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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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音ゲーマニアが剱神に出会うようですよ

 

「ここ、だな……」


 辿り着いた山頂、中心に一際大きな劔が深々と地面に刺さり、それを中心として円状に地面が広がっている。標高の高さ故に上を見上げればどこまでも青空が広がり、山頂の周りには雲海が広がる。


「わぁ……」


 目の前に広がる情景を目にしたクロエが、思わず感嘆の息を漏らす。

 つられるように後続から姿を現した麒麟とぽてとさらーだも息を飲んだ。

 全員が思わず足を止め、広がる壮大な光景に目を見張っていると、マーガレットがGENZIの頭を一突きした。

 はっと我に返ったGENZIが麒麟達に声を掛け、中央に座す劔の元へ歩み寄る。


「遠目から見てもそうだったけど、近くで見るともっとデカく見えるな……」

「確かに……ん? なんか石碑みたいなのがそこに刺さってるぞ?」


 ぽてとさらーだが指差す方向に視線を向けると、そこには地中に半分程埋まった石碑のようなものが確かに存在した。

 石碑らしきものの前に回り込むと、刻まれていた文章を麒麟が朗読した。


「えー……剱神、この地に己が身を封印す。四の劔を求めよ。さすれば剱神の封印解かれん……」

「まあ、四の剣ってのは四神が持ってた封剱? のことだろうな」

「その剱に関しては今持ってるんだけど……特に変化しなくね?」


 麒麟が読み上げたのは石碑の地上に露出している部分のみ、もしかしたら埋まっている部分に何か書かれているんじゃないかと、麒麟が石碑を持ち上げようと踏ん張るが石碑はびくとも動かない。

 他の三人の視線が石碑に釘付けとなっている中、クロエの視線は円状に広がる山頂の外周部に存在する四つの等間隔に置かれた岩へと向けられていた。

 その視線に気が付いたGENZIはクロエに声を掛けた。


「どうかしたか?」

「あ、いえ、山頂の外周部分に置かれている四つの岩が気になって」


 クロエに言われたことで石碑から視線を外した麒麟とぽてとさらーだも外周部に設置された巨岩に視線を泳がせる。

 その巨岩を眺めていたGENZIがふと、違和感を覚えた。


「あれ……あの岩ってなんか見覚えが……。あの岩……間違いない! あれって四神の事を封印していた岩と形も大きさも同じじゃないか?」

「あっ! 言われてみれば確かに……」

「だとしたらどうしてこんな場所に四神を封印するための岩を置いたんでしょうか?」


 腕を組み、瞠目していたぽてとさらーだがゆっくりと瞼をあげた。


「剱神を封印するため……じゃない? 四神のことを封印できるんだし、剱神のことを封印できたっておかしくない。それに気になってたんだけど、あれ見える?」


 ぽてとさらーだが指したのは巨岩の一部。

 よく目を凝らすと、そこには紅く煌めく丸い宝石のようなものが埋め込まれていた。

 それは他の岩も同様、ただ、他の岩に埋め込まれている宝石は色が異なっていた。

 それぞれが、赤・青・白・黒色の宝石が埋め込まれている。


「もしかして……」

「お、多分GENZIっちは俺と同じ結論に至ったんじゃないかな」


 GENZIは自身との距離が最も近い巨岩まで歩み寄ると、埋め込まれた宝石の色を確認した。

 埋め込まれていたのは漆黒色(ブラックオニキス)の宝石。

 それを見るとウィンドウを操作し、黒色の大剣を手に持った。

 すると、大剣はGENZIの手からするりと抜け落ち、巨岩の元へと吸い込まれた。

 大剣を吸収した巨岩は、殻を破るように表面の岩肌を粉砕し、内から漆黒色(ブラックオニキス)の滑らかな姿を覗かせた。


「うぇっ!?」

「やっぱりか~」


 素っ頓狂な声をあげる麒麟の傍ら、ぽてとさらーだは自身の推測が当たっていたことを素直に喜んでいた。

 状況を呑み込めていない様子のクロエと麒麟は口をあわあわと開いている。

 結果的に巨岩に大剣を受け渡したGENZIが、クロエ達の元へと戻ってきた。


「やっぱりぽてさらの読み通りだったよ」

「ちょっと待ってくれる? 君たちさぁ、自分達で理解してないで俺達にも説明しようよ、仲間でしょ? ねぇちょっと」


 GENZIが笑みを浮かべながら歩み寄ってくると、俊敏な動きで麒麟がGENZIに詰め寄った。


「分かった! 分かったからそんなに近づいてくるな!」


 ぐいぐいと迫ってくる麒麟を押しのけると、こほん、と一つ咳払いをした後にGENZIは説明を始めた。


「まあ、説明とはいえ簡単なことなんだけど、あの岩って四神のことを封印してただろ? だからぽてさらはあの岩には何かを封印する効果があると考えた。そうすれば剱神を封印しているここに四つもあの岩が置かれていることにも納得がいくだろ」

「はいはーい! さっきの剣が吸い込まれていくやつはなんですかぁー」


 食い気味に迫ってくる麒麟の勢いにたじろぎながら、GENZIは返答する。


「まず、あの岩には見ての通り真ん中の辺りに宝石が埋め込まれているよな? あの宝石の色は、黒・白・青・赤の四色、この四色って見覚えないか」

「あ! もしかして四神の色、ですか?」


 麒麟と一緒に座っていたクロエが声をあげる。

 GENZIはクロエの方に視線を向けた。


「正解。で、最後の四神ホォンが言ってた()()っていう単語、聞くからに何かを封印してそうな名前をしてるよな。しかも、中央の石碑には『四の剱を求めよ』ってご丁寧に書かれている。そこから、ぽてさらは四神を討伐した際に手に入れたこの剱が剱神の封印を解く鍵だと考えたわけだ」

