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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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音ゲーマニアが新作音ゲーに浮気するようですよ


控え室に戻ると待機していたであろう麒麟が声を掛けてきた。


「お疲れ~。中々良い試合だったぞ」


「そりゃどうも」


素っ気なく言い放つとシステムウィンドウを開き、ログアウトボタンに手をかけた。それを肩の上から麒麟が覗き込む。


「なんだ、GENZIもうログアウトするの?」


「まあな、ちょっと野暮用があってさ」


「ふ~ん…星乃さんが関係してたり…?」


突然のワードに驚き、手を横に振って違うことを言外に伝えると、ログアウトボタンをタップする。自然と瞬きをするように目を瞑り、開くと視界に入ってきたのは見慣れた白い天上だった。


「さて…」


ベッドから起き上がりクローゼットの中からパーカーを取り出すと、スウェットの上から羽織った。鞄から財布だけ抜き取りスウェットの後ろポケットに挿し込み部屋を後にした。首元のウェアラブル端末の電源を入れ視界にAR(拡張現実)が表示されるのを確認すると家を出発した。


数分歩いて駅に着くと、電車に乗り込み揺られること数分、二駅目で降りた。俺が現在向かっているのは行きつけのゲーム屋だ。

そこの店主とは音ゲーで知り合い、以降ゲームを買うときはあそこに行くと決めている。店主の趣向もあってか品揃えもリズムゲームが中心に置いてあり、俺にとってはまさに楽園だ。


駅から見える位置にあるこの店はなりに売れているらしく、常に人が出入りしている。店内に入ると一目散に会計へと向かった。


「あ、君か。ちょっと待っててくださいね」


そう言うと会計に立っていた店員の人が裏方へと消えていき、代わりに出てきたのはひょろっとした線の細い男性だった。男性の胸元についた名刺には店長という文字と彼の名前が書かれている。


「こんにちは、佐藤さん」


「やあ、健仁君。アレ取りに来たんだよね?」


「はい」


佐藤さんは少し奥に戻ると、ビニール袋を持って戻ってきた。


「僕はもうプレイしたけど中々面白かったよ」


「マジですか…俺も帰ったらすぐにやります」


会釈をして店を出ると、家まで待ちきれずビニール袋の中身を確認する。中に入っていたのは小さな箱だ、その中には初回限定版の楽曲を手に入れられるコードと本編のコードが封入されている。

俺が今日本選の観戦をせずに抜け出してきた理由、それがコイツだ。


『Dance Step Moving 2』今日発売の新作ソフトの名前だ。このゲームのジャンルは無論リズムゲームであり、俺は以前このゲームの過去作に当たるDance Step Movingをプレイしたことがあった。

音ゲーとしての完成度の高さと収録されている楽曲数の多さから一時期かなりハマっていたものだ。今日が発売日だということは事前に知っていたので予約しておき今取りに来たというわけだ。


早くプレイしたいという思いが帰路につく俺の足取りを軽くさせる。人の目の多い駅周辺でなければ鼻歌交じりにスキップしていたかもしれない。

小走り気味に急いで家へと帰り、自身の部屋でソフトの開封をした。説明書も導入されていたがプレイしていれば分かるだろうと高を括り、コードだけを入力すると即座にVR装置を装着しベッドに横になった。



ゲームが起動すると、初めに降り立ったのは何もない空間だった。そこで立ち呆けていると機械的な音声が聞こえてきた。


「ようこそ、Dance Step Moving2の世界へ。あなたの端末から前作、Dance Step Movingのセーブデータを受け継ぎますか?」


目の前に思いもよらない選択肢が表示され一瞬戸惑ったがYESをタップする。すると無色透明にラインだけを書き足したような姿だった俺は以前のSFチックな衣装へと変わった。


「チュートリアルを行いますか?」


「いや、大丈夫だ」


自然と会話をしてしまったが普通のNPCはこういう曖昧な答え方では反応してくれないことを思い出すとはっきりとやらないと明言した。UEOの人間味溢れるNPCに慣れるとこういうNPCはどうしても味気なく感じてしまう。


「かしこまりました。それではDance Step Moving2の世界をお楽しみください」


機械音声が消えると同時に俺の居た何も無い空間が煌びやかなクラブに様変わりする。辺りを見回すとDance Step Movingの頃と変わってる部分も僅かにあるが殆どが昔のままグラフィックが劇的に向上した仕様となっている。


昔のことを懐かしみつつ俺は早速ゲームをプレイすることにした。Dance Step Movingの頃と変わっていないとすれば中央にいるDJモンキーに話しかければできるはずだ。


