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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
30/138

音ゲーマニアが二つ名モンスターと戦うようですよ


「っ!?」


耳をつんざくような激しい咆哮に気を取られ、一瞬怯んだ隙にシュイは目の前まで接近していた。回避しようと思ったが、間に合わない。

シュイの口に咥えられた大剣が俺の脇腹を抉ると確信した瞬間、隣から鈍い銃声が響き、何かがシュイの足を撃ち抜いた。


それは言わずもがな、麒麟の銃撃だった。

麒麟は咄嗟に構えた『ライフ』で、シュイの足を撃ち抜いていた。足を撃ち抜かれた痛みからか、シュイは一度退きこちらのことを警戒している。


「助かった…俺一人だったら今のでやられてたよ」


「にゃはは~GENZIはなまじ耳が良いだけ咆哮で耳をやられたのかなぁ?」


「うぐっ…その通りだ…まだ耳が聞こえ難い。麒麟、お前の事頼らせてもらうぞ」


俺の瞳を見た麒麟は何を言うまでもなく、そのトリコーンをくいっと持ち上げると、体をシュイの方へと向け直した。


「『ファイア』」


二丁の銃から連射される銃弾。交互に撃つことによって反撃の隙を与えず、的確に急所を狙うそれを、シュイは易々と避けてみせた。

まるで先程の攻防で見切ったとでも言うように。


「グルゥ!」


避けに徹していたシュイが遂に動き出した。大きく跳び、離れた位置に着地をすると、剣を地面に突き立て雄々しく咆哮をあげた。


「ウルォォォ!!」


その咆哮と共に、何か大きな音が地面から聞こえてくる。その音はまるで這い上がってくるかの如く少しずつ、しかし確実に大きくなり、近づいてきていることが分かる。

そうこの音はまるで…


「麒麟!跳べ!」


俺の声を聴き、すぐさま麒麟は横に転がるようにして跳ぶ。俺もすぐさまその場を離れた。

直後、俺達が居た辺りの地面から、ものすごい勢いで水が噴き出し、重力に逆らって水の柱を形成している。その水柱を出現させたのは言われなくても分かった。


当の本人が剣を地面に突き立てたままもうひと鳴きすると、シュイの近くに同じような水柱が出現する。シュイはその水柱の中に傷ついた右足を浸した。

すると、麒麟がつけたはずの傷は治り、おまけにHPまで回復していた。俺は試しに近くにあった小石を水柱の中に投げ込んでみたが、小石は木っ端微塵に砕かれていた。


「俺達は回復できないみたいだな」


「ざーんねん」


などとやっていると、シュイは剣を地面から引き抜き、こちらへ駆け出していた。


「来るぞ…!」


まだ離れた場所にいるため銃を素早く持ち替えると、距離を詰めてくるシュイに狙いを定めると『ロージュエリオット』を撃つ。


「『ファイア』」


「グルゥ!」


迫る弾丸を自身に触れる前に、口で咥えたその大剣を巧みに使うことで斬ると、速度を殺さずに麒麟の元へと近づいてくる。距離を詰められたことで、即座に『ライフ&デス』に持ち替えたが、間髪入れずにシュイは麒麟を斬ろうとしていた。


「『アクロバット』っ!」


アクロバティックな動きで大剣を避けながら、麒麟はあり得ない体勢からの射撃を試みるがシュイはそれを回避しようとしない。

前足でドンと地面を踏みつけると、シュイの目の前に水柱が現れ、目前まで迫っていた弾丸は全て消え去った。


「うっそぉ…?」


呆気にとられた様子で呆然とする麒麟を水柱から飛び出た水の弾丸が麒麟を襲う。何とか急所は当たらないように避けたようだが、麒麟の体に無数の掠り傷が付く。


「くぅ…!」


麒麟のHPが残り三割となり、HPバーが黄色ゲージになったと思った瞬間、麒麟は驚きの行動に出た。左手に持った銃を自身の傷口に構えると、撃鉄を引き、自身の傷口に銃弾を撃ち込んだ。

トチ狂ったかと思ったが、すぐにその銃の効果を思い出す。ただ、同時にその行為がどれだけ危険な事かも思い出したが。


麒麟のHPは回復した。それは“二極対銃”『ライフ&デス』の一つ目の特殊効果、“命弾”によるものだ。『ライフ&デス』の片割れ、『ライフ』で創傷部を撃った際に確率でHPを回復させるというものだ。

ただ、今の麒麟の行為は半ば博打だ。もし“命弾”が発動しなければ『ライフ』の銃弾のダメージを受け、死んでいただろう。


「麒麟!何やってるんだ!!」


「悪かったって~でもさ、俺…!」


迫るシュイの大剣を躱しながらこちらに笑顔を向けた。


「こういう賭けって外したことないんだよね」



内心心臓バクバクものだったが何とか賭けには勝ったようだ。

GENZIにはあんな風に格好つけたが、実際結構危ない賭けではあった。え?普通にポーション使えって?買い忘れたんだよ…

もし、こんなことがバレたらGENZIに何を言われるか分かったものではないので、こうして死のリスクを抱えながらも危険な賭けに出たのだ。


それにしても…


先程からシュイの動きがさらに機敏に、激しくなってきている。恐らくこれは気のせいではないと思う。

何故そうなったかと聞かれれば一つしか理由はないだろう。


秘密は恐らく、あの水柱だ。しかも先程から俺がダメージを与えても与えても水柱で回復してくる。

正直に言えばかなりピンチだ。ただ、何かしら攻略法があるはずだ。


ただ、こういったことを考えるのは俺よりもGENZIの方が向いている。GENZIが耳が聞こえ難くなっている今、GENZIには俺の戦いを観察して奴の攻略法を見つけてもらうのが最善だ。

