音ゲーマニアがユニークモンスターと死闘を繰り広げるようですよ
俺は左手に獄刀『不知火』を、右手に血刀『狂い桜』を装備した。
五輪之介は二振りの刀を鞘から抜くが、刀を持った両腕はだらんと脱力している。これまでの攻防からコイツは何をしてくるのか分からないことが理解できたため油断せず、五輪之介に意識を集中させた。
すると。五輪之介の周りに黒い霧のようなものが現れ始めた。霧は五輪之介の体を這うようにして纏わりついている。視界が遮られ姿が見えなくなった分、何をしてくるのかはこれまで以上に分からない。警戒をより一層強め、観察続けることほんの数秒。五輪之介を取り囲んでいた霧が晴れた。俺は霧が晴れたことによって見えるようになった五輪之介の姿に驚きを隠せなかった。
先程までは長身の和装をした武士といったイメージだったが、今は違う。先程までは着けていなかった甲冑を着こみ、上から赤い羽織ものを羽織っている。例えるなら休日の侍から戦時の将軍になったようなものだろうか。だがそれだけであればそこまで驚きはしなかっただろう。俺が一番驚いたものは服装ではなく五輪之介自身のことだ。
まず一つ目は先程見た時の五輪之介は50から60代くらいのダンディーなおじさんだったが、今は20代そこらと思えるような姿になっていたことだ。二つ目は素肌を晒している部分などが、よく見ると所々鱗のようになっており、額からは小さな角が、背中からは翼が生えていたことだ。
その姿はまるで……。
「ふぅ…やはりこの姿の方が馴染むのう…先程死合おうと言ったがそうしては御主を殺めてしまう。御主をここで殺してしまうのはやはり勿体無いのでな、条件を付け試合をすることにした」
「条件?」
「そうだ。三分間。御主が三分間我に殺されないか我に傷を付けることが出来れば御主の勝ちだ。出来なければ御主の負け…ということになるかのう」
「随分と俺も舐められたもんだな…」
その条件に思わず苦笑いを浮かべてしまったが、その条件でも恐らく厳しいのだろうと頭の片隅で考えた。これは所謂ボスの第三形態というやつなのだろう。先程までの第二形態に移行したときでさえかなりの苦戦を強いられたのだ。それがさらに強くなったというのならそれは俺にとっては地獄以外のなにものでもないだろう。
普通なら制限時間である三分間五輪之介の攻撃を捌ききって勝つというのが現状では最も勝率が高く安全だと考えるだろう。俺も最初はそう考えた。
だが、納得がいかなかった。確かにそうすれば勝てる、だが本当にそれでいいのか?五輪之介に、敵に、三分間生き延びれば勝ちという勝利条件を付けられて勝ってそれでいいのか?やはり納得がいかなかった。
(だからこそ俺はその慢心を打ち砕いて、真正面から勝ってやる)
俺が覚悟を決めると、沈黙を破ったのは五輪之介だった。ふっと五輪之介の体が沈んだかと思った瞬間に五輪之介は俺の懐に入り込んでいた。
(速い!)
