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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
欲を使役し欲に呑まれた英傑よ
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強欲ヨ全テヲ喰ラエ 参


上空数百メートルを現在進行形で飛行しているわけだが、すぐにでも降りたい気持ちで山々であった。


何故ならこの飛行馬車は首都に向かっているからである。


「降ろしてください!ホントにマズいんですよ!」


「どうしたんですか?いきなり降りたいだなんて…先程まではあれほど乗りたいと言っていたじゃないですか」


怪訝そうな顔で商人は問いかける。


何と言っても聞いてくれる様子がない商人にNPCの融通の利かなさを感じ、歯がゆい気持ちになった。このまま首都アルヴについてしまえば、どこかでプレイヤーに見られるかもしれない。


そうなれば無論質問責めにされ、聖獣探しどころではなくなってしまう。それだけは避けなければならない。


「分かりました。降ろしてくれないというのなら…俺も覚悟を決めます…!」


すっと立ち上がると、荷台の後ろの方へ歩いていく。


「ちょっと!!何をされているんですか!?」


俺が今からしようとしていることを推測したのか、商人は驚いたように声を上ずらせ、止めようと声を掛けた。


そんなもの知ったことかとお構いなしに商品を避けつつ歩いていき、ついに見えた。風にたなびく荷台のシーツの隙間から見える町の風景が。


「もう一度聞きますけど、降ろしてくれないんですよね?」


「ああー、もう…!!分かりました!今すぐ天馬車を下降させるので落ち着いてください」


俺の態度に流石に怒り気味の商人だが、降ろしてくれて正直助かった。俺はアルヴにいるプレイヤーたちにバレるのも困るのだが、それ以上に高所恐怖症なのだ。


今も内心バクバクで、膝が笑っているのが見なくても分かる。


徐々に地面が近づき、ついに着地した。すると馬が一鳴きし、その場で横になると眠ってしまった。


「それで?どういうわけですか。いきなり降ろせなどと言って」


「実はアルヴには行くわけにいかないんですよ。ちょっとした事情がありまして」


「はぁ…それではここでお待ちいただけますか?私は聖獣様にお伺いを立ててきますので」


「すいません、分かりました」


再び御者台に座り、天馬車とやらを動かし空を駆けていった。


その姿を見送ると近くにあった切り株に腰を落ち着かせることにした。


しばらく待っていると再び天馬車に乗った商人が現れ、先程よりも急いで来たのか額から汗を流していた。


「お待たせしました。聖獣様がお見えになるとのことなので案内させていただきます。ひとまず荷台に乗ってください」


荷台に乗ると先程までパンパンに詰められていた商品達はなく、すっきりとした空間になっていた。


「それでどこに向かうんですか?」


「とある祠ですよ。そこに転移装置があります」


「祠?」


「ええ」


天馬?に鞭を打ち、速度を上げる。急いで祠に向かっているのか心なしか焦っているようにも思えた。


「到着です」


そう言われ外を見るが他の所と何の変哲もないただの木々が生えているだけだった。


天馬車をゆっくりと下降させ、降ろすと商人は少し開けた所に小走りで近づいた。それを見ていると、首にかけていたペンダントのようなものを外し地面に置いた。


「~~~~~~~~~~~~」


距離が離れていたため何を言っているのかは分からなかったが、商人がブツブツと呪文を唱えるように小言で呟くと、何もなかった空間に突然祠が現れた。


「さあ、付いてきてください」


言われた通り商人の方に向かうと、商人が祠に取り付けられている、扉を開いた。すると、商人の体が吸い込まれるように消えていき、扉がまた閉まってしまった。


仕方がないので商人に倣って扉を開くと、同様に吸い込まれるようにどこかへ転移した。


~~~~~~~~~


「着きましたよ」


周りにみえるのは空と緑の葉、それと目の前にいる巨大な梟だけだ。


「貴様か?我等聖獣を手懐けるとほざいている者は」


巨大な梟は威圧的な態度で話しかけてくるが自然と恐ろしいとは思わなかった。それは恐らくこの梟の発する言葉が心地よいリズムをしていたからだろう。


「そうです。俺はやらなくちゃならない、だから必ずあなたを手懐けてみせる…!」


ぐっと拳を握り締め、怪鳥に向かって突きつける。


「いいだろう。だが条件はある。まず私を手懐けたいというならば、私の子供たちを手懐けてみろ」


「へ?」


そういうと怪鳥は飛び去ってしまった。


先程までは怪鳥の後ろになっていて気が付かなかったが、怪鳥の雛と思わしき鳥が一斉にこちらを睨んだ。


「うっ…」


雛とはいえ、あの十メートルはあろうかと思える程に巨大な怪鳥の雛、既に俺と同じくらいの大きさはある。


それが一斉にこちらを鋭い眼光で睨んでくるというのは恐ろしい以外のなにものでもない。


それにこの雛鳥達、俺とは比べ物にならない程LVが高い。


モンスターやプレイヤー、NPC。そのどれもが敵対するとカーソルが赤く染まる。その時のカーソルの色の濃さによってある程度のレベルは推察できるのだが、この雛鳥達のカーソルは深いワインレッドだった。


「ピーッ!」


「ピピー!」


「ピピー?」


「ピー!ピー!」


襲われると思い、刀を抜き、身構えていたところ襲われる気配がないので雛鳥達を見ていると、ゆっくりとこちらに近寄ってきた。


警戒を怠らず注意深く観察を続けていると、一斉にこちらにダイブしてきた。


『スピンエッジ』で斬ろうかとも思ったのだが雛達に攻撃の意志がないことは何となく分かったので、刀をしまうと、車に轢かれたかのような衝撃が四方からやってきた。


「ごっ!?」


「ピーピー!」


「ピッピピー!」


「ピー!」


恐らくこれは雛鳥達にとっては遊びなのだろう。だが考えても見てほしい。身長180近くの人間が猛スピードで人にぶつかったらどうなるかを。


正に今のような状況になる。


「がっ…!」


「うご…」


「げはっ!?」


