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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
欲を使役し欲に呑まれた英傑よ
16/138

強欲ヨ全テヲ喰ラエ 捌


「『ファイア』!」


麒麟の銃口が男へと向けられ、弾丸が射出される。その弾丸は見事に命中したが、ついた傷は掠り傷だけだ。


「ワァーオ…!とっても硬いね…!」

「フゥゥ…!」


それに激情したのか、男は麒麟の方に振り返った。こちらからでは表情を読み取ることはできないが、背中からでもその怒気が感じ取れた。


「麒麟!!気をつけろ、影だ!!」

「分かってる…よ!」


今度は麒麟の影から伸びたわけではなく、俺の影から伸びた闇色の触手が麒麟に狙いを定めた。


「『ファイア』!」


今度は迫りくる触手をギリギリまで引き付けると、右手に持った『ロージュエリオット』で触手を撃ち抜く。どうやらその効果はあったようで、命中した触手の動きが鈍くなった。


「おっとぉ?これは効果あるんじゃない?」

「それは俺も思った…ぞ…!」


触手は次の標的として俺を選んだらしく、二本の触手が同時に俺を狙う。左右から挟み込まれるように迫ってくる触手達を、一本の触手に『狂い桜』を突き立て、それを軸とすることによって体操選手のように空中へ飛び上がり回避した。


「ウゥゥゥゥゥ…!」


先程までは一本しか出現しなかった触手が二本に増えたのは恐らく、麒麟の銃撃がヒットしたことと何か関係があるのだろう。


現に今、俺が刀を突きささなかった触手を使い、触手に刺さった刀を抜くと、負傷した触手を影の中に戻し、新たに二本の触手が追加され計三本の触手が姿を現した。


「麒麟!触手達は今俺に注意を向けている!だからお前が本体を叩け!!」

「りょーかい!!それじゃあ行かせてもらうよ!」


麒麟が本体の男に銃撃するのと同時に触手達が麒麟に標的を変更し、突き刺そうとする。俺はそれを見逃さなかった。


このまま普通に動けば間に合わないことは感覚で分かった。だからその瞬間、新しい力を使うことにした。ガンツさんにより強化してもらった蛮竜の脛当てに付与された特殊効果、『墓守』。それはクールタイムを必要とする代わりに任意のタイミングで加速ができるというもの。今がその時だ。


「『墓守』『加速』!!」


俺の声に反応し、加速される。俺が一歩踏み出した時にはシステムによって数歩先に移動させられているような奇妙な感覚。だがその速度は今までの比にならない。


「『スパイラルエッジ』!」


加速の勢いを使い、渦を巻くようにして触手を斬る。


そのまま切り落とすつもりだったのだが、触手を切り落とすことは出来なかった。先程までの触手のHPならば間違いなく切り落とせたはずだ。


触手のHPを確認すると、今まで気づいていなかったが触手のHPが()()になっていた。


「ははは…そういうことか…」


俺の仮説が合っているとしたら恐ろしい事この上ない。だが自分の仮説が信じたくないのに当たっていてならなかった。思わず零れた苦笑いを、口を引き結んで止める。


「麒麟!この戦い、長期戦になる可能性が高い!この触手は一本倒すごとに触手が一本追加され、尚且つ全ての触手のHPが二倍になる!!」

「嘘っそぉ…」


麒麟の消え入るような悲鳴を聞いている暇もなく次の攻撃の波が目前まで近づいていた。


「『トライアングステップ』…!」


右、左、右と、触手の動きを翻弄しながら回避していく。ようやく動き(リズム)が読めてきた、触手達のリズムが今まで戦ってきたモンスターのそれとは全く異なっていたので覚えるまで苦労した。確かに今までモンスター相手にこんな動き(リズム)を感じたことは無いがどこかで感じたことがある気がしてならなかった。


