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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
欲を使役し欲に呑まれた英傑よ
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音ゲーマニアが開始早々ユニーククエストに巻き込まれたようですよ

辺りを見渡そうとしても木葉の隙間から差し込む僅かな日光しか光源はなく、辺りは闇に包まれていた。確かエアリスの話では俺は始まりの町にテレポートされるはずではなかったのだろうか。とりあえず一人で考えていても仕方がないので、ここはこのゲームの先輩である、亜三に聞いてみることにした。ひとまず、ログアウトボタンを押すと先程このゲームの説明を受けた白い無機質な空間に戻ってきていた。


「どうかなされましたかGENZI様?ゲームにログインしてから三十秒と立たずしてログアウトボタンを押した方は今までで二桁にみたない程度の方々だけですが…」


「ああ、実はな―――」


俺はありのまま先程起こった出来事をエアリスに話した。すると返ってきた反応は俺の予想していたものとは違うものだった。


「それは…おめでとうございますと言えば良いのか、お悔やみ申し上げますと言えば良いのか分かりませんね…」


「どういうことだ?」


「はい、実はですね、GENZI様が始まりの町ではなく森の中からスタートしたのは不具合やバグではないのです。それはチュートリアルを完了したプレイヤーが超極稀に強制スタートするユニーククエスト『森奥ノ湖島ニテ挑戦者待ツ』が強制的に開始されたため、GENZI様専用のインスタンスマップが形成されたためなのです」


「ちょっと待ってくれユニーククエストとかインスタンスマップとかって何のことだ?」


「まずユニーククエストから説明致しますと、ユニーククエストというのはこのゲームの中に存在するとても希少で高難易度のクエストのことで、トッププレイヤーと呼ばれる方々が集まって攻略出来るか出来ないかという程のものです。ユニーククエストはそのどれもが最後にボスと戦うことになり勝てば破格の報酬を貰うことができます。ただし、基本的にユニーククエストは一度クリアすると二度とクエストを開始できなくなります」


「………つまり俺はいわゆるエンドコンテンツってやつに強制的に参加させられたってことか…?」


「その通りでございます。私がお悔やみ申し上げますと言ったのはこのクエストは今まで約百人ほどのプレイヤーが挑戦しその全員が死亡したことによってクエストを失敗しているためです。また、おめでとうございますと言ったのはユニーククエスト自体の希少価値が途轍もなく高いためユニーククエストを受けることが出来たことに関してです」


「俺からしたら最悪以外のなにものでもないがな」


「次にインスタンスマップの説明ですが、インスタンスマップはクエスト以外にも様々な条件で生成されるもので、ソロ、パーティーなどの単位で生成されます。インスタンスマップ内には自分や自分のパーティーメンバーしか入れなくなるという効果があります」


