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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
122/138

音ゲーマニアが今後の方針を決めるようですよ

 

 晴れ渡る空の下、日差しが強い正午過ぎ。

 丸テーブルを囲む四つの席には、それぞれプレイヤーが座っている。

 一人は冷たいお茶を飲み、一人は馬拉糕(マーラーカオ)を頬張り、一人はテーブルに顔を埋め、一人は遠くをぼんやりと見つめていた。

 各々が別の行動を取り、傍から見れば纏まりの無い集団。

 遂に、馬拉糕(マーラーカオ)を食べ終えた一人のプレイヤーが口を開いた。


「えー……それでは、これより第一回ティルグリース(化け物)をどうやって倒そうか会議を始めたいと思います」


 パチパチとささやかながら送られる拍手に頭を下げると、司会のGENZIは続ける。


「先程俺は言いました、負けた経験は必ず次に活かされると。前言撤回、何あれ強すぎん?」

「だよなぁ……アイツの強さって正直これまでで一番じゃね?」

「ひとまずどうしてさっき負けたのかを考えてみよう」


 GENZIが話を軽くまとめると、各々が敗因と死因について語り出す。

 愚痴を零すように溢れ出したそれらを聞き取っていき、どこからともなく取り出したホワイトボードに書き出していく。

 一通りの意見が出尽くしたことを見計らうと、GENZIが咳払いをした。


「はい、それじゃあ今出た敗因と死因について書き出してみたぞ」


 大きなホワイトボードにも関わらず、出てきた敗因は三つ、死因に至っては一つだけだ。

 敗因は、「純粋な実力不足」「準備不足」「情報不足」大まかに分けるとこの三つに分類される。

 死因については、「気が付いたら死んでいた」という意見しか出てこなかった。

 ホワイトボードに書き出された内容を読んで、席に座るプレイヤー達の雰囲気がどことなく暗く沈む。それを見かねた司会者は自ら挙手すると、誰に許可されるわけでもなく話し始めた。


「死因は恐らく、斬首による即死だ」

「え……?」


 その場に座るプレイヤー達の沈んだ表情が一転、驚愕の色に染まる。

 GENZIは畳みかけるように続ける。


「俺は音ゲーで散々高速譜面を見てきたから割と動体視力には自信がある。で、さっき戦闘が開始した直後、ティルグリースの腕がブレたのが確かに見えた。ブレた腕はそのまま吸い込まれるようにクロエの首元まで伸びて、次の瞬間にはクロエの頭が吹っ飛んでたよ」

「う……流石に自分の頭が斬られたところを想像するのはゲームとは言え嫌ですね……」


 話を大人しく聞いていた麒麟が疑問を浮かべた。


「なあGENZI、その時ティルグリースは何か武器を使っていたのか?」

「あー多分……? 確かマチェットみたいな形をしてたな」

「じゃあ、ティルグリースは四神同様武器を使うってことだね」


「ただ……」とGENZIが表情を暗くする。


「あいつが武器を使っていることが分かったところで、初撃も躱せないようじゃ話にもならない……。今のままじゃ絶対にティルグリースには勝てない。皆、今のLVはいくつだ?」

「俺120~」

「俺は122だね」

「私も122です」


 全員のLVを聞いたGENZIは、瞠目して考える。

 少し考え込んだ後、GENZIは話を切り出した。


「提案なんだが、これから五日間は自己強化に費やさないか?」


 その提案にクロエは好色を示したが、麒麟とぽてとさらーだの反応はあまり芳しくなかった。

 麒麟は真剣な表情でGENZIに聞き返す。


「確かに今のままじゃティルグリースには勝てない。でも、タイムリミットである一週間のうち五日も費やして強くなったところで、残り二日で倒せなければ意味が無いんじゃないか?」

「俺もそう思うよ、確かにGENZIの言う通り俺達自身を強くすることは良いと思う。でも、いくら何でも五日は長すぎる」


 二人の反対意見を受けたGENZIは、それでも自身の意志を曲げなかった。

 それは、自身の中に一つの確信があったためだ。


「いや、五日は絶対に必要だ。むしろ五日でも足りないくらいだと思う。最低でもこの五日間でLV十以上の底上げ、武具の強化、そして奴のギミックの解明、これが必須だ。」

「ん? LV上げと武具の強化は分かるけど、ギミックの解明ってのはなに?」


 疑問を口にしたのはぽてとさらーだだった。

 GENZIはぽてとさらーだに向き直ると、ホワイトボードに軽く書き込みながら説明を始めた。


「これまでに俺達が戦ってきたユニークモンスターには必ずギミックが存在していたんだ。例えばぽてさらも一緒に戦ったウェネーウム、あいつだったら最終形態になるまでの間にいくつもの段階を踏む必要があった」

「えーっと……つまり、GENZIっちはティルグリースにも何か特殊なギミックがあるって言いたいのかな?」

「そう言うことだ」


 説明を終えるとペンを置き、GENZIは再び麒麟とぽてとさらーだの方を向いた。

 二人の目を見て、話をする。


「麒麟、ぽてさら、二人の気持ちも意見も分かる。だからこうしよう、ひとまず三日間、出来る限り自分達のことを強化して途中経過を見るんだ。それでもしティルグリースに挑むには早いと感じたら、もう二日間延長する。これでどうだ?」


