音ゲーマニアが有名人になったようですよ
現在俺は自分の部屋で正座をさせられ妹に問い詰められていた。何故このような状況になってしまったのだろうか…
数分前…
「お兄ちゃん?それでクリアしたってどういうことかな?」
「え?いや、さっきも言ったけど昨日徹夜で頑張ったらギリギリの所でクリアできたんだ…「それはもう聞いたよ!」…けど」
「私が聞きたいのはクリアするまでにどんなことがあったのかって事だよ」
「あーそれはだな――」
そして何故か今の状況に至るというわけだ。とりあえずリビングで話すのも何だったので俺の部屋で話すことにすると亜三は俺のベッドの上に座り俺は床で正座するように言われた。一応抗議はしたのだが…
「何か文句あるのかな?お兄ちゃん?」
にっこりと笑みを浮かべ首を傾ける亜三の仕草は可愛らしいのだが、やはり目が笑っていなかった。いつもは明るく人懐っこい亜三をここまで豹変させるとは、恐るべしUEO…
「ちょっとお兄ちゃん?聞いてるの?」
「はい、聞いてます」
「どうして敬語なのさ…まあいいや何となく分かったよ。お兄ちゃんはユニーククエストのことをあんまり知らないからそういう反応になるのかもしれないけど、お兄ちゃんのしたことは凄い事なんだよ?」
「そうなのか?」
「そうなの。まずユニーククエスト自体がとんでもなく稀少なんだよ。UEOのサービスが開始してからもう三ヶ月くらい経つけど、ユニーククエストのクリアは確認されてないの」
「え?でも俺昨日クリアしたんだけど…」
「だから凄い事だって言ってるでしょ?お兄ちゃんはUEO始まって以来初めてのユニーククエストのクリア者なんだから。それとさっきネットで確認してみたんだけどお兄ちゃんの名前はUEOの中で広まっちゃったみたい」
「え?何でだ?」
「ユニーククエストはクリアするとワールド上に全体アナウンスがされるみたいなの。それで今日の午前二時三十二分にユニーククエスト『森奥ノ湖島ニテ挑戦者待ツ』をソロクリアしたってお兄ちゃんの名前と一緒にアナウンスされたみたい」
「………もしかしてソレまずいんじゃないか?」
「うん、かなりまずい状況になったね。でも不幸中の幸いお兄ちゃんがクリアしたユニークがあのクエストで良かったよ。あのクエストはキャラクターを初めて作った初心者にしか挑戦できないから今ユニークをクリアしようと躍起になってるトップ勢もそこまで関与してこない……と思う」
「………」
「………」
何となく気まずい空気が二人の間を流れる。亜三が悪いわけではないのにこんな風に申し訳なさそうな顔をされると…何とか話題を変えなくては。
「んんっ、なあ亜三、俺まだ初心者だからさ、色々UEOのこと教えてくれないか?」
「えっ?うん!もちろんいいよ。それじゃあログインして中で会おうよ私は先に入って始まりの町の噴水の前で待ってるから」
パッと顔を輝かせると自分の部屋へと走って戻っていく。
亜三は本当にこのゲームが好きなんだな。やはりゲームのことであれほど元気になれるとはやはり血は争えない。
デジタル時計を見ると11:50と表示されている。本当は昼を食べてからやった方が良いのだろうがあれだけ亜三が喜んでいるのだから、水を差すのは少し可哀想だ。母さんには申し訳ないが昼ご飯は後でいただくとしよう。
ベッドに横になりVRマシンを頭に装着すると目を瞑り、彼方の世界へと旅立った。
~~~~~~~~~~
「お帰りなさいませ、GENZI様。どうやらGENZI様は有名になられたようですね」
「なんでエアリスまでそのことを知ってるんだ…?」
「私共はある程度Utopia Endless Onlineの世界に干渉できますので。それではログイン致しますか?」
「ああ、そうしてくれ」
「それでは行ってらっしゃいませ」
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眩しい。この世界でこれほど日の光を浴びたのは初めてかもしれない。俺が昨日ログインしたときは暗い森の中から始まったからな…
