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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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音ゲーマニアが準々決勝を観戦するようですよ2


試合開始の合図とともに銃口をクロエへと向け引き金を振り絞る。西部劇に出てくるガンマンのように素早く、それでいて正確に急所を狙った銃弾がクロエに迫る。

それを顔色一つ変えず左手に装備した金剛石のような輝きを持った中盾で防ぐ。クロエへと迫る四発の弾丸を弾くと素早く体を前傾させ、左右にステップしながら距離を詰める。


麒麟の武器が銃だということを見た瞬間に最も効果的な手段を使うというあたりかなり対人戦慣れしていることが分かる。

麒麟自身が言っていたことだが自分にとってやり合いたくない相手を三つ挙げるとしたら、銃弾が全く効かない敵、速過ぎて銃弾を当てられない敵、そして心理を読めない敵だとそう言っていた。恐らくクロエは麒麟よりもかなりAGIが高い。麒麟にとってこの試合は苦戦を強いられることになるだろう。


近づいてくるクロエを自身の不利な近距離戦に持ち込まれないようにするため、銃弾で応戦する。左右の銃を横に持ち、交互に撃ち続けて距離を取る作戦のようだ。

あの速度で撃ち続ければ無論のことすぐに弾が切れる。だがそうなる瞬間にマガジンを下へ落とし、即座に新しいマガジンへと装填しているためそうなることは無い。


ただ、クロエも流石と言うべきか。先程までは銃弾が撃たれると少し距離を取り、防御を優先させていた。だがほんの数十秒の戦いの中でそれらを見切ったのか少しずつ回避の距離が縮まり、最小限の動きで回避するようになってきた。

頃合いと見たか、クロエはこれまで以上に勢いをつけて疾駆すると麒麟の間合いへと飛び込んでいく。射程距離に入ったクロエに対し行われる暴力的な弾幕の嵐。それらをものともせず、避け、弾き、守り、一発の弾丸が自身の体に掠り傷を与えることすら許さずに自身の間合いまで距離を詰めた。


クロエが右手に持っているのはごくごく一般的な片手剣。華美な装飾は無いが白と水色を基調としたそれは言い知れぬ凄みと美しさを感じた。


片手剣を下から斬り上げ、横に斬り払う。


斬り上げは麒麟の腹を掠め、僅かにダメージを与えるが横への斬り払いは右手に持った『デス』によって受け止められた。


「あれは『バーチカルスラッシュ』ですね。片手剣を使う職業(ジョブ)であれば大抵覚えられるスキルです。基本的な技ではありますが上級者でも使う応用の効く二連撃スキルですね」


なるほど、確かにそのようだ。驚き、後ろへと後退したことによってバランスを崩した麒麟は焦りを見せ、僅かに隙を作ってしまった。恐らく自分でも隙を作ったことに気が付いたのだろう、すぐに防御態勢に入るが一歩遅れる。


クロエは右手に持った剣を引き戻す時間がもったいないと感じたのか、左手に持った中盾で麒麟の体を押し込む。それによってさらに体勢は崩れ、麒麟は後方へと倒れていく。

盾で麒麟を押し込んだ際に手元に戻していた片手剣は既に振り上げられており、その剣が麒麟に迫る。誰もが不味いと思ったが、当事者である麒麟はそうではなかった。


確かに隙はあるが、先程までに見られた焦りを感じることが出来なかったのだ。圧倒的不利な状況だというのに落ち着ききった態度で構える麒麟に警戒し、振り上げていた剣を戻すと麒麟からクロエは一度距離を取った。

そのまま麒麟は地面に投げ出され、飛び起きるとニヤリと笑みを浮かべた。


「おおっと~!?クロエ選手どうしたのでしょうか!?大きく隙を見せた麒麟選手に追い打ちをかけず距離を取りました!これはいったいどういうことなのでしょうか!?」


「あれは敢えて攻めなかったのでしょうね。スキルの中にはダメージを受けた瞬間に任意で発動するものや特定の条件下でのみ発動するものも存在します。恐らくクロエ選手は麒麟選手の表情からそれがあると読み、攻撃を中止したのでしょう」


「なるほど!ですが麒麟選手のブラフという可能性もありますよ!」


「僕は低いと思いますね。あの状況であれほど冷静に自身の心をコントロールできるということは並大抵のことじゃないですよ」


解説のガッチさんはそう言っていたが俺はその笑みを見て確信した。コイツ、この状況でブラフをかましやがったな、と。すっかり忘れかけていたが心理学を学び、それを何故かゲームに応用しているアイツはこと心理戦において圧倒的な力を持つ。昔ポーカーをやったことがあったが全敗、じゃんけんにすら勝ったことがない。


そんな麒麟の事だ、恐らく今の余裕を見せる表情はクロエを動揺させるために敢えて行ったものだろう。麒麟の内心は冷や汗ダラダラで心臓は早鐘のように脈打っていること間違いなしだ。だがそれでも平静を装い、余裕を見せ、相手の心理を探っている。


防戦一方だった麒麟が遂に攻勢へと転じる。両手に持った大きな二丁銃をホルダーに素早くしまうと、腰から抜いたのは別の二つの銃。

左手には先程のリボルバー式の銃よりも小さい砲身を持った小銃を。右手には先端に銃剣が取り付けられた歩兵銃を。

不釣り合いな二つの銃を手に取ると、麒麟は全速力で駆けだした。それと同時に始まる射撃。左手に持った小銃から放たれた弾丸はクロエの心臓部を狙うがあっさりと切り伏せられる。観客はずんとしたテンションになるが反対に麒麟は不敵な笑みを浮かべていた。