反射的に後方へ飛び退り『不知火』と『狂い桜』を交差するようにして体の前に出した。
「『疾風』」
五輪之介が二刀を斜めから斬り下ろすと、俺の立っていた場所に二つ竜巻が起こり、こちらをゆっくりと追尾してきた。その威力は、近くにあった大きな岩を軽々と粉砕する程度にはあるようだ。
息つく暇もなく五輪之介はこちらへ二刀を胸の前で交差させながら走り寄ってくる。
「『疾風』」
するとまたもや竜巻が起こった。先程の二つの竜巻と今現れた二つの竜巻。合計四つの竜巻がゆっくりと俺の事を追尾してくる。
追尾してくるため竜巻にも意識を割かなくてはならないが、それよりも五輪之介に意識を集中しなくてはすぐに斬られて終わりだろう。
考えている間にも、五輪之介は新しい攻撃モーションに入っていた。地面に刀を突きたてると……。
「『岩伏龍』」
何が来るのかと身構えたが何も起こらない。五輪之介は先程までとは違う構え方をしており、左手で刀を逆手持ちしている。新しいモーションに入ったことにより、今の効果の分からない攻撃に思考を回す余裕はなくなった。
「『烈火繚乱』」
それはまさに息つく暇もないと言わざるを得ない攻撃、通常は連撃と言っても呼吸の合間―モンスターが呼吸を必要とするのか分からないが―があると思うのだが、その攻撃にはそれが無い。まるで刀そのものが生きているのではないかと思えるほどに滑らかにうねり、急所を的確に狙ってくる。それだけでも凶悪なのだが二刀が炎を纏うことでリーチが伸び、さらに攻撃を弾く、もしくは受けただけでダメージを受けている。
「くっ!」
迫りくる斬撃が当たる寸前に避けるか、弾くことで何とか防いでいる。しかしいくら刀が強かろうと使い手である俺自身のステータスが相手よりも数段劣っているため、普通に打ち合っている今は俺の方が圧倒的に不利、徐々に押され始め一旦退こうと後ろに飛び退り、距離を取った。
すると、突然地面が隆起し、鋭利な岩が飛び出てきた。
「何だと!?」
あまりにも突然の事だったため、かろうじて体を捻ることで直撃は避けたが右足を貫かれた。右上のHPゲージはごっそりと持っていかれ半分程まで減少しHPゲージは黄色く、なおかつHPが徐々に減少しており、HPゲージの下には見慣れないアイコンが付いていた。
何のモーションもなく現れた攻撃、ここまで受けていなかった攻撃を受けたことによっての焦燥を感じ、集中力が僅かに下がったその瞬間を五輪之介は見逃してはくれなかった。
「『岩伏龍』」
「『疾風』」
「『疾風』」
さらに追加で現れた四つの竜巻と効果の分からない技。そして今すでに懐に入ろうと構えている。このままでは先程と同じで訳の分からないまま攻撃され死んでしまう。そう考えるや否や全速力で島の反対側まで駆け抜けながら思考を纏める。
まず第一に先程突然受けた攻撃は何だったのか?
これは恐らく効果の分からなかったあの『岩伏龍』という技だろう。よく見れば隆起した地面の形が龍の頭のようにも見えた。これも予想でしかないがこの技は罠のようにして設置しておき、相手が設置した位置に来ると発動するものだと考えられる。
次に減り続けるHPゲージについて。
これは先程受けた攻撃で足を貫かれたことによるものと見て間違いない。HPゲージの下に表示されているアイコンをよく見ると、血のマークと足に罅が入っているアイコンだったからだ。
そして今俺がやるべきことは……。
アイテムボックスから即座に取り出した『聖女の涙』を使用し体力を回復する。これで減少していたHPは全回復し、なおかつ継続ダメージを受けていたアイコンも消え、自然治癒効果も追加された。万全の体制で追いかけてきた五輪之介と対峙すべく刀を抜き構える。
「『烈…」
れっ…れってことは次に来るのは…あの連続攻撃か。次に来る攻撃が何なのか分かってさえいれば対策はとれる。
「火…」
この連続攻撃の前には左手の刀を逆手持ちにする動作が含まれるはずだ。それなら……。
「はぁぁぁぁああ!!」
五輪之介の左手目掛けて最速の突きを繰り出す。これまで攻勢に転じず受けに徹していた俺が反撃したことに驚いたのか、若干反応が遅れた五輪之介の左手に見事攻撃が命中し、刀を一本落とした。
「何っ…!」
五輪之介は左手の刀を逆手持ちにする際に若干浮かせているのを確認していた。もしかするとその瞬間に合わせて攻撃を当てれば刀を落とすんじゃないか?と思ったのだがどうやら俺の考えは当たっていたようだ。
