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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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音ゲーマニアがクランを立ち上げるらしいですよ

 

「クロエちゃんとぽてとさらーだは今イン出来そうだって?」

「あー……二人共今は大丈夫みたいだな。今からインしてくれるってさ」

「うおぉぉ……ありがたいけど、何か申し訳ないな……」


 興奮していつの間にか立ち上がっていたため、席に座り直すとカウンターのカップを手に取ると、ゆっくりと風味を楽しみながら珈琲を口にした。

 十分ほど経っただろうか、店の扉が開かれドアベルの軽快な音が店内に響き渡る。


「はぁ……すいません……はぁ……っ……遅れました」


 肩で息をしながら店内へ入ってきたのは純白のドレスアーマーを身に纏ったクロエだ。

 その後から続くようにしてぽてさらも姿を現した。


「いやあゴメンね? 俺達、クランを抜ける手続きしててちょっと手間取っちゃった」


 てへ、と軽い感じにぽてさらは言っているが、そんな簡単に幹部クラスのプレイヤーがクランから脱退など出来るのか、という疑問が心の中で燻る。


「あ~GENZIっち、今こう思ったでしょ? 幹部クラスのプレイヤーがそんなに簡単にクランを脱退できるのかーって」

「……なぜ分かった……」

「バレバレでーす」


 からかうようにしてぽてさらに笑われた。

 ぐぬぬ、と俺が言葉を詰まらせていると、ぽてさらの隣に立つクロエが補足してくれた。


「えっと、私達の元のクラン【天狼】のクランリーダーは――」

「俺のリアル兄なんでーす」


 クロエが言おうと口を開いた瞬間にぽてさらが間に割り込み、続きを話した。

 その内容を聞いた瞬間思わず我が耳を疑った。

 ―兄がゲーム内最強クランのリーダーで妹がそのクランの幹部とか……。

 一体どんな家庭なんだと内心ツッコミつつ、ふと疑問を口にした。


「でもさ、流石に兄ちゃんがクランリーダーだとしてもいきなり幹部の精鋭プレイヤーが二人も抜けたら不味いだろ?」

「うん、不味いと思うよ?」

「は?」


 さも当然のように悪びれも無くぽてさらは小首を傾げた。

 その整った男性アバターの顔には黒い笑みが張り付いている。


「兄さんはいつもウザイくらいに絡んでくるからさ、たまにはこうやって痛い目見ても良いと思うんだよね。多分今頃クラン拠点の中はてんやわんやで大変なことになってると思うよ」


 ニィ、と笑みを深くするぽてさらを見て、俺は思わず乾いた笑みを漏らした。

 ―あぁ……コイツ腹黒だわ……。

 それが俺の率直な感想だった。

 俺が渇いた笑みを浮かべている傍らで、クロエがコホンと咳払いをした。


「では、次は私の番ですね。私は元々ぽてに誘われて天狼に入ったんですが、入る時にリーダーと約束を交わしたんです。私が他に入りたいクランを見つけた時に引き留めたりしないでくれ、と」

「何でそんな約束を?」

「理由は……実は特にないんですよね……」


 あはは……、と照れ笑いを浮かべるクロエも可愛いな……。


「強いて言うなら、私が本当に入るべきクランはここじゃない、って何となく思ったからでしょうか?」

「それなら俺達の弱小クランなんかに入ってよかったのか?」

「はい! だって、このクランにはGENZI君がいるじゃないですか」

「え?」

「え?」


 思わず言われた言葉の意味を理解できずに言葉が繋がらない。

 今クロエは何て言った?

 このクランには俺がいる? それは一体どういう意味で言ったんだ!?

 思考が上手く纏まらず、体がソワソワして妙に落ち着かない。

 少し経ってから自分が言ったことの意味を考えたのか、クロエがあたふたとしながら顔を紅葉のように赤く染めた。


「え!? あ、えっと、これはその……。そういう意味じゃなくって!」

「わ、分かってる、大丈夫だ……」

「「……」」


 俺とクロエは二人して慌てふためき、沈黙が流れる。

 どうもクロエと一緒だといつもと調子が変わるというか……。

 頭を乱雑に掻くと、こちらをニヤニヤと見ながら耳打ちで話し合う麒麟とぽてさらの姿が目に映る。何故だろう、無性に腹が立ってきた。

 軽く睨むと、二人はあたかも何もしていないかのように、下手くそな口笛を吹きながら視線を逸らした。

 俺が歩み寄ると、話を逸らすように麒麟が大声で話し出した。


「あー! これでクラン作成条件が全部そろったぞー! よぉし冒険者ギルドに行って登録だぁ!!」

「そうだね!!」

「あ、おいコラ待てお前ら!」


 逃げるようにして店内から出て行った二人の後を追いかけて喫茶店を飛び出した。

 俺の後からはクロエが追随してきている。

 曲がりくねった小径をギルドの方向へと進んでいくと、ついぞ二人に出会うことなくギルドまで到着してしまった。

 開きっぱなしの木扉を潜り、ギルドの中に入ると酒を飲みかわす荒くれ者―の姿をした―達の喧騒が飛び交っており、理由は分からないがギルド中央で麒麟と大男が腕相撲を行っていた。


