強欲ヨ全テヲ喰ラエ 拾
皆様のおかげで総PV回数十万回を達成することが出来ました。
これからも『Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG』をよろしくお願いします。
(*- -)(*_ _)ペコリ
地面で渦巻く闇の中に放り投げられた『永光のオーブ』が眩い光を発した。
光は徐々に広がりを見せ、闇を上書きするように浸食していく。
光が闇を侵食するたびに中心にいるナインテールが顔を抑え、苦しんでいるように見えた。
麒麟を助けるとすればチャンスは今しかない。
意を決した俺は麒麟のもとへと駆け寄った。
「今助けてやるからな!」
アイテムボックスから『世界樹の葉』を取り出すと、麒麟にそれを使用する。
倒れた麒麟の上部に表示されていた秒刻みのカウントは消え、左上に表示されるパーティーメンバーのHPゲージも見えるようになった。
「ク…ヒヒ…!ヤラサネェヨ!!」
しまった!麒麟に『世界樹の葉』を使っている今、迫りくるナインテールの尻尾を防ぐ術が俺にはない。
考えろ。
頭を使え。
きっとこの状況を打破する方法があるはずだ。
その時、間近から銃声の音が三発分聞こえた。
「グッ…!モウ蘇生シヤガッタカ!」
その銃声の出所は言わずもがな麒麟だった。
体は俺が上半身を僅かに起こしているが未だに倒れた状態で腕を伸ばし、迫りくるナインテールの尻尾を撃ち抜いたのだ。
「まったく、頭上には気をつけなきゃだぞ?GENZI」
「ナイスアシストだ、麒麟」
いつになく真剣な表情で麒麟が俺に言った。
「GENZI、聞いてくれ。俺の作戦をやるにはやっぱり俺一人の力じゃ無理だ。だからお前の力を借りたい」
「元からそのつもりだよ。俺は麒麟の合図を待ってたのにお前が一人で戦うから」
「ごめんごめん、じゃあ作戦は――――」
~~~~~~~~~
「了解、今は『永光のオーブ』のおかげでナインテールが弱ってる。この隙に片をつけよう」
「頼んだぞ、GENZI!」
「任された!」
俺はナインテールへと突貫する。
それを邪魔するようにナインテールの尻尾が俺へと迫る。
『永光のオーブ』の影響を未だに受けているようで、ナインテールの攻撃は明らかに遅くなっていた。
これなら簡単…とは言わないがさっきに比べれば楽に避けられる。
「『転身』」
走りながら身を屈めることによってその攻撃を避ける。
近付いているがそれでもまだ俺の射程じゃない。
だがこれでいい。
麒麟の立案した作戦においては今の距離こそが最適解だ。
迫りくる尻尾を避ける。
次に来た尻尾を避ける………
連続して繰り返される攻撃。
それらは俺は回避し続ける。
そう、俺の役目はナインテールの足止めだから。
~~~~~~~~~
「『コンプレスバレット』」
「『コンプレスバレット』」
「『コンプレスバレット』」
今、GENZIが時間を稼いでくれている。
先程まで行っていたように弾丸を圧縮し続ける。ついさっきまで一人でこなしていたことを二人で分担するだけで驚くほど効率が上がった。
初め、俺はGENZIに信じてくれるか、と聞いた。その問いかけにGENZIは応えてくれた。
それなのに俺はその信頼を無下にし、戦いの熱に晒され、一人で戦おうとした。
全くもって俺は駄目人だな。それでもGENZIはまた俺のことを信じて、この作戦にのってくれた。
もう失敗は許されない。だからといってプレッシャーを感じているわけでもなかった。
俺は一人じゃない、俺にはGENZIが付いているから。
「『コンプレスバレット』」
これで計十回の圧縮が終わった。十発の弾丸を圧縮して造られた弾丸を撃ち出すスキル。
それが『ユッドバレット』だ。なら十発の弾丸を圧縮したこの弾をさらに十発揃えて圧縮したらどうなるのか。
答えはこうだ。
「『コンプレスバレット』!!」
十発の弾丸を圧縮して造られた弾をさらに十発分用意し、圧縮する。
そうすることによって出来上がる弾は弾丸百発分の威力と速度、そして重量を持った最強の一発となる。
だがそれで終わりじゃない。
『バレットチェンジ』で『セイクリッドバレット』に変えた事によって弾丸に聖属性が既に付与されている。
