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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
125/138

音ゲーマニアが装備を強化するようですよ

 

【エクスペリエンティア・ワーム】犇めくヌシの体内が大きく揺れた。

 巨大蚯蚓達を蹂躙していたGENZI達も釣られるように体勢を崩し、その場に倒れる。


「何だ!?」


 震度七の地震が起きているのではないかと感じる程大きく縦横に揺れ、同時にGENZIだけは上の方から水の音が近づいてきていることに気が付いていた。

 嫌な予感がしたGENZIは首だけを僅かに回転させ振り返ると、そこには津波かと見紛う程巨大な波が押し寄せていた。


「っ!? うぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 クロエとGENZIの姿は絶叫と共に濁流にのみ込まれて消えた。





「……ん……ああぁ?」


 ぐるぐると回転する頭を押さえ、GENZIが横になっていた上半身を起こす。

 状況を確認するために辺りを見回して見ると、そこはGENZI達がヌシを吊り上げるために二日近く釣りをしていたあの釣り場だった。

 周囲にはGENZI同様にレンガ造りの地面に横たわった麒麟達の姿が見られる。

 仲間が全員無事であることを確認してGENZIが安堵の溜息を漏らす。

 これまで戦闘中で中々確認する暇が無かったステータスを軽く見ると、驚きのあまり咄嗟に叫びそうになるのを必死に堪えた。

 ―LVが143まで上がってる……。

 そう、ヌシの体内に居た時間はおよそ二時間。

 たったそれだけの時間モンスターを狩り続けることで、二つ名を持つ名持ち(ネームド)モンスター二匹を討伐した経験値を軽く上回ってしまった。

 GENZIが喜びと驚愕に打ち震えていると、少し離れた場所で倒れていたぽてとさらーだが眠たげに目をこすりながら起き上がった。


「ん~……お、戻ってきたね。やっぱり事前情報通り、制限時間はきっかり二時間ってとこかな」

「おはようぽてさら」

「ん? おはようGENZIっち。いやぁあの蚯蚓、見た目は気持ち悪かったけど相当経験値良かったんじゃ……な……い……? え……?」


 GENZIと会話をしながら片手でステータスウィンドウを開いたぽてとさらーだの動きが止まる。

 さらに流れるように参照したログを眺めてぽてとさらーだは、あんぐりと大きく口を開けたままログに目が釘付けとなった。


「ちょ……マジ?」

「いやさ、びっくりするほどLVが上がってたからどうしたのかなーって思ってログを見てみたら、あの蚯蚓共の経験値量が滅茶苦茶多いことが分かってさ……。ついでに言うと俺が倒した蚯蚓の希少種の経験値が一番ヤバかったんだけど……」


 どれどれ、とGENZIが後ろからぽてとさらーだのログを覗き見ると、確かに蚯蚓一匹当たりの経験値量が尋常ではない程に高かった。

 LV100を超えたあたりからは、LVを一つ上げるために三百万近くの経験値が必要となる。

 そのLVを一つ上げるために必要な経験値量も、LVが上昇すればするほど伴って増えていく。

 そして、先程GENZI達が倒した蚯蚓一匹当たりの経験値量が何と……三十万。


「さ、三十万……!? あの蚯蚓マジでヤバいな……」

「まあGENZIっちが驚くのも分かるよ、でもさ、こっちの方がヤバいんだよね……」


 ぽてとさらーだが指したのは他とは名前の異なるモンスター。

【ハイ・エクスペリエンティア・ワーム】というモンスターだ。

 そのモンスターの経験値量を見た瞬間に、GENZIは堪えきれずに叫んだ。


「ご、ご……五千万~っ!?」

「うぁ!?」

「んぁ!?」


 GENZIの絶叫に思わずと言った様子で飛び起きた麒麟とクロエが、辺りをキョロキョロと見回す。

 咄嗟にぽてとさらーだがGENZIの口を塞いだが、遅かったようだ。

 そこから先は、麒麟とクロエを交えたクラン全員での話し合いへと発展した。


「まあ、何はともあれ第一目標のLV上げに関してはこれで問題ないだろ。あと残された課題は……」

「装備の新調と、ティルグリースに関する情報の収集……ですよね?」


 GENZIが言葉を捻り出すよりも先に、クロエが小首を傾げながら答える。


「ああ、まあ簡単な方から片付けるとすれば次は装備の新調だろうな」

「装備の新調……ねぇ……正直言って、俺達の装備って現状だとかなり上位の部類に入るものじゃないのぉ?」


 麒麟の質問にGENZIも正直なところ同意する部分があった。

 GENZI達の装備は、いずれも名持ち(ネームド)モンスターの素材で作られた防具や武器、もしくはユニークモンスターの討伐報酬で手に入れた武器や防具ばかりだ。

 しかもその装備をかなり強化している為、武具の強さで言えばUEOの中でもトップを競えるレベルまで達している。


「んー確かに俺達の装備は整ってるけど、ティルグリースと戦ってみた感じ、もう少し強くしておきたいよね~」


 そこまで言って、ぽてとさらーだは「あ……」と何かを思い出したように手を打った。


「GENZIっち達ってさ、今回のアプデでかなりの内容が追加・変更されたこと知ってるよね?」

「まぁ、流石にねぇ?」

「じゃあさ、鍛冶師系のスキルに今までに無かったものが追加されたことも知ってる?」


 GENZI達三人は顔を見合わせるが誰一人として知らない様子だった。

 それを見受けると、ぽてとさらーだがコホンと咳ばらいをして続きを話す。


「実はね、今回のアプデで鍛冶師に『刻印』っていうスキルが追加されたんだよ」

「『刻印』?」


「うん」とぽてとさらーだは頷く。

 ぽてとさらーだの説明によると、鍛冶師の新スキル『刻印』とは、スキル名のまま装備に刻印を施して強化することができるものらしい。

 刻印を行うことで装備の性能がさらに上昇するらしいが、ぽてとさらーだは『刻印』の欠点についても語った。


「ただ、『刻印』が上手くいくかどうか、また良い『刻印』がつくかどうかは鍛冶師のスキルレベルの高さと純粋なLVの高さ、そしてプレイヤースキルが重要になってくるみたいなんだ」


