチェンジ』『フレイムバレットⅡ』『アイスバレットⅡ』!!」


片方は燃えるように赤い弾丸に、片方は銀雪を思い起こさせるような白い弾丸に姿を変える。

今回はお前に主役は譲ってやる、と麒麟は言うとコートの裏側に仕込んでいた歩兵銃を取り出し、一瞬の内に銃弾を装填する。


「さぁ、行こうか、GENZI」


「ああ。クロエの麻痺が解けて、ぽてさらの疲労が取れるまでの間、俺と麒麟で時間を稼ぐぞ」


【ウェネーウム】の方へ眼を向けると、既に断ち切った接尾は再生している途中だった。

先程と同じならば既に再生しきっていてもおかしくないが、それをしていないということは出来ないと見て良いはずだ。

ぽてさらに頼んで、『狂い桜』にだけ何とか付与してもらった水属性のエンチャント。

これが今回の戦いで重要な役割を果たすことは明白だった。


右半身を前に出し、『狂い桜』を下段に構えると、弾丸の如く【ウェネーウム】目掛けて突貫する。

俺が駆け出すのと同時に【ウェネーウム】の唇が震える。

あれは奴が精霊魔法を使う合図。

何と言っているのかは分からない。だが、その言葉のリズムから一度でも使用した精霊魔法であれば先読みできる。


あれは……炎の精霊魔法か。


それが分かれば対処は容易い。

石畳を思い切り踏み切り、強引に距離を詰めると、【ウェネーウム】に張り付く程近づいた。

初めて【ウェネーウム】はその妖美な笑みを困ったような笑みをに変えた。

これを好機と見た俺は足に狙いを定めて『狂い桜』を下から弧を描くように振り上げる。


「ふっ……!」


それを阻もうと接尾が伸びる。防がれるかと思い、一度退こうかとも考えたが、引き金を引く音が聞こえ俺は動作を止めなかった。

横から急接近した赤と白の軌跡が目の前を通り過ぎ、【ウェネーウム】の尾を貫く。

【ウェネーウム】の尾は力を失ったように項垂れ、その隙にがら空きとなった足を斬りつける。


先程の接尾同様、一刀のもとに断ち切った【ウェネーウム】の足は地面へ転がり、ポリゴンの欠片となって露散する。

二対四本の足を持っているとはいえ、足を一本失ったことで僅かに重心が傾き、体勢が崩れたのを俺は見逃さなかった。

腰を低く落とし、構えをとる。


「『独楽連斬』ッ!」


地面を蹴り、体を捻り、回転しながら独楽のように反対側の足にも斬りかかる。

未だ再生されていない二つの接尾と一本の足。

これ以上のダメージを受けるのは不味いと考えたのだろう、【ウェネーウム】は大きく跳び退ろうとした。

だが、それは既に予測済みだ。

喉がはち切れんばかりに声を大きく張り上げる。


「麒麟っ!!」


「OK~!」


二回。ほぼ同時に二回金属音が鳴り響く。

一発目は白い軌跡を描き、二発目は紅い軌跡を空中に残して。

弾丸が飛び退ろうとする【ウェネーウム】胴体を的確に捉え、接触する瞬間。

一つ目の弾丸と二つ目の弾丸、何故別々のエンチャントを施したのかその瞬間、ようやく理解した。


一発目の氷属性の弾丸が【ウェネーウム】の体に迫り、僅かに皮膚を凍結、二つ目が薄く膜を張る程度に凍った皮膚の氷を解かす。

するとどうだろう、その部分に()()()()()

皮膚を伝う水滴を貫くように二発の銃弾は【ウェネーウム】皮膚を貫通した。


「――ッ!」


【ウェネーウム】の声にならない叫びがあがったように見えた。

空中から落下した【ウェネーウム】の体は既に多くの傷を負い、三割程のHPゲージが減少していた。このまま順調にいってくれればいいんだけど……


早口で叫ぶように【ウェネーウム】は唱える。

あれは確か瞬間移動する精霊魔法……いや、そう見えるほど早く動けるようになる精霊魔法か?