しかし、重ね掛け出来るものを俺は持っている。
『墓守』のベールを討伐した際に手に入れた魔導書。それを使うことで手に入れた魔法、『黒炎』。
これを弾丸に付与する。
「マジックエンチャント『黒炎』!」
『黒炎』一回につきのMP消費量は100。
普通に考えれば俺の総MP200からして二発の弾丸に『黒炎』を付与するので精一杯だ。
だが『コンプレスバレット』で圧縮した弾丸に『黒炎』を付与すれば何十、何百もの弾丸に『黒炎』を付与するのと同じことができる。
「GENZI!!」
事前に取り決めていた通り、GENZIは呼びかけに反応して即座に俺の射線上から退く。
計百発の弾丸を圧縮して出来た弾を射出するスキル。
「『クフバレット』!!」
撃った瞬間のあまりの反動の大きさに俺の体が後ろに投げ出される。
地面に倒れた状態で分かったことは前方で眩い光と黒い炎が立ち昇ったこと、そして遅れて凄まじい射撃音が聞こえてきたことだけだ。
倒れた体を起き上がらせ、すぐさまナインテールに弾丸が命中したのか確認する。
俺はナインテールの姿を見て驚きを隠せなかった。体に文字通り大砲で撃たれたかのような大きな風穴が空いていたのだ。
「ここまで威力が出るのかよぉ…?」
何が起きたのか分からないかのように呆然と仁王立ちしていたナインテールが、直立不動のまま背後に倒れた。
ピクリとも動かないナインテールの姿と作戦を無事に成功させたという安堵がどっと押し寄せてくる。
俺がGENZIの方に近づこうとすると、GENZIの顔はまだ険しいままだった。
「GENZI?どうしたのさ、もうナインテールは倒したんだよ?」
「いや、ユニークモンスターがこんなので終わるはずがない…俺が五輪之介と戦った時もそうだった。何段階も形態があって、形態が移るたびに強くなる。それがユニークモンスターってもんだ」
「それってつまり…」
俺の言葉が続けられるよりも先に異変は起きた。
ナインテールの体から黒い煙のようなものが吹き出す。
高く高く昇るその煙から何か嫌なものを感じた。
「GENZI…これって…」
「ああ…第三形態だな」
~~~~~~~~~
麒麟の作戦通りに事は進み、最後は麒麟が複数のスキルを重ねて使用した奥の手でナインテールを倒した。
その凄まじい威力に驚愕を禁じ得なかったが、それでも俺の心の中の不信感を取り除くことはできなかった。
ナインテールは確かに強いが、どうしても五輪之介と戦った時ほどの絶望感を感じることがなかった。同じユニークモンスターなのだから何かしてきてもおかしくないというのに。
妙な胸騒ぎがする。
その時、ナインテールの体から空高く黒煙が伸びていた。
やはりナインテールは今ので終わりではなかったのだ。
俺の勘が告げている。ここからが本番だと。
「麒麟、ナインテールを撃て」
「え?」
「いいから早く!!」
俺の焦りを感じてか麒麟がナインテールに向かって二発の弾丸を発射する。
「『ファイア』」
即座に弾丸を装填すると、同様に二発の弾丸を微動だにしないナインテールの体に打ち込んだ。
「『リロード』&『ファイア』!」
それと同時に黒煙が収まり、辺りは静まり返る。
俺は一瞬麒麟の攻撃が間に合ったのだと思った。
しかしそれは大きな勘違いだったのだ。倒れているナインテールの体に変化が起きた。
体に巻き付けられていたはずの包帯が一人でに解かれていくのだ。
あっという間に包帯は全て解け、ナインテールの肌が見えたかと思うと、ナインテールの体が二つに分かれた。
いや、二つに分かれたという表現は間違っているかもしれない。
ナインテールの体から大きな黒い狐が這い出てきた、と言うべきかもしれない。
するとナインテールも、むくりと起き上がり虚ろな瞳でこちらを見つめた。ただ無言でこちらを見つめるその姿に一種の不気味さを感じる。
黒い狐は完全にナインテールから這い出ると、俺達をまるで得物に出会ったかのような目で見てきた。
そして口端を歪め、目を糸のように細くし、今までのように狂気じみた笑みを浮かべる。
「クヒヒ…ソレジャア仕切リ直シトイコウカ」
その言葉を合図に戦闘が唐突に開始された。
俺達が僅かな隙を見せたのをナインテールと黒い狐は見落とさなかった。
