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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
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音ゲーマニアが大型アプデの内容を聞くようですよ

 

 健仁がGENZIとして降り立ったのはバルバロス共和国首都、【バルバロス】。

 相も変わらず活気に満ち溢れた街並み。

 行き交う人々の表情が本当に生き生きとしているようにGENZIの目には移った。

 スポーン地点である街の中心部に構える転移の石碑の前で佇んでいると、メールの着信マークが視界右端に点灯する。


「……」


 GENZIはうんざりとしながらも、メールを開くと送り主はGENZIの想像通り麒麟だった。

 内容は簡潔で、今どこにいるのか、とのことだ。

 バルバロスとだけ返信を送ると、その数秒後に転移の石碑が光り出した。


「GENZI~!!」

「ふんっ……!」

「ぎゃふっ!」


 転移時特有の光の中から現れたのは麒麟だ。

 麒麟は辺りを見回し、GENZIのことを見つけるや否や駆け出し、その胸目掛けて跳び込んだ。

 自身へと迫る麒麟に冷ややかな眼差しを向けると、GENZIは腰を落とし、拳を構える。臨戦態勢を取るGENZIのことなど露知らず、そのまま跳び込んだ麒麟の鳩尾(みぞおち)をGENZIの体重が乗った全力の拳が穿った。

 跳び込んだ勢いを反転させ、後方へと吹き飛んだ麒麟は何度も地面をバウンドしながら壁に勢いよく激突した。


「ふぅ……。ああ、すっきりした」

「なに、爽やかにすっきりしたとか言ってんだよぉ!!」


 砂煙舞う壁際で勢いよく立ち上がった麒麟は、達成感に満ち溢れたような顔をするGENZIに食って掛かる。

 それに対してGENZIは、心底面倒くさそうな顔を隠そうともせず麒麟に見せた。


「俺だって世界大会明けで疲れてるんだ……。疲れを取ろうと眠ろうとしたらお前に安眠を妨害された俺の気持ちを少しは考えろ」

「それは悪かった! でも事態はそれくらい急を要するのものなんだって!!」

「…………それで? 結局本題は何なんだ?」


 長く間を置いて、溜息を一つ吐くとGENZIが折れたように話の続きを促した。

 麒麟はよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりの顔で嬉しそうに話し始めた。


「ついに……ついに……UEOに大型アップデートが来たんだッ!!」

「は……?」

「いやだから、UEOに大型アップデートが来たんだって!!」

「え……嘘だろお前、まさかとは思うけど大型アップデートの内容を俺に伝えるためだけに呼び出したのか……?」


 健仁の問いかけに、さも当然のように麒麟は頷く。

 それを見たGENZIは、下がりかけていた怒りが再びこみ上げてきたことを感じた。


「あ、お前たかがアップデートとか思っただろ? チッチッチ~、全然そんなことないんですよ。細かい修正とかまでは流石に覚えてないから大まかな所だけ話すぜぇ」

「別に俺は聞きたい何て一言も――」

「それではまず」


 GENZIが発言しようとした瞬間にそれに被せるようにして麒麟は話し始めた。


「一つ目、イデアによって設置された、世界各国の全サーバー、全ワールドの統合!」

「……はぁ?」


 一つ目の発表の時点でGENZIは思わず変な声を漏らしてしまう。


「まあそういう反応になるのは仕方ないかもな、俺も最初はそう思ったし」


 普通に考えれば、世界で何千万と売れているオンラインゲームっていうのはいくつものサーバーに分かれ、さらにその下にワールドで分けられているのが一般的だ。

 だが、UEOは敢えて一つのサーバー、一つのワールドに纏めてしまおうとしているのだ。


「いくらイデアと言えど全プレイヤーを一つのワールドに押し込むのは無理があるだろ。それに外国のプレイヤーとコミュニケーションを取れずに結局は日本人同士でパーティーを組んでる未来が俺ですら分かるぞ」

「それがねぇ、いけちゃうんですわ。まずサーバーの話だけど、イデアがどうも新型の回線を導入したとかで一口に言えば問題ないんすわ。そんでもってコミュニケーションの問題だけど……GENZI、外国人と普通にコミュニケーションをさ、ゲーム内でとったことあるんじゃない?」

「何を……あっ」


 麒麟の問いかけにそんなことは無い、そう口にしようと考えていたGENZIの口から漏れたのは、何かを思い出したかのような呟きだ。


「GENZIも気付いたみたいだな。そう、BSDで導入されていた多言語(マルチ・ランゲージ)システムだよ。最近UEOの運営元であるイデアがBSDの運営を買収しただろ? つまり――」