 二人は顔を見合わせると、ぽてとさらーだは笑みを浮かべ、麒麟は肩を竦めて見せた。


「それで問題ないぜぇ。それで、LV上げと言ってもどうする? 今俺達のLVが短期間にこれだけ上がったのは名持ち(ネームド)モンスターを二体も討伐して、他にも自分達よりも高LVのモンスターと戦い続けたからだろ? ここ以上に効率の良い狩場なんて見つかってるのか?」


 麒麟の問いに対し、GENZIがぐぬぬ、と声を詰まらせていると、横からぽてとさらーだが、眉を寄せ何とも言えない表情を浮かべながら助け舟を出した。


「一応俺、知ってるよ?」

「本当か!?」

「うん、ただ……」


 歯切れの悪いぽてとさらーだの様子からGENZIは何かを悟った。

 しかし、ぽてとさらーだは何とも言えない表情を浮かべたまま話を続ける。


「その……ちょっと面倒なんだよねー……」

「まあ、ちょっと面倒でもそれ以外に手が無いならやるしかないんじゃねぇ?」

「そうだな……じゃあぽてさら案内してくれるか?」


 はぁ、と軽く溜息をつくと、渋々といった様子でぽてとさらーだは頷いた。

 善は急げということでぽてとさらーだに誘導されるまま集まると、代表してぽてとさらーだが【転移のスクロール】を使用する。


「転移、【アズール】」


 GENZI達の姿はすぐに光に包まれ消えた。

 その場には、ぽてとさらーだのやる気の無い声だけが木霊して残った。





「はい、到着しました~」


 ひらひらとバスガイドが旗を振るように大杖を振るぽてとさらーだの姿が視界に入る。

 GENZI達が到着したのは、大陸の周りを海流に乗って周り続ける【アズール】王朝。

 転移の石碑が置かれる転移広場からでも地平線の彼方まで続いているように見える青い海が見えていた。気持ちのいい風と、海独特の磯の匂いが漂ってくる。


「わぁ……!」


 クロエは視界に飛び込んできた絶景に、思わず海の方へと駆けだした。


「あ、ちょっ! 待てってクロエ!」


 駆け出していたクロエに釣られるようにGENZIが後を追いかける。

 どういう訳か一向に追いつかない、むしろ距離を離されていき、結局地面が続く限りの場所まで走ってきてしまった。

 クロエは落下防止用のフェンスに手を置き、軽く身を乗り出すようにして海を眺めていた。

 一歩遅れて辿り着いたGENZIは、掻きもしない額の汗を拭い、前方に見えるクロエを呼んだ。


「クロエ、いきなり走り出すから驚いたぞ……」

「え? あ、すいませんGENZI君。海を見て、少しはしゃいでしまいました、あはは……」


 恥ずかしそうに頬を赤らめ、クロエは照れ笑いを浮かべる。

 どこまでも広がる空の青と、地平線の彼方まで続く海の青。

 二つの青が反射して煌めき、クロエの白銀の髪を照らし出した。

 不覚にも見入ってしまったGENZIは、いかんいかんと頭を振り、クロエに向き直る。

 そんなGENZIの様子を見ていたクロエは、頭に疑問符を浮かべていた。

 GENZIがクロエに対して、みんなの元へ戻ろうと言いかけた時、背後から大きな声が聞こえてきた。


「おーい! 二人共、目的の場所はこっちだぞー!」

「麒麟も呼んでるし、行こう?」

「はい」


 クロエは最後に少し名残惜しそうに海にちらと視線を送ると、何事も無かったようにGENZIの隣を歩き始めた。

 クロエとGENZIが二人でやってくると、ぽてとさらーだは以前やる気の無いまま先行して歩いていく。目的地についてGENZIが聞いても「それは後のお楽しみで」の一点張りで話にもならなかった。

 転移の広場が設置されていたのは、【アズール】王朝の最北端に位置する首都【アズール】の内、さらに北端だった。

 そこからはすぐに路地裏の方へと進んでいき、街の大通りに一度も出ることなく人気のない釣り場のような場所に出た。


「到着だよ」

「え? ぽてが言ってたのってここのこと?」

「ああ、そうさ」


 クロエの視界に映るものはどう見てもただの釣り場にしか見えない。

 さらに言えば、ここは街の中だ。

 このような場所でどうやってLV上げをするというのか、そうGENZI達が不信感を覚え始めていると、何処からともなく釣り道具を取り出したぽてとさらーだが、同じくいつの間に用意した椅子にどんがりと座り、釣り竿を構えた。


「なあ、ぽてさら。本当にここであってるのか?」

「ああ、あってるよ。俺達はこれからひたすらここで釣り続けるんだよ」

「それに一体何の意味が……」


 麒麟がぼそりと口に出したことを聞き逃さなかったぽてとさらーだは深く溜息をついた。

 そして、ジト目で麒麟の方に視線を送る。


「これから俺達は釣りに釣りを重ね、釣り続け、そして超稀にこの釣り場で出くわす釣り場のヌシを釣りあるまで単純作業の繰り返しさ……」

「そのヌシってのを吊り上げると経験値が手に入るのか?」

「いーや、そうじゃない。これもフレンドから聞いた話だけど、何でもヌシを吊り上げると強制的にヌシに食われてヌシの体内に入るらしい。なんでもヌシの体内には経験値が美味いモンスターがわんさか湧いてくるらしいよ」


 それを聞くと、渋々と言った様子で釣り竿を振り、各々が黙って釣りを始めた。

 この時はまだ、数時間も粘っていれば釣れると、誰もが思っていた。


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