辺りを見回すと美しいレンガ造りの街並みが広がっており、奥には純白の城がそびえ立っている。如何にもRPGの街並みと言った具合だろう。そして何よりも驚いたのはその美麗なグラフィックだ。周りを歩いているプレイヤーを見ても現実の人間と何ら変わらない。
Beat Sword Dancerを初めてプレイしたときもそのグラフィックに驚いたがこれはそういう次元の話じゃない。ここが現実の世界だといわれても信じてしまうような、ゲームというのが不自然なほどのリアリティーなのだ。
手を握り締める感覚も、頬を撫でる風も、体を包み込むような暖かな日差しも、果てしなく広がるその青空も。全てが創り物の世界とは思えない。
ドンっと肩に何かがぶつかる。
「あ、すいません」
「いえ、こちらこそすいません」
衝撃のあった後ろを向くと俺と同じ格好をした男のプレイヤーが俺に謝ってきたので反射的に俺も謝った。
そういえば亜三と待ち合わせをしていたのだった。こんなところで物思いに耽っている場合ではない。
待ち合わせ場所として指定された噴水の場所を探すと、すぐ目の前の大きな広場の中央に白い噴水が見えた。そこに向かって歩いていると、噴水の周りに何やら人混みが出来ていた。
何事かと思い確認してみると、どうやら人混みの中心では口論になっているようだ。
「あれって『天狼』精鋭のメンバーじゃないか?」
「あっちは『狂姫』だろ?」
「何でアンファング何かにあの『天狼』と『狂姫』が居るんだ?」
ふと耳に入った『天狼』と『狂姫』という単語が気になり、隣にいた見知らぬプレイヤーに声を掛けてみることにした。
「すいません、『天狼』とか『狂姫』とかって何のことですか?」
「ん?ああ、初心者か?いいぜ教えてやるよ。まず『天狼』ってのはこのUEOのクランランキング実装当初から一位を独占し続けているトップギルドのことだ。そんでもって『狂姫』ってのはクランの名前じゃなくてプレイヤーに付けられた二つ名だよ」
「二つ名?」
「ああ、このゲームには二つ名を付ける方法は二つ存在する。自分が設定するか、一定数のプレイヤーが一人のプレイヤーを差して呼び、そう呼ばれたプレイヤー自身が認めた場合二つ名になるんだ。ちなみに『狂姫』は後者の方だ。ほら、ここからなら見えるだろ?あそこで言い争ってる黒髪の方が『狂姫』で甲冑を着こんでる方が『天狼』な」
親切に教えてくれたプレイヤーに対して会釈をすると場所を譲ってもらい中心を覗くと確かに何やら言い争っている。離れているため会話の内容までは聞き取れない。
「何でも今朝方にソロクリアされたユニークの攻略者のことで揉めてるみたいだぜ?」
「ふーん…その攻略者の名前何て言うんだ?」
「確か……あ!!居たぞ!!」
あるプレイヤーが突然大きな声をだし言い争っていた両者でさえもそのプレイヤーの方を向いた。そしてそのプレイヤーはあろうことか俺の方を指さして大声で叫んだ。
「GENZI!!こいつが初ユニーク攻略者だ!!」
その声が聞こえると共に誰よりも早く動いたのは『狂姫』と呼ばれるプレイヤーだった。そのプレイヤーは俺の手を持つと屋根の上目掛けて俺を空中に放り投げた。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「追え!!何としてもGENZIというあのプレイヤーを確保するぞ!『狂姫』に連れ去られてはならない!」
先程の広場では甲冑を着たリーダー風の男が指示を飛ばし『天狼』のメンバーが動き出していた。
俺はというと現在も上空から落下中でそれどころではなかった。あれこれと考えている間にもう屋根がすぐそこまでというところで、俺は何かに受け止められた。
恐る恐る目を開けると先程の『狂姫』が俺のことを受け止めていた。俺のことをゆっくりと屋根の上に下ろすと、手を引かれた。
「ちょっと待て!お前は一体誰だ!俺は妹と待ち合わせているんだ、今もきっと噴水の所で俺のことを待ってるはずだ。だから俺は戻らなくちゃならない、この手を放してくれ」