「うっおりゃぁぁぁ!!」

「うぐぉ!?」


 ぱこーん、と子気味の良い音と共に腕を樽の蓋に叩きつけられた大男は紅くなった手を痛そうに振りながら、もう片方の手を麒麟に差し出した。

 麒麟は伸びてきたゴツゴツとした手をぎゅっと握り返した。

 そこでようやく背後まで近づいた俺に気が付いたのか、慌てて逃げようとするも遅い。


「な、ちょっと待ってくれ! 俺が今腕相撲をしてたのは、冒険者になるために資格がどうのこうのと言ってきたその男が、俺に腕相撲で勝てば力を認めてやるって言ったんだ」

「それで腕相撲をしていた、と?」


 俺の問いかけに、麒麟は頭が千切れるんじゃないかと思う程の速度で頭を振る。

 俺が溜息をつくと、カウンター越しにお辞儀をしてきた女性ギルド職員の元へ向かう。


「クランを作りたい」

「クランですか? それでしたら作成条件は全て達成しているでしょうか?」

「問題ない」


 俺はアイテムボックスから必要な分の百万ゴールドを取り出すと、袋に入った状態のまま受付職員に手渡した。


「クラン拠点に関してはどこでも構わない。人数に関してもしっかり四人足りている」

「それでしたらこちらの契約書にサインを」


 手渡されたのは簡略化された履歴書のようなそれの空欄を次々に埋めていく。

 残ったのは最後の二項目のみだ。

 でもこればかりはみんなの意見が聞きたいな……。


「悪い! 麒麟、ぽてさら、クロエちょっと来てくれるか?」


 俺が呼びかけると三人は思いのほか早く集まってきてくれた。


「全員集めたのは他でもないこれに理由があるんだよな」


 指差したのは最後の二項目。

 一つ目はクランのエンブレムに関して。

 二つ目はクランの名前に関して。


「エンブレムかぁ……。先に名前決めてからの方がいいんじゃねぇ?」

「俺もさんせーい」

「まあ確かに一理あるよなー……」


 クランの名前か……。

 いきなり言われてもな……。

 俺達が決めあぐねて唸っていると、クロエがはっと思いついたように手を叩いた。


「それならこんなのはどうですか? 異名(セカンドネーム)何ていうのは。私たちは偶然全員が二つ名をつけて頂いていることですし、丁度いいんじゃないかなと」

「それなら――」


 麒麟が口を開こうとした瞬間だった。

 このギルドの方向に向かって無数の足音が近づいてきていることに気が付いた。

 間違いない、この足音、絶対にあいつらだ……!

 となれば時間が無い。

 一刻も早くクランを結成しないと!


「不味いぞ……アイツらに俺達がここにいることがバレた!」

「うっそぉ!? ちょっ、GENZI早くクラン結成して!」


 唐突に慌て始めた俺と麒麟の様子を見て残る二人は怪訝そうな顔をしているがそんなものに構っている暇はない。

 エンブレムは……もう適当でいいか!

 よし、何とか書き終わった!


「お願いします!」

「はい、確かに。……それでは皆様のことをギルドは新たなクランとして認めます。クランの活動についての説明は……」

「大丈夫です、ありがとうございました!」


 無理矢理会話を終わらせると、まだ何かを言っていた受付嬢の話も聞かずに俺は踵を返した。

 次第に歩く速度が上がり、麒麟たちが待つテーブルの場所に来る頃には小走りで向かっていた。


「GENZI!」

「ああ、こんなところは早くとんずらしよう」

「行くぜぇ! 転移! アズマ!」


 身体がポリゴンの欠片として消え行く最中、最後にギルドの門をくぐり抜けて駆け込んでくるアイツらの姿が目に映った。

 ざまあないな、と内心ほくそ笑みつつその場を後にした。





「それで俺達のクランの名前、結局どうなったんだ?」

「ん?」


 転移するや否や気になってしょうがないといった様子で麒麟が話しかけてきた。


「俺達のクランの名前は【異名(セカンドネーム)】だ。そしてエンブレムなんだが……時間が無くて適当に選んだらこんな風に……」


 俺が見せたのは中央に音符のマークが置かれ、その周りを取り囲むように、刀、銃、杖、盾のマークが施されたものだった。


「ははっ、俺達らしくていいんじゃね?」

「そうだね」

「はい!」

「皆がそういうなら……まあ良かったのか?」


 こうして俺達は新しいクランを作った。


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