「はー……なるほど、まぁ言われてみればそんな気もしてきたような……」

「ということは、残りの三つの岩にも同じように封剱をかざせば……」


 GENZIは首を縦に振る。


「じゃあ、封剱を持ってるのが俺だから、ささっと終わらせてくるわ」


 そう言い残すと、GENZIは巨岩に向けて駆けだした。

 流れ作業のように、アイテムボックスの中から予め三本の封剱全てを取り出し、両手でそれらを抱えながら巨岩の元へ走り寄っていく。

 次々に巨岩へ封剱を吸収させ、GENZIがクロエ達の元へと戻ってきたときには全ての巨岩が鮮やかな輝きを放つ宝石へと姿を変えていた。


「これで……」


 全ての巨岩が本来の姿を露わにすると、巨岩から光の線が射出される。

 線は巨岩から巨岩へと引かれ、山頂に光の線でひし形が描かれる。

 そして、丁度中央で交差する光の線が地面に突き刺さる特大剣にぶつかったかと思うと、地面が震えた。


「来た……!」


 その麒麟の声に反応するかのように、山頂の中心部に突き刺さっていた特大剣に光の柱が注がれる。

 強烈な光を僅かに目にした後、すぐさま目を覆い隠す。

 次第に光は収束していき、GENZI達もぞろぞろと目を開け始める。

 強く目を抑えていたためか、クロエはまだ少しぼやける視界で光の柱が立っていた場所に目を向けると、そこには大きく欠伸をする一人の獣人族(セリアンスロゥプ)の男が佇んでいた。

 ピントが合い、全員の視線が中央の男へと向く中、GENZI達の視線を感じ取ったためか男が振り返った。


「……っ!」


 気だるげで眠そうな表情とは裏腹に、その金色の瞳からは途轍もない覇気が放たれている。

 歴戦の猛者、そう、瞬時にGENZI達が判断するほどこれまで感じたことが無い程の威圧感を放っていた。

 男は徐々にGENZI達の方へと歩み寄ってくる。

 男は別に武器を構えているわけでは無い、だが、ただ歩いているだけで威圧感が尋常ではなかった。己の本能に従い、全員が咄嗟に武器を構える。

 男の一挙手一刀速を見逃すまいと、目を光らせる中、男はまたしても大きく欠伸をして、姿を消した。


「消えた……!?」

「周囲を警戒っ!! 一か所に固まれ!」


 GENZIの即座の声に、何とか混乱を免れ、互いに背中を預け合うような密集陣形をとる。

 鼠一匹すら通さない防衛陣形。

 だが――。


「そんなに警戒しなくても取って食ったりしねぇよ」


 突如としてGENZIの目の前に現れた男は、鋭利な爪で頬を軽く掻いた。

 しかし、そんな男の言葉が信用できるはずも無く、GENZIは刀を振るう。

 それに対し、男は焦るわけでもなく「はぁ……」と大きく溜息をつきながら、指の間でGENZIが放った神速の太刀を軽々と受け止める。


「なっ!?」

「だから、俺はお前らと戦う気は今の所無いっての」


 男は言葉を紡ぎながら軽く拳で柄を叩き、衝撃でGENZIが思わず取り落とした【不知火】と【餓血】をその手に持った。

 刀身を眺め、その場で軽く振り、またしても溜息をついた。


「駄目だな……剣が泣いてるぜ? お前、この刀は五輪之介から譲り受けたものだろ」

「何でお前がそれを……」

「分かるさ、この刀は五輪之介が愛用しているものの内の二振りだ。あいつはお前が成長する可能性に賭けてこれを渡したんだろうが……正直宝をドブに捨てたようなもんだ」


 男はやれやれ、と肩を竦めておどけて見せる。

 それを聞いていたGENZIも流石に頬を紅潮させ、頭に血か昇ってきていた。


「剣ってのはな、使い手が強ければ強い程真価を発揮する。特に良い剣であればあるほどな。その点で言えばこいつ等は最高の剣だ、五輪之介がこいつ等の力を100%引き出せるとすれば、お前が今引き出せているのは10%にも満たないだろうな」

「言わせておけば……ッ!!」


 GENZIが殴りかかろうとした、その時だった。

 男はおもむろに【餓血】を掲げた。

【餓血】が高々と掲げられた瞬間、その場に居た全員の身体をおぞましい程の悪寒が走り抜ける。

 そして、不意に、軽く【餓血】が雲海に向けて振り下ろされる。

 軽く振り下ろしただけだというのに、GENZIは刀の姿を捉えることはおろか、音を感じ取ることさえ出来なかった。それは他の三人も同じ、だが、他の三人の注意は別場所に向けられていた。

 振り下ろされた先、地平線の彼方まで雲の海が広がっていた場所が割れていた。

 大きな溝が出来ていたのだ。


「まぁ、これでも8、90%の力しか出せてねぇが、一流の剣士が扱えばこれだけの威力が出る。お前が使ってるのはそういう代物なんだよ」


 そう言うと男は無造作に【不知火】と【餓血】をGENZIに向かって放り投げた。


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