恐らくだがGENZI自身もそれは分かっている。だから俺の戦いを黙って見ているのだ―今出て行っても足手まといになる、と考えているのかもしれないが―。


その時、少し離れた位置に移動したGENZIが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「麒麟!コイツの攻略法が分かった!お前はそのままそいつを引き付けていてくれ!」


「OK~!さぁ子猫ちゃん?俺ともう少し遊ぼうか!」


「グルゥゥゥ!!」



麒麟とシュイの白熱する戦いを見ている中で、このままではシュイを倒せないことはすぐに分かった。名持ち(ネームド)だから、それもあるかもしれない。

ただ、それにしても自身のHP回復、しかもダメージを受けた瞬間に回復を行うなどクソモンスターもいい所だ。


そうとなればこの運営の事だ。何か攻略の糸口となるものを必ず設置しているはず。それを探しながら麒麟たちの戦いを見ているとあることに気が付いた。

シュイの出す水柱がある一か所だけ全く噴出しないのだ。明らかにその近くに居るのにそこだけは水柱を出さない。


そこに何かがあると思った俺はすぐに向かった。


そこは初めシュイが寝そべっていたフィールドの中央、石柱に囲まれた空間だった。すぐに移動し、地面をくまなく探すとおかしなものを発見した。

床に一つだけ、変な石が置かれているのだ。しかもその石の上から、原理は不明だが水が延々と出続けている。


これが攻略のカギだと確信した俺は麒麟に大声で呼びかける。


「麒麟!コイツの攻略法が分かった!お前はそのままそいつを引き付けていてくれ!」


「~~~!~~~~~~~?~~~~~~~~~~!」


何を言っているかは耳が聞こえ難い今の状態では分からなかったが、麒麟がシュイを挑発するような発言をしたことは聞こえずとも分かった。

俺は俺で準備に取り掛かる。


鞘に収まっていた『狂い桜』を取り出すと、手首を僅かに斬る。HPが0になる前に、持続回復のポーションを飲むと、回復しては自身の手首を斬り、回復を待った。

何度もこの動作を繰り返している内に『狂い桜』から怪しげな赤黒い妖気が漏れ出してきた。

準備は完了した。


水が絶えず湧き続ける石に切っ先を突き立てると、力を籠め、刀を石に突き刺した。

石に突き刺さったことを確認すると、刃を押しながら引き、『狂い桜』を鞘に納める。それと同時に石は砕け、また俺の耳に聴力が戻り始めてきた。


俺はありったけの声を振り絞り、未だ戦い続ける友に始まりの合図を告げる。


「麒麟、準備は出来た!あとはお前がぶちかませ!!」


「了解…!さぁ…ここからは俺の戦場(ゲーム)だ…!!」



LV的に考えてもシュイは俺よりも数段格上の相手、出し惜しみをしていて勝てる相手出ないことは分かっていた。だからこそ、初めから全力で挑むとすぐに心を決めることが出来た。


「【インビジブルスペース】」


シュイの視界から俺の姿がふっと消える。ただ、奴の耳と鼻は俺のことを捉えているだろう。だが、それでいい。

俺は銃弾を辺り一帯に撒き散らす。圧倒的な弾幕の前に、流石のシュイも掠り傷をいくつも付け、ダメージを負っていた。いつもように水柱を出そうとしたが、その水柱が出現しない。


その驚きと、俺が目の前から突然いなくなった驚きによりシュイの頭は今、混乱していることだろう。だが姿は見えないがシュイには俺の匂いや音は聞こえる、そうなれば混乱したシュイがとる行動はただ一つ。


シュイは今まで本気を見せていなかったとでもいうように、途轍もない速度で俺の匂いを辿り、最も匂いが強いポイントに剣を振りかぶり、俺を切り刻んだ。

それを確認すると、シュイはすぐさまGENZIの元に向かい、GENZIも同様に切り刻む。


ことはなかった。


シュイの胸元には大きな風穴が空いていた。

それを撃ったのは先程シュイが切り刻み、死んだかのように思えた俺だ。シュイの目は驚きで大きく見開かれており、その身はゆっくりとポリゴンとなり、光と共に露散した。


それを見届けたことで安心して気が抜けたのか、俺もその場に倒れ込んでしまう。やはり【インビジブルスペース】の副作用はかなり辛いようだ。


「麒麟!無事か!?」


慌てて駆け寄ってきたGENZIに笑いかけ、大丈夫だと言外に伝えると、安心したように胸を撫で下ろしていた。


「それにしても、どうやったんだ?最後のアレ。見ててもよく分からなかったけど…」


「あーあれ?あれは―――」


あれはそこまで難しいトリックではない。初めに俺が銃弾を辺り一帯にばらまいたのは硝煙の濃い匂いで俺の匂いを誤魔化すため。

あとは俺の姿が見えなくなったことで、混乱したシュイが俺の匂いを辿るだろうことは予想で来ていた。そのため、あらかじめその場に何故か購入していたマネキンを設置し、俺の防具を着せておいたのだ。

そしてシュイはそれを俺と間違い、俺に背後を見せてしまった、と。


「―――それで最後は俺が背後から撃ち抜いたって訳だぁ…」


「そうか。大分顔色が悪いけど大丈夫か?」


「あ~…今日はもう落ちるわ…明日学校でな~…」


俺はすぐにログアウトし、ベッドに潜り込むとすぐさま睡眠を貪った。


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