~~~~~~~~~


どれ程の間続いたのだろうか。何故かHPが減っても減っても回復するし、途中で商人に雛鳥達を擦り付けてやろうと思ったら姿が消えているしで、大変だった。


ここに来たときは日も高く、昼間だったはずが既に日は沈み始めており、空は赤く染まってきている。


「スピー…」


四匹の雛鳥達は遊び疲れたのか今では眠ってしまっている。空を見上げると既に赤く染まり始めている。


その時だった。


突風を巻き起こしながら、あの怪鳥が巣に帰ってきたのだ。


「ふむ。雛鳥達の面倒を見てくれて感謝する。この子達も新鮮な経験に楽しめたことだろう」


見た目は緑の羽毛とその高圧的な眼差し、それらは完全にボスのそれであったが、今は違った。


眠りにつく雛鳥達の方を向きふっと怪鳥が優しく笑った。その表情は父親のものであった。


「この子たちは皆貴様の事を認めたようだ。だが、その中でもお前に最も懐いているのはこの子のようだな」


そう言うと怪鳥は、赤、青、緑、白と四匹いた雛鳥の中から一匹の白い眠っている雛鳥を俺にそっと手渡した。流石はステータスが上がっただけあり、雛鳥をしっかりと抱くことが出来た。


「この子が最も貴様に懐いている。だからこの子に外の世界を見せてやってくれ」


「『緑聖鳥の加護』」


怪鳥は俺と白い雛鳥に何か魔法をかけた。暖かく包み込むように掛けられた魔法を感じてか、白い雛鳥は目を覚ました。


「ピー…?」


「愛しい我が子よ、お前は今からこの人間と共に外の世界を見て回るのだ。そして見識を深めいつかまたこの巣に戻ってこい」


「ピッピー!」


分かったとでも言わんばかりに右翼を上げる動作に思わず笑みが零れてしまった時、白い雛鳥が光った。


「なんだ!?」


「落ち着け。まあ見ていろ」


落ち着いて見ていると徐々に光が収まっていき、そこには雛鳥の姿が無かった。


「いったいどこにいったんだ?おーい白いのー!」


「ピピー!ピーピ!」


すると丁度俺の真下辺りから鳴き声がした。下を見るとそこには普通の鳥サイズになった雛鳥の姿があった。


「これはいったい?」


「私の加護の力だ。流石にあの大きさでは貴様と行動を共にするのは難しいと思ってな。安心しろ、その子が望めばいつでも元の姿にもその姿にもなれるようになっている」


「ピピー!」


「それと貴様にも私の加護をやったのだ。しっかりと我が子を守れよ。もし、我が子の身に何かあれば世界の果てに行こうとも貴様を見つけだし、然るべき制裁を加える」


「は、はは…肝に銘じておきます…」


「ふん。用が済んだならとっとと行くがいい」


そう言うと怪鳥は翼を羽ばたかせ、突風を起こす。案の定俺達は吹き飛ばされた。


だがいくら経っても吹き飛ばされ続け、何かが可笑しいと思い回りを見ると空中で自分が彷徨っていることに気が付いた。


ついでに言えば今の今まで自分が居た場所も。それは雲の上まで伸びる大木、ユグドラシルの頂上だ。


「今はそんなことを考えている場合じゃない!」


現在高速で自由落下中の俺は頭をフル回転させ、一つ解決策を思いつく。『転移のスクロール』を使いどこかの町に転移するというものだ。


「転移!アンファング!」


俺の声は空しく空の彼方に消えていき、目の前には移動中に『転移のスクロール』は使用できません、と表示されるだけだった。


「ぬぁぁぁ!どうすりゃいいんだよ!」


「ピピー!ピッピピー!」


すると頭の上で怪鳥の雛が何かを伝えようとしているが全く伝わらず、雛も俺も困り果ててしまった。


「ピ!」


その雛とのやり取りでつい先ほど言われたことを思い出した。


「白いの!大きくなって俺のことを運んでくれないか?」


「ピッピー!」


俺の声にアイアイサーと、言わんばかりに返事をすると雛が光り、巨大化していた。


「ピー!」


そしてその爪で俺の肩をがっしりと掴むと、空を滑空するように飛んだ。


「ナイスだ!白いの!それにしても白いの、っていうのは少しおかしいか?」


「ピピーピ?」


「そうだ、今日からお前はマーガレットだ!」


「ピピー!!」


「はは、気に入ったか?」


「ピー!」


マーガレットと共に浮かぶ茜色の空。それはどこまでも広がり、続いているかのように思えてならなかった。