 さらに、『刻印』は一つの武器につき、基本的には一度しか付けることが出来ず、一度つけてしまえば外すことは出来ないので信頼できる鍛冶師に託さないと後悔するとのことだ。

 実際プレイヤー達の間では『刻印』が失敗することを恐れて『刻印』を施していないプレイヤーも多いのだそうだ。


「なるほど、じゃあ腕の立つ鍛冶師に任せればいいってことだよな?」

「え、うんまあ……あ、でも俺達の元クランは頼れないよ? 確かにあそこにはUEO最高峰の鍛冶師が何人か居たけど……」

「いいや、UEO最高の鍛冶師なら間違いなくあの人だ。なあ、麒麟」


 突然話を振られた麒麟は「うえっ!?」と少し驚きながらもGENZIが言わんとするのが誰かを思い浮かべて口端を二ッと上げる。


「ああ、あの人は最高の鍛冶師だな」

「GENZI君と麒麟さんがそこまで絶賛するなんて、その鍛冶師の方は相当凄い鍛冶師なんですね」


 純粋に凄いと褒めるクロエに対して、GENZIと麒麟は少し誇らしく思った。

「じゃあ」とぽてとさらーだが話を纏め、GENZI達の次の目標は装備の新調―強化―に決まり、GENZIの案内の元、ゼルキア王国王都、【ゼルキア】へと転移した。

 転移の広場に着くや否や、GENZIはクロエの、麒麟はぽてとさらーだの腕を引いて即座に路地裏へと駆けこむ。GENZI達の辺りを警戒する様子をクロエとぽてとさらーだは不思議に思いながら、曲がりくねり入り組んだ小径を、迷うことなく歩き続け早数分、GENZIの先導の元目的の鍛冶場へと到着した。


「鉄筋武具工房?」

「鉄筋武具工房だって!?」


 クロエは知らない店の名前を読み上げただけだったが、隣に立っていたぽてとさらーだの様子は少し違った。

 驚愕と興奮、二つの感情がその言葉には溢れていた。


「ぽてさら、この店を知ってるのか?」

「ああ知ってるとも、俺がβテストをプレイしてたプレイヤーなら鉄筋武具工房を知らない人はいないと思うよ」

「βテスト?」


「うん」とぽてとさらーだはGENZI達に向かって説明した。

 どうやらβテスト時に、物凄く強い武器防具を作ってくれる鍛冶屋として大層有名だったそうだ。

 だが、正式リリース後は一切店の姿を見たプレイヤーが居なかったために、正式リリースされた後は店主がプレイしていないのだと思われて捜索は諦められていたそうだ。

 ぽてとさらーだの説明を受け、とりあえず中に入る流れとなり鍛冶屋の中に入ると、何時もの事ながら店頭には誰もいない。

 GENZIはそのまま奥の扉へと近づき、扉の先に顔を出しながら店主の名前を叫んだ。


「ガンツさーん! すいませーん!」


 その声でようやく店に来店者が来たことに気付いたガンツは、「少し待ってろ」とGENZIに伝えると、再び金属を打ち始めた。

 GENZIが店頭に戻ってきてしばらくすると、奥の工房からがたいの良いドワーフの男が、上半身の作業着をはだけさせたまま出てきた。


「ん? 今日はGENZIと坊主の二人だけじゃねぇのか。それで? また防具をぶっ壊したのか?」

「いえいえ、今回は俺達の装備に『刻印』を施してもらうために来たんです」


 その言葉を聞いた瞬間に、ガンツの眼光が鋭く光った。

 視線はGENZI達の後ろに佇む、クロエとぽてとさらーだに向けられる。

 あまりにも鋭い視線を向けられたクロエとぽてとさらーだは思わず気圧されそうになるのをグッと耐えた。


「それはつまり、そっちの二人の武器と防具にも『刻印』を施してほしいってことだよなぁ? 一先ずGENZIと坊主の装備は預かっておく、だがそっちの二人の装備はまだ受け取るわけにはいかねぇ」


 そう言うと、ガンツは二人に武器を見せるように言った。

 言われるがままにクロエとぽてとさらーだは自身の武器をガンツに見せる。

 ジッと武器のことを見つめると、ガンツはふん、と鼻を鳴らした。


「……いいだろう、そっちの二人も装備を出せ、お前らの装備に俺が責任をもって刻印させてもらう」

「ありがとうございます!」

「大体……そうだな、この量だ、明日の昼ぐらいに来てくれ。そうしたら生まれ変わったお前らの装備を渡してやる」


 そう言い残すと、ガンツは再び煮えたぎるような熱を持った奥の工房へと戻っていった。


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