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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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毒蠍ヨ侵シ蝕ミ唆セ 漆


ジリジリと照り付ける太陽の光。そして遅れながらに周囲からの視線を一身に受けていることに気が付いた。

向けられる視線に悪意は感じられないが、それでも奇異の眼差しを向けられることはあまり居心地の良いものではなかった。


「クロエ、とりあえず一旦ここを離れよう」


「え? あ、はい」


未だにどこか狐につままれたような顔をしたクロエの手を引くと、向けられる視線から逃れるように裏路地へと姿を潜めていった。



迷宮のように入り組んだ路地裏は先程まで居たオアシスとは違い全体的に薄暗い。

今は太陽が出ており、気持ちのいい天気なんだがその光がこの路地に届くことは無い。上を見上げると路地の形に切り取られた青空がぽっかりと浮かんでいる。


その路地裏の最終地点とも呼ぶべき場所にそれはあった。

前回来た時と変わらない怪しい雰囲気を漂わせる紫紺の暗幕の中へと意を決して進んだ。


「おや? あなた方がここを訪れた、ということは汚染の原因を突き止めてくれたのですかな?」


「ああ、恐らくだけどコレだ」


俺はにオアシスの底で拾ったままだった何かをそのまま店の主人に手渡す。

滴り落ちる水滴が、オアシスから回収してから如何に時間が経っていないかを如実に物語っている。


主人はソレを手に取ると、持ち上げたり、回転させたりして舐めるようにソレを観察する。

これまでの怪しげで道化のような態度は感じられず、さながら専門家のような様子に思わず息を呑む。


「―――っ……あ、すいませんねぇ、つい集中してしまいました。あなた方のおかげでバルバロス共和国の難は去りました。本当にありがとうございます、これは気持ちばかりの報酬です。それでは、またの機会をお待ちしております――」


【『迫れ!唆毒の正体』をクリアしました】

という、短いメッセージと共に、大量の経験値とGOLDを獲得する。それによってLVが上がる音を聞き流すとクロエと再び暗幕を捲り上げてテントの中から外へ出た。


その時、背後から言葉を投げかけられた。


「ああ、それと……お二人とも誰かに他言していないようで安心しました。もし、話していたのなら私が直々に向かわねばなりませんでしたので……」


それを背に、俺達は迷うことなく路地裏を抜けた。



路地裏を抜け、大通りに出ると後ろから袖を僅かに引かれ、振り返った。


「GENZI君、その、ユニーククエストに付き合ってくださってありがとうございました」


クロエは一度お辞儀をすると、続ける。


「きっと私一人だったらクリア出来なかったと思います。くどいようですけど本当に、ありがとうございました」


そのへりくだったクロエの様子を見て、思わず俺は笑ってしまった。


「っくく……はははは!」


「――? 私、何か変なことでも言いましたか?」


「あ、ごめんごめん。クロエが凄い他人行儀で何か可笑しくって……」


僅かに乱れた呼吸を整えながら俺はクロエを正面に捉えた。


「そんなこと、気にする必要なんてないよ。だって俺達フレンド(友達)だろ?」


これは俺の本心だった、クロエとは知らない仲じゃないんだ。友人を助けたいと思うのは至極普通のことだと俺は思う。

少しおどけたように笑う俺の様子に、クロエははっとさせられたような表情を見せたかと思うと、すぐに背を向け、顔を隠してしまった。


「わ、私、今日は凄く眠いので早めに落ちますね! おやすみなさい、GENZI君」


どこか慌てた様子でクロエはウィンドウを操作すると、そのままログアウトしてしまった。

その間際、僅かに垣間見えたクロエの横顔はどこか熱を帯びているようで、桜色に染まっていた気がしたが恐らく気のせいだろう。


慌ただしくログアウトしたけど、クロエはそんなに眠かったのか。

それだったらこれまでの聞き込みも相当眠かったんじゃないか?

そうだとしたらクロエには悪いことをしてしまった、明日登校中にでも謝ろう。

心の中でそんなことを決めながら、特にやることのなかった俺もログアウトすることにした。


クエストは確かに終わった。だが、心の中はざわついたままだった。

ユニーククエストがこんなに簡単に終わるはずがない。

これまでがそうだったように、恐らくこのクエストにも何かがある。

多分、ここにまた来ることになるんだろうなぁ……


俺は仮想世界を去る間際、心の中で呟いた。


()()()()()バルバロス――



クロエは顔を枕に押し付けながら足をバタバタと騒がせていた。

どうして、どうして健仁君ってばいきなりドキッとすること言うの……!?