「ふぅ…まだ分からないの、これでどう?」
『狂姫』は身に着けている黒い着物とは真逆の色をした、白い狐の面を外した。露わになったその顔は白く整っており、しかし見慣れたものであった。
「お前…もしかして亜三か?」
「もーようやく気が付いたの?お兄ちゃんって結構鈍いところあるよね…」
「それにしてもまさか亜三が『狂姫』何て呼ばれてるとは思ってなかったな…っぷくく」
「そんなこと今はいいの!お兄ちゃん、私の手に摑まって。これから転移アイテムを使うから」
「ああ、分かった。聞きたいことは山ほどあるがまずはこの場を離れないとな」
「お兄ちゃん分かってるねえ、それじゃあ行くよ!転移!アズマ!」
俺達のすぐそばまで迫った『天狼』のメンバー達を横目に見ながら体が光に包まれていくのを感じた。
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先程までのレンガ造りの町とは打って変わって和風な風景である。桜舞う中で目立つ赤色の木造建築の数々、そしてそこかしこに点在する鳥居と石階段。先程のアンファングと呼ばれる町では、まず目に入ったのは純白の城だったがこのアズマと呼ばれるところでは途方もなく大きな桜が存在感を醸し出している。
「とりあえず一安心だね…あ、この世界ではGENZIって言うんだよね?それじゃあこっちではGENZI君って呼ぶことにするね」
「ああ、俺は亜三の事を何て呼べばいいんだ?」
「私のプレイヤー名この辺りに表示されてるでしょ?」
頭上の辺りをひょいひょいと指さしているので目を凝らして見てみると、薄っすらと文字が書いてあるのが確認できた。
「エイミー?」
「正解、というかお兄ちゃん気付かなかったの?」
「アンファングに来てから街並みとか城とかしか見てなかった。そんなことより一つ気になってたんだけど、何で亜…エイミーは現実の顔のままなんだ?」
「えっとね…それは…その、間違えたというか…キャラクターのエディット中に早く遊びたくて色々スキップしてたら現実のまんまにしちゃったというか…」
「………」
「そんなことはいいの!今から私のクランまでついてきて。あそこだったら安全だから」
「了解」
エイミーのクランに向かっていると行き交う人々がこちらを見ると途端に顔を背けるので気にはなったが特に害はなさそうなので触れないことにした。階段を上り続けて数分程でようやくエイミーのクランに辿り着いた。
現実だったら恐らく足がガクガクになっていることだろう。後ろを振り返ると登ってきた途方もなく長い石階段と美しい街並みが見えた。
「ほら、お兄ちゃん行くよ?」
「ああ、悪い」
クランというのだから恐らくは少し大きめの建物を貸し切っているようなものだろうと考えていたのだが、その建物は俺が予想していたものとは大分違ったものだった。
見た目が完全に城なのである。いや、ただの城とも言い難い。イメージとしては五稜郭の中央に今は無き安土城が鎮座しているようなイメージだ。
呆然としていると、またしてもエイミーに置いて行かれそうになったので、慌てて小走りで後を追いかける。安土城風の城の中は和風と洋風が入り混じったような構造をしており、クランのメンバーらしき人物を幾人か見かけた。
エイミーに天守閣まで登ると言われたときは、また階段か…と思ったが魔法のエレベーターのようなものが配置されており数秒と掛からず一瞬で天守閣まで来ることが出来た。
「GENZI君はちょっとそこで待っててくれる?」
「分かった」
紅色の大扉を開け、部屋の中に入っていったエイミーを待っていると、大扉が内側から開かれた。
「お待たせ、中に入っていいよ」
言われるがまま部屋の中に入ると中は社長室のようになっており、奥のデスクに一人の人物が座っていた。その人物は紫色の長い髪と黄色い目が特徴的な優男といった風貌だ。身に着けている服は白い甚兵衛に金の刺繍が施されたものと、黒い袴だけだったが、何故か威厳を感じた。
「君がGENZI君か?」
「はい、そうですが…」
