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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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剱虎ヨ切リ裂キ断チ切リ力ヲ示セ 壱

 

 ゼルキア王国、王都【ゼルキア】。

 街の一角、中央通りから外れた場所に建つ石煉瓦造りの建物。

 円錐のような形をし塔にも似た、高さ十メートル程の建築物には大きめの扉が取り付けられた小洒落た入り口がついている。

 入り口には看板が掛けられている。

異名(セカンドネーム)】、と。


 クラン【異名(セカンドネーム)】のホーム、中にはメンバーが全員一同に会していた。

 先日の各々が行った情報収集によって集められたユニークモンスターに関する情報を共有している。

 全ての情報が共有されたことを見計らって、成り行きでクランリーダーを任されることとなったGENZIが、何処からともなく取り出したホワイトボードにまとめ上げていく。


「えーっと、麒麟はアイツの動きを一度だけ止めることが出来るオルゴールを。ぽてさらはティルグリースの戦闘に関する情報を。クロエもティルグリースの弱点になるような情報を。で、俺がティルグリースを倒すことが出来る唯一の方法を……って感じかな」

「あ、ちょっといいかな? 実はGENZIに渡したいものがあるんだ」


 ぽてとさらーだはテーブルの上にアイテムを出現させる。

 テーブルの上にふわりと舞い降りたのは一冊の古ぼけた本。

 それをGENZIに差し出した。


「これは?」

「んー……俺もよく分からないんだけど、どうにもGENZIっちに渡すべきアイテムらしいんだよね」

「……?」


 ぽてとさらーだの言葉に疑問を抱きながらも、GENZIが本に手を掛けると表紙が一人でに開かれ、頁が捲れ始める。

 本に書かれている文字は、これまでにGENZIが呼んだことも無い字体をしている。

 だといのに、GENZIはそこに書かれている内容を読み解くことが出来た。

 頁が終わり、本を読了したGENZIの脳にアナウンスが響く。


「パッシブスキル『剱の心得』を獲得しました」

「……よく分からないけどパッシブスキルをゲットした」

「おお、良かったじゃん」


 本を読んだ、というよりも頭の中に情報が勝手に入ってきたという表現が正しい。

 GENZIはこの本に目を通している中で、誰かの剣技を幾度となく見て、感じて、そして自分でも出来るビジョンが見えていた。

 自身の手を見つめるGENZIの姿に麒麟は若干の違和感を覚えた。

 麒麟が声を掛けようとした時、GENZIは我に返ると麒麟の出掛かった言葉を遮る。


「ティルグリースとの約束の一週間まで、あと二日……。よし、準備も整ったんだ、リベンジと行こうか……!」

「おー!」

「はい!」


 GENZIの声に合わせるように、クロエとぽてとさらーだがやる気に満ちた声をあげる。

 善は急げ、思い立ったが吉日……。

 まさにそういう言葉が当てはまるように、GENZIはスクロールを取り出すと、劔山脈の麓にある街、【靛青(ディエンチン)】へと転移した。





 街の中は昼時であるというのに大通りを行き交う人々で溢れかえっていた。

 その中にはNPCの姿だけでなく、プレイヤーの姿も見られる。

 これだけの人が集まっている理由は一つ、今この街で行われている劔祭りだ。

 劔祭りは、祭りとしては異例の一週間もの間続く長い祭り。

 祭りの最終日には、この劔祭りの主役である剱神と四神が山から現れ、街の人々と共に祭りを楽しむのだという。


「……でも、街の人達がこれまで剱神だと信じていたものはホォンの作り出した幻だったんだよな……」

「そうですね……でも、例え幻であったとしても、そこには街の人々の本当の感謝や尊敬の念があったはずです」

「ああ……」


 出店の周りに群がる人々のことを大通りの端から遠巻きに見ていると、GENZIとクロエを呼ぶ声が聞こえてきた。


「二人共行くよー!」


 ぽてとさらーだに呼ばれ、クロエは歩いていく。

 最後まで感慨深げに祭りを眺めていたGENZIも、先を歩くクロエを追いかけてぽてとさらーだの元へと向かった。


 正面の大門を抜け、劔山脈を登り始めてから三十分。

 道中に現れるモンスター達を最低限の量討伐しながら最短距離で向かって登り続け、ついに【ティルグリース】が待つ劔山脈にて最も高い位置にある頂上まで辿り着いた。

 その標高故に、相も変わらず山頂の周りは一面に雲海が広がっている。

 時折雲海から龍が姿を現しては消えていく。

 GENZI達の視線の先、前回来た時には無かったはずの一際巨大な石碑に体を預け、寝息を立てる男が居る。