「『…………』」
ナインテールが何かを呟くと地面から壁のようなものが現れ、丁度この広い空間を二等分にした。
「何!?」
俺と麒麟はナインテール達の思惑通り分断されてしまったわけだ。
これは不味いことになった。
ただでさえ強力なユニークモンスターが二体もいるとなると勝率はグッと下がる。
一体一体の強さが五輪之介並みだとすれば、最早勝ち目は無いに等しい。
だが、もちろん諦めるわけはなく、俺は真正面を見据えた。
俺の正面に立っていたのはナインテールだった。
つまり、この壁の向こうでは麒麟が黒い狐と対峙しているということだ。
俺は壁の方に向かって大きな声で叫んだ。
「麒麟!!俺も勝つから、お前も勝て!!」
意を決すると、俺から行動を起こした。
動こうとしないナインテールに近づき、一気に片をつける。
「『一刀両断』!」
上段からの斬り下ろし。隙は大きいが当たれば大きなダメージとなるのは必至。
『一刀両断』は実に上手く発動した。ただ俺は少しナインテールのことを舐めていたのかもしれない。
ナインテールはいつの間にか手に持っていた銃剣で『不知火』を弾き、俺の攻撃を見事に防いだ。そして掠れた声で呟くのを俺は聞き逃さなかった。
「『時を刻む者』」
ナインテールの呟きと同時に奴の後ろに巨大な時計が現れる。
時計には今現在針が無く、動いていなかった。
ただナインテールの後ろに存在するだけで何をするわけでもなく、ただそこにあるだけ。
だが逆にそれが不気味さを助長していた。
十中八九あの時計はナインテールのスキルだ。間違いなく何か仕掛けがある。
ただその仕掛けが何なのか俺には分からない。
「…『ファイア』…」
俺が悩んでいた所をナインテールの猛攻撃が襲う。
銃剣を使い、遠距離から俺を射撃してくる。ただその一発一発の威力が洒落にならない。
飛んできた弾丸を咄嗟に『狂い桜』の刀身で弾こうとしたが、弾けなかったのだ。
弾丸が刀身に触れたというのに弾かれるどころか、弾の勢いは増し、心なしか重くなっている気がする。
他に方法がないため弾丸を後ろに滑らせるようにして受け流すと、背後で爆音がした。
恐る恐る振り返ると弾丸の着弾地点がクレーターのようになっていた。恐ろしいことこの上ない。
今度は一発ずつではなく、何発もの連射、しかも射撃しながら俺との距離を詰めてくる。
今の経験でこの弾を防ぐのは愚策だと分かったので、全て回避するように努める。
だが、回避すると言っても一筋縄ではいかない。この弾丸、途轍もなく速いのだ。
この速度は五輪之介の攻撃速度と同等と言えるだろう。
しかし、それらを回避することに専念していると、近づいてくるナインテールの銃剣による近距離攻撃に対応しきれない。
「くっ…!」
「『トライアングルステップ』!!」
すんでの所で『トライアングルステップ』を使うことによって何とか窮地を脱することが出来たが、本当にどうしたものか。
離れれば五輪之介の攻撃速度と同等の超高速の弾丸が俺を襲い、近づけば凄まじく的確な銃剣による近距離攻撃を受けることになる。
遠近どちらでも戦うことのできるオールラウンダーがここまで厄介だとは思っていなかった。
俺の視線がナインテールへ集中していた時、ナインテールが銃剣を持っていない左手に懐中時計を持っていることに気が付いた。
そしてその懐中時計を握り締めると、ボタンを押し、掠れた声で呟いた。
「…『ファーストクロック』…『フォースクロック』…」
その言葉と同時に体から力が抜け、体のあまりの重さにその場に倒れ伏す。
一体何が起こっている?
ナインテールがスキルを発動させたかと思った瞬間、俺の体から力が抜けた。
それだけじゃない。俺の体にまるで石像が乗っているかのような重みが加わった。
一歩一歩確実にナインテールは俺のもとへ近づいてきている。
冷静になれ。
思考を乱すな。
目の前のこの問題にだけ集中するんだ。まず出来事をまとめてみよう。
ナインテールは二つのスキルを使用した。『ファーストクロック』と『フォースクロック』。
それらを呟くと同時に俺は今の現状に、そして時計の針はⅠとⅣを指している。
本当にそれだけか?
何か見落としているんじゃないか?
