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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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音ゲーマニアが二次予選を受けるようですよ


最新の機器と機材が整然と並び、スーパーコンピューターを思わせる巨大なマシンが置かれたオフィスの中そこで働くスタッフ達はせわしなく動き続け、目の前の画面を食い入るように眺めている。


デザイン性の良い室内の中、それぞれのデスクもオリジナリティー溢れるものとなっていた。その中でも異彩を放っていたのは室内の最奥に位置する巨大なデスクだ。

デスクの上や周りは書類やらファイルやら撒き散らされ、そのデスクを使用している本人はデスクに突っ伏して惰眠を貪っていた。


「主任、コレどうします?」


「あー?」


主任と呼ばれた男は白衣を身に纏っておりぼさぼさの髪と無精ひげが生え、目には隅が出来ている。散らかり続けたデスクから上半身を起こし、椅子から立ち上がると声を掛けた女性スタッフの元へ向かった。

女性スタッフは自身のパソコンの画面を指差し、白衣の男は目線を移動する。


そこに映し出されていた映像は驚き、としか言いようのないものだった。たった一人のプレイヤーがゴールとして設定したポイントの手前でとどまり、ゴールを目指してきたプレイヤー達を次々にキルしていくというものだったのだから。


「さっきからこのプレイヤーがあそこに居座っているせいで他のプレイヤーがゴールできてないんですよ。それにかなりのプレイヤーが脱落してしまったし…」


「それは放置でいいわ。その程度でへばるようなら本選で生き残れないだろうし、それにそこ通過したプレイヤーだって居たんだろ?」


「ええ…まあ二人だけ……」


その歯切れの悪さが引っかかり男はデスクに戻ろうとした足を止め、引き返すとスタッフとパソコンの間に割り込み、手際よくパソコンを操作し映像を逆再生させ、突破したというプレイヤーが現れる箇所まで戻した。

再生させ、突破したというプレイヤーの名前を確認すると心底おかしそうに男は声をあげて笑った。


「成程な…コイツらも今回のイベントに参加したのか…こりゃ面白そうだ」


男は今度こそ自身のデスクに戻ると、散らかった書類を大雑把にどかし、デスクから書類が落ちたことも気にせずに作業を開始した。



次に目を開けた時には風景がまた異なる場所に立っていた。近くには麒麟の姿は無く、俺一人だけだった。

辺りを見回すが俺が立っているのは間違いなく王都ゼルキアだ。ただ一つおかしい点を除けば。

思案顔で俯いていると再び運営の声が聞こえてきた。


「それでは!これより二次予選を開始いたします!一次予選では思わぬハプニングもございましたが、気にしないでドンドン行きましょー!ルールはまたしても簡単!皆さまがお持ちの銀のプレートを相手から奪い、先に十枚のプレートを集めたプレイヤーから勝利とし、先着で八名の方が本選への出場権を手に入れることが出来ます!」


次いで運営の声が変わり、女性のものから男性ものになった。


「銀のプレートは相手プレイヤーをキルすることで獲得することが出来ます。既に気付いている方もいらっしゃると思いますが、今回のフィールドは王都ゼルキアを模したマップとなっております。皆様以外のプレイヤーやNPCはいないのでご安心ください。それでは、二次予選開始!!」


開始の合図とともに空にはこれまでと同じようなホログラムが展開された。ただ、今までと違い、勝利者の数をカウントするだけでなく隣に仮のプレイヤーネームとそのプレイヤーの持つプレートの数が表示されている。

百二十六人の名前が並ぶさまは中々騒然としている。開始からおよそ一、二分が経過した現在、名前の表示の順が入れ替わった。

この時点で既に誰か一人のプレイヤーが新しくプレートを獲得したらしく、プレートの数がニになり、名前が最上に表示された。


「“マスター”ね…どんな奴だが知らないけど関わらないほうがよさそうだな」


マスターというプレイヤーがプレートを増やしたかと思うと追随するように、他のプレイヤー達もプレートを獲得し始めた。その中には麒麟―今は仮名としてカリンを使っている―の名前もあり、いよいようかうかしていられなくなった。


だがあくまでも俺の今回の目的は、マーガレットが欲しがっている『紅蓮の宝玉』を手に入れること。そして『紅蓮の宝玉』は確か予選を十二位以内での報酬だったはずだ。つまり、早々に九枚のプレートを集め、八人のプレイヤーがプレートを集め終わった時点で残り一枚を集めに行けば良いのだ。


そうと決まれば、というわけで手ごろなところにプレイヤーがいないか見ると路地裏から大通りをコソコソと眺めているプレイヤーを発見した。家屋の屋根から静かに着地すると、音を立てずに忍び寄り、背後から二本の刀を突き刺した。