「ふーん…まあとりあえずログアウトしたいんだけど、なんでログアウトボタンを押したのにここに来たんだ?」


「それは仕様でございます、それではまたのプレイをお待ちしております」


そう言ったかと思えば意識が現実世界に戻ってきていた。おもむろにVRヘッドセットを外すと、夕飯になるまでの間俺が強制受注させられたユニーククエストについて自分でも調べてみることにした。


~~~~~~~~


何気なくパソコンの右下を見ると時刻は六時半になっていた。もう少しすると母さんが夕飯を作ってくれる頃合いになるので、先に風呂に入ってくることにした。


早めに風呂に入り、手短に体と頭を洗うと湯船に五分程浸かり、風呂を出た。脱衣所を出てリビングに向かうといい匂いがした。どうやら今日の夕飯は餃子とチャーハン、ラーメンの中華三点セットらしい。俺が向かった時には妹と母、そして父も一緒に夕飯を食べていた。未だに父の仕事を知らないが七時には家についていることからブラック企業ではないようで安心した。


「あら?健仁今日は普通の時間に夕飯食べるの?」


「うん、そうするよ」


「珍しいこともあるもんだな、こうして家族四人で一緒に夕飯を食べるのは久しぶりなんじゃないか?」


「そうだね。何だかんだ家の家族は仲はいいけど、それぞれ熱中していることがあるからその分こうして一緒の時間にご飯を食べるのは珍しいかもね」


俺は席に着くと家族と和やかに夕飯を楽しんだ。そして食事の途中にようやく俺がどうして早めにログアウトしていたのかを思い出した。


「亜三、実はさ―――」


亜三にもエアリスにしたのと同様にありのままの話をしてみるとまたもや思っていたのと違う反応で驚いた。


「えー!?お兄ちゃん五輪之介のクエストが出たの!?」


「五輪之介って誰だ?」


「えーっとね、ユニーククエストには必ずボスであるユニークモンスターが出現するんだけど、お兄ちゃんが受けたユニーククエストのユニークモンスターが武人・五輪之介って名前なの」


「へー…」


「お兄ちゃんはこのゲーム始めたばっかりだから分からないかもしれないけどユニーククエストをプレイできるのなんてほんの一握りのトッププレイヤーか途轍もなく運のいいプレイヤーだけなんだよ?はぁ…それにしてもよりにもよってそのユニーククエストかぁ…」


「何か問題があるのか?」


「そのクエストは受けたプレイヤー一人だけしか攻略に参加できないんだよ。だから私が手伝うこともできないし、お兄ちゃんが頑張ってクリアしてくれること祈って始まりの町で待ってるね。あ、多分そのクエストは負けても勝っても始まりの町にテレポートされると思うからそこは安心してね」


「そういうことならさっさと行ってくるよ。今日は無理そうだから明日にでも案内してもらえるか?」


「うん!頑張ってね、お兄ちゃん」


俺は部屋に戻ると五輪之介とやらの情報を調べることにした。少し調べてみたが挑戦したプレイヤーが少ないせいか、出回っている情報が少なかった。結局分かったことは森の奥に進んでいく道中に目に見えない透明の刃、かまいたちのようなもので攻撃してくるということだけだった。これ以上調べていても埒が明かないので俺はVRヘッドセットを頭に装着し、ベッドに横たわると、『UEO』(Utopia Endless Onlineの略称)にログインした。


「お帰りなさいませGENZI様。早速ログインなさいますか?」


「ああ、頼む」


「かしこまりました。それではご武運を」


前回と同じようにして地面が一瞬光り、目を開けると前回ログアウトした場所に立っていた。とりあえず、このクエストの目標は五輪之介というモンスターを倒すことのようだから、この場に留まっていても埒が明かない。そのため俺は真っ直ぐそのまま直進していくことにした。


しばらく歩くと、ある異変に気が付いた。これがゲームだから、と言ってしまえばそれで終わりなのだが先程から生き物の気配を全く感じないのだ。確かだが俺が今回ログインした場所では、わずかながら虫の鳴き声のようなものを感じていた。異変はそれだけではない。先程は聞こえなかった音が前方から聞こえるのだ。甲高い音だ、どこかで聞いたことがあるような気がする。


(この音は確か…)