「俺はここ、クラン『暴風の渦』のクランリーダーをしている紫苑だ」
差し出された手を握り返しながら挨拶し返す。
「俺は昨日始めたばかりのGENZIです」
「はははっ、ただの初心者ではないだろう?君はUEO初のユニーク攻略者なんだから。それじゃあ本題に入ろうか。君の事は先程エイミー君から聞いた、外ならぬエイミー君の願いだ、我々『暴風の渦』は君に手を貸そう」
「え?えっと、ありがとうございます」
「ただし。条件付きだ。我々は君から無理矢理ユニークの情報を聞き出そうとはしないし、君のことを他のクランから守ろう。だが、それをするのは君がLV30になってジョブチェンジをするまでの間だけだ。それ以降は自分の身は自分で守ってくれ」
「紫苑さん!話と違いますよ!」
「聞いてくれ。元々うちのクランは三次職か四次職のみ加入可能のクランで君は例外なんだ。エイミー君はいつもクランのために貢献してくれているから、今回は特別にクランの加入を許可したけどね」
「その…すいません。俺もうLV30なんですけど…」
「え!?」
「なんだって!?」
そんなに驚くほどのことなのだろうか、確かに一日でLV30まで上がったのは早い気はするが。
「GENZI君って昨日始めたばっかりだよね?何でそんなに早く…」
「なるほど…GENZI君、その異常な経験値はユニークを攻略したときのものじゃないか?」
「はい、その通りです」
「やはりか…今までユニーククエストをクリアしたプレイヤーが居なかったからクリア時の報酬も分かっていなかったからね。恐らくその刀もその時の報酬かな?ああ、無理に言わなくていいけど」
「そうしたらおに…GENZI君のことはどうするんですか?」
「うーん…困ったなあ。元々LV30までしか面倒を見るつもりはなかったしメンバーたちにも今さっきメールでそう送ってしまったし…そうだ!」
紫苑さんは何やらアイテムウィンドウをいじると、一つのアイテムを取り出し俺に手渡した。
「これは?」
見たところシールのようになっており、般若の顔が描かれている。
「それは『魔王の護符』というアイテムだよ。うちのクランの生産職が創ったものでね、身に着けているだけでアイテム獲得率、経験値取得率、が共に小アップするアイテムなんだ」
「それって凄くレアなアイテムなんじゃないですか?」
「気にしなくていいよ。元々はクランメンバーにしか渡すつもりはなかったんだけど一応君も今はクランメンバーだから大丈夫だろう。それに面倒見るつもりだったのにすぐに出て行けっていうのはこっちなんだからこれくらいしてもまだ申し訳ない限りだよ」
俺達が話していると、扉がコンコンとノックされた。
「申し訳ありません。お話し中に失礼します。緊急の案件です」
「分かった。ごめんね、急用ができたから俺は席を外すよ。それじゃあまたどこかで会う機会があったらよろしくねGENZI君」
それだけ言い残すと紫苑さんはせかせかと部屋を出て行ってしまった。
「それじゃあGENZI君はひとまずジョブチェンジしに行こっか?」
「そうだな、ん?これって何だ?」
「何が?」
俺は自身の目の前に表示された文章をそのままエイミーに伝えると、驚いた表情でこちらを見た。
「それってフレンド申請だよ、しかも紫苑さんからの。紫苑さんって自分から全然フレンド申請しないからこれって凄い事なんだよ」
「そうなのか、紫苑さん、ね…」
右下にある承諾と表示されているポップアップをタッチするとその画面は消えた。すると立て続けにもう一つ同じようにエイミーからもフレンド申請が届いたので同様に承諾した。
「えへへ、どさくさに紛れて私もフレンド申請しちゃった」
「それじゃあジョブチェンジしに行くか。とは言っても俺は場所を知らないんだが…」
「えっとね、ジョブチェンジするためには王都にある特別な神殿に行かないといけないから、王都に向けて出発かな」
「じゃあまた、転移して行くのか」
「違うよ?あれは緊急時だから使っただけで結構貴重なアイテムだもん。そこまで急いでるわけじゃないから歩いていくよ」
「マジ?」
「本気♪」