多言語(マルチ・ランゲージ)システムをUEOにも導入できる……?」

「そういうことだなぁ」


 GENZIは驚愕のあまり声も出せなかった。

 その胸中は驚愕と、期待の念で埋め尽くされていた。

 もしもそれが実現したら間違いなくUEOは更なる発展を遂げる、と。


「ちょっと長くなっちゃったけど二つ目、レベルキャップの解放と第二職業(セカンド・ジョブ)の登場だ……!」

「ははっ……まだあんのかよ?」


 レベルキャップの解放……。

 それはつまり、現在のレベル上限よりも、レベル上限が高くなるということ。

 そうなれば必然的に飽和状態だった攻略勢やトップ勢と呼ばれる者達。また、廃人と呼ばれる一部のプレイヤー達が待ちわびていたアップデートだ。


 第二職業(セカンド・ジョブ)の登場も現状のUEOを大きく変える要因となるだろう。

 これの登場によって新たな戦術や戦闘スタイルが確立されてくることになること間違いなしだ。


「レベルキャップ解放に加えて第二職業(セカンド・ジョブ)の登場、か……。これはUEOが熱くなりそうだな」

「だろ? 特に第二職業(セカンド・ジョブ)何てメチャメチャ魅力的だよなぁ。まだまだあるぜぇ? お次はこれまで結局公式には無かったクラン戦の追加と、公式のクランランキングの登場だ!」

「え、今までのクランランキングって公式のものじゃなかったのか?」

「うん、まあ。これまでに行われてきたクラン戦も双方のクランが決めたルールに則って戦うって感じの非公式の戦いだったからなぁ……」


 俺には関係のない話だな、と麒麟が首を振ると、同調したGENZIも頷き返す。


「あとは……。ああ、そうだ! 夏に新しい公式主催のイベントが行われるっぽいぞ」

「マジ……?」

「マジマジ。前回みたいな純粋な対戦系のイベントではないと思うから、今度のはモンスターの討伐系とかアイテムの採集系とかじゃないかなぁ」

「ほー……」


 そこまでの麒麟の話を並べるだけでも絢爛なアップデートの内容に、GENZIの再臨しようとしていた怒りも冷め始める。


「ま、本題はここからなんだけど」

「俺の事をわざわざ呼び出した理由か」


 そそー、と笑みを浮かべる麒麟は単刀直入に話を切り出した。


「レベルキャップも解放されたからさ、またレベル上げ……しようぜぇ!」

「OK!」


 麒麟の話に即答すると、GENZIと麒麟は力強く手を握り締め合った。

 二人の顔に浮かんでいるのは悪戯心の見え隠れする無邪気な笑顔。

 新しい玩具を見つけたと言わんばかりに二人は計画を練り始める。


「それで? 具体的にはどうするつもりなんだ?」

「プランは立ててあるさ。結局のところ俺とGENZIってまだアプデ前のレベルキャップまで届いてなかったじゃん? だからまずはアプデ前のレベル上限まで狩りを続けようと思うんだけど……どう?」


 GENZIの返答待ちと言わんばかりに顔色を窺う麒麟に、GENZIは二ッと笑みを向けた。


「お前が言うなら間違いないだろ。頼りにしてるぜ、相棒」

「お、嬉しい事言ってくれんじゃん。よ~し、それじゃあ早速……っていきたいところなんだけど俺朝ご飯食べてないから食べてきちゃうわぁ~」

「あ、俺もだ」


 顔を見合わせて、ははっ、笑うとGENZI達は集合時刻をニ十分後の六時四十分に決め、ログアウトした。現実世界へと帰還した健仁は、あっ、と思い出したかのように声をあげる。


「プロゲーマーの件について麟に話しそびれた……。まあ、またすぐに会うんだからいいか」


 リビングへと降りていくと、いつも通りシリアルを食べ、冷蔵庫の入るスペース全てにぎっしりと詰め込まれたALIENの中から一つを取り出し、ぐいっと一口のもと飲み干した。

 健仁が世界大会で観客の方々から腐る程に貰ったALIENは、こうして地道に消費していかなければ文字通り賞味期限が切れて腐ってしまう危険性があるのだ。


 重りを取り付けたかのように半開きになっていた瞼がぱっちりと開かれる。

 健仁は自身の眠気が冷めていくことを確認すると、部屋に戻り、届いたばかりの【ナーハフォルガー】の設定を開始していた。


「せっかく貰ったんだし、使わなきゃ損だよ損」


 鼻歌交じりに説明書を見ながら、組み立てていき、設定も終わらせるとデータを移行させ、期待に膨らんだ胸の衝動に駆られるまま、健仁は【ナーハフォルガー】に手を掛けた。


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