音ゲーマニアが情報収集するようですよ ぽてとさらーだ後編
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「ふむ……まあ、確かにお前のクランリーダーがこれまでユニークモンスターを倒してきた話は興味深いな」
「あれ、俺GENZIっちの話なんて一言も言ってないような……」
「ユニークモンスターを単独撃破という時点で一人しかいないだろう」
やってしまったと頭を抑えるぽてとさらーだに、クライブは残念なものを見るように視線を送ると開いていた本をパタンと閉じた。
「お前らしくも無いミスをするほど、焦っている、ということか。まあいい、面白い情報を聞くことが出来た、約束だ、俺もお前にティルグリースの情報を開示しよう」
まず、とクライブが話始めようとした時。
けたたましい音と共に、ホームの中にアナウンスが流れる。
「メンバーに告ぐ! ホームの中に外部のプレイヤーが侵入した痕跡を発見、痕跡の新しさから見てまだホームの中に潜伏している可能性あり! 至急警戒体勢を敷きなさい!」
聞き覚えのある声を聞いたぽてとさらーだは思わず「うへぇ……」と声を漏らし、そのアナウンスを聞いていたクライブも溜息をついた。
「ぽてとさらーだ、お前、ここに来るまでの間に痕跡になるようなものを残してきたのか」
「あ、あはは~……」
ジト目でぽてとさらーだのことを睨むと、クライブは持っていたペンで近くに落ちていた紙の切れ端に手早く何かを書き込み、ぽてとさらーだに渡した。
ぽてとさらーだが中身を広げて見ると、それはメールアドレスのように見える。
「見て分かると思うが俺のメールアドレスだ、後でメールで情報は送る。お前はとりあえずホームから抜け出せ」
「おっけー、ありがとねクライブ!」
「……またな」
即座に【転移のスクロール】を使い、その場を離れたぽてとさらーだが向かった先は、何気なく初めに思い浮かんだ街、【アンファング】だった。
転移の広場、降り立った先はUEOプレイヤーならば誰しもが一度は訪れることとなる始まりの街、【アンファング】の中心地。
噴水と共に置かれた石碑を取り囲むように円形に立ち並んだ煉瓦造りの家々は、この世界をファンタジーの世界だと示すにはもってこいだ。
ぽてとさらーだは何だかんだトッププレイヤー、初心者が多いとはいえ【アンファング】にもそれなりのプレイヤーが滞在している。
そんなプレイヤー達にぽてとさらーだが始まりの街にいるということがバレれば面倒なことになるのは避けては通れなくなってしまう。それが分かっていたぽてとさらーだは迅速に一目のつかなそうな物陰に移動した。
すると、物陰に移動すると同時に現実でメールが届いた音がぽてとさらーだの耳に届いた。
「お、クライブ仕事が速いな~」
ぽてとさらーだはシステムからログアウトボタンをタップすると、一時的に現実世界へと意識を戻していった。
「んぅ……」
ぽてとさらーだは目覚めると上半身を起き上がらせ、ベッドに腰かけるとベッドの脇に置かれたテーブルの上にあるマグカップに手を掛けた。
腰かけているベッドの上には数多の人形達が置かれ、部屋は全体的にピンクといった印象を受ける。
甘い香りのするその部屋は、正に女子の部屋、という風に見える。
「……」
ぽてとさらーだはマグカップに注がれた麦茶を飲みながら、送られてきたメールに目を通していく。
メールは三部構成になっており、まずティルグリースの能力などについて判明していることが言及されている。
ティルグリースは『仟剱』という二つ名を持ち、主とする武器は剣全般。
武器の扱いはプレイヤーを遥かに上回り、さらにプレイヤーの戦い方を喰らって吸収し、自身の力としてしまうという記述を見つけたことが述べられている。
「仟剱? ティルグリースの二つ名は確か、抑制だったと思ったけど……」
読み進めると、次に書かれていたのはティルグリースが使うであろう攻撃手段の考察だった。
