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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
踊れ!砂塵と唆毒の狂騒曲
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音ゲーマニアが山を登るようですよ


「ふぅ…すごい並んでたな」


「な~。でもあれだけの人数をいっぺんに予選何て出来るのかね?」


善は急げということで、麒麟とともに王都ゼルキアに予選登録をしにきたのだが、その時には既に物凄い人混みが出来ていた。

今はその人混みの中で揉まれながらようやく登録が完了したところだ。


すると麒麟が突然二ヒヒと笑い出した。


「あ…俺って天才かも」


「突然なんだよ…」


首に掛けられた鉄製のプレートを持ち上げ、くいっと見せる。


「もしかしたら予選ってさ、バトルロワイアルみたいな形式でこのプレートの奪い合いとかなんじゃねぇの?俺のやってたFPSに似たようなゲームモードがあったんだよなぁ」


確かにその考えは大いにあり得ると思えた。

今、いるだけでも五百は下らない数のプレイヤーが登録施設に押し寄せている、これで全てというわけがないので最終的には数千、数万のプレイヤーが予選に参加するだろう。

そうなれば一対一の対戦をしている時間も場所もないだろうし、理にかなっている。


「予選っていつだったっけ?」


「確か…今週の金曜日だったような…」


自信のなさそうな麒麟の態度に不安を覚え、イベントの告知用紙を取り出し確認する。


予選の開催日は今週の金曜日であっていたようだ。予選は二回に分けられ、二十時からの一部と二十二時からの二部。

一部、二部はどちらに参加してもいいらしい。社会人や子供のことを配慮して、予選を二回に分けたのだろう。


「予選は一部と二部に分かれてるみたいだけど、どっちに出る?」


「あー…どうしよ?GENZIに合わせるよ」


「じゃあ一部にしようぜ、早く予選を終わらせて夜は色々遊びたいし」


「OK~、ってか今週の金曜日って明後日なんだけどイベントまで何しよっか?」


俺達はナインテールの戦いで膨大な経験値と強力なユニーク装備を手に入れた。ユニーク装備はそのまま装備すればいいのだが、LVが上がったことで今よりも強力な防具を着けられるようになったわけだ。


「じゃあ、よさげなモンスターでも狩ってLVにあった防具でも作るか?」


「よっしゃ!それでいこう!そうと決まればどこに行くか…だけど、実はもう目星をつけてたんだよなぁ」


そう言うと、ワールドマップの二か所にピンを刺した。

一つは光芒(グゥァンマン)帝国に聳える山脈の一角。もう一つは高天ヶ原の大きな湖に。


「この二つに何かいるのか?」


「そうなんですよぉ、光芒(グゥァンマン)帝国のピン刺したところのモンスターはGENZIの、高天ヶ原のピン刺したところは俺の防具の素材になるモンスターがいるんですよぉ」


