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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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剱虎ヨ切リ裂キ断チ切リ力ヲ示セ 参

 

 鮮血にも似た深紅のポリゴンエフェクトが宙を舞う。

 胸に四つの風穴を開けた【ティルグリース】の瞳は大きく見開かれる。

 自身の身体に空いた銃弾による傷口を撫でると、獰猛な笑みを浮かべた。


「いいな、お前ら。ついこの間戦った時とは別人と思えるほどの成長、いや飛躍だ。この俺にこれだけの傷を負わせたんだ、誇ってもいい。この闘いでお前たちがそこの導き手頼りのお飾りじゃないこともわかったしな」


 そう話している間にも【ティルグリース】の傷口は塞がっていた。

 回復のための時間稼ぎかと、GENZI達が歯嚙みするが、【ティルグリース】は傷を癒したというのに武器を構えようとしない。

 それどころかその手に持っていた【硬雷剣(カラドボルグ)】と【草薙剣(クサナギノツルギ)】を地面に着き刺し、真摯な姿勢でGENZI達に語り掛ける。


「導き手の仲間がお飾りではなく、優秀な奴らで安心した。だがな、一番重要なことをまだ量れてねぇ、導き手、お前自身の強さだ」

「俺?」

「そう、お前だ」


 最後に【ティルグリース】の視線がGENZIの元で固定された。


「そのために、少しの間お前の仲間には静かにしていてもらうぞ」

「なにっ!?」


 その言葉を聞き、第一にGENZIが、続いて麒麟達も構えようとしたが【ティルグリース】の行動は誰よりも速かった。


「【毒蛇剣(ミュルグレス)】」


 呟きと共に動いた【ティルグリース】の動きはこれまでの力が遊び程度だったのではないかとGENZIに感じさせるほどのものだった。

 目にもとまらぬ隼の如き動きでGENZI以外の三人を薄く切ると、三人はその場で地面に倒れ伏せる。

 HPゲージの下には、大量のバフと共に、麻痺(スタン)のデバフアイコンが表示されていた。


「なっ!?」

「……っ!」

「うそっ……!」


 LVが上がり、準備を整えに整えた状況、加えて順調に進んだ攻略に麒麟達の心は僅かに浮足立っていた。それこそが、僅かな隙を生んだ。


「お前らはそこで少し待ってろ、俺が導き手の力を見極めるまではな」

「GENZIっ!」

「GENZI君! 駄目です! 一人で挑むのは無謀が過ぎますっ!」


 麒麟とクロエの声が響く。

 頭では理解している、【ティルグリース】と一対一で戦うことがどれ程無謀な事であるかなど。

 だが、脳裏にレヴィアの言葉が過った。

 ―(つるぎ)で戦って、実力を認めさせること……。

 レヴィアが言った唯一【ティルグリース】に勝てる方法。


「分かった、俺の力、お前に見せてやるよ」

「GENZI君っ!」


 GENZIが挑発的な笑みを浮かべながらそう言うと、背後から地面に伏したクロエが諫める。

 背後を少し振り返ると、苦笑いを浮かべながらGENZIはクロエに「ごめん」と言うと、【ティルグリース】の前に歩み出た。


「さあ、始めようか、導き手?」


 GENZIがこの無謀な戦いを挑んだのは、レヴィアの言葉だけが原因ではなかった。

【五輪之介】と対峙したときの一つのミスも置かせない闘い(ダンス)、【ナインテール】に追い詰められた時の緊張、【ウェネーウム】に刻んだ熱く燃えるようなビート。

 それら全てがGENZIのことを、音ゲーマニアとしてのGENZIのことを滾らせた。

 そして今、目の前にはこれまでの強敵達と並ぶ強敵が立ちはだかっている。

 音ゲーを楽しんでいた時から変わらない、GENZIは挑戦する壁が高ければ高い程――。

 ―ワクワクするな……っ!


「ああ、望むところだ、剱神っ!」


 それが戦闘の合図だった、GENZIと【ティルグリース】は誰に言われるわけでもなく、ほぼ同時のタイミングで地面を蹴る。

 瞬間、肉薄した二人の剣が交差した。

 甲高い金属音を上げ、何度も何度も繰り返される剣戟。

 その速度は、見守る麒麟達には知覚できない次元まで上昇していった。


 ♦


「くっ!」

「どうした? お前の力はそんなものか、導き手(ドゥクス)!」


 激しい、コイツの剣は今までに受けたどの攻撃よりも苛烈で、それでいて卓越した技巧を持っているから尚たちが悪い。

 俺はただ、【ティルグリース】の攻撃を避け、捌くことしか出来ない。


「では、こちらからいかせてもらうぞっ!」


【ティルグリース】が左手に刀身がやや長めの【硬雷剣(カラドボルグ)】を装備し、再び二刀流の構えを取った。

 さらに、追い打ちだと言わんばかりに【報復剣(フラガラッハ)】を出現させる。


 マジか……ただでさえ、今の状況の奴の動き(リズム)を捉えるので精いっぱいだってのに……っ!

