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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
欲を使役し欲に呑まれた英傑よ
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強欲ヨ全テヲ喰ラエ 拾弐


「あっぶねぇ…」


これを使うのが何とか間に合って良かった。

俺は手に握り締めたままの空き瓶を眺めしみじみ思う。


少し前の事、王都ゼルキアの路地裏を歩いていた時のことだ。怪しげな雰囲気を醸し出した露店を見つけつい立ち寄ってしまった。

その露店で見つけたのがこのアイテム、『鬼人丸』。

胡散臭い店主いわく使用することで五分間、自身の身体能力を極限まで高める薬だとか。

使用後の()()()()()()()()()素晴らしい薬だとも言っていたがこの際関係あるまい。


起き上がると、体の軽さに驚きを隠せなかった。

嘘のように軽く、思い通りに動く体に思わず気持ちが昂ってきた。


「よし!反撃開始といきますかぁ!」


「生キテイタカ」


「おかげさまでな…!」


いきなり飛び出してきた俺に対して慢心の無くなったマモンは冷静に対処してくる。

だがこちらも『鬼人丸』でドーピングしているのだ。そう易々と負ける気など微塵もない。

マモンは自慢の機動力を活かし、俺に反応させまいとしているようだが、甘い。

『鬼人丸』を使用したことによって俺の身体能力は極限まで高められているんだぞ?


俺はマモンの高速機動に変則的な動きでついていく。

高速機動の中、マモンが尻尾を手足のように器用に使い、俺のことを攻撃してくる。

それを壁を蹴り、加速することで回避する。


「『アクセラレート』『クイックリー』『ストレングスパワー』『闇の衣』」


相手の弱点も分かっている。

バフも自身にかけ、『鬼人丸』によるドーピングも済ませた。

完璧な状態。

しかし、一つ足らないものがある。最後の決め手となる決定的な何かだ。

確かにマモンの目は奴の弱点だろう。

ただ弱点であるその目を攻撃する決定的な一撃が俺にはない。


いや…決定的な一撃を持っていなくても勝つ方法はあった。

ただ、それをやるのにはかなりのリスクを伴うし、成功する確率も極めて低い。


だけど…


「それをやるのが俺なんだよなぁ」


GENZIに負けず劣らず、俺も圧倒的強者との闘いという奴には興奮するタイプのゲーマーなのでね。


「ヌゥ?貴様何ヲスル気ダ?」


「そう聞かれて教える奴があるかよ!」


俺はこの狭くなった空間の中を縦横無尽に跳びまわった。

壁を蹴り、地面を蹴り、加速する。

マモンの攻撃を避けながら加速し続ける。

『鬼人丸』の効果が切れるまで残り二分。まだ加速することが出来るはずだ。

壁を蹴り、地面を蹴り、さらに加速する。

加速すればするほど自身にかかる圧力が増し、体が悲鳴をあげ始める。


「くぅっ…!!」


それでも俺は歯を食いしばり、加速を止めない。これが唯一俺が勝つための道筋だから。

昔水泳の飛び込みというのをやったことがあったが確かあれでかかるGは1Gだ。だが今掛かっているのはその三倍はあるだろう。

人間の耐えられる5~6Gと言われている。それならば俺はまだ耐えられるはずだ。


「ム…姿ガ…見エナイ…?」


圧力に耐え切れなくなり、仮想の鼓膜が破れ音が聞こえなくなる。

マモンが何かを言っているのは分かるが何を言っているのかは聞こえない。

ただ移動中にマモンが俺のことを目で追えなくなっていることに気が付いた。

加速時にかかるGに耐え、ついに達することが出来たのだ、マモンが目で捉えきれなくなる速度に。


これでようやくマモンに弾丸を撃ち込むことが出来る。

俺は全身の力を使って壁を蹴ると、その勢いのままマモンの瞳目掛けて跳んだ。

マモンは俺の行動を目で追いきれないはず…!