どうやらクライブも書物から読み取った情報を解釈しきれていないらしく、考察の内容はあまり宛にしないで欲しいという注意書きが書かれている。
ティルグリースは『仟剱』の二つ名を持つ通り、千種類にも及ぶ剣を使いこなすという。その剣一本一本に特殊で強力無比な効果が付与されており、それらを相手に合わせて使い分けてくる可能性が高いとも。
もしクライブの考察が正しいのだとすれば、【ティルグリース】は相手の弱点となる属性、攻撃を用いてくるということになる。
「それは面倒かなぁ……」
その下に書かれていたのは、とあるクエストの発生条件と発生場所についてだ。
それ以外の情報は一切書かれていない。
「何だろう、これ……? うーん、でもまあやってみないと分からないよね」
丁度飲み干し、空になったマグカップをテーブルに置くと、頭の上にずらしていたVRヘッドセットを被り直す。
背後に広がるベッドに背中から飛び込むと、全身を預けた。
次第に視界は暗く、意識は遠く彼方へと誘われた。
「多分この辺りのはずなんだけど……」
ぽてとさらーだが訪れていたのは、劔山脈の最果て、東端に位置する山。
クライブから送られてきたメールの情報によると、そこにクエストの発生場所があると。
添付されてきたマップの画像の位置を確かにぽてとさらーだは訪れているはずなのだが、クエストが起こる気配は微塵も感じられない。
「むぅ……」
唸り、その場をせわしなく歩いていると、ぽてとさらーだは大きな岩に足をぶつけてしまった。
大岩に足をぶつけた瞬間、ぽてとさらーだの足に重く鈍い痛みが走る……ことはなかった。
ぽてとさらーだが足をぶつけたと感じた瞬間に大岩が姿を消してしまった。
奇妙な出来事に目を見張っていると、大岩の下、露わになった隠れていたものに視線はさらに釘づけられる。
そこに隠れていたのは人一人が通れるだろう大きさの縦穴と、縦穴にかけられた梯子。
マップを確認してみればその縦穴がある位置はクライブからの情報の位置とも合致している。
「そういうことか……マップはあくまでも平面的にしか見ることが出来ない。だから、このクエストの発生場所の真上でもマップで見れば座標は同じ場所だ」
待ちきれないと縄梯子を滑り降りていくと、ようやく底が見えてきた。
足が地面についたことで妙な安堵感を得ていると、ぽてとさらーだは再びメールに記載されていた情報を脳内から引き出した。
クエストの発生場所はまず間違いなくこの場、そして発生条件は祭壇に突き刺さった剣をさらに押し込むこと。
ちらと視線を向けると、確かにぽてとさらーだの前には石造りの棺のような祭壇が確かに在り、そこには一振りの剣が突き刺さっていた。
近寄ると、両手で柄を握り、一思いに体重をかける。
スッ、と滑らかに剣は祭壇の中へと吸い込まれ、祭壇が音を立てて揺れ始める。
「……っ、開いた……」
祭壇は、上部の石が一人でに動き、その内部を露わにした。
中に厳重に保管されていたのは一冊の本。
中身を確認しようとして、開きかけた本の表紙をそっと閉じる。
クライブはメールでぽてとさらーだにこう、忠告していた。
もし、仮にそのクエストでアイテムが手に入ったとしたら、そのアイテムは必ずお前のクランリーダーに渡すべきだ、と。
「勿論、クライブ、君の忠告は受け取るよ」
ぽてとさらーだは本をアイテムボックスの中にしまうと、いつの間にか始まり、気付いたら終わっていたクエストの報酬として、申し訳程度に経験値が加算されていることに気が付いた。
あまりの微量さに苦笑いを浮かべながら、その手には【転移のスクロール】が握られている。
「これでひとまず、情報収集の第一段階終了って感じかな。まだ時間はある、今度はクライブ頼みじゃなくて、自分で調べて見るとしますかね」
ひょいと放り投げられた【転移のスクロール】が光の欠片として霧散し、ぽてとさらーだは光に包まれて姿を消す。
期日は明日、それまでの間にもう少し調べてやろうと、意気込んだぽてとさらーだは揚々と【ゼルキア】へと転移した。