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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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剱虎ヨ切リ裂キ断チ切リ力ヲ示セ 弐

 

「……っ!」


 吹き乱れる暴風、クロエは腕で顔を守りながら薄っすらと暴風の中心に目をやった。

 風の壁が姿を歪め、はっきりとは分からない。

 だが、クロエの目には確かに【ティルグリース】と剣を打ち合うGENZIの姿が映った。


「っく……! 風が止んだぞっ!!」


 麒麟の声に合わせ、駆けながら陣形を整えると、GENZIのフォローに入る形で飛び込んだ。

 飛び込んだ先でクロエ達が目にしたのは、前回神速の一撃で気付くことすら出来ずに殺された【ティルグリース】の剣と真っ向から打ち合うGENZIの姿だった。

【ティルグリース】のHPゲージに視線を向ければ、HPゲージが一割程減少している。

 それを見たクロエは納得し、麒麟は息を飲んだ。


「クロエ! スイッチだっ!」

「はい!」


 GENZIは鍔ぜり合った【ティルグリース】の短剣を、刀身を滑らせるようにして受け流す。

 これまでに無い動きに【ティルグリース】が感心したように目を見開くと、後ろから飛び出したクロエがGENZIの代わりに【ティルグリース】の前に立ちはだかった。


「『ナイツオブラウンド』ッ!」


 クロエの右手に握られた蒼剣が白い光を纏い、その刀身を巨大化させると、巨大な光の剣となって横薙ぎに振るわれる。

 迫る光の大剣を飛び越し、回避しながらクロエに接近すると、右手に持っていた短剣を宙に放り投げた。空いた右手には、いつの間にか刀身が大きく湾曲した剣、湾曲剣(ショーテル)が握られていた。

 剣を大振りに振るったクロエは咄嗟に盾で斬撃を防ごうとしたが、湾曲剣(ショーテル)はその湾曲した刀身を利用して盾の外側からクロエに襲い掛かる。


「くっ……!」


 視界に剣先が入った瞬間にクロエは後方へ身体を倒すが、湾曲剣(ショーテル)の切っ先はクロエの左腕から横腹に駆けて走り抜ける。

 薄く切っ先で裂かれただけだというのに、パーティー随一のHPを誇るクロエのHPゲージが、三割程削られた。

 クロエがダメージを負い、後方へと下がって回復しようとするが、【ティルグリース】はそれを許さない。

 下がろうとするクロエを標的と定め、一気に距離を詰め肉薄する。


「やらさねぇよ」


【ティルグリース】が獰猛な笑みを浮かべながらクロエへと肉薄し剣を振りかぶった瞬間、横から【ティルグリース】が持つ湾曲剣(ショーテル)の柄を的確に銃弾が射貫き、その衝撃で【ティルグリース】は湾曲剣(ショーテル)を取り落とす。

 横から邪魔を受けたことで【ティルグリース】の注目は麒麟へと集まり、麒麟へ向け突貫しようとしたが、麒麟と【ティルグリース】の間にGENZIが割り込んだ。


「『風車』」


 身体を大きく捻り、体が元に戻ろうとする力とスキルのアシストによってその身を巨大な風車へと変えたGENZIが【ティルグリース】に斬りかかる。

【ティルグリース】は尋常ではない速度で回るGENZIの動きを見切り、両手に剣壊剣(ソードブレイカー)を握ると、GENZIの刀を受け止める。

 風車は止まり、GENZIと【ティルグリース】の顔が近づく。

【ティルグリース】は口端を歪め、GENZIは驚愕によって口をぽっかりと開けた後、すぐに薄く笑みを浮かべた。


涼風(かぜ)よ、暴風(かぜ)よ、荒風(かぜ)よ……」

「……っ、まさかっ……!」


 GENZIは一層笑みを深めると、遠方で詠唱が完了した。


「『風神の暴風渦(アイオロス)』ッ!!」


 大気が歪むほどの暴風、風が集まり、天にも届くほど巨大な嵐の塔を作り上げる。

【ティルグリース】とGENZIは今、嵐の渦に飲みこまれていた。

 風は刃となって【ティルグリース】の全身に傷を負わせるが、GENZIには一切のダメージは無い。

 何故なら、それがUEOの仕様だからだ。


「かかっ! 中々やるようになったじゃねぇか。前回は呆気なく俺に首刎ねられて死んだってのによ」

「人は誰しも成長するもんだ。失敗や敗北は、その成長を飛躍へと変えるんだよ」

「かかかっ! そうだなっ! その通りだ! 人間(ヒト)と言えなくなってから、俺は忘れちまってたみたいだ……。俺達人間(ヒト)の進化の可能性をっ!!」


【ティルグリース】のHPは三割を削り、残すは七割というところまで減少させた。

 だというのに。

 ―何だ? この嫌な感じ……。まるで……。

 GENZIが肌で何かを感じ取った瞬間、【ティルグリース】は新たな剣を取り出した。

 その剣はこれまでの剣とは明らかに異なった。

 柄まで全てが青銅で作られた剣、その剣から放たれる威圧感はこれまでの剣とは明らかに違う。

 これまでの剣はあくまでも()()の剣、だがこの剣は明らかに()()()()()()

