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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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音ゲーマニアが青虎と戦うようですよ 前編

 

 姿形はこれまでに見てきた四神と酷似している。

 異なる点をあげるとすれば、その巨躯を覆う体毛が青いことと、『蒼刃』の【ツァイ】は口に剣を咥えていないことだ。

 代わりに、前脚の爪が異常なまでに発達している。

 右脚に三本、左足に三本の計六本の爪。

 些か爪と呼ぶには長身すぎるそれを、【ツァイ】は自在に操り、麒麟目掛けて振り下ろした。


「させませんっ!」


 咄嗟に麒麟の前に立ったクロエが、左手に備えた盾を構える。

【ツァイ】が振り下ろす鋭爪と、クロエが構える鏡盾が接触。

 甲高い音をあげ、弾かれたのはクロエの方だった。

 何が起きたのか分からないという表情を浮かべるクロエのことなどお構いなしに、【ツァイ】はもう一方の前脚を振り上げると、盾が弾かれた勢いで空中を漂っているクロエに追い打ちをかける。


「……かっ……!?」

「クロエッ!!」


 勢いよく吹き飛ばされたクロエは、そのまま洞穴の岩壁に衝突し爆音を立てる。

 激しく土煙が舞っておりクロエの姿は見受けられないが、左上に表示されているHPゲージを見る限りクロエは大きくダメージを受けてはいるが生きている。

 それに安堵しほっと胸を撫で下ろすと、後衛の二人に視線を送り、唸り声をあげる【ツァイ】目掛けて突貫する。走り迫る俺に気が付いた【ツァイ】は、体勢を低くし全身の体毛を総毛立たせて威嚇してくる。

 俺は疾駆しながら二振りの刀を鞘から抜き放ち、刃を敵に向け、睨みつける。


「『疾風』!」


 大気を切り裂く風の竜巻が起こり、洞穴の地面を削りながら一直線に【ツァイ】に迫る。

 俺は先行する竜巻に目もくれず、ただ【ツァイ】のことにだけ集中しながら駆け抜ける。

 竜巻が近づいてきたことを視認すると、【ツァイ】は前脚の爪で迫る暴風を切り裂いた。


「……っ!」


 すると跡形も無く『疾風』によって生じた竜巻が掻き消された。

 ただ、ここまでは想定の範疇。

 俺が思っている通りならば、麒麟達はきっと――。


 その時、引き金を引く音と、重圧な銃声が洞穴に響き渡る。

 空気を切り裂く音を纏いながら、それは背後から猛烈な勢いで迫り、俺のことを追い抜かすと【ツァイ】に向かって最短距離で向かう。

 同時に放たれていた二発の銃弾が、【ツァイ】を挟むように左右から襲い掛かる。

 前方からの攻撃を防いだ途端に左右からの同時攻撃、これには堪らずといった様子で【ツァイ】は後方へ跳んだ。

【ツァイ】のとったその行動は確かにこの状況での最適解。

 しかし、俺達の思う壺でもあった。


『グルゥ!?』


 後ろへと飛び退った【ツァイ】が短く悲鳴をあげた。

 その足下には、よく目を凝らさなければ見えない程薄っすらと魔法陣が描かれている。

 魔法陣から伸びた岩の触手が【ツァイ】の四肢をがっちりと絡めとっていたのだ。


 俺が前方からの攻撃(フェイク)を仕掛け、直後に麒麟が追い打ち、そして最後に相手が油断した瞬間を突いてぽてさらの精霊魔法で相手を拘束……。

 これら一連の動作は別に打ち合わせをしていたわけではない。

 ただ、その場での最適解を考え、お互いに出来ることを把握し合った仲間だったからこそできた芸当。そしてこの三日間、ひたすらにモンスターと戦い続けたことで培った連携でもあった。