ぐるぐると渦巻く思考の渦に飲まれていく。思考の激流の中、その中で一つ思い出した。
そしてそれがこの状況を打破する鍵になると俺の直感が言っていた。
~~~~~~~~~
マジかぁ。完全にGENZIと分断された。
目の前にいるのはナインテールの中から這い出てきた黒い狐。
その見た目を表すならば闇、という単語が最も近いだろう。
黒い体毛に覆われた、九尾の尾を持つ狐は口端を吊り上げ、目を細め、心底楽しそうに歪んだ笑みを浮かべていた。
「クヒヒ…クヒャヒャヒャ!サァ…サッキノ借リヲ返サセテモラオウカ」
全身に鳥肌が立ち、汗が噴き出した。
不味い、このままだと負ける。
俺の本能は今すぐこの場を離れろと告げていた。
それでも俺はその場を離れなかった。
もうGENZIの信頼を裏切りたくなかったから。
この壁の向こうではGENZIが戦っている。だが一度GENZIのことは考えないようにした。
今俺が考えるべきなのは目の前の怪物をどう倒すか。
それだけだ。
黒い狐も戦闘態勢を取り、いつ戦闘が始まってもおかしくない空気。
その空気を黒い狐の動作が壊した。
何かを思い出したかのように俺の方に向き直ると、俺に語り掛けてきた。
「オットソウダ、俺ノ名前ハ“マモン”ダ。ヨロシクナ人間。クヒヒヒ!」
それだけ言うとマモンが動いた。
その巨体からは考えられない程俊敏な動きで俺のことを翻弄させながら、尻尾で攻撃してくる。
「『アクロバット』!」
尻尾による連続攻撃。それらを何とか回避する。
いくら回避していても戦況は変わらない。
俺は危険を承知で空中で『アクロバット』の動作を無理矢理止め、マモンに弾丸を浴びせた。
全弾命中。
しかし効果があったのかと言えば答えはNOだ。
その黒い体毛によって全ての弾丸の威力が吸収されてしまっている。
マモンはニタァと歪んだ笑みを作りこちらに向き直る。
「サッキヨォ、オ前ガ使ッテタアノ黒イ炎。アレッテコンナ感ジカ?」
「模倣『黒炎』」
マモンがスキルを発動させた。
魔導書を読んだわけですらないというのに、一度俺が使っている所を見たというだけでマモンは『黒炎』を習得していた。
しかもただ習得したわけではない。その『黒炎』を九本の尾に同時発動させている。
既に自分のものへと昇華させているのだ。
恐るべき吸収力。俺のスキルの殆どが銃を必要とするものだったから良かったが、もしも俺が魔法使いだったらと考えると如何にマモンが恐ろしいか分かる。
どれだけ強力な魔法を使おうとも、一度使ってしまえばそれよりも強力な魔法にしてマモンが使ってくるのだから。
「ソラヨ」
『黒炎』は俺のことを追尾してくる。
速度は無いが、確実に俺に当たるまで空中を彷徨い続けている。
それだけならばまだ救われたがマモンはそこまで甘くなかった。
『黒炎』とは別に先程のように俊敏な動きで駆け回りながら、その鋭利な鉤爪で俺のことを引き裂こうとしてくる。
自動追尾による『黒炎』と、高速で迫りくる鋭利な鉤爪。
この絶対絶命の状況に迷っている暇は無かった。
「【インビジブルスペース】」
「ヌ…?」
咄嗟に奥の手である【インビジブルスペース】を使用してしまったが、『黒炎』が俺のことを追尾してくるため姿が見えなくてもマモンには『黒炎』を頼りに俺の居場所がバレてしまう。
完全にタイミングを間違えた。
【インビジブルスペース】にもデメリットはある。
使用すればするほど集中力が切れやすくなり、思考が纏まらなくなるのだ。
「クヒヒ!姿ガ見エズトモ、オ前ノ居場所ハバレバレナンダヨ」
案の定マモンは俺のいる位置をある程度絞って、鉤爪と尻尾で攻撃し続け、俺を炙り出すつもりのようだった。
その時だ。
明らかにマモンの動きが変わった。
動きがさらに機敏になり、尻尾が接触した地面は粉々に砕け、鉤爪が引き裂いた場所には爪の跡が深々と残っている。
その姿はまるでLVが上がったかのようだった。
「クヒヒ…!クヒャヒャヒャヒャヒャ!ナインテールノ野郎、モウ奪ッタノカ」
今のマモンの独り言、少し気になる点があった。
ナインテールが何かを奪ったという意味に聞こえたが一体何を?
それにマモンのいきなり動きが機敏になったあの感じ、まるでLVが上がった時の様に見えた。
あれは一体何だったんだ?
「おっと…!」
謎は深まるばかりだが、それをいちいち気にしている暇もない。
確かに重要なことな気がするが今はこの破壊の嵐を止めることが最優先事項だ。
GENZIよりも速くマモンを倒して、加勢に向かってやるとするか。