「って…こんな風に景色見惚れている場合じゃないんだった!マーガレット!このまま右の方へ向かってくれ!」


「ピッピー!」


すっかり忘れていたが、レヴィさんに試練を出されていたことをすっかり忘れていた。試練の期限は日没まで、もうすぐ日が落ちてしまう。急がなければならない。


「ピー!」


目的の場所についたことをマーガレットが知らせてくれる。


「ありがとう、マーガレット!元の大きさに戻っていいぞ」


そう言うとマーガレットは元の大きさに戻り、俺の右肩の上に乗った。


(近くに自生している白いアネモネの花は既に取ってきた。後はこれを水溜まりの中に投げ込むだけだ)


俺は白いアネモネを水溜まりに投げ込むと同時に水溜まりの中に走った。


水溜まりの中に入ったと思った瞬間、前回と同様に景色が変わり、目の前に魔女の家が現れる。急いで扉を開け、中に入ると揺り椅子に座って読書をするレヴィさんの姿があった。


「あら?GENZI、その子は…どうやらちゃんと連れてきたようね」


「ああ、これで約束通り『エリクシル』を…」


「でも残念。もう日は落ちてしまっているわ」


「…!?」


急いでドアを開け外に出ると、確かに太陽は沈み、夜になろうとしていた。


「そんな…!」


「ん…確かにGENZIは期限通りに来ることはできなかったわ。でも貴方は確かに聖獣を手懐けて戻ってきた。だから今回はギリギリ合格ってことにしてあげるわ」


「じゃあ!!」


「ええ、この『エリクシル』は貴方にあげるわ」


「よっしゃー!」


「ピッピー!!」


俺達の様子が可笑しかったのか笑っているレヴィさんはとても魅力的に見えた。


~~~~~~~~~


「どうもありがとう、レヴィさん」


「いいえ、こちらこそ。貴方たちのおかげで一つ確信を得たから」


「確信?」


「何でもないわ、気にしないで」


「それじゃあ俺達行くよ」


アイテムボックスの中から『転移のスクロール』を取り出すと、あの荒城近くの町ヴィートに転移した。


「ええ、ま─────────────」


最後にレヴィさんが何かを言っていたが転移してしまい全てを聞き取ることが出来なかった。


~~~~~~~~~


「ふぅー…」


カトレア連邦も落ち着いていたが、やはりゼルキア王国の方が俺にはあっている気がする。


「おっと忘れてた」


麒麟にミッション完了のメールを送らなければ。


全くもって自分の短所は忘れ性なところだと思うのだが、それと同時に忘れていたものを思い出すのは得意であった。


それを麒麟に言ったところ、なら元々忘れなきゃいいじゃん、と言われ正論すぎて言い返す言葉もなかったことを覚えている。


こっちはキーアイテムを入手したことをメールで伝えると返信がすぐに返ってきた。


麒麟もどうやらキーアイテムを手に入れたらしく、今からヴィートに戻るとのことだった。


待っている間が退屈だったのでマーガレットを愛でていると、マーガレットの羽の間に葉が挟まっていることに気が付いた。


それをとってやろうと思い手に取るとアイテム名が表示された。


まさかただの葉っぱにまでアイテム名があるとは恐るべしUEOと思ったがどうやら違ったようだ。


「これは?」


その葉の名前は『世界樹の葉』。効果は多すぎてよく分からなかったが結論、『聖女の涙』の上位互換のようなものとして見てよさそうだった。


何にせよこんなレアアイテムを持ってきてくれたマーガレットに感謝しつつさらに撫でるのであった。


しばらくすると麒麟が転移してきたのだが、そのころにはあまりにも撫でられすぎて摩擦で羽が火傷しかけたマーガレットの姿があったとかなかったとか…


「よお!GENZI。そっちはどうだった?」


「まあボチボチかな。結果ゲット出来たからよかったけど運が良かっただけな気がするよ」


「俺もそんな感じ。GENZIはどんなクエスト受けたんだ?いや、やっぱ待て。俺から話そうじゃないか!」


「お、おお」


「俺とGENZIが分かれて、転移した後の話だ──」


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