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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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音ゲーマニアが第一試合を観戦するようですよ


本当は控え室で待っていた方が良いのだろうが、そこからでは試合が見にくいので俺は観客席の方へと足を運んでいた。ただ、空席などあるはずもなく、立ち見している状況なのだが。柱に寄りかかって待っていると場内にアナウンスが響いてきた。


「お待たせいたしました!それでは!これより、本選第一試合を開始します!選手の方は入場してください!」


対極に存在する入り口から二人のプレイヤーが闘技場へと歩を進める。いつの間にか実況席へと移動していた司会の女性がマイクを近づけ、口を開いた。


「念のため説明しておきますが、この闘技場には特殊な結界が張られており、闘技場内での戦闘が実際よりもゆっくりと見えるので観客の皆様も安心してお楽しみいただけます!」


一度咳払いを挟み、続けた。


「まずは双方の紹介としましょう!東ゲートより出てきたのは『鏡騎士』の二つ名を持ち、全身を煌びやかな鎧で覆ったこの男!一二三選手です!」


選手の紹介と共に一二三は右手を軽く上げ、会場が湧くのが分かる。少し歓声が収まると紹介を続けた。


「続いて西ゲートより出てきたのはー!?クラン対戦での鬼人の如き戦いぶりから畏怖を込めてつけられた二つ名『狂姫』を持つエイミー選手です!」


一二三というプレイヤーの時と同じくらいの大歓声が会場を埋め尽くし、両者がフィールドで向かい合った瞬間それは最高潮を迎えた。

観客席から見やすい空中に、お静かにお願いしますと表示され、次第に会場は静まっていき、それを確認すると司会の女性とは別の男性がマイクを口元に運んだ。


「それでは…試合…開始…!!」


開幕の合図とともに飛び出したのはエイミーだ。体勢を前傾させて一気に近づくと、左右から背後に回り込むように動いた。その動きに対応するように一二三は片足を軸に回転し、左手に持った大きな鏡のような盾を構えた。

その隙の無い絶対的な防御の前にエイミーは一度距離を取る。


後手に回っていた一二三はこれを好機と捉え、全身に鎧を着ているとは思えない速度で駆ける。鏡のように光を反射し、光り輝く長剣がエイミーの肩口を狙って上段から振り下ろされた。長剣を大太刀の刀身で受け止めたが、一二三の動きはそれだけでは終わらなかった。

長剣が大太刀に軽く触れた瞬間、反発を受けたように跳ね上がり、その勢いを使って左に回転しながらエイミーの横腹を切り裂いた。


反応しきれず、エイミーの横腹には細く赤いラインが入っており、HPゲージが減少しているのが見て取れる。一二三の今の動きはエイミーが刀を使って防ぐことを予め念頭に置いたうえでのものだった。恐らくかなり対人戦慣れしているのだろう。


エイミーはそこで退くのではなく、あえて前に出た。既に追撃の姿勢に入っていた一二三はこの行動に驚かされ、技に一瞬の隙が生まれる。その隙をエイミーが逃すはずもなく、鋭い眼光が一二三を捉えた。

下から斬り上げられた大太刀は正確に一二三の首元を捉え、ぐんぐんと迫る。大太刀を防ぎきれないと判断したのか、僅かにダメージを受けることを許容し、最低限の回避をとると、長剣で反撃とばかりに斬りかかる。


しかしその長剣がエイミーの元に届くことはなかった。大太刀を持ったまま、獣のような俊敏な動きで一度距離を取ったからだ。白い狐の面に空いている瞳の穴からは赤い光が漏れ出していた。


「ついにエイミー選手の本領が発揮されましたね」


「おっと!?解説のガッチさん、それはどういうことですか?」


「はい。エイミー選手はUEOではかなり有名なトッププレイヤーの一人です。それ故にスキルや戦闘スタイルもかなり研究されているのですが、今エイミー選手の目が赤く光っていますよね?」


「えーっと…はい!確かに光ってますね!」


「あれはエイミー選手のエクストラ職業(ジョブ)である、武士系四次職の『戦狂い』のパッシブスキルの効果が発動したということなんですよ」


「なるほど…ちなみにどんな効果があるんですか?」


「はい、それはですね――」


激しい衝撃音が解説のガッチの言葉を遮った。激しい衝撃音の原因は壁に吹き飛ばされ、激突した一二三だ。そして一二三を吹き飛ばしたとのは言うまでもなく。


「戦闘中、一定時間経つ度にステータスが大幅に上昇する代わりに激しい興奮作用を引き起こして冷静な判断が出来なくなっていくというものです」


「え…それ大丈夫なんですか?確かに効果はかなり強力みたいですが」


ちらりと壁に激突した一二三の方に視線を送ると司会者はガッチに司会をそっちのけで質問してしまっている。ただ多くの観客は同じことを思ったはずなので誰も気にしていないだろう。


「ええ、まあ。『戦狂い』ってすごく使い難い職業(ジョブ)のくせに出現条件が面倒くさいエクストラ職業(ジョブ)なんですね。そのせいで凄く人気が低いのですが、エイミー選手は『戦狂い』の弱点を完全に克服しているので真の意味で『戦狂い』を使いこなせていると言えるでしょうね」


「弱点ですか?」


「はい。先程も言った通り『戦狂い』のパッシブスキルで戦闘時にステータス大幅な上昇と共に冷静さを失っていくのですが、エイミー選手はその状態で平静を保って戦われているんですよ。恐らくスキルと、自分自身の精神力の強さがあるからこそできることだと思いますね」


