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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
欲を使役し欲に呑まれた英傑よ
27/138

閑話 音ゲーマニアが結晶蝶の仮面を手に入れるようですよ

以前書こうと思っていた麒麟とレベリングしていた時に出会ったモンスターの話です


「そういやGENZIはそのマスク、ずっと変えてないけどいいのか?もっとステータス良い装備もあるだろ」


「いや、いいんだよ。この装備には認識阻害の効果が付いてるし、何よりも思い出があるからな」


「あ~あの時かぁ…」



そう、あの時は確か俺と麒麟でレベリング強行を行っていた時のこと、辺りが暗くなった時の事だった。

自分達のレベル帯における最高効率の狩場でモンスターを狩っていると突然明るかった空に影が差し、辺りは闇に包まれた。


「クエスト『月光に包まれて』を開始します」


突然のクエスト開始のアナウンスに何事かと思い、空を見上げると登っていたのは太陽ではなく大きな月だった。手を伸ばせば届くのではないかと思う程近いそれに、気が付いた時には周りに居たはずのプレイヤーが居なくなっていた。


効率の良い狩場ということもあり、近くには俺達のほかにも数パーティーほどいたはずがその姿が忽然と消えた。

不気味に感じ、俺は麒麟と辺りを捜索することにした。


クエストのクリア条件を確認してみると、モンスターの討伐もしくは撃退と書いてあるのだが肝心のモンスターの名前は書かれていなかった。


ある程度探したが辺りにはプレイヤーはおろか、モンスター一匹すらいなくなっていた。ただ、一つ見つけたものがあった。


「GENZI~そっちは誰か見つかったか?俺の方なんてモンスター一匹すら見つからなかったぞ」


「俺もそうだった。ただ、一つ妙な物を見つけたから拾ってみたんだ」


取り出して見せたのは、一枚の大きな白い鱗のようなアイテム。


「これは?」


「『結晶蝶の鱗粉』っていうアイテムだよ。さっきそこで拾った」


「結晶蝶ねぇ…まぁあのバカでかい月と何か関係あるんだろうなぁ」


「ああ。見た所この鱗粉はこの先に続いているみたいだったんだ」


「つまり、この鱗粉を辿っていけば結晶蝶の元に辿り着ける、ってわけか」


「そうだ。そうと決まればこれを辿っていこう」


俺達は地面で月明かりに反射する鱗粉を探し、それを辿って歩き続けた。すると、俺達は大きな洞穴のような場所に辿り着いた。


その洞穴は上部が筒抜けになっており、月光が差し込んでいる。そしてその月光の下、月光の光を反射して輝く大きな白い蝶の姿が見えた。


「あれが…」


「どうする?俺とGENZIで突っ込んでパパっとやっちゃう?」


「いや、それは出来なさそうだぞ。あいつのカーソル見てみろ」


「んー…うげっ…」


まあ麒麟がそういうのも無理はない。あいつのカーソルの色はそこそこ濃い赤。どう考えても今の俺達が挑むべき相手じゃない。


俺のLVが40、麒麟のLVが34だから最低奴のレベルは50以上ということになる。当然逃げるのが得策なのだが、恐らくあいつはレアモンスター。

そうとなればやることはただ一つだ。


「作戦は命大事にでいくぞ」


「OK~じゃあいっちょやりますかぁ」


俺達は岩陰から出て、結晶蝶の元へ歩み寄った。俺達が近づいて行っても結晶蝶は攻撃はおろか警戒すらしていなかった。


不思議に思っていると、横から麒麟が結晶蝶の羽を撃ち抜いた。確かに羽を撃ち抜いたと思ったのだが、結晶蝶の姿はまるでなかったかのように幻となって消えた。


先程まで差し込んでいたはずの光が遮られ、光が少なくなり、視界が悪くなる。上を見上げるとそこには優雅に羽を羽ばたかせる結晶蝶の姿があった。


「麒麟!上だ…!」


「りょーかい…!」


麒麟の銃撃はまたしても結晶蝶の羽を撃ち抜く。

だが、撃ったと思った時には奴の姿は消え、別の場所に移動していた。


今度は結晶蝶は空中にいるのではなく、地面に降りていた。これを好機と捉え、俺は抜刀して駆ける。

結晶蝶の足を斬った時に違和感に気が付いた。


斬った感覚が無い。仮想のものとはいえ、モンスターを斬った時に感覚は感じる。だが俺は今何も感じなかったのだ。


消えた結晶蝶は次の瞬間には最初に止まっていた岩に再び戻っていた。

そして結晶蝶の羽が青白く発光した。