「そしてもちろんっ!」


 相手を拘束して回避不能にした後にすることはただ一つ。

 俺は刀を鞘へと戻し、必殺の構えを取る。

 同様に背後で二人もきっと大技の準備を整えているはずだ。拘束後から数えて五秒後に一斉攻撃を仕掛けるのが俺達の中での基本。

 三……二……一……。


「……ッ『一断』!!」

「『ザ・キャノン・セカンド』!!」

「『風神の暴風渦(アイオロス)』!!」


 爆撃が地を割り、轟音を轟かせモンスターを粉砕する。暴風が乱れ、弱り切ったモンスターを宙へと吹き飛ばす。

 そして俺が、宙に舞ったモンスターを一刀の元に切り伏せる。

 これで終わり、そう思ったがすぐにその考えを自ら否定した。

【シュイ】や【バァイ】と同じ、四神。それもこれまでの中で最も高LVの【ツァイ】が、仮にも二つ名を持つモンスターが、この程度で死ぬものか、と。


「やったか?」

「麒麟っち……それフラグ……」


 麒麟とぽてさらが何やら惚けている間に、それは起こった。


「おいおい……嘘だろ……?」


 目の前で起こっている現象が、もし幻覚であったならどれ程救われただろう。

 俺は確かに麒麟の砲撃が奴に直撃し、ぽてさらの豪風が奴を切り刻みながら吹き飛ばし、そしてこの手で奴の身体を両断した。

 それは確かに起こった事象、だが、【ツァイ】は先程の麒麟の爆撃によって崩れ、滝壺と繋がった落石地に悠然と佇んでいる。

 与えたはずの傷はただの一つも残っておらず、無論のことHPは一ミリたりとも減少していない。


『グルルゥゥ……グルァァァァァッ!!』


【ツァイ】は憎しみに塗れた青い瞳を爛々と輝かせ、今にも飛び掛かってきそうな勢いでこちらを睨んでいる。

 だが、意外にも【ツァイ】は流れ落ちる激流の向こう側へと姿を消した。


「な……!? 追いかけるぞ!」

「おう!」


 まさか逃げるとは想定外だった。

 滝の裏に続く小道を走り抜け、外へ脱出すると、すぐに【ツァイ】の姿が目に飛び込んできた。

【ツァイ】は逃げるわけでもなく、ただ滝壺の中に身を投じ、滝に打たれていた。


「あいつは一体何をしているんだ?」

「……? あれはっ!? ぽて、どうにかしてあの滝の流れを……川の流れを止めてッ!!」

「えぇ!? えーと、『ギガントロック』!」


 何に気付いたのかは分からないが、何かに気が付いたクロエは鬼気迫る表情でぽてさらに叫んだ。

 咄嗟の事にしどろもどろとしながらも、ぽてさらは適切な魔法でクロエの要望通り、川の流れを一時的に塞き止めた。

 川の流れが途絶えたことによって、滝の勢いが一気に弱まり、ついには流れが止まった。

 それでも、クロエの顔が晴れることは無い。

 むしろその表情の暗さの陰り具合が増したほどだ。


「一体何を見たんだ?」

「……ツァイのHPを見てください……」


 言われるがまま、滝壺の中に四肢を沈める【ツァイ】のHPゲージを覗くと、思わず眉間に力を籠め、二度見してしまった。

 通常、HPゲージというのは緑、黄、赤の三色で表される。

 しかし、【ツァイ】の今のHPゲージの色は、緑がたったの二割で残りは全て青色だった。


「青い……HPゲージ?」

「うっそだろ……?」


 呆然と呟いたのはぽてさらだった。

 その表情に浮かぶのは焦燥と絶望の色。

 先程の鬼気迫る表情を浮かべていたクロエと全く同じだった。

 話についていけていない俺と麒麟だけが状況を掴めていない。

 俺達の様子を見てか、ぽてさらがぽつりぽつりと説明してくれた。


「HPゲージって普通は三色だよな? でも、実際はHPゲージの色は三色以上ある。例えば青色。あれは、つまりHPが100%を超えているってことだ……」

「「はぁ?」」


 俺達は思わず声を重ねた。


「じゃあ何か? あのモンスターはHP上限を超えたHPを持っているとでもいうつもりかよ?」


 少し茶化しながらふざけた口調で麒麟が言うと、それを否定するわけでもなく、ただ首を縦に振った。それには流石の麒麟も唖然としている。


「私達が元のクラン、セイントローズでレイドボスに挑んでいた時の事です。ある時挑んだのはこれまでに誰も勝利したことのない高難度レイドの一つでした。そこで現れたボスが、今のツァイと同じようにHPを上限以上に回復させていたんです……」

「因みにそのレイドボスには……」


 俺の言葉に、クロエは首を横に振った。

「でも――」とクロエは続ける。


「前回のレイドボスではどうやってHPを回復しているのかが分かりませんでした。ですが、今回はHP回復の謎は見破りました! ですからまだ、チャンスはあります!」

「HP回復の謎ってのは?」


 クロエは【シュイ】を、正確にはその周りの滝壺の水を指差した。

 それはつまり、


「水に触れることでHPを回復させる……?」

「GENZI君の言う通りです」


 と、クロエは苦笑いを浮かべた。

 なるほど、合点がいった。

 先程クロエがぽてさらに川の流れを塞き止めろと言ったのはそのせいか。

 だとしても、滝壺に溜まった水が無くなることはない。

 つまり、【ツァイ】はHPを回復し続けるということだ。

 徐々にHPを回復させる相手、長時間の戦闘は相手に分がある。

 ならば、勝つためにどうすればいいか。


「「短期決戦……」」

「まぁ、そうなるわなぁ……」

「第二ラウンド行きますよっ!」


 俺達の心情を知ってか知らずか、【ツァイ】は高らかに雄叫びをあげた。


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