そこで触手の動きが変化した。先程までの単純な動きではない、これは…明らかに強化されている。その動き(リズム)の変化に対応しきれず、反応が一瞬遅れる。


「しまっ…!」


触手が俺の体に触れ、俺は遠く離れた岩壁まで吹き飛ばされた。勢いよく壁にぶつかり、壁には大きな窪みができ、俺はその場で倒れた。


「プレイヤーGENZIの死亡を確認しました」


どこか遠くに聞こえる俺を呼ぶ声。無慈悲にも告げられる死の宣告。ここまで来て、俺は負けるのだろうか…


~~~~~~~~~


「お前の相手は俺だ!」


触手を操るのに集中している男の事を俺は狙う。コイツを倒せば触手も動かなくなり、クエストクリア、万々歳だ。そのためにも俺はやらねばならない。


「ダブル『ファイア』!」


『零式』と『ロージュエリオット』の同時射撃。流石にこの二つの同時射撃を受ければ如何にユニークモンスターといえど無傷では済まないはず、そう考えていた。


「な…」


結果は芳しくなかった。ダメージは0とは言わないが微々たるものだった。これは純粋に俺の火力不足によるものだろう。元々ユニークモンスター相手に力を温存しようというのが間違いだったのだ。俺は自身にバフをかける。


「『アクセラレート』『クイックリー』『ストレングスパワー』『闇の衣』!!さらに…!『バレットチェンジ』!『セイクリッドバレット』」


コイツの属性は明らかに闇。このゲームに存在する属性相性で言えば闇属性と思われるコイツには聖属性の攻撃が有効なはずだ。


男は触手を操作するのに集中しており先程からその場を微動だにしていない。舐められたものだ。俺の攻撃は許容してもいいほどの威力としか思われていないらしい。


後ろを振り返ると触手三本相手に果敢に戦うGENZIの姿が見える。俺も負けてはいられない。


「『チャージ』!」


奴はこちらに見向きもしない。


「『チャージ』!」


それでも奴は触手を操るのに集中している。


「『チャージ』!」


その場を一歩も動こうとしない。


「『チャージ』…!」


まるで俺のことを意識していないとでもいうように。


「『チャージ』!!」


それらの行動が可笑しくてふっと鼻で笑ってしまう。


「ふふっ、ありがとよ罪人さん。お前が俺に見向きもしないおかげで初めから飛ばさせてもらえるよ」


そして最後のスキルを発動する。


「『オーバーチャージ』…!!」


これで残す準備はただ一つ。


「『コンプレスバレット』」


十発の弾丸を一発の弾丸へと圧縮する。準備は完全に完了した。何時であろうと打てる状態、敵は隙だらけ、そんな状態で俺が外すわけがない。


「『ユッドバレット』!!」


強烈な火薬の香りと、凝縮された魔力の白い光。奴が弾丸に気付いた瞬間には弾丸は既に奴の眼前まで迫っていた。


爆発音と共に吹き飛ぶ奴の頭、これで終わりだと思った。だが俺は異変気付く。本体であるはずの男を殺したのに何故、GENZIを狙う触手は動き続けている?


俺はその瞬間、からくりに気が付いた。しかし…


「残念ダったナァ!もウお前らノ負けサ!!」


何かが物凄い勢いで俺の横を通り過ぎる。激しい激突音と共に岩の破片がここまで飛んできた。


恐る恐る触手たちの方を見るとGENZIの姿がどこにもない。まさか…と思い、衝撃音のあった岩壁を見ると倒れたGENZIの姿があった。


「GENZI!!大丈夫か!?GENZI!!」

「余所見してル余裕あんのカよォ!」


三本の触手が俺へと襲い掛かる。咄嗟に跳んで避けたが、空中では回避が困難となり、残りの二本の触手がその瞬間を待ちわびていたかと言わんばかりの勢いで、俺のことを突き刺そうとする。


「クッ!『アクロバット』!」


何とか空中で凌いだが…


(本当にやられちまったのか?GENZI…!)


~~~~~~~~~


手も足も動かず、体を起こすことが出来ない。ぼんやりと見えるのは前方で一人戦う親友の姿だった。触手からの攻撃を避け、反撃をして着実にダメージを与えている。


それに比べて俺は…それに比べて俺はどうなんだ…ただ倒れ伏し、情けなく地面に這いつくばって指を咥えて待っているつもりか…!?違うだろう。


俺が今すべきことは…そうじゃないだろう…!今まで音ゲーで何度も苦渋を飲まされ、惨敗し、何度も挫折しそうになった。それでも俺の心は折れなかった。


このゲームだって音ゲーと同じだ。何度も挫折しそうになり、その先にこそきっと強さが待っている。今俺がすべきことはただ一つ。


(立ち上がるんだ…!!)


「パッシブスキル『龍の血脈』の条件を満たしました。効果を発動します」


先程俺の死を告げたのと同じシステム音声が俺の復活を告げる。


パッシブスキル『龍の血脈』。発動条件はいたってシンプル、死ぬことだ。死の間際、この体に流れる龍の血脈に俺の強い意志が反応したとき発動する。効果は蘇生、その場で全回復して蘇るという反則じみたものだ。


もちろんデメリットだってある。俺の心を龍の血が蝕むのだ。頭の中で響き渡る破壊衝動と戦闘欲。それらを聞いているだけでどうにかなってしまいそうになる。


だが…


「俺の意志はそんなやわなもんじゃない…!!」


その瞬間、頭の中で響き渡っていた破壊衝動と戦闘欲がは消え去り頭はクリアな状態になる。


「待たせたな、麒麟!」

「GENZI!?やっぱりこんな所で終わらないよな、お前はさ!」

「行くぞ!!」


俺達は駆ける。今の俺達のモチベーションは最高潮に達しようとしていた。モチベーションの高い時の俺達は…どんな相手だろうと負けることはない。


「ダブル『ファイア』!!」

「『スピンスラッシュ』!」


俺達の攻撃は三本の触手全てを破壊した。


「オのれェ…!!」


三本の触手を破壊したことによって今度は六本の触手が現れる。やはり俺の破壊した触手一本につき一本の触手が追加されるというのは正しいようだ。


「麒麟!一気にこのまま触手を破壊するぞ!」

「OK!でもさ、二の三乗だからさっきの八倍の体力だけど大丈夫なの!?」

「大丈夫だ!俺を信じろ!」

「じゃあ信じるからね!」


迫りくる触手達、それらは先程のように動き(リズム)の違った攻撃。俺はこの攻撃を喰らってしまった。それは何故か。答えは単純だった。俺が動き(リズム)を覚えようとしていたからだ。