結晶蝶の目の前に光は収束していき、槍の形を成してこちらに飛んできた。


「『転身』!」


「『アクロバット』!」


すぐに反応し避けたことで光の槍に貫かれることは無かった。結晶蝶は既に次の光の槍を構えており、羽ばたきと同時に放たれる。

俺は咄嗟に近くにあった岩陰に隠れた。横目でちらりと確認したが、麒麟も上手く隠れたようだ。


俺のいる岩に光の槍が当たる音が後ろから聞こえてくる。どうやらこちらの姿が見えなくても狙いをつけることが出来るらしい。

すぐに反撃といきたいが、相手の情報が圧倒的に不足している今、突っ込んだところで勝機は無い。それを理解しているからこそ麒麟も岩陰から出てきていない。


岩の横から顔を覗かせ結晶蝶を確認する。

未だにあの岩から離れる様子はなく、淡々と光の槍を創っては俺達の方に向けて撃ち出している。

その姿を見て気になったのは奴の羽だ。光の槍を創る際に必ず羽が発光するのだ。


名前の通り月と関係しているのだろうが、この洞穴は上部が大きく空いており、月光を浴びることが出来てしまう。

その月光をどうにかできれば変わるかもしれないが…


上を向き、月を見ていると、洞穴上部に巨大な岩がいくつもあることに気が付いた。

何故あんなところにあれほど巨大な岩があるのか気になったが今はそれどころではない。結晶蝶を倒す算段を考えなければならないのだから。


「岩?…岩か…」


いや、どうやら無駄な考えというわけでもなさそうだ。俺は頭に浮かんだ作戦を実行すべく、大きく声を張り上げ、麒麟に呼びかけた。


「麒麟!!俺に考えがある!その作戦のために結晶蝶の注意を惹きつけておいてくれ!」


「OKー!よく分からんが任された!」


俺と麒麟は一斉に岩陰から出た。結晶蝶は洞穴から出ようとする俺を先に狙おうとするが、麒麟がそれを撃ち抜いた。


「お前の相手は俺だよー!」



「はぁ…!はぁ…!」


洞穴は山の中腹部にぽっかりと空いたもので、恐らく洞穴の中から見ることのできた月光は山の斜面のどこかに大きな穴が空いていたためだろう。

俺は今山を走って登っている。先程探し回っているのだがその大きな穴が見つからないのだ。


「まさか…とは思うけど…」


山の斜面を見上げる。


「山頂にあります…なんて言わないよな?」


勿論俺の独り言に誰も反応するはずもなく、俺は大きく息を吐くと、緩やかな斜面の道を離れ、急な斜面を手を使い、這うようにして登っていった。


STRとAGIには自信があり、そこまで時間をかけずに山頂まで登ることができた。山頂には俺の読み通り大きく穴が空いており、近づくと下には結晶蝶と麒麟が戦っている姿が見えた。

俺は穴の周りを取り囲むようにして隆起した巨大な岩を地面から斬り剥がしていく。


「ふっ…!」


順調に岩を地面と切り離していき、全ての岩を穴の周りに等間隔に並べ、準備は完了した。

穴に近づき大声で麒麟を呼ぶ。


「今すぐその洞穴から出ろ!!」


俺の声に反応は返ってこなかったが、俺の声は麒麟に届いたらしく、結晶蝶の光の槍を避けながら洞穴の入り口に向かって走っていった。


「さあ、始めようか…!」



「うおっ…!」


ブリッジをするように体を逸らし、飛ばされてきた光の槍を避ける。初めは一本だけしかなかったはずが、いつの間にか今では三対六本の光の槍が俺を襲う。


「『ファイア』!」


走りながら弾丸を的確に結晶蝶に当てるが意味がないように、撃ち抜かれたはずの部分に傷一つ見当たらない。

やはり何かイベントないしはフラグが必要なのだろうか。


「『アクロバット』っ!!」


「あっぶねぇ…」


今までは光の槍しか撃ってこなかったが、その触覚からまるでレーザー光線のような光を薙ぎ払ってきた。

幸い後ろに避けたことで回避したが、地面がガラス状に溶け、赤くなっていた。


その時上から声が聞こえてきた。


「今…ぐ…洞穴から…出ろ!」


離れているため聞えづらかったが、それはGENZIの声だった。


俺は元来た入り口の方を向くと、全速力で駆け出した。後ろから俺のことを追尾して迫ってくる光の槍を避けながら走る。


「うげっ!」


光の槍が当たらなかったことに苛立ったのか、結晶蝶は触覚に光を集める動作を始めた。


徐々に触覚に光が集まっていき、限界に達したかのように強く発光したかと思うと、光線が射出される。真っ直ぐに俺の事を狙ってきたそれを飛び前転するように転がることで回避しながら洞穴を出る。