攻めるなら好機と見た俺はすぐさま追撃を行う。五輪之介は流石と言うべきか、一本の刀を巧みに使い、俺の二刀流をいとも簡単に躱してしまう。
「『鏡花水月』」
だが一瞬だけ五輪之介に隙が生まれた。その隙を狙い左わき腹目掛けて左から刀を切り上げる。
「やっ…てない!?」
攻撃を当てたと思った瞬間斬った感触が不自然だと思っていると、五輪之介の体が水となって崩れ落ちた。隙が生まれる直前に口元で何かを言っていた気がしたがこれも五輪之介の技か。
辺りを見回すが五輪之介の姿は見当たらず、集中して辺りを警戒しているとどこからか音が聞こえてきた。
耳を澄ませて聞いていると音は少しずつ大きくなってきている。
「上か!」
見上げれば空中には五輪之介が刀を構えながら急降下してきているのが見え、咄嗟の判断で後ろに急いで下がった。
「『疾風』」
俺の立っていた場所は、竜巻が起こり地面が抉れていた。危うくあれをくらう所だったかと思うとゾッとする。
五輪之介は先程落とした刀を拾い上げると構え直しこちらへ向かってくる。
「せやぁあああ!」
俺は奴が向かってくるのに合わせ、渾身の牙突を額目掛けて繰り出した。
♢
五輪之介の速度は速いが『Annihilation of hope』の譜面速度に比べれば劣る。それ故に攻撃を見てからでも回避することは出来るし、技の前には必ず技の名前を宣言してから攻撃してくるため最初の言葉さえ聞いていれば安全、そう高を括っていた。
「かっ…は…!?」
それは唐突のことで何が起きたのかさっぱり分からなかった。
ただ一つ理解できたのは口と腹部から赤い血のような液体が零れ落ち、足に力が入らなく俺が倒れているということだった。
「クソっ……」
うつ伏せに倒れた俺は全身に力が入らず頭を動かすことしか出来なかった。視線を上に向けると五輪之介がこちらへ歩み寄ってきていた。
懸命に策を練り、今まで培った技術や反射神経を、自分の全ての力を使い挑んだ。こうして死力を尽くした結果がこれだ。言い訳のしようもない。
「俺の完敗だよ…五輪之介」
潔く負けを認め、目を瞑り止めを刺されるのを待っていると、五輪之介の足音が俺の頭上で止まり、抜き放っていた刀を鞘に戻すと、静かに俺へ語り掛けた。
「いいや…この勝負は御主の勝ちだ」
「何を言ってんだ?俺はこうしてお前の攻撃を喰らい動けない。それにもうHPだって残り僅かだ」
「我の右頬を見てみろ。確かに傷がついておる。これは最後の御主の一撃が付けた傷じゃ」
「そんな傷なんて大したことないだろ!!俺は重症でお前はただの掠り傷だ!」
「我は最初に言ったな。御主が三分間我に殺されないか我に傷を付けることが出来れば御主の勝ち、だと。掠り傷とはいえ傷は傷じゃ。よってこの勝負は御主の勝ちだ」
「……」
「納得いかぬか?それなら次御主と会った時にこの勝負の続きをするとしよう。我は行かねばならぬでな」
言いたいことを言い終えたのか踵を返し背を向けるとそのままどこかへ歩いていってしまった。あまり釈然としないが、これでようやく亜三との約束通り遊べる。
五輪之介が去った瞬間にトランペットを使ったファンファーレが脳内に直接鳴り響いた。
「なんだ!?」
中々終わらないその音を不審に思いながら何となく予想が出来たのでステータスを確認してみると、案の定というべきか俺のLVが上がっていた。気になる点は多々あり、大量のステータスポイントと新しいスキル、それと称号を獲得していた。
LVは初期の職業は30LVが上限の様で、カンストしていた。ステータスポイントの使い道と新しいスキルに関しては後で確認するとして問題はこの称号だろう。
『剣翁の好敵手』
“剣翁”五輪之介に興味を持たれた者の証。この称号を持つものはいずれ“龍人”へと辿り着く。
効果:五輪之介とのエンカウントする確率が上昇(極大)
『龍人の好敵手』
“剣翁”五輪之介が僅かに力を解放した姿である、“龍人”五輪之介と戦い認められた証。この称号を持つものはいずれ“覇龍”の下へ誘われる。努力を怠らず鍛錬を続ければ何れその頂きに力が届くやもしれない。
効果:取得経験値増加(大)
種族:“龍人”の追加
(どう考えてもおかしいよなぁ…)