「じゃあまずどっち行くよ?」


「まずは光芒(グゥァンマン)帝国の方に行きましょうぜ」


「いいのか?俺の防具が先でも」


『転移のスクロール』を持っていた麒麟が振り向き、俺の方を見るとふっと笑った。


「GENZIの方が接近して戦うことが多いだろ?だから先にGENZIの装備を作るのは当然さ。さぁ!行きましょー」


ふざけた行動も多いし、先の事を考えてなさそうに見えるけど、麒麟は仲間想いで俺よりも計画性があることを改めて実感した。


「転移!靛青(ディェンチン)!」



「お、着いたみたいだな」


靛青ディェンチンは目的の山脈の麓にある街だ。全体的に藍色が多い印象を受ける街並みをしており、NPCは中華風のいわゆるチャイナ服を着ている。

マップを開き、ピンの刺された位置を確認すると、今回向かうのは連なる山脈の中では最も小さい―それでも富士山近くの大きさはありそうだが―山の頂上らしい。


「あの山、もしかして登山すんの…」


「もち!」


「うへぇ…」


早々に街を出ると、山に向かって歩き出した。

山に登るまでは特にモンスターに遭遇することもなく、山を登り始めてからも、少しのモンスターしか現れなかった。


実は以前もこの山を登ったことがある。とはいえ、前回は半分もいかずに慌てて逃げ帰ったのだが。

その理由は…


「来たか…」


この山、麓から頂上にかけて上に登れば登るほどモンスターの数と強さが増すのだ。そして今いるのが三合目付近。

この辺りから突然モンスターが増えるのだ。


空から迫る鳥型のモンスターが四匹、地上から迫る猫型のモンスターが六匹。


「麒麟、空は頼んだ。俺は地上の奴らをやる」


「OK~」


俺と麒麟は得物を構えると、同時に駆け出した。


「『スピンスラッシュ』」


回転し、遠心力の乗った刃に何も考えずに突っ込んできたモンスターはあっけなくHPを全損し、ポリゴンとなって露散した。

あまりの呆気なさにぼーっとしていると、どうやら麒麟の方の戦闘も終わったようだ。


「なぁ…」


「うん…言いたいことは分かるよ…」


「「弱すぎじゃね?」」


俺達が前回来たときはLV40前後、俺に至っては今はその倍であるLV80を僅かに超え、現在LV83。麒麟ですらLV75なのだ。

明らかに適正LVを上回っているために起きた悲劇として捉え、俺達は異常な速度で山を駆け登っていった。



時刻を確認すると、登山開始から二時間を経過しようとしていた。今俺達がいるのはこの山の九合目。因みに十合目で終わりなので、あともう少しである。


あのあとも俺の『修羅の呪い』の効果で寄ってくるモンスターたちを蹴散らしながら進んできたのだが、ようやくモンスターの強さが適正と呼べるランクになってきた。


「お、団体さんのお出ましみたいだな」


前方から威嚇しながら歩いてくるのは五匹の虎型モンスター、“ブラックタイガー”。そして上からやってくる六匹の鳥型モンスター、“サンダーバード”。

カーソルの色から考えて何れもLVは80前後。俺は麒麟に合図を出すと、虎の群れに身を躍らせた。


「『スピンスラッシュ』」


独楽のように回りながら虎の群れの中に飛び込むが、それを散開することで避けられ、背後から奇襲を受ける。


「『転身』!」


飛び掛かる虎の下をくぐるように地面を転がり、その攻撃を躱す。


虎達はLVが高くなっただけでなく、どうやらAIも成長したらしい。俺の周りを包囲し、陣形を崩さず、隙を狙っているのが分かる。


手強い相手を前に心が浮き立つのを感じ、心に突き動かされるまま俺は駆けだした。

一斉に飛び掛かるのが効かないと思うや否や虎達は俺に休む暇を与えず連続的に攻撃を仕掛てくる。


瞬間、俺の手から刀が消え、飛び掛かってきた虎の頬を拳が撃ち抜いていた。吹き飛ばされた虎のHPは全損し空中で体を露散させ、消えた。


唐突に武器が変わったことにより、また陣形を組みなおそうと考えているのかもしれないが、空中では身動きがとれまい。

飛び掛かってきている残りの四匹の腹を連続で流れるように殴り飛ばす。


殴られたブラックタイガー達は全て再起不能となり、ログに経験値が加算されたことを確認すると、麒麟の方を見た。

どうやらまだ戦闘中らしかったので、それらを拝見させてもらうことにした。


サンダーバードは常に空中を飛び続け、安全圏から雷の矢を麒麟目掛けて放っている。それらを軽快なステップで回避しているが、麒麟が反撃をする様子は無く、何かウィンドウをいじっている様子が見えた。


反撃してこないことを、反撃できないのだと勘違いしたサンダーバード達の攻撃の手は休まることを知らず、むしろ激しさを増していた。

調子に乗ったサンダーバードは滑空しながら雷のブレスを吐き、麒麟へと近づく。それが命取りとなった。


麒麟の両手に握られていたのは俺が麒麟と交換した武器、“二極対銃”『ライフ&デス』。その長い銃身をゆっくりと構えると、滑空してくるサンダーバードの体を撃ち抜いた。

直後、サンダーバードの体は落下し、絶命。残りのサンダーバード達の顔にも―サンダーバードに表情があるのかは分からないが―焦りが見える。


「『ファイア』」


トリガーを引き弾丸が射出され、その反動で銃身が大きく跳ね上がる。跳ね上がった銃を元の位置に戻しながら、反対の『ライフ』で狙いを定め、トリガーを引く。


「『ファイア』」


一瞬の内に空を飛んでいた二匹のサンダーバードが撃ち落される。

『ライフ&デス』はリボルバー式ということもあり、六発ずつの弾丸が込められる。

それはつまり…


三回に渡る銃声が聞こえ、空を飛んでいたはずのサンダーバード達は全て落下しながらポリゴンとなって露散した。


これまでにあったリロードの隙がない、連続した射撃が可能となる。これがどれほど強力なことか実際に目の前で見ると改めて思い知らされる。

二丁のリボルバーを太腿に取り付けてあるガンホルダーへと戻した麒麟と目が合う。


「なんだ、見てたのかよ~」


「お疲れ。かっこよかったぞ」


「照れるねぇ、それじゃあ最後のボス戦といきますか!」


道なき道を登り続け、ついに山頂へと到達した。ここまでで二時間と少しの時間がかかり、日が少しずつ傾き始めていた。

山頂は平らな円形上のフィールドになっており、その中央では石柱に囲まれて大きな黒い虎が寝そべっていた。黒い虎の隣には大きな剣が突き刺さっている。


「もしかして、あれが目標の敵…?」


「イエ~ス。掲示板で情報を見かけた時から気になってたんだけど…やっぱりそうか…こいつ名持ちだ」


「名持ち?」


「うん、あいつの横にユニークモンスターみたいに二つ名が付いてるでしょ?」


目を凝らすと、黒い虎の上には非常に濃い赤のカーソルと『黒剱』のシュイという文字が表示されている。

そのフィールドのようになっている岩を踏んだ瞬間、周りを結界のようなものが多い、フィールドから出ることが不可能になった。


中央で石柱に囲まれ眠っていた黒い虎はその巨体を起こし、突き刺さっていた巨大な剣を口に咥えると、こちらを鋭い目で睨んだ。


「これ大丈夫なのか…?」


「さぁ…?」


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