その瞬間、マモンの目がギョロリとこちら見た。

瞳を糸のように細くし、歪んだ笑みを浮かべながら。


「馬鹿メ、俺ガオ前ノ行動ヲ読メナイトデモ思ッタカ?サラバダ、人間」


マモンの尻尾が俺を穿つ。


…事は無かった。

俺はマモンが俺の行動を予測しているだろうと推測していた。

だからこそ、加速しながら準備をしていたのだ、『ユッドバレット』を。

俺は銃口をマモンの方に向けるのではなく、銃口を後ろに向けた。


「『ユッドバレット』!!」


『ユッドバレット』を後ろに撃った勢いでさらに加速する。

発砲時の反動、それを使ってさらに加速し、マモンの尻尾に当たることなくマモンの額に辿り着いた。


「これで終わりだ…!!」


「マ…!!」


マモンの瞼を無理矢理開かせ、その中に銃弾を撃ち出す。


「『ファイア』!」


「『ファイア』!」


「グギャァァァ!!?」


「『リロード』&ダブル『ファイア』!!」


弱点である瞳に弾丸を撃ち込まれ、のたうち回るマモンにしがみつく。

俺を引き剥がそうと、尾を伸ばし、俺を貫こうとするのが視界に入る。

それでも俺は撃つのを止めなかった。


「『リロード』」


「『ファイア』!」


「『ファイア』!」


「グ…ガガ…ガッ…ガァ…!」


マモンの残りHPは僅か、俺は最後の一撃を瞳にぶち込んだ。


「これでくたばれ…!!『リロード』&『ファイア』…!!」


立ち昇る硝煙と響き渡る銃声がマモンとの闘いの終わりを告げる。

マモンの体は露散し、どこかに消えた。


ちょうど五分が経った、『鬼人丸』の効果が切れる時間か。

ステータスを確認するとLVが1になっていた。

これが『鬼人丸』を使った代償か…


「いや…重すぎるだろぉ……」


俺はその場で膝から崩れ落ち、倒れた。


「GENZI…お前も早く、ケリつけろよ…?」


~~~~~~~~~


回避、回避、回避、回避。

耐えに耐え続け、回避すること数百回。俺の体は完全にナインテールの動き(リズム)を掴んでいた。

奴の動き(リズム)を覚え、そして完全に動き(リズム)に乗ることが出来ている。

動いている間にこのステータスにも大分慣れた。

準備は整った。さあ戦闘開始だ(ビートを刻もうか)


これまでは回避するだけでこちらからは手を出さなかったがここからは攻勢に転じる。

銃弾の弾幕を放ちながら距離を詰めてくるナインテールに自ら近づく。

奴は近距離に入ると決まって銃剣で攻撃してくることがは分かっているからだ。


動き(リズム)に乗って、奴の攻撃を『不知火』でいなし、生まれた隙を『狂い桜』で突く。


「『修羅の解斬』」


「…!!」


銃剣を弾いた瞬間に放った『修羅の解斬』は見事にナインテールの右腕を切り裂く。

これで残りHPは85%。まだまだ先は長いな。

だがそろそろ俺の刀達も本領を発揮する頃だろう。

考えている側から『狂い桜』はきたようだな。


『狂い桜』の刀身から赤いオーラのようなものがゆらゆらと纏わりついた。


「『狂い桜の一つ目の特殊効果、“吸血”」


五輪之介から譲り受けた獄刀『不知火』と血刀『狂い桜』。この二つは特殊な効果がついている。

血刀『狂い桜』は血を吸えば吸う程切れ味が増すという妖刀だ。先程からナインテールを斬っていたのでようやく切れ味が増したというわけだ。

他にも効果はあるのだが、今は置いておこう。

そして獄刀『不知火』は…


「どうやら『不知火』も本領発揮みたいだな」


『不知火』を持つ左腕に炎が伸びてくるのが分かる。たちまち左腕は炎に包まれ、激しく燃え上がった。

これは『不知火』の特殊効果の一つだ。ダメージを受け続ける代わりに攻撃力を大幅に上昇させる。

なお、継続ダメージは最大でも残りHP1までしか削れないため、『不知火』の特殊効果で死ぬことはないのが救いだ。


「これが『不知火』の一つ目の特殊効果、“猛炎”」


“猛炎”の効果でHPが減少し俺の残りHPが1になると、さらに左腕の炎の勢いが増し、体全身を炎が包み込み、防具のように纏わりつく。


「これが『不知火』の二つ目の特殊効果、“炎装威”」


これを纏っている間、敵が俺に近づけば継続ダメージを与え重度の火傷状態である、壊熱状態にさせる攻撃的な防具となる。

とても強力なのだが欠点が一つだけあり、自身のHPが5%以下でなければ使えないという制限がある。

俺の場合はHPを1にしないと使えないわけだ。


「さあ、ビートを刻もう…!」


ナインテールとの距離を詰めるため、俺は駆ける。

それを遠距離からナインテールが狙撃してくるが俺はそれらを全て躱し、ナインテールとの間合いを詰める。


俺が近づいたことによって、ナインテールの体は燃え始めた。

“炎装威”による継続ダメージと壊熱状態になったことによる継続ダメージで数ミリずつではあるが確かにHPが減少しているのが見て分かる。

そのまま近づき、刀を振りぬく。


「『ソードダンス』!!」