「はぁ……」


赤面してしまった顔を隠すために咄嗟に後ろを向いたけどおかしかったかな……

自分の行動を振り返り、さらに呻くとクロエはまだ自分の顔を熱いことに気付き、顔をさらに枕へと強く押し付けた。



学校から帰った俺は自分の部屋に入るなり、鞄を放り投げ、制服のままベッドに倒れ込んだ。

やっぱり、月曜の学校は疲れる……

そんなことを胸中に抱きながら、着替えことすら面倒だった俺はそのままサイドテーブルへ手を伸ばし、VRヘッドセットを頭にはめた。制服のままこうして生活していることが亜三や母さんに知られたら間違いなくどやされるだろうけど、この際可能性の話は考えないことにしよう。


俺はある用事のため、UEOの世界へと没入していった。



俺が現れたのは言わずもがな昨日ログアウトしたバルバロスの中だ。

でも俺の用事があるのはバルバロスではなく、ゼルキアだった。

ショートカット欄に登録している『転移のスクロール』を手に持つと、音量を控えめに口に出す。


「転移!ゼルキア!」



これまた恒例の事ではあるが、ゼルキアに着くなり俺は路地裏へと最短距離で走り抜け、跳び込んだ。

背後を確認するが俺の存在に気付いたプレイヤーはいなさそうだ。


「ふぅ~……」


ゼルキアでは大大的に俺のプレイヤーネームとアバターが知られているため、迂闊に大通りを歩いてみた日には捕獲されて情報を吐かされること間違いなしだ。

自分の予想にぶるりと身を震わせると、そうならないように俺は神殿へと向かった。


路地裏の迷路のように入り組んだ道というのはバルバロスと似ているがこちらは規模が違う。

しかし、俺にとってはそこは庭同然だった。

賞金首のようなプレイを始めてから約一か月。その間にこの迷路を使った回数は数知れず、今ならば目的地を言われればそこまでの路地裏の道案内が出来るレベルだ。


そんなことを考えている間に目的の神殿が見えてきた。

ここからは速さが命となる。まるでこれから戦闘に赴くような構えをとると、一気に路地裏を抜け、人混みを飛び越し、神殿の柱をくぐり抜けた。


「ふぅ……セーフ………」


ここさえ通り抜ければあとは問題無い、ここからはインスタントマップ、他のプレイヤーが干渉してくる心配はないからだ。


「今日はどのようなご用件ですかな?」


「転職をしたい」


「かしこまりました。奥へどうぞ」


神官に通され、これまで計三回は見たその光景に懐かしさを覚える。

これまで何度も聞いた神官の話を流しつつ、俺は目の前の選択肢へと集中した。


目の前に表示された選択肢は()()。どうやら今回もユニーク職業《ジョブ》があるらしい。

――ん?何だコレ?


俺が疑問を抱いたのは選択肢の四つ目。そこに書かれた文だった。


【今はまだ、その時ではない】


ただ一言、そう書かれているのだ。

他の三つの職業《ジョブ》に関しては何ら変わったことはない。この一つだけ異彩を放っている。

諦めて他の職業《ジョブ》を選択するという選択肢もある。だが、俺は――



「それではまた、貴方に神の御加護があらんことを……」


手を合わせ、祈る神官を背に俺は階段を降りていた。

結局俺は今回、職業《ジョブ》を決めず、保留にした。恐らくあの怪しい職業《ジョブ》こそが修羅系統の四次職だと踏んだからだ。

別にそこまで急いでいるわけでもない。

だけど悔しさは俺の中で確かに息づいた。次こそは四次職になってやる!


はたと思い出したがイスナーンでぶつかり、その人にはついぞ出会うことはなかった。

この巻物を返そうと思っていたのだが……


「――少しだけなら……」


好奇心には勝てなかった。

好奇心は身を滅ぼすと言うが、この際気にしない。

巻物を縛っていた白い紐を解くと、何かに書かれていたのは俺にも読める達筆な字で書かれた手紙だった。


拝啓GENZI殿


先日は我の願いを聞き届け、無二の親友ナインテールを救ってくれたこと、心より感謝申し上げる。

これはその感謝の証だ。

この巻物を最後まで読み終われば御主に新たな技が芽生えていることであろう。

着実に力を伸ばし、来る(きたる)日に我と相見える時、我を失望させてくれるなよ。


敬具


どこかで聞いたことのある声だとは思っていたけどまさか五輪之介のものだったとは……

考えてもいなかった答えに驚きを隠せなかったが、それ以上にユニークモンスターと会話しているという事実が衝撃的だった。


【スキル『岩伏龍』を獲得しました】


よもや幻覚なんじゃないかとも考えたが、眼前に表示されたメッセージがそれらを現実のものだと告げる。

『岩伏龍』、確か五輪之介が使っていたのを思い起こす。確か地面に岩の龍を潜ませ、機を見て使い、攻撃するスキルだったはずだ。

五輪之介の技はどれも実践的で、俺も何度も刀を振るい、その技を盗もうとした。

だが、どれだけ試行錯誤を重ねても俺に出来たのは不完全な『疾風』のみ。

もしかしたらこの『岩伏龍』が、新しい発見をもたらしてくれるかもしれないな。


メッセージをそっと閉じると、時間を持て余した俺は久しぶりに麒麟でも誘い、レベリングでも行おうかと考えていると、ふとPIPEのメッセージが届く。

俺のPIPEの友達は二人、麟と星乃さんだけだ。どうやら今回届いたのは後者からだったようだ。


星乃クロエ:すいません、健仁君。

      今UEOにログインしているみたいですが時間ありますか?

     

神谷健仁:大丈夫、ちょうど暇してた所だから。


星乃クロエ:それなら丁度良かったですε-(´∀`*)ホッ

      バルバロスの転移広場に今いるのですが来てもらえませんか?


神谷健仁:了解。

     今から行く。


メールウィンドウを閉じると、ショートカット欄に登録した『転移のスクロール』を取り出す。


「転移!バルバロス!」


体は光に包まれ、後にはポリゴンの欠片が残るのみだった。


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