音は次第に強くなり、徐々に俺へと近づいてきている。それで確信した。この音は…五輪之介の攻撃音だ。ネットで得られた情報の中には透明な見えない刃のようなもので攻撃してくる、と書かれていた。恐らく今聞こえているこの甲高い音は見えない透明な刃が木々などの植物を切り裂きながら近づいてきている音だと考えられる。そして大分音が近づいてきたということは……。


「そこか!」


屈むことで見えない刃、かまいたちを回避した。後ろを見ると、かまいたちは俺が通ってきた道を過ぎ去ったことが木々の表面に付いた痕から分かる。恐らくだがこの木の表面に付いた斬撃痕を辿っていけばこの攻撃をしかけてきた主である、五輪之介の所へたどり着けるのではないだろうか?ひとまず手がかりもないので自分の考えを信じ、斬撃痕を辿っていくことにした。


それからも時々かまいたちが飛んでくることはあったが、こんなものは見えない音符(ノーツ)でプレイする音ゲーに比べれば、直前まで植物を切り裂く音が聞こえるためタイミングを合わせやすくよほど簡単だ。斬撃痕を辿るにつれてかまいたちを撃ってくる速度が増加しているように感じたが、特に苦労することもなく着々と目的地に近づいて行った。


そしてついに、森を抜け開けた場所へと出ることができた。そこへ到着すると、直前まで放たれていたかまいたちが止んだ。闇に包まれ、視界が閉ざされた森から脱出したかと思えばそこは霧が濃く立ち込めておりまたもや視界が封じられていた。方向感覚を狂わさないためにも、地面に通った跡をつけながら歩きさらに数分程経った時のことだった。突然霧が晴れ、視界が広がった。辺りを見回すとどうやらこの開けた空間は森の中に円を描くようにして存在する巨大な湖の真ん中にある小島だったようだ。四方は橋のようになっており、俺はたまたまそこを通っていたため湖に落ちることはなかったようだ。


「あれは…?」


小島の中央には一本の枯れ木と、その下には人が一人立っていた。その人物を遠目から見て分かったことはかなり長身の男であること、和装をしていること、腰に刀のようなものを大量に帯剣していることくらいのものだ。さらに近づくとその人物が腕を組み目を瞑っていたことが分かった。


「御主名を何と申すか?」


「へっ?えと、GENZIだ」


「ゲンジ?ふむ…我の名は五輪之介だ。我の元まで辿り着いたのはゲンジ、御主だけだ。ここまで辿り着いた実力を評し全力で相手をしよう」


「え?ちょっと待って…!」


「ふん!」


即座に右手と左手で腰に差した剣を握り、迫りくる攻撃を二本の剣で防ごうとしたが、まるで紙でも斬るように俺の右手に持っていたショートソードが斬れた。ショートソードが斬られたのを感覚で感じた俺は体を後ろに倒すことで何とか直撃は免れたが、尻餅をつき無防備な状態となってしまった。それにしても、今の初撃は所謂居合というやつだろうが刀の柄に手を置いたかと思った瞬間にはもう目の前にいた。音ゲーで鍛えられた反射神経がなければ今の斬撃でやられていてもおかしくなかっただろう。


「む?今の一撃を躱すとは…御主中々やるではないか!我が存命していた時に人の身であの一撃を防いだ者はいなかったぞ。御主は初めて我の初撃を人の身で防いだのだ、誇ってよいぞ」


長々と五輪之介が話してくれたのでその隙をつき、俺は体勢を立て直すと、一度距離を取った。それにしてもたったの一振りでショートソードを折られてしまった。咄嗟に後ろに回避したため短剣の方は無事だったが相手の刀は俺の短剣よりもリーチが長く、なおかつ一撃でも当たれば即死、掠っただけでも瀕死だろう。こんなにも追い詰められるとは…しかしそれによって少しばかり俺の心に火が灯った。この感覚は…そう、音ゲーでAPフルコンを狙う時のような感覚だ。


「かかってこいよ、五輪之介。俺がお前を一撃もくらわずに(ノーミスで)倒して(クリアして)やる…!」


「っふ…抜かせ小童が。人の身で我に挑んだことを後悔するがいい!」


こちらへ向き直った目には先程までの余裕はなく、俺を潰す。

ただ純粋にそれだけを考えているようだった。一撃一撃は先程の居合に比べれば速度は劣るものの、それでも途轍もない速度で振るわれる斬撃は恐ろしいとしか言いようがない。だが、『BSD』で培った俺の反射神経を舐めないでもらいたい。五輪之介の攻撃はあの『BSD』最難関曲、『Annihilation of hope』よりも遅く簡単だ。