「曲を頼めるか」


「OK、どんな曲がいいんだYO?」


Dance Step Movingをプレイしていた時に思い入れのある曲といえば一つしかない。


「そうだな…『デス・シャッフル』あるか?」


「OK、モードはどうするYO?」


「あーモードか」


Dance Step MovingはBSDとは違い難易度の変更があり、各楽曲につき五種類ある。易しい順番に並べるとベイビー・チャイルド・アダルト・プロ・クレイジー。無論選ぶモードは一つしかない。


「クレイジーにいこうぜ」


「OK!それじゃあ始めるYO!ステージの上に上がるんだYO!」


同じく中央に設置されている巨大な正方形のディスプレイの上に乗る。


「それじゃあ…ミューズィック!スタァート!」


モンキーの合図とともに軽快でノリのいい音楽が全方位から流れ始め、足元の巨大な正方形のパネルが電源が入ったように光を灯す。


Dance Step Movingは下半身を主に使う音ゲーだ。足元の正方形のパネル上に青色の円が出現し、その円に向かって徐々に赤色の円が小さくなっていき、青の円と赤の円が重なる瞬間にその場を踏むことで判定が起きる。判定は悪い順にMISS・BAT・GOOD・GREAT・PERFECTとBSDとそこはまるっきり同じだ。

また赤、青以外にも円は存在し、黄色の円は踏み続けなければならず、円ではなく緑色の矢印も存在する。緑色の矢印は矢印方向に足を擦れば良い。


ここまでであれば従来のDance Step Movingと何ら変わらない。Dance Step Moving2では足の複雑な動作に加えて上半身も使うのだ。具体的に言うとプレイ中に何処からともなく現れるバナナミサイルを回避したり、空中にも足下同様の音符(ノーツ)が出現するためそれをタップする必要がある、と公式サイトに書いてあった。


回想していると前奏が終わり、足下のパネル上に無数の青音符(ノーツ)が出現する。


左右の足を交互に使い連続で音符(ノーツ)を足でタップしていく。リズムを感じ、受け入れ、身を任せる。すると忘れかけていた記憶を奥底から掘り返し、体に染みついた動きを反映する。

ジャストタイミングで音符(ノーツ)を消すことによって小気味のいい音が体を震わせる。足元の音符(ノーツ)に気を配りつつ顔を上げると、目の前に迫っていたバナナミサイルが顔面に激突し、背後に転倒。ライフが一撃で消し飛び曲は即座に止まった。


これも今思い出したがDance Step Movingにもライフが設定されているのだった。GOOD以下の判定評価を出すとライフが減っていき、0になると強制的にプレイを中止させられる。恐らくだがバナナミサイルは一撃でも触れただけでライフが全損する設定なのだろう。


まさかこれほどまでの難易度だとは思っていなかった。下半身と上半身の同時使用がこれほど難しいとは想定すらしていなかったので驚きを禁じ得ない。

だがそれ故に俺の闘志に火を点けた。恐らく俺の本選が始まるのは十時ごろだ。それまでの間に何としてもクリアしてやろう、そう胸に近い起き上がると再びDJモンキーに話しかけた。



「ちぇ~GENZIの奴どっかいっちまったよ」


することもないので観客席の方へ向かうとGENZIが立っていた辺りから俺も試合を観戦することにした。内部での音がこちらに聞こえていないからだと思っていたのだが実際に対人戦を終えて分かったことがある。

GENZIの方がどうかは知らないが俺の対戦相手であったヨコヅナはスキル発動時にスキルの名前を口に出していなかった。それはつまりスキルの名前を口に出さなくても発動させる方法があるということなのだろう。


これは恐らく初歩中の初歩なのだろうが今の今まで俺達は知らなかったわけだ。後でGENZIが戻ってきたら教えてやろうと心のメモに刻み観戦を続けるのだった。



本選に出場する選手全員が試合を終え、残りのプレイヤーが半分の八人へと減った。準々決勝が始まるのはまだ先のことで、午後一時からだったと記憶しているので、自分もログアウトしようと思ったが一度ウィンドウを閉じた。

それは準々決勝の対戦表をまだ見ていなかったからだ。闘技場上空に投影されたものによると、どうやら準々決勝の第一試合から俺は戦うことになるらしい。溜息を一つ残し、その場を後にする。


準々決勝

第一試合 麒麟 VS 『天翼』のクロエ

第二試合 『狂姫』エイミー VS『破壊王』オウガ

第三試合 GENZI VS 『賢者』ぽてとさらーだ

第四試合 『剣闘王』レオ大佐 VS 『黒死病』インフルマン



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