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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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毒蠍ヨ侵シ蝕ミ唆セ 肆


「ふぅ……」


学校へ行き、帰ったらDSM2をプレイし、午後八時からはUEOで星乃さんとユニーククエストを進める。流石に三日間も同じようなことを続けていると慣れてきた。


俺は今、いつもより早くUEOにログインし、星乃さんを待っている所だった。


するとPIPEのメッセージが届く。


星乃クロエ:健仁君すいません。

      父の親友の結婚式に参加するとのことで三日間家を空けることになりそうです(╥﹏╥)

      その間はUEOにログインすることが出来なさそうで…

      ユニーククエストのことは気にせず健仁君のやりたいことをしていてください。

  

      ―追伸―

      飛行機にこれから搭乗するのでPIPEやメールが繋がらなくなるので返信は不要です。


「マジか……」


確か星乃さんの親父さんはフランス人だったはずだ。それならば星乃さんの親父さんの親友っていうのもフランス人なんだろう。

そう考えれば飛行機に搭乗するというのも三日間家を空けるというのも分かる。


思いがけない出来事ではあったが時間が出来た。

この時間を有効活用しない手はないだろう。DSM2をプレイし始めてから早一週間弱、既に大半の楽曲は難易度クレイジーでAPフルコンを取った。

だが、前作の全ての楽曲でAPフルコンを取った俺でも難しいと感じ、未だにフルコンすら取れていない三つの楽曲たちがある。

音ゲー掲示板上ではこの三曲は三つの頂と書いて『三頂』と呼ばれてすらいるそれらにこれまで何度も挑戦したが未だ勝利は無く、練習を重ねていた。


恐ろしいほどの速度で音符(ノーツ)が流れていき、足元のパネルに音符(ノーツ)の輪が表示されたと思った次の瞬間には音符(ノーツ)が消えているという楽曲。基本BPMが300を超えるという異次元楽曲だ。さらに曲中には加速ギミックが存在しており、最高BPMは軽く1000を超える。

そのあまりのスピードについていけず、何度振り落とされたことか分からない。楽曲名は『Speed of Light』。『光速』の名を冠したそれは間違いなくDSM史上最速の譜面速度を誇っている。


基本BPMは180と『光速』に比べれば遅く感じる譜面速度、だが、ただ遅いわけではない。音符(ノーツ)の密度が尋常ではないのだ。

あまりの音符(ノーツ)の量と密度の暴力。それらに加えて現れるバナナミサイルのいやらしい配置。音符(ノーツ)を捌く技術とバナナミサイルを最小限の動きで避ける技術、二つの技術を極限まで磨かなければ届かないAPフルコン(勝利)

楽曲名は『Derange』。まさに曲名そのまま、『発狂』と呼ばれる曲だ。本当に発狂しそうになる難易度であることは間違いない。


そして三つ目、俺が思うにこの楽曲こそがDSM2における最難関楽曲だ。難易度クレイジーの中では平均的な譜面速度に平均的な音符(ノーツ)数。だが、この楽曲の難易度を跳ね上げている原因は別にある。それはDSM2に登場する全てのギミックが盛り込まれているという点だ。

突然音符(ノーツ)が消えたり、瞬間移動したりし、曲が逆再生されるかのように踏んだ音符(ノーツ)が再び戻ってきたり……

これ以外にも多彩なギミックが盛り込まれたこの楽曲は他二つとは別ベクトルの難しさがある。そして何よりもこの楽曲を最難関たらしめる所以はギミックの内の一つ、この楽曲専用に作られたリ・バースというギミックにある。


リ・バース、このギミックの内容はいたってシンプル。その楽曲の譜面や譜面速度がプレイする度にランダムに変化するというもの。

そう、この楽曲だけは練習して譜面を覚えることが出来ないのだ。


純粋な音ゲーの地力が試される曲。その楽曲名を『Dance Step Moving』という。ゲームの名前を背負うその曲はクリアできるものならしてみろという製作者からの意図を感じる。


「ふっふふ……やってやろうじゃないか……!」


静かに闘志を燃やし、音に溢れた世界へと跳び込んだ。



「はは……! ハハハハ……!! 俺はやった! 遂にやり遂げたぞ!」


俺は目の前に浮かぶ文字を見て喜びを露わにした。


FULL CONBO!!


SCORE:1000000

1500:CONBO

1500:PERFECT

0:GREAT

0:GOOD

0:BAD

0:MISS


遂に完遂したのだ、『三頂』全てのAPフルコンを。この三日間、学校で授業を受けている間ですら片時も音ゲーの事から意識を離すことは無かった。


一日目、俺は『光速』をクリアした。その圧倒的速度を体感している内に、俺の動体視力と反射神経が鍛えられ、自然と体が動き、リズムに乗って動いているといつの間にかクリアしていた。

『光速』を経て俺はどれだけ速い音符(ノーツ)でも見逃さない動体視力と、視覚に捉えた瞬間に体を動かす反射神経を手に入れた。


二日目、俺は『発狂』をクリアした。激流の如き音符(ノーツ)の流れ、尋常ではない密度で現れるそれらを捌きりながらもバナナミサイルを最小限の動きで回避した。並行して二つの動作を行い、APフルコンまで何とかこぎつけることが出来たのだ。