 でも、やるしかない。それに、コイツ相手ならアレを使ってもいいだろ。


「それじゃあ行くぞっ!」


 左右からほぼ同時に振るわれる剣を避け、捌き、相手の動きを中止する。

 それでいながら、視界は広く。背後から迫る【報復剣(フラガラッハ)】を空中で体を捻ることで回避する。

 そこで猛攻は終わらない、俺が宙に浮かんでいるのを良いことに、【ティルグリース】は瞬く間に近寄ると【草薙剣(クサナギノツルギ)】を振るう。

 空気が裂け、斬撃は俺の元へと飛来した。


「っ……!」


 一瞬だけどアイツのリズムが聞こえたっ! おかげで何とか間に合ったか……。


 束の間の安堵、だがその時間は長くは続かない。

 背後から再び迫る【報復剣(フラガラッハ)】の音、さらに下には【硬雷剣(カラドボルグ)】を構えた【ティルグリース】、このままでは俺が負けることは明らか。


 仕方無い、一か八か賭けに出るしかないみたいだな……。

 ―静音の極意……。


 周りの音に注意を配りながら、俺は意識して呼吸を変える。

 師匠から教わった二つの極意の内、一つ。

【静音の極意】、特殊な歩法と呼吸法によって俺自身の音を消し、副次的な効果として無駄な動きを無くすことが出来る技。

 ここは空中だから純全に効果が発揮するかは分からない、だがこれに賭けるしかない……!。


「ふっ……!」


硬雷剣(カラドボルグ)】と【報復剣(フラガラッハ)】が同時に迫る。

【ティルグリース】が振るう【硬雷剣(カラドボルグ)】を【餓血】で受け流し、背後に迫る【報復剣(フラガラッハ)】を【不知火】で弾き飛ばす。


「ほお……」


 一瞬にして二つの攻撃を防がれたことでか、さすがの【ティルグリース】も感嘆の声を漏らす。

 絶望的な状況を打破したからと浮かれる俺ではない、ユニークモンスターとの闘いではいついかなる時でも油断は許されない。

 ようやく【ティルグリース】の動き(リズム)にも慣れてきた、今なら――。


「っ!」


 上から迫る雑音(ノイズ)、これは間違いなくさっきの雷のリズム。

 ここは不味いっ……!


「『縮地』ッ!」

「なに……?」


【ティルグリース】が何かを呟いていた気がしたが、天から飛来した落雷の轟音によって掻き消される。

 辺りを白く染め上げる雷は、稲妻となって地面を走り抜けた。

 地面が未だ青白い雷光を帯電している中、ようやく俺は地面に着地することが出来た。


「はぁっ……はぁっ……!」

「導き手、お前、名前は何という」

「はぁっ……GENZIだ!」


 荒い息を整えながら大声を上げると、【ティルグリース】は興味深そうに俺の事をじっと見つめた。何を見ているのかは分からないが、そこには何故か期待のような色が見えた。


「GENZI……かかっ! 覚えておこう、とは言ってもほんの二日程度の間しか覚えていられないけどな」


 何がしたかったのかと問いただす間もなく【ティルグリース】は剣を構える。

 だが、先程のようにこちらへと猛攻をかけてくるわけでは無く、挑発的な笑みを浮かべているだけだった。

 その視線にはかかってこいという、明確な意思を感じられる。


 ……舐められたもんだ、自分から仕掛ければいつでも勝てるからかかってこいということか? その慢心を後悔させてやる。


「『岩伏龍』、『一断』」


 二刀を同時に鞘から引き抜き、居合の要領で刀を振りぬく。

【ティルグリース】が剣で受けた瞬間に次の技へと繋げる。


「『四光』」


 一瞬にして四撃、二振りの刀で振るうため八つの斬撃が【ティルグリース】を襲う。

 だが、それでも【ティルグリース】は余裕を見せたまま笑みを絶やさない。

 斬撃を受けながら、【ティルグリース】が、後ろへ一歩下がる。

 そう、俺が誘導した通りの地点に。

 瞬間、地面が隆起し、岩の龍が口を開いた。


「よっと」


 岩龍の牙が【ティルグリース】を捉えるよりも先に、宙へと飛び上がると跳ぶ斬撃を岩龍に当て、地面から飛び出した俺の『岩伏龍』を対処した。

 だが、それも俺の予想通り。


「『疾風』ッ!」

「おっ……」


 俺が起こした竜巻は空中に居る無防備な【ティルグリース】を飲みこんだ。

 風の吹き荒れる音の中に金属音が混じるのを俺は聞き逃さなかった。


「はっ! こんな真似事が俺に通じるわけがないだろ」

「だろう……な!」


『疾風』を剣で切り裂き、そのまま斬撃を飛ばしてくることは音で判別済み。

 俺はもう準備してたんだよ、【ティルグリース】。


「『鏡花水月』ッ!」


 ―静音の極意……。

草薙剣(クサナギノツルギ)】から放たれた斬撃が飛び、正確に俺の首元を捉える。

 斬撃は俺を捉え、俺はその場に水となって崩れ落ちた。


「これは……五輪之介の」

「その通りだよっ!」

「っ!?」


 静音の極意との併用によって完全な気配の遮断が可能になる、俺は【ティルグリース】の背後をとると【ティルグリース】よりも先にスキルを発動させた。


「『六極』ッ!!」


 六対十二閃の閃きが【ティルグリース】の身体を走り抜け、その体は【不知火】の劫火によって半身を燃やし尽くされ、半身からはとめどなく赤いポリゴンを滴らせていた。


「やるじゃねぇか」


 やられているというのに浮かべた笑みは【ティルグリース】の嬉しさが滲み出ているようにも、戦闘狂としての戦いたいという戦闘欲求のようにも見えた。


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