プレイヤーはそれだけで呆気なくHPを全損させ、ポリゴンの欠片となった。あまりの呆気なさに驚きながらも今度は大通りの方から走ってくるプレイヤーの姿が見えた。

完全に目が合い、戦闘は避けられないと感じたので刀を下段に構えると、姿勢を低くし、石畳を蹴った。


「『スピンスラッシュ』」


俺に襲い掛かってきたプレイヤーは何が起こったのか分からなかったと言わんばかりの顔でこちらを向くと、上半身と下半身がズレ、ポリゴンとなって消え去った。


驚いていたのは自分でもだ。あまりにも動きが遅いから何か罠でも張っているのかと思っていたがそんなことはなく、あっさりと一太刀入れることが出来た。しかも、一撃でHPは全損である。

これで既に三枚のプレートが集まった。ここまでで感じたことはあまりにも他のプレイヤーのレベルが低いということだ。


ただそこで自身の装備を見直すと、納得もした。大半のプレイヤーが関わることすらない、ワールドに一回のみしか出現しない、ユニーククエストの報酬である刀を持ち、これまた強力で激レアな名持ち(ネームド)モンスターの素材をふんだんに使った防具を着ている。

こんなプレイヤーがいたら俺ならこう言うだろう。くたばれチート野郎…と。


最早そうと分かれば怖くはない。俺は大通りに出ると、そこで仁王立ちして通るプレイヤー達を待った。するとぽつりぽつりとこの大通りを通るプレイヤーが出始めた。

ただ、様子がおかしく、何やらそのプレイヤー達は結託しているようだったのだ。前方から三人、後方からも三人の計六人のプレイヤーが俺への距離をじわじわと詰めてくる。


装備を見た所、防御特化型(タンク)が二人と回復特化型(ヒーラー)一人に支援特化型(バッファー)一人。攻撃特化型(アタッカー)がニ人の内、一人が物理特化、内一人が魔法特化と見ていいだろう。

バランスも統率もよく取れたパーティーだと俺も思う。そうなのだが…


「はぁぁぁ…!!」


剣を持ったプレイヤーが俺に斬りかかってくる。真横に右から迫る剣を蹴り上げると、『不知火』を男へと構え、肩口から斜めに斬る。

ただ、その斬撃は重そうな外見とは裏腹に素早い動きで間に入った巨大な盾を持ったタンクによって阻まれた。だが大きなその外見からは想像できない程力が弱く、俺が刀に力を籠めると、盾を貫通し、男の体を両断した。


俺がタンクをキルのと同時に目の前には巨大な炎が、背後からは凍てつく氷の塊が迫る。刀を構えると口を小さく開いた。


「『スパイラルエッジ』」


その場で回転しながら舞い上がるようにして両方向から撃たれた魔法を斬り伏せる。魔法が斬れるということは既にモンスター相手で実験済みだったため何一つ疑わずに斬ったが、少し緊張していたことを早まる心臓の鼓動が俺に伝える。


流れるように前方に駆け出すと、魔法使いは怯えた眼差しで簡単な魔法を連射する。しかし冷静さを欠いたそれらの攻撃が当たるはずもなく、容易く近づくと首を刎ねる―グロテスクな表現は青少年に悪影響を及ぼすとのことで禁止されているため実際は飛んでいないが―。


傍で武装をメイスに持ち替え、俺に襲い掛かってきたヒーラーの大ぶりな攻撃を身を引いて避けると、がら空きの背中を突き刺した。

六対一という圧倒的有利な状況だと思っていたのにほぼ全滅したことで、バッファーの顔には既にあきらめの色が見えていた。バッファーは口を開く。


「なあアンタ、名前何て言うんだ?」


「俺か?俺は…“ゴッドヴァレイ”だ」


「本選でも応援してるぜ」


それだけ言い残すと予選を降参し、他のプレイヤー同様に姿をポリゴンの欠片に変えて、露散させた。後に残ったのは俺と、()()のプレートだけだろう。


「ん…?」


もう一度回収したプレートの枚数を確認する。二…四…六…七……。俺の頭の中に運営の声とファンファーレが響き渡る。


「おめでとうございます!あなたは十枚のプレートを集めましたので、二次予選突破です!気になる順位は…!?」


一次予選の時と同様にジャカジャカと小太鼓の音が鳴り、速度が上がっていったかと思うと最後にシンバルの音が響いた。


「なな、なんと!?あなたは1位です!!おめでとうございます!それではあなたはロビーにてお待ちください。残ったプレイヤーの方々の観戦を行いながらお待ちください!」


光に包まれながら、俺は酷く嘆いた。どうして俺はあそこでキルしてしまったんだと。どうして六人いっぺんに襲い掛かってくるのだと。何故いつも目立つことになってしまうのだと。



その頃他の参加者たちは驚愕していた。空中に投影されたホログラムには既に勝利者が1と表示されており、現在二位のマスターなるプレイヤーと四つ以上の差をつけるという異例の事態。誰もが一位のプレイヤーは有名プレイヤーなのだろうと考えていたのだが、それが違ったということは本選で分かることになる。


それを見てあるプレイヤーは闘志を燃やし、あるプレイヤーは気にも留めず、あるプレイヤーは腹を抱えて笑っていた。


本選に出場する残り七人のプレイヤーを決める戦いが始まる。


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