『発狂』を経て俺はこれまで以上に極限まで集中力を高めること、並行して作業を同等の質で行うこと、そしてそれらと同時に視野を広く持つこと、が可能になった。


三日目、ついに俺は『Dance Step Moving』をもクリアした。プレイ毎に姿を変える譜面と迫りくる数々のギミック達。初めは忌々しく思っていた、だがプレイしていくうちにそんな感情は消えていた。

ただ研鑽を重ね、俺は己の中で何かが変わるのを感じ取っていた。そして、『Dance Step Moving』にAPフルコン(勝利)した。

『Dance Step Moving』を経て俺は多様なリズムに対応する柔軟性を開花させた。


この三日間、『三頂』をクリアするためだけに使った三日間は失うものも多かったけれど、得るものも多かった。この経験はきっとこれからも俺の助けとなってくれる、そう確信して俺は三日ぶりの睡眠を満喫するのだった。



朝、俺がいつも通りの時間にリビングへと起きていくと、亜三と母さんは俺の事を幽霊を見るかのように驚いた。


「おはよう健仁。今日はちゃんといつも通りの時間に起きたのね~」」


「おはよーお兄ちゃん。良かったよ~今日は寝坊してなくて」


「おはよう。そんなにひどかった?」


「そりゃあもう。お兄ちゃんってば私が夜お手洗いに行こうと思った時間でも煌々と部屋の電気つけてるし、昨日と一昨日は目の下に凄い隅を作ってるし……」


「あ、あれ? そうだったっけ……? っとそんなこと話してるうちに時間が、いただきまーす」


隣ではまだ亜三と母さんが何かを言っていたがそれを聞こえない様に務めて朝ご飯を食べた。食べ終わるとそそくさと洗面台に向かい、身支度を整えると、すぐに家を出た。


今日はもう星乃さんがいるから昨日のように遅刻ギリギリになるわけにはいかないのだ。


「あ、健仁君、おはようございます」


「おはよう星乃さん」


学校へと向かう道中、星乃さんはフランスでの出来事を語ってくれた。たったの三日間会えなかっただけだというのにひどく懐かしさを覚える。

途中から話はフランスでの話からUEOの話へと変わり、今日と明日の残り二日間でユニーククエスト『迫れ唆毒の正体』をクリアするための計画を立てていた。


「――それでですね、あの店主の人が言っていた通りならば今日と明日の二日間で残りの切れ端を集め、暗号を解かなければいけません。最低でも今日の内に紙切れと情報収集だけは終わらせておきたいところです」


「んー……確かにそれはあるな。今日って星乃さん早めにインできる?」


俺が尋ねると星乃さんは少し考えると申し訳なさそうに呟いた。


「すいません、今日は少し厳しそうです。三日間休んだ分の提出物を終わらせたりしないといけないので……」


「それは確かに大変そうだな……というか八時までに終わらせられるの?」


「はい、それは何とか間に合うと思います」


「じゃあ今日もいつも通り午後八時にUEOインってことで大丈夫?」


「大丈夫です」


校門を通ろうとすると、校門の前に立っていた先生が嬉しそうにこちらを見ていた。あの生徒指導の先生とは一昨日、昨日と二日連続でお世話になったからな、正直申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


今日は学校が憂鬱ではない。これも星乃さんが戻ってきてくれたおかげなのだろうか?


暖かな陽気に後押しされながらふと、そんなことを思った。



授業が終わり、部活がある生徒達は部活に、無い生徒達は帰路につく中、俺は星乃さんの三日分の提出物を運んでいた。


「すいません、手伝ってもらっちゃって」


「いや、気にしなくていいよ。というか、こんなに提出物こんなに多かったっけ?」


俺が手にしている紙の束はどう考えても三日分の提出物という量ではなかった。流石に重くはないが、紙を持っているといのに重みを感じる程度には枚数がある。


「あ、それは委員会の資料も含まれているからです。私、実は美化委員会に勧誘されて委員会で書記を担当させてもらっているんです」


「はー……すごいな星乃さんは。転校してきて二週間くらいだっていうのに美化委員に選ばれたのか」


「ほんと、そんな大したことじゃありませんよ」


教室の扉を開けると閑散とした空間がそこにはあった。普段の日常では考えられない静けさがいつもとは違う雰囲気を教室に与えている。

資料を星乃さんの机にどさりと置くと、星乃さんは何かを思い出したように鞄の中を弄った。


「あ! あったあった。健仁君、これお土産です、健仁君が前にエナジードリンクが好きだと言っていたのを思い出して買ってきました」


手渡されたのは黒い箱。蓋を開けると中には俺がこれまでに見たことのない種類のALIENが整然と並べられていた。


「日本では売られていない海外版のモデルのエナジードリンクとフランス限定と書かれていたものを買ってきちゃいました。どうでしょうか?」


何て、何て素晴らしいんだ。配合されている成分が日本製のものの二倍近いものばかりだ。これを飲めばきっと途轍もない集中力を手に入れることが出来る気がする。


「ああ……最高だよ!! ありがとう! 星乃さん!」


「喜んでいただけたようで良かったです」


ニコリと微笑んだ星乃さんはファイルに紙の束を入れ、鞄の中に押し込んだ。家へと帰る中、俺はそのまま勢い余ってエナドリの素晴らしさを星乃さんに熱く語らってしまったが星乃さんはそれに相槌を打ちながら笑顔で聞いてくれた。


ホンマええ子や……


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