『Annihilation of hope』、直訳すると希望の消滅という名前のこの曲はひたすらに難易度が高く、恐らくだが全世界で未だに俺以外はクリアしていないだろう。もしクリアされたのならば何らかのアナウンスが運営からあるはずだ。

何が難しいかと言えば流れてくる譜面の複雑さと何よりもその速さだ。もしも譜面が決まっているならば覚えるだけで良かったが、この曲は難関のサビの部分から最後にかけて流れてくる音符(ノーツ)がランダムになるのだ。人間が知覚できる限界ともいえるほどの速度で流れてくる音符(ノーツ)を完全に視覚で捉え、音楽(リズム)にのって斬る。それに比べれば、な。


初撃は威圧されてしまったが今ならもう…


「む?」


歴然たる攻撃力とリーチの差。こちらは得物のうちの一つを失ってしまっている。理不尽なまでに圧倒的不利の状況でも。いや、だからこそ俺は…。


「オオオォォ!」


五輪之介が連撃を仕掛けてきた。この連撃は何度か見たため()()()

右斜めからの斬り下ろし、逆手にしての斬り返し。そして流れるように回転しながら繰り出す腹部を狙った横切り。


休む間もなく次はこれとは別のパターンの連撃を放ってきた。この連撃も()()()いる。

腰を低く落とし、右手に持った大太刀を構えると、直線方向に向かって目では追えない程の速さの突きを放った。

予めくることが分かっていたので体を僅かに左にずらして避け、右手に持ち替えた短剣を相手の突きの勢いを利用して腕を切り裂いた。


「むぅ?我に掠り傷とはいえ傷を付けるとは…天晴だ。して、御主は何故我の攻撃が来る場所を予測できるのだ?」


「いいぜ、教えてやるよ。あんたの剣は奇麗でリズムを取りやすい。それに少し違うだけでパターンがある程度決まっている。だからこそ対策がたてやすいんだよ」


まあ、こんなことが出来るのは音ゲーで譜面を覚えるために何度も繰り返し作業を行っていたら副産物的に記憶力が上がったおかげだろう。


「なるほど…我は御主のことを少々見くびりすぎていたようだ。もう少し力を出させてもらうぞ!」


そう言うや否や攻撃を仕掛けてきたがそれは今までのどれとも違うものだった。五輪之介は右手に大太刀を、そして今までは空いていた左手には赤黒い刀を持ち襲い掛かってきた。


「くっ!」


そう、先程までとは勝手が全く違うのだ。両手に武器を持っているのだからその分一撃一撃の練度は下がるとばかりに思っていた。だがそれは甘かった。


右上からの振り下ろし、左下からの切り上げ、左右同時の横切り、左右同時の斜め切り。

息をつく暇も与えないとは正にこのようなことを言うのだろう。こちらは攻撃を見ては避けての繰り返しで、攻勢に出る暇もなく防戦一方だ。


今はじりじりと押されているが、ここが正念場だ。相手の動きを記憶してしまえば避けることは出来るはずだ。


見ろ。見ろ。見ろ。相手の攻撃を見て記憶しろ。右斜め、左下、横、上、左右。相手のパターンを見て記憶した。それは音ゲーと同じことだった。何故なら五輪之介の攻撃を見てパターンを覚えることも、音ゲーで曲をプレイして譜面を覚えることも同じことだから。


見て、覚えて、避ける。これをワンアクションとし、何度も何度も繰り返した。全てを避け切ることが出来ず攻撃が体を掠めることもあった。案の定俺は瀕死になったが、ここで亜三から貰っていた助言が役に立った。


プレイヤーは開始直後に装備以外にもアイテムを貰っているということだ。それは消費アイテムだが、何が出るかは本当にランダムらしい。そこに俺は望みを賭けた。何が出るか分からないのなら回復アイテムが出る可能性もあるのだ。俺はその可能性に賭け、そして勝った。


手に入れたアイテムは『聖女の涙』×3。『聖女の涙』は自身のHPとMPを全回復し、全状態異常を治す。さらに自然治癒(リジェネ)効果も得るという、今の状況には打ってつけのアイテムだ。


一度距離を取り、メニューを開くと慣れない手付きではあるが『聖女の涙』を一つ使用した。するとUIの左上に表示されていた残り数ミリまで減っていたHPゲージが満タンまで回復し、HPゲージの下に見慣れないアイコンが表示されていた。恐らくこれが自然治癒(リジェネ)のアイコンだろう。


「ふんっ!」


「うおっと」