最近の俺はBeat Sword Dancerをプレイするときは必ず『Annihilation of hope』のALLPERFECTを取ることだけを考え、譜面を覚えて淡々と音ゲーをプレイしていた。でもそれは違ったんだ。


確かにAP(ALLPERFECTの略)を取ることも良いことだ。だけど元来音ゲーっていうのはその音楽(リズム)にのって楽しみながらプレイするものだ。俺も初めはそうだった。音楽(リズム)にのるのが楽しくてしょうがなかった。きっとその感覚こそが今の状況の突破口だ。


触手達のその独特な動き(リズム)を感じ、受け入れ、その動き(リズム)にのるんだ。


「楽しい戦いを(ダンス)始めよう…!」


俺の中でカチャリと何かが開くのを感じた。閉ざされていた扉が開いたような、そんな感じが胸の奥底にあった。


触手の動きに合わせて攻撃を擦れ擦れのところで回避する。一歩間違えば当たる距離。だが俺に当たることは決してない。俺は触手の動き(リズム)に合わせて動いているからだ。


「GENZI…お前…」


麒麟が何かを言っていた気がするが、動きながらだと小声まで聞き取ることはできなかった。今はそんなことよりも眼前の触手をどうするかが大切だ。


とはいえ、計画は既に立てている。


「『ビーストハウル』『ウィンドスピリット』『インファイト』」


俺の持ち得る全てのバフをかけ、さらにマーガレットにバフを俺に付与する。


「マーガレット!!」

「ピーッ!」


『雛鳥の応援・剛』『雛鳥の応援・堅』『雛鳥の応援・速』の効果がさらに加えられ、俺のステータスは恐らく通常時のそれを遥かに上回るものになっているだろう。


「フゥゥゥゥゥ…!」

「おっと…!」


触手六本による複雑な同時攻撃。ほぼ全方位を囲まれ逃げ場がないように思えるその攻撃は俊敏で、尚且つ当たれば即死、次は蘇生もしない本当の死が待っている。


しかし、緊張感は無かった。何故なら触手の攻撃の動き(リズム)は読み、バフでAGIが上昇したことで触手の速度も何ともなくなったからだ。


(今だ…)


「『ソードダンス』」


UEOのスキルは発動すればシステムが自動的に動作をアシストしてくれる。だがプレイヤーの意志で動くことだって可能だ。そのためこのような芸当も出来る。


触手の攻撃を絶妙なタイミングで避け、攻撃してきた触手を斬る。上からの攻撃を避け一撃、左右からの同時攻撃を避け二撃、三撃…


舞うように触手の攻撃を避け流れるように斬撃を繰り出す。極度の集中力と繊細な操作、卓越したプレイヤースキルを必要とするそれを今の俺()()()()()難なくこなせる。


そしてここで連続してスキルを使用する。


「『ソードダンス』…!」


同様に舞うような回避と斬撃を繰り返し、触手のHPを削り取っていく。


やはりこのようなことが出来るのは今だけだろう。この状況により上昇したモチベーションは最高潮、事前に飲んだALIEN:Transcendecseによって得られた極度の集中力、そして思い出した動き(リズム)にのることの楽しさ。


これらが重なったからこそ今俺は戦えている。


「オオオォォォォ!!?」


六本の触手を全て切り落とした。全て例外なく、だ。


だから触手は十二本に増えると考えていた。だが実際は違い、触手は九本までしか増えなかったのだ。理由も分からず、ただ疑問に思っていると、触手と本体である男の方に変化が起きた。


触手は九本出てきたかと思ったら全てが影の中に戻り、男は突然苦しみだした。


「ウグゥゥゥゥ…アアアアァぁぁぁぁぁぁ!!」

「何だ!?男が急に…」

「あれは…?」


男は胸を押さえて苦しみだしたかと思うと、治まったのかこちらを向き、話しかけてきた。その声音には初めに感じられた理性の欠片が残されていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…くっ…俺はナインテール、お前たち…五輪之介に言われて来たんだったな…?」

「あ、ああ。そうだけど…」


何かを納得したような、悟ったような表情を見えたかと思うと、すぐに俺に向き直り真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。


「今ならまだ間に合う…俺のことを今すぐ殺せ!ウグッ…アアァァ…!早…ク!!」


どういうことなのかはさっぱり分からなかったが嫌な予感がした。


俺がどうすればいいのか躊躇いを見せていると、横から麒麟がナインテールの頭を撃ち抜いた。


「麒麟…」

「気にするな、あの人もこうすることを望んでいた」


これで終わった。そう思って麒麟は安どの表情を見せていたが俺にはそうは思えなかった。五輪之介の時もそうだった。ユニークモンスターというのは第二、第三形態を持っていると俺は知っている。


どうやら俺の予想は的中の様だ。


頭を撃ち抜いたはずのナインテールの姿がそこにはなかった。


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