「なるほど…おっと!そんな間にも戦闘はさらにヒートアップしているようです!」


確かに先程から戦いは苛烈を極めていた。目が赤く光ってからのエイミーの動きはそれまでの奇麗でお手本のような太刀筋ではなく、不規則で荒々しいものへと変化していた。

一二三もその差に対応するまでの間に何度か僅かに攻撃を受け、浅い掠り傷が増えている。しかしエイミーの動きに対応し始めてからの一二三の動きは剣と盾を使うプレイヤーのお手本とでも言うべき動きだった。


迫りくるエイミーの大太刀を最大まで引き付け、最高のタイミングで行うガード、ジャストガードで隙を作り、生まれた隙を長剣のリーチを利用して攻撃する。エイミーも僅かにダメージを受けようが怯まず攻撃の手を止めない。

お互い肉を切らせて骨を断つという考えで動いている故か、僅かに傷を増やしダメージを負っていくことでHPゲージは互いに半分を下回っていた。


一二三はこれまでとは違う行動を取り、それに対しエイミーは警戒し距離を取った。一二三は左手に持った大盾を地面に突き立て、叫んだ。


「『リフレクション・フィジカル』っ!!」


全身に纏った鏡のような鎧、そして盾が僅かに赤く発光する。盾を地面から抜くと再び左手で持ち直し、ゆっくりとエイミーに近づいた。

その行動をとった後エイミーは一切一二三に攻撃をしかけていなかった。理由は分からないが攻撃を防ぐばかりで一切攻勢に転じようとしない。

俺が疑問に思っていると解説のガッチさんが話し始める。


「ついに来ましたね。一二三選手が『鏡騎士』と呼べれる所以の一つがあのスキルです。一二三選手の職業(ジョブ)は『守護騎士』、騎士系の四次職に当たるこの職業(ジョブ)のスキル、『リフレクション・フィジカル』は一定時間受けた物理ダメージを相手に反射するという恐ろしいスキルなんです」


「確かに凄いですけど魔法攻撃を喰らったら意味ないんじゃないですか?」


「いい所に気が付きましたね。確かにその通りなんですが、その弱点を克服したのが一二三さんなんです。一二三さんが魔法耐性の高い名持ち(ネームド)モンスターの素材を使って作られたのがあの盾なんですよ。その名持ち(ネームド)の特殊効果で魔法を反射するとかいう反則じみたことが可能なんですよ」


「それってつまり…」


「お察しの通り『リフレクション・フィジカル』で一定時間物理攻撃は完全反射に加えて、魔法攻撃が来た場合はあの大盾で守れば魔法も反射することが出来てしまうんです。以前トップクランが集まって攻略したボスがいたのですが、その時に彼は凄く活躍していましたよ。その時の戦い様から『鏡騎士』という二つ名がついたわけですね」


なるほど、通りでエイミーが攻撃をしていないわけだ。しかしそうなるとエイミーは一定時間の間一二三の攻撃を受け続けなければならないことになる。しかしどうやらそんなに悠長なことは言っていられないようだ。


僅かに捌ききれなかった長剣が体を掠め、僅かずつではあるが確実にダメージを受けている。先程までは互角だったはずのHPに差が付き始め、エイミーのHPは三割を下回り、イエローゾーンに入っていた。


「…結構経ってる気がするんですがまだ『リフレクション・フィジカル』の効果は切れないんですか?」


「一二三選手はアクセサリーでバフの効果時間延長というものをつけているので恐らくあと一分は切れないと思います。それまで耐えきればようやくエイミー選手も反撃できるわけですが少し厳しい戦いになりそうですね」


右から斬り下ろされる振り下ろしを避け、バネに跳ね返されるように斬り上げる切っ先を大太刀でいなす。大太刀でいなした瞬間、大盾を構えて突進してきた一二三の攻撃をもろにくらって、エイミーがスタン状態になった。

盾系の装備で相手を攻撃することでスタン値が徐々に溜まることは俺も知っていた。だが今まで溜まっていたスタン値がまさかこのタイミングで溜まるとは思ってもいなかった。


観客席からは悲鳴にも似た歓声と熱を帯びた熱い歓声が入り混じって聞こえてくる。その歓声が結界のようなものが張られた競技場内にいる二人に聞こえることはないが、まるで歓声に応えるように一二三は長剣を振りかぶり、エイミーを切り裂いた。


エイミーのHPはみるみる削れていき、0に…なることはなかった。それ以前にHPは減ってすらいない。エイミーはいつの間にかスタンが解けており、振り下ろされる長剣の弱点となる部分を正確に捉え、大太刀を斬り上げ、大太刀と長剣が触れた。その瞬間、辺りに凄まじい金属音が響き、思わず観客席にいた俺達も耳を塞ぐ。


咄嗟に背けた目を闘技場へと向けると、空高く舞い上がる剣の半身と一二三に斬りかかるエイミー、それを防ごうと大盾を両手で構える一二三の姿が目に映る。


このタイミングでエイミーの黒い大太刀はギョロリと目を開き、口を大きく空け、心臓が鼓動するように脈打った。大太刀は大きく開いた口で一二三の頭を包み、喰らった。一二三は腕に持った大盾を地面に落とし、体はポリゴンの欠片となって露散する。

刹那の静寂。そして溢れんばかりの喝采と歓声が会場を満たした。


僅かに遅れて司会者がマイクを取る。


「第一試合!エイミー選手の勝利!!」


「「「「オオォォォ!!」」」」


大太刀を左右に斬り払い、刀の鞘へと戻すと、エイミーは控え室の方へと戻っていった。この後は続けて第二試合か。

確かに対戦カードは…


第二試合 麒麟VSヨコヅナ


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