「今回の敵は本当に今までで一番強大だ。全員、予めバフをかけてくれ。全体バフがある奴はそれも頼む」

「「「了解」」」


 一通りのバフの付与を終わらせると、HPゲージの下にはこれまで見たこともない程多くのバフアイコンが表示されている。

 完全に準備を整えたGENZIは、声高らかに片膝を立てて眠る男に叫んだ。


「ティルグリースっ! 約束を果たしに来たぞ!」


 声を聞くと、ぱちりと瞳を開き、そのままの体勢で顔だけを向けた。


「遅かったじゃねえか、待ちくたびれちまいそうだったぞ。……お、前に挑んできたときよりも格段に強くなってるな。だが、その程度で俺に勝てると思っているなら片腹痛い」


 ティルグリースはゆっくりと立ち上がると、金色の瞳をGENZI達に向ける。

 猫のような縦に鋭い瞳が殺気を帯びる。

 向けられたのが以前のGENZI達であれば足が竦んでいたかもしれない。

 だが、LVが上がり、耐性のついたGENZI達にその威圧は意味をなさなかった。


「ほぉ……俺の威圧にも耐えられるようになったか。これは楽しみだな」

「確か、お前から俺達には攻撃できないんだったな。今回は俺が初撃を務めさせてもらう」

「GENZI君!? そんなこと聞いてませんよ! セオリー通り、遠距離火力を持ったぽてと麒麟さんに任せるべきです!」


 GENZIの発言に一番反応したのは背後に居たクロエだった。

 クロエにしては珍しく、荒げた声は全てGENZIの事を思っての事、心配から出た怒声だった。

 その声にビクリと肩を震わせ、恐る恐る振り返ったGENZIは自然と冷や汗を流す。


「えっと……クロエ……さん? 俺は大丈夫だから、そんなに大声出さなくても……」

「いいえ駄目です! GENZI君はそうやってすぐに一人で敵と戦おうとしますから!」

「う……」


 敵の目の前であるというのに一方的に口撃されるGENZIの姿を見て、思わず麒麟とぽてとさらーだが噴き出した。

 クロエの背後でGENZIのことをチラチラと見ながら腹を抱えて笑う二人に対し、GENZIは殺意を抱きながらも何とかこの場を凌ごうと頭を働かせていると、麒麟が口を挟んだ。


「二人共敵の前で痴話喧嘩はよせって」

「「痴話喧嘩じゃないっ!」」

「おぉ……ツッコミまで息ぴったりですねぇ……」


 んん、と麒麟は咳ばらいをし、GENZIとクロエは冷ややかな視線を送る。


「クロエちゃん、GENZIは何だかんだ言って、やる時はやる男だよ。それは長年の付き合いがある俺が保証するし、クロエちゃんだって知ってるはずだ」

「……それはまぁ……そうですけど……」

「まあまあ麒麟っち、クロはGENZIっちのことが心配なんだって」

「ちょっ……!」


 頬を紅潮させたクロエは、ぽてとさらーだのことをポカポカと叩きながら何かを訴えかけているが、それを受けてもぽてとさらーだが笑みを止めることは無い。

 止めとばかりにぽてとさらーだから何かを言われたクロエは、渋々と言った様子で耳の先まで紅く染めながらも引き下がり、下がり際にGENZIを呼び止めた。


「GENZI君、絶対に無茶だけはしちゃ駄目ですからね……」

「わ、分かってるって、ははは……」


 苦い笑みを浮かべながらクロエに手を振ると、終始その様子を眺めていた【ティルグリース】が他には聞こえないよう、GENZIにだけ聞こえる声で語り掛けた。


「……女ってのはやっぱり、どいつもこいつも変わらねぇな。お前、今は面倒だなんて考えているかもしれないがな、後でその有難さをしみじみと思い知ることになるぞ」


 妙に感情の籠った言葉に驚きながらもGENZIは即答した。


「元々俺はクロエの言葉を面倒なんて考えて無いさ。その言葉は俺の身を案じてくれたから出てきた言葉なんだから」

「かかっ! そうか! なら別にいいよ。さぁ、何処からでもかかってこい俺は避けも隠れもしないぜ?」


 GENZIの目の前にパーティーを代表してウィンドウが現れる。

 ユニーククエスト【剱虎ヨ切リ裂キ断チ切リ力ヲ示セ】を受けますか、と。

 GENZIは迷いなく受諾をタップした。

 口端を獰猛に歪めると、これで話は終わりだと【ティルグリース】は両腕を広げる。

 GENZIは呼応するように薄く笑みを浮かべると、両手を柄にかけた。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぞ」


 ―激音の極意……

 意識を研ぎ澄まし、GENZIは足を肩幅以上に広げ、踏み込んだ。

 神速の一撃。

 GENZIと【ティルグリース】の視線が交差する。


「『修羅の解斬』ッ!」


 刹那、辺りを轟音と暴風が支配した。


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