 咄嗟にGENZIは声を張る。


「全員、避けろっ!」


 GENZIの声が届くか届かないかという瞬間、【ティルグリース】は右手に握ったその剣を振るった。


「薙げ、【草薙剣(クサナギノツルギ)】」


 軽く一振り、横に剣を薙いだ。

 たったそれだけ、たったそれだけのことで、【ティルグリース】とGENZIを取り囲んでいた嵐の塔が横に両断された。

 そのまま勢い余った斬撃波は遥か彼方まで飛んでいく。


「……っ」


 唖然、GENZI達は一様にその様子を呆然と見た。

 あまりにも規格外の威力、だが、これくらいもまだ想定の範疇。

 GENZIと【ティルグリース】が着地すると、同時に魔法と銃弾の嵐が【ティルグリース】へと迫る。

 だが――。


「遅い」


草薙剣(クサナギノツルギ)】を振るうと、突風が起こり、魔法は掻き消され、銃弾はあらぬ方向へと飛ばされる。

 咄嗟にフォローするために飛び込んだクロエが振り上げた剣は、【ティルグリース】が呼び出した宙を浮く剣によって防がれる。


「【報復剣(フラガラッハ)】」

「なっ!?」


【ティルグリース】は一切クロエの方を見向きもせず、宙を舞う【報復剣(フラガラッハ)】がクロエの蒼剣を弾き飛ばす。

 まるで剣自体に意志があるかのように、宙を泳ぎ、報復剣(フラガラッハ)はクロエの盾をくぐり抜け、クロエを貫いた。


「くぅ……!」

「クロエ下がれっ!」


【ティルグリース】よりも後に着地したGENZIは、現状を把握し、今自分がすべき最適解を考える。

 クロエはダメージを負っている為前衛はGENZI一人、残る二人は体制を立て直し三人で迎え撃つ形となった。

 GENZIは【ティルグリース】の前に立ちはだかると、切っ先を突きつける。


「ここからは俺達が相手してやるよ」

「言われなくてもしてもらうつもりだ」


 同時に駆けだした二人は肉薄する。

 GENZIの【不知火】が焔を散らしながら、【ティルグリース】の【草薙剣(クサナギノツルギ)】が乱風を纏いながら、二つの剣が衝突し、衝撃波を生む。

 両者一歩も引かない打ち合い、埒が明かないと思われたその激戦の最中、GENZIの背後から【報復剣(フラガラッハ)】が迫っていた。

 ―勝ったな……悪いがこの程度で俺に負けるようならまだ足りない。

【ティルグリース】が確信を得た瞬間だった。

 背後から貫かれるはずのGENZIの身体は一向に貫かれない。

 それに違和感を覚えた【ティルグリース】が辺りに視線を向けると、【報復剣(フラガラッハ)】が地面に張り付けられているのが目に映る。


「なにっ?」


 自身の予想に反する展開、それを引き起こしたのが後方で大杖を構える魔法使いであることなどすぐに分かった。

【ティルグリース】が思いがけない出来事に対し、意識が僅かに目の前で剣戟を繰り広げるGENZIから離れた瞬間。常に相手の動きと音という二つのリズムに注視していたGENZIは、僅かな雑音を聞き逃さなかった。

草薙剣(クサナギノツルギ)】の柄を思い切り蹴り、流れるような動作で斬撃を繰り出す。

【不知火】と【餓血】が【ティルグリース】の胸板を裂き、その鍛え抜かれた鋼の肉体を晒させた。燃える傷口と血が抜き取られた傷口、二つの傷口を懐かしむようになぞると、【ティルグリース】は左手に新たな剣を装備する。


「敵を穿て、【硬雷剣(カラドボルグ)】」

「っ!! 『縮地』」


 音ゲーで鍛え抜かれた反射神経を総動員し、最速で回避行動を取ったGENZIは、目前の光景に何度目かも分からない驚愕を強いられた。

硬雷剣(カラドボルグ)】を天に掲げた瞬間、GENZIが元居た場所には落雷が飛来した。

 稲妻はそのまま地面を走り抜け、山の斜面を下っていった。

 落雷が落ちた後、【硬雷剣(カラドボルグ)】と【草薙剣(クサナギノツルギ)】を両手に構えた【ティルグリース】が退いたGENZIに迫る。


「俺も忘れんなよぉっ!」

「む……」


 銃声と共に現れたのは麒麟だった。

 宙を舞うように跳びながら、不安定な姿勢で的確な射撃を繰り出す。

 それらの銃弾は全て【草薙剣(クサナギノツルギ)】によって振り払われたが、麒麟が隙を作ったおかげでGENZIも体勢を立て直し、麒麟と合流する。


「行けるか?」

「お前こそ」


 顔を見合わせると、苦笑いを浮かべ、GENZI達は飛び出した。

 麒麟はこれまであくまでも遠距離から攻撃し続けていた、それ故に【ティルグリース】は麒麟の事を後衛の相手だと認識していた。

 だからこそ、早く片が付く麒麟へ標的を絞り、剣を構えて突進する。

 突如姿を消したように見えた【ティルグリース】は既に麒麟の背後におり、剣を振り下ろしていた。振り下ろされた剣は麒麟の肩口を深く捉え、間違いなく殺したと【ティルグリース】が確信した瞬間――。


「なにっ?」


 麒麟の姿が霧となって霧散し、完全に見失った。

 次の瞬間には麒麟は既に【ティルグリース】の完全な死角を経由し、懐へと潜り込んでいた。


「チェックだ」

「なっ……!」


 如何な【ティルグリース】の肉体とは言え、至近距離から鉛玉を撃ち込まれては敵わない。

 四発の銃弾が【ティルグリース】の胸を貫いた。


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