小銃から発射された銃弾は切り伏せられた瞬間、白い煙を爆発的に広げ、闘技場全体を覆う。幸いフィールドをドーム状に包む結界のおかげですり鉢状になった観客席の方には煙が来なかったことは良かった。

観客席がどよめくと、すぐに空中のホログラムに煙の中の光景がまるで煙が無いようにクリアに加工された映像が映し出される。


煙が覆った闘技場の中、とどまらず走り続ける麒麟は再び小銃をクロエへと向け引き金を引いた。だがその作戦には一つ欠点がある。俺がナインテールと戦った時にやったように音に合わせて斬るか避けるかすればそれですむこと。

それが分かっていたのかクロエは発射音が聞こえた瞬間に身を低くして銃弾を避けるが、何故か右足を銃弾に貫かれる。


これまで一度もダメージを受けなかったクロエに対して初めてダメージを与えた。その事実にざわめく観客席と実況席。

クロエも自身がダメージを受けたことに驚いているようで、すぐにその場を離れる。だがそれも麒麟の思うつぼ。動いた先でも再び銃弾を、今度は左足に受ける。

連続で二発も弾丸を命中させたというのにHPは一割減ったかどうかというところだ。これが『天翼』のクロエの実力か…


だがふと俺の脳裏を不吉な考えがよぎる。

これまでの選手は試合が始まってからその二つ名の由来となるスキルや技、武器や装備など何かしら自分のとっておきとなるものを使っていた。

クロエはどうだろうか?これまでその二つ名を意味するようなものを使っただろうか?俺の額を冷や汗が流れ、妙に胸がざわめく。


数秒後、俺の予感は的中した。



なるほどな。確かにこのクロエというプレイヤーは強い。ただ、俺も自身の弱点を克服するために努力を怠ってはいなかった。今こそそれを発揮するときだ。


そう意気込んで試した作戦は思いのほか上手くいき、見事に銃弾を当てることに成功した。だが妙な気がする。確かにダメージを与えたというのに俺にはクロエに勝つヴィジョンが全く見えてこないのだ。俺には『鷹の目』があるおかげでこの程度の煙は無いも同然だが、クロエがすぐに俺の元へ来ないことから俺の『鷹の目』に近しいものは無いことが分かる。


つまり視界が確保できていないはずなのだ、それだというのにクロエの様子はどうだろうか。落ち着ききり、精神を集中させて全方位からの攻撃を予測している。


妙な点はそれだけではない。俺もネットで見ただけだが彼女の代名詞でもある『天翼』。あれがまだ使われていないのだ。それはつまり…


「俺のことを舐めきっているってことかぁ…」


いいだろう。相手がその気ならば油断したことを後悔させてやる。

俺は再び『ライフ&デス』に持ち替えると、特殊な弾丸を装填する。装填が完了すると銃口をクロエへと向け、音もしない程に優しく、静かに引き金を引いた。


射出された弾丸からは音は聞こえない。音速を超え、音を置き去りにしてきた弾丸がクロエに迫った瞬間スキルを発動させる。


「『インラージメントバレット』」


手を強く握りしめ、拳を高く挙げて叫んだ。スキルの発動と同時に射出され、クロエの近くまで迫った銃弾に変化が起きる。銃弾が膨張、巨大化し、まるで大砲の弾のようなサイズになり、ようやくクロエは自身の近くまで銃弾が迫っていたことに気が付く。

だが時すでに遅し。


「『ザ・キャノン』!!」


巨大な銃弾がクロエに着弾し、轟音と爆風を撒き散らし、辺りに広がった煙を吹き飛ばす。その轟音は結界の中で反響し、思わず耳を塞ぎうずくまる。

時間と共に轟音が静まったことを確認し、着弾地点を見るとその場にはダメージを一切負っていないクロエの姿があった。


「な…!?」


その姿は今までのそれとは違った。身に纏った鎧には水色の光輝くラインが浮き出ており、それは剣や盾も同様だった。そして何よりも変化したのはその背中についた翼。

一対二翼の純白の翼が生え、空を飛んでいたのだ。


「まさか、これを使わざるを得なくなるとは思ってもいませんでした。貴方、凄く強いんですね。ですから敬意を払って私も全力でやらせていただきます!」


速い!

翼を用い、これまでの速度に拍車がかかった驚異的な速度で繰り出される攻撃はどこから来るか分からない。こうなれば一か八かやるしかないだろう。


「『霧隠れ』」


クロエの剣が俺の体を捉えた瞬間、俺の体は露散する。一秒間の透明化時間を使い、クロエの死角へと潜り込み、隙のある首元に銃弾を撃ち込む。

だが、それはあっけなく切り落とされる。


「例え視界に入っていなくとも、もうすでに貴方のことは見切りました」


「くっ…!」


剣戟を繰り出しながらも翼で推進力を加えている為、その剣は果てしなく重く、速い。ついに受け切れず俺の膝は折れ、地面に膝を着く。それでも何とか持ちこたえていたがどうやら限界の様だ。


「さようなら、ありがとうございました」


まるで天雷の如き光が俺の視界を白く染め上げ、俺の意識は暗転した。


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