一つ目の称号の『剣翁の好敵手』とか最早呪いだろう。あいつと出会う確率が上昇するなんて考えただけでもおぞましい。二つ目の称号の方も意味深なことがテキスト部分に書かれている。ただこちらの称号の効果である取得経験値増加というのはありがたい。とはいっても、もう一つの効果が如何にも怪しいのだが。
ちらりと視線を右下に向けるとUIに表示されているデジタル時計は午前二時を示していた。分からないことが多すぎるためUtopia Endless Onlineの先輩である、亜三に質問しようと考え、今日はログアウトして寝ることにした。
~~~~~~~~~~
「お帰りなさいませ、GENZI様。本日はもうログアウトなさいますか?」
「ああ、そうする…」
やはり精神的に疲れたのだろう。仮想の体のはずなのに思わず欠伸をしてしまった。明日は土曜で、俺は特に部活やクラブ活動はしていないため明日はゆっくり寝ていられるのが不幸中の幸いだろうか。
「それではまたのプレイをお待ちしております」
~~~~~~~~~~
ログアウトするや否やVRヘッドセットを机の上に置き、ベッドに横になり目を瞑ると意識が刈り取られ泥のように眠りについた。
~~~~~~~~~~
翌朝目が覚めると時刻は午前九時を少し過ぎたくらいだった。お腹が空いていたため一階のリビングへと向かうと、部活に向かう亜三と丁度出くわした。
「あ、お兄ちゃんおはよう」
「おはよう。部活終わったらちょっといいか?昨日のことでまた亜三に聞きたいことがあってさ」
「うん、分かった!私十二時くらいには帰ってくると思うから」
「おう。部活頑張ってな」
「行ってきまーす」
俺は部活に入っていないが亜三は部活に入っている。たしか陸上部の短距離の選手だったか。中学の頃は全国大会やジュニアオリンピックにも出場するほどの実力があり、高校に入ってからもその実力を遺憾なく発揮しているようだ。
「おはよう健仁」
「あ、おはよう母さん。お腹空いたんだけど何か食べるものある?」
「それなら朝ご飯にラップしてあるからそれを食べてくれる?」
「分かった」
母さんは話が終わると洗面台のほうへ向かっていってしまったので自分もリビングへ向かう。母さんの言っていた通りテーブルの上にラップをかけた朝ご飯があったのでラップを外して食べることにした。
朝のニュース番組を片目に朝食を食べているとニュースで気になる話題が取り上げられていた。今度アジア圏で行われるVRゲームの大きな大会に新種目としてBeat Sword Dancerが追加され、日本からも代表のプロチームが出場するとのことだった。
(ふーん…アジア大会ねぇ…)
そんな風に考えながら食べているといつの間にか朝ご飯を食べ終わっていた。食器をシンクに置いておき、部屋に戻ろうとすると母さんに呼び止められた。
「健仁~悪いんだけどちょっとお使い頼まれてくれない?」
「まあ特に用事もないしいいよ。何買ってくればいいの?」
「ありがと、えっとこのメモに書いてあるものをお願い。全部コンビニで売ってるから近くのコンビニで大丈夫よ」
「了解、じゃ行ってきまーす」
「いってらっしゃ~い」
ちょうど亜三が帰ってくるまで暇だったし、それにそろそろアレが不足してきてたからちょうどコンビニに行こうと思っていたのだ。我が家を出て徒歩三分ほどの距離の場所にあるコンビニに入るとメモに書いてあるものを買い物かごの中にどんどん入れていった。
それと買い足そうと考えていた俺愛用のエナジードリンク、『ALIEN』を忘れずに五本程買っておく。これがあるかないかで集中力が違うから集中してゲームをするときは欲しいのだ。
レジで会計を済ませると今日は春にしては少し気温が高めだったのでアイスを購入し食べ歩きながら帰路についた。帰り道、家に向かって歩いていると全体的に“白い”という印象を受ける俺と同い年くらいの女の子がキャリーケースを引きながら横を通り過ぎて行った。
帽子を被っていたため少ししか見えなかったが銀髪だったし目も翠色に見えたので外国人の女の子かなと思っていると不意に後ろから声を掛けられた。
「すいません。少し道を尋ねたいのですが…」
そう俺に声を掛けてきたのはその女の子だった。服装や話し方から何となく清楚なお嬢様っぽさを感じた。ただ、外国人にしてはとても流暢に話すので少し驚いた。なので思わず、
「日本語お上手なんですね」
と言ってしまった。言ってから失礼だったかと思い顔色を窺ったが特に気にした様子もなく微笑みながら返してくれた。