どちらにせよこのまま姿を見失うのは不味い。

何とか足を止めさせたいけど、今は俺の刀の間合いには入ってない。

一か八か……!


「ふんっ!!」


『狂い桜』を持った右手を後ろに引き絞り、限界まで引いたところで投げ放つ。

風を裂き、【ウェネーウム】を貫かんと突進する『狂い桜』が届く前に、その姿は消えていた。


「ヤバ……」


これは不味いと思い、全速力で己が投げた刀の元へと駆け抜ける。

その切れ味故に石畳に深々と突き刺さった愛刀に届くと思い、手を伸ばした瞬間、背後に突如【ウェネーウム】が姿を現した。


手を伸ばし、柄を握り、振り向いた瞬間――


目の前を鮮血に似た赤いポリゴンの光が空中を舞った。



GENZI君と麒麟さんのコンビネーションは完璧と言っても差し支えなかった。

それに比べて私は……

GENZI君が考える時間は私が稼ぐと言っておいてこの様だ。

役に立つどころか麒麟さんに一人だけで戦わせてしまったり、私は足を引っ張っているだけだ。


想えば、私は知らず知らずのうちに自分の事を強いと思い込んでいたのかもしれない。

友達に、ポテに誘われて始めたこのゲーム。

楽しくて遊んでいる内に、いつの間にかトッププレイヤーと呼ばれ、『天翼』などという分不相応な二つ名まで付けられていた。

それに対して私は何も感じていないつもりだった。

でも……


でも……私は思いあがっていたんじゃないだろうか。

自分の事を強いと。

それでいざユニークモンスターと戦ってみたら私は……


「クロエ……」


不意に横から声を掛けられ、混濁した意識を振り切ると、体は未だに動かないため視線だけをそちらに向ける。

瞳に映ったのはポテの姿だった。

よろめき、今にも倒れそうな程にふらふらとしながら、体を杖で支えて私の横まで歩いてきたのだ。


「クロエが……何を考えているの……かは、私には分からない……でも、今は悩んでる時間なんて……ないんじゃない……かな……?クロエは……GENZIさんのこと、守るん……でしょう……?」


息も絶え絶えと言った様子で語る親友の言葉は私の胸の奥底を貫くように響いた。

そう、だった。

私は心に決めたはずだ。

GENZI君は私が守ると、それなのに今は逆だ。私が守られている。


「『キュア』」


僅かに体の麻痺が解け、指先が動くようになる。


「『水龍の牙刃』」


右手に握ったままの剣が水を纏う。


「私に出来るのはここまで……あとは……クロエの頑張り……だよ……」


その場でポテは仰向けに寝転ぶと、目を瞑ってしまった。

全身に少しずつだが力が戻ってきた。

私は……


その時、キン、と耳を(つんざ)く音が響く。

GENZI君は自身の刀を【ウェネーウム】目掛けて投げ、それを外し、勢い余って地面に突き刺さってしまったようだ。

まだ麻痺が残る体に鞭を打ちながらも立ち上がり、剣を支えにして立ち上がる。


行かなくては。

GENZI君の元に。


「――ッ!!」


一瞬、目の前を影が横切ったように、GENZI君の方へ向かったように見えた。

まさか……


嫌な予感が頭をよぎる。


痺れの取り切れていない体を懸命に動かし、GENZI君の元へ駆ける。


刹那、GENZI君の背後に影が現れる。

駄目だ、このままじゃ駄目だ……


「間に合えッ!!」


地面を蹴り、長い滞空時間を経て。


私の剣はGENZI君へと迫っていた【ウェネーウム】の最後の接尾を切り落とし、鮮血のエフェクトを撒き散らせた。

月明かりのもと照らされる紅いエフェクトは輝き、そのポリゴンたちは全て、GENZI君の持つ刀へと吸い込まれ、その刀は不気味に光輝いた。


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