その瞬間背後から何かがぶつかる大きな音と共に、岩の破片のようなものと爆風が洞穴の中から噴き出した。



「おーっらぁぁ!!」


掛け声と共に駆け出し、穴の周りに並べた岩を順に落としていく。順番に落としていき、最後に一際大きな岩が残った。


「ラストー!」


思い切り後ろから蹴飛ばし、岩を落とすと、下から物凄い音が聞こえてきた。穴を覗くと、下は岩に埋もれており、結晶蝶も生き埋めになったように見えた。


急いで斜面を滑り降りると、洞穴の入り口に向かって走った。入り口には中の様子を窺っている麒麟の姿があった。

麒麟は近づく俺に気が付くと近寄ってきた。


「GENZI、お前何やったの…」


「上からデカい岩を落とした」


「あ~なるほどぉ…ってなるわけないだろ」


笑いながらいう麒麟の肩を叩き、洞穴の中へと入っていった。元々そこまで明るかったわけでもなかったのだが、月光が岩によって遮られたことで視界を確保しづらくなっていた。

俺はインベントリから松明を出すと、左手に持ち、暗闇を照らしながら先へ進んだ。


ひらけていた空間は岩によって大部分を埋められたが、中央は何故かドーム状の空間が出来ていた。その中央にはぐったりと横たわった結晶蝶の姿があった。


結晶蝶はうなだれた頭をこちらに向けると、その体を起き上がらせ、立ち上がった。岩によって四方八方を囲まれた状態では結晶蝶が立つと、かなり狭く感じる。

声なき咆哮をあげ、目の前には今までよりも巨大な光の槍を、羽の部分には三対六本の光の槍を出現させた。


「『ファイア』!」


麒麟の撃った弾丸は今度はしっかりと命中し、結晶蝶が後退る。負けじと放った光の槍を俺は何とか回避したが、麒麟が一発被弾する。


「うおっ…!!」


光の槍を受けた麒麟はHPの大部分を削られ吹き飛ばされた。パーティメンバーに表示されるHPバーにもバフやデバフの有無が表示されるのだが、麒麟のHPバーの下には大量のデバフが付いていた。


「『スピンエッジ』っ!」


体を回転させながら、姿勢を低くし結晶蝶の細い脚を斬りつける。しっかりと斬った感覚もあり、結晶蝶は体勢を崩して後ろに倒れた。


「麒麟、今のうちに回復しとけ!」


振り返らず、言葉だけをかけると倒れた結晶蝶の羽に刀を突き刺し、そのまま走り出した。羽に刺さったままの刀が結晶蝶の羽を裂き、結晶蝶が震えた。

周囲に魔法のようなものを張り巡らされ、近づけなくなったので一度距離を取る。


「ぷはぁっ!俺ちゃん完全復活!」


「言ってる場合か!結晶蝶は俺達より格上なんだから油断すんなよ」


「もちろん油断なんてしてないって。俺とGENZIならこんなヘンテコ蝶なんかに負けないっての~」


「だからそういうのを油断だって…っ!」


突然放たれたレーザーのようなものを見て驚かされたが、さっきの羽への攻撃が効いたのかレーザーはあらぬ方向へと放たれた。

結晶蝶は気でも狂ったかのように辺りに向かってレーザーを放った。


「くそっ…これじゃ近寄れない…!」


「GENZI!一旦退くぞ、このままだと俺達まで生き埋めになる!」


麒麟の言葉に渋々だが頷き洞穴を後にする。背後ではいまだにレーザーの音と岩が崩れ落ちる音が止んでいなかった。

ただ、レーザーの音は聞こえなくなったが、代わりに洞穴の崩壊する音が次第に大きくなっていき、洞穴が完全に埋まった。


「クエスト『月光に包まれて』をクリアしました」


「クリアしたけど何か納得いかねー…」


「俺もそれは思ったわぁ…っ!?お、おいGENZIあそこ!」


麒麟の指差したところには結晶蝶が空を優雅に飛んでいた。結晶蝶は俺達の上まで飛んでくると何かを落とし、そのまま大きな月に向かって飛んでいった。


「あ、待て!!」


手を伸ばした時には辺りは明るく、周りには先程までいなかったはずのプレイヤーたちがいた。手を伸ばせば届きそうなほど近くにあった月はもうな、今は太陽がさんさんと照っている。

俺の幻覚かと思ったが隣で麒麟が狐につままれたま顔で空を見上げていたので恐らく俺の幻覚ではなかったのだろう。


大量の経験値を得たことでレベルアップのファンファーレが鳴りやまない。


下を見ると、草むらの上にキラリと光るものがあった。

手に取ると、それはさらにキラキラと輝き、まるで結晶蝶の羽のようだった。



「―――で確かそのあとガンツさんの工房に持って行って今の仮面舞踏会でつけてる奴がいそうな仮面になったんだっけ?」


「ああ。白と青に輝く結晶の仮面…かっこいいだろ…?」


「お前がその仮面とらないのってそれが理由かよ…」


「ん?何か言ったか?」


「いんや何も~それじゃあ今日は何する?」


次からはついに二章…なのですが、自分の春休み期間がついに終了し、毎日投稿は今日で最後になりそうです…(;´д`)トホホ

一日置きの更新になると思いますが今後もよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ

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