「ありがとうございます。私、父はフランス人なんですが母が日本人なので小さい頃から日本語も喋っていたので。それに昔小さい頃この辺りに住んでいましたから」
「あ、そうなんですか…ってすいません関係ないこと聞いちゃって」
「いえいえ、お気になさらないでください。それで聞きたかったのはこの住所の場所なんですが…」
そう言って彼女はポケットから一枚のメモ用紙を取り出し、俺に手渡した。
「分かりますか?」
メモには住所だけでなく簡単な地図も書いてあったので簡単に分かった。
「え~っと…この坂道を真っ直ぐ歩いて二つ目の角を右に曲がれば目的地はすぐそこだと思いますよ」
「私、地図とか苦手で道に迷ってしまって…もう喉もカラカラだったので本当に助かりました」
「俺、そこの近くに住んでるのでよければ案内しましょうか?」
「お気持ちは嬉しいですが、遠慮しておきます。そこまでしていただくのは申し訳ないですから。道を教えていただいてありがとうございました」
お辞儀をして踵を返すとキャリーケースを引きながら歩いて行ってしまった。そこでふと先程の会話を思い出した俺は彼女を呼び止め、振り返り首を傾げる彼女にコンビニで購入したエナジードリンクを差し出した。
「あの!良かったらこれどうぞ。さっき喉がカラカラだと言っていたので」
「え?そんな、いただけませんよ。今会ったばかりの方から…」
「気にしないでください、まだ四本も残ってるんで。それじゃあ」
コンビニ袋の中の残りのAlienを見せると、何故だか少し気恥ずかしくなり足早にその場を後にした。
「あ…ありがとうございます!このお礼はいつか必ずしますからー!」
後ろから彼女の声が聞こえたがそのまま早歩きでその場を後にした。ただ今日会ったばかりの人に何故俺はあそこまでしたのだろうか。自分の中でも少し疑問に思ったが人に良いことをしたと思うと少し良い気分になり、軽い足取りで家へと向かった。
~~~~~~~~~~
「あ、お帰りーお兄ちゃん」
「お帰りなさい健仁」
家の前に着き、玄関を開けると二つの声が俺を出迎えてくれた。片方はもちろん母さんだとして、もう一人は亜三の声がしたように聞こえたのだが気のせいだろうか。
確認すべく声の聞こえたリビングに向かうと亜三がソファーに横になってテレビを見ていた。
「ただいま。亜三、十二時頃に帰ってくるって言ってなかったか?」
「それがねー?何か顧問の先生の一身上の都合とかで今日の部活は急遽休みになったんだよ」
「それで学校行ってそのまま帰ってきたって訳か」
「その通り!こんなことなら家でゆっくりしてたかったよー」
「あ、母さんこれ、頼まれてたもの買ってきたよ。あと亜三にはこれやるから元気だせ」
母さんに頼まれていたお使いの品々を渡し、亜三には俺の買ったアイスの半分をあげた。ちょうど俺の買ったアイスが半分に割って食べるものだったためだが。
「ありがとう、健仁」
「ありがとーお兄ちゃん!」
「おう」
俺がAlienを冷蔵庫の中に入れていると、ソファーから身を乗り出した亜三が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、予定より早く帰ってきたからお昼までまだ時間あるしUEO一緒にやる?って…そういえばお兄ちゃんはユニーククエスト中なんだっけ?」
「UEO?あ、Utopia Endless Onlineのことか。あー…それならもうクリアしたぞ」
「それじゃあ私が攻略のコツを…え?今クリアしたって言った?」
「ああ、昨日徹夜で攻略してな?いやぁーあいつ滅茶苦茶やってきてさ、正直辛かったけどギリギリ勝ったよ。まあそれでも五輪之介に見逃されたみたいなものだけどな」
まったくもってギリギリだった。今思い返しても納得のいかない勝利だとしてもあんな五輪之介相手によく勝つことが出来たと思う。それに経験値やスキル、武器に種族に称号と大量の戦利品があったのも事実だしな、結果からすれば戦えてよかった…のだろう。
「……た…の…」
「え?今何か言ったか?」
「お兄ちゃん!!」
「はい!?」
「ちょっとじっくりその話、聞かせてもらおうかぁ?」
物凄い剣幕で俺の事を呼んだかと思えば、今度は顔は笑っているが目は全く笑っていない表情でこちらににじり寄ってきた亜三に対して俺は初めて亜三の事を怖いと感じた。
訂正
「女神の涙」―「聖女の涙」に訂正