『ソードダンス』の初撃でナインテールが銃剣を持つ右手を斬りつけ、その後の四連撃をナインテールの下半身を狙って繰り出す。


「せああ!!」


「…!」


それらの斬撃は見事に命中した。

何故俺が『修羅の解斬』ではなく、『ソードダンス』を使ったのか、それは今の状態の『不知火』と『狂い桜』で斬った時にダメージが入るのか知りたかったからだ。


結果としてダメージは入っていた。

一撃につき1%も削れている。今当てた四撃に加え二つの継続ダメージで約1%HPを減少させたので、合計最大HPの5%程のダメージを与えたことになる。

『修羅の解斬』で斬るのとほぼ同じ程度のダメージだ。

これでナインテールの残りHPは80%になった。


それを確認したとき、ナインテールはあの懐中時計を握り締めていた。


不味い!そう思った瞬間には既に遅かった。

掠れた声が静まり返った空間に響き渡る。


「…『サードクロック』…『エイトクロック』…『ナインクロック』…」


「な!?三つか!?」


急いでステータス画面を確認する。


Player:GENZI

Gender:男

Job:羅刹

Clan:無所属

LV:1【70】

HP:5

MP:0【50】

STR:0【550】

DEX:10【500】

VIT:0【5】

AGI:10【300】

INT:0【30】

MND:0【5】

LUC:0【80】


不幸中の幸いと言うべきか、俺が失ったのは魔法に関するステータスだけだったようだ。

MP、INT、MND、どれも俺にとっては必要性のないものばかりだったので助かった。


それと同時くらいのことだった、アナウンスの声が聞こえてきたのは。


「パーティーメンバー麒麟が『強欲』のマモンを討伐しました」


そうか…麒麟は既に片をつけたのか…負けてはいられないな。

両手に持った刀を強く握りしめ、決意を新たに固めた。

ナインテールを前に、半身になり剣を構え、戦闘態勢を取ると、一歩踏み込む。


「…ふっ…!!」


地面擦れ擦れをなぞるように、弧を描くように切り上げる。

しかしギリギリのところで上半身を後退させ避けられた。上半身を後退させ崩れた体勢を整える暇を与えず、追い打ちをかける。


「『修羅の解斬』!!」


「…!!」


ナインテールは体勢を崩したまま、銃剣を使って『修羅の解斬』を防ぐ。だが甘い。


「…?」


『狂い桜』は銃剣に阻まれ、ナインテールには届かないかに思われた。しかし、『狂い桜』はそれを覆す。

『狂い桜』を防ごうとした銃剣を斬り、そのままナインテールの体に傷を付ける。


「…!?」


『狂い桜』の一つ目の特殊効果、“吸血”による切れ味の上昇をナインテールは知らなかったのだろう。

驚いたためか一度距離を取り、体勢を立て直そうとするナインテールを俺は逃がさなかった。


「『ソードダンス』」


回避行動を取っているナインテールに連撃を浴びせた。

左右の刀を交互に振るい素早く、且つ的確に狙いを定めて切り結ぶ。

上腕、首、手首、腹、額。五か所に傷を付け、赤いポリゴンの露散を確認する。

この五か所の傷の内『不知火』で斬った上腕、手首、額から炎が吹き上がる。


「…!!」


無表情だが僅かに強張るナインテールの顔を見て、攻撃が効いているという実感が湧いてくる。


『不知火』の三つ目の特殊効果、“残炎”。“猛炎”発動中に『不知火』で斬った相手の傷口に、火属性の追加ダメージと、壊熱の状態異常を与える特殊効果。

さらに、壊熱の状態異常中は部位欠損の状態異常を治すことが出来なくなるというおまけつきだ。


確実にナインテールを追い詰めている。奴の武器である銃剣は破壊し、HPも着実に減らしている。

それなのに胸に残るこの感覚は何だ。何故か嫌な予感がする。

目の前に立つ、痩せ細った体の男からは底知れぬ何かを感じるのだ。

それでも今は攻撃してHPを減らすほかない。虚ろな瞳を覗かせるナインテールに向かってさらなる追撃を行う。


「『スピンスラッシュ』」


システムのアシストに従い回転しながら足を狙って斬り、ナインテールを転倒させる。僅かに体が宙に浮かぶ瞬間を見逃すことは無かった。


「『スパイラルエッジ』!」


渦を巻くように斬撃を繰り出し、宙に浮かんだ奴の体をさらに上空へと吹き飛ばす。

先に地に足をつけたのは俺だった。未だ空中から落下しているナインテールをを狙おうとしたとき、薄暗い中、俺の“炎装威”の炎の光に何かが反射した。


ヒュンという風を斬るような静かで高い音が頬を通り過ぎる。

後ろに通り過ぎた何かを確認するため、慌てて振り返るとそこには弾丸が地面に突き刺さっていた。


馬鹿な、ナインテールの銃剣は俺が『狂い桜』で斬ったはず…

ならこの弾丸は一体…?


ペタ、と地面に足をついたナインテールの足音が聞こえる。

振り返ると、消音機(サプレッサー)のついたライフルを腕に持つ奴の姿があった。


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