流石と言うべきか五輪之介は大分距離を取ったはずなのにもうすでに目の前におり、攻撃モーションを取っていた。この連撃は…左下、右斜め、左フェイントからの胴体を狙った突き、か。


五輪之介の斬撃速度は先程より上がり、反応しづらくなった。しかし、ある程度だがパターンを覚えてきた。それに目も慣れてきたため、大分攻撃を目で追えるようになってきた。


これだけ覚えたのならつい先程思いついた作戦が実行できる。そう確信した俺は五輪之介を倒すため、作戦を開始した。


「せやぁぁあ!!」


相手の攻撃がくる瞬間に、当たらない位置から地道に攻撃を与え、隙を伺う。


「…!…ふっ!」


防戦一方だった状況が一変した。状況は俺が避け続けていた先程までとは違い、俺も反撃し始めたため、五分五分、どちらかと言えば地道にではあるがダメージを与え続けている俺の方が有利と言えるかもしれない。


「ふっ!」


右斜めから振り下ろされた五輪之介の大太刀による振り下ろしを、刀身を滑らせるようにして捌く。


「ぬん!」


続けざまに今度は左手に持った刀で俺の胴体目掛けて横薙ぎに斬りつけてくる。

その攻撃もくることが予め分かっていたので、タイミングを合わせ刀を踏み台にし、回避した。

奴が両手に持つ刀を両方とも振り切った、今この瞬間こそを待ち望んでいた。


空中で短剣を五輪之介の顔に目掛けて投げつける。


「ぬぅ!」


完全に隙をついたと思っていたが、その攻撃を左の手甲で防いだ。だがそこまでは予想通りだ。

即座にサブ武器にセットしていた弓を持つと即座に五輪之介目掛けて射る。

同じく左の手甲で防ごうとするが、先程の防御で僅かに体勢を崩していた五輪之介の体がさらに後ろへ倒れた。


「なんと!?」


五輪之介がよろけたのを見逃さず、弓を投げ捨てると、矢だけを右手に持ち空中から五輪之介に向かって飛び蹴りを喰らわせる。

ここまでの攻防で体勢を崩してしまっていた五輪之介はそれがとどめとなり後方に倒れていく。追撃するように右手に持った矢を五輪之介の顔目掛けて振り下ろした。


「ぐっ…!」


ここまでに蓄積させたダメージ、さらに今の攻防で与えたダメージ。そして五輪之介の顔に叩き込んだ矢のダメージ。これらすべてを合わせて五輪之介のHPはようやく四分の一程度まで削れていた。


するとどうしたことか、五輪之介が二振りの刀を鞘に納めた。今度は何をするのかと集中して観察すると五輪之介がわなわなと震えだした。新しい攻撃がくるのか、と構えると突然大声で笑い始めた。


「くっ…くく…ふは、ふはははははは!」


「何が可笑しいんだ」


「いや、すまぬな。我のことをここまで追い詰めた人間は居なかったもので、な…。だが故にこそ惜しいのだ…御主はこれからまだまだ強くなる。しかしここまでくれば我はもう少し力を出さねばならなくなる。そうすれば御主は間違いなく死んでしまうだろう。ゆえに、最後にこれを受け取ってもらいたい。そして今出せる限りの力を出し、我ともう一度戦ってはくれぬか」


そう言い俺に手渡してきたのは二本の刀だった。一つは先程まで五輪之介が左手に持ち使用していた、赤黒い刀。刀の名は獄刀『不知火』。刀身は赤黒く華美な装飾は無い。鞘は黒く、赤い下緒が伸びている。持った瞬間に手が馴染み、分かってしまった。この刀は強い、と。


「それは我の持っている刀の中でも至高の刀の内の一つ。獄刀『不知火』だ。そやつは持ち主を選ぶのだが…どうやら御主は大丈夫なようだな。もう一つの刀はこれだ」


大量に下げられた刀の中から掴み、俺に渡した刀。鞘は光沢のある黒曜色で鍔の部分には金色の装飾が施されている。それ以外は一見何の変哲もない刀のように見える。鞘から抜いて刀身を見てみるとそれは間違いだったと思わされた。刀身には紅梅色の桜の模様と金色の装飾が刻まれており、自然と目を奪われるような魅力を感じた。


「それも我の持っている至高の刀の内の一つ。血刀『狂い桜』。そやつは少し取り扱いに気を付けた方が良いだろう。血を吸えば吸う程切れ味が良くなる、だが刀に呑まれるな。努々忘れるな。さて、新たな武器も渡したことだ。さあ死合おうではないか」


訂正

「使用でございます」―「仕様でございます」に訂正

「世界の涙」―「聖女の涙」に訂正

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