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Utopia Endless Online~音ゲーマニアがいくVRMMORPG  作者: 赤井レッド
ああ、剣虎よ!幾仟の剱と共に
102/138

音ゲーマニアが賞金と賞品を貰うようですよ

 

「ん……ここは……」


 視界に移るのは白い無機質な天上。

 上体を起き上がらせると、自分がベッドに寝かされていたのだと分かる。

 ベッドを取り囲むように張られたカーテンの隙間からはライトの明かりが差し込んでいる。

 俺がベッドから降りようとした時、丁度さらら、と音を立ててカーテンが開いた。


「良かった、目を覚ましたんだねGENZI君」

「師匠? これはいったい……」

「ああ、君は覚えていないのか」


 そう言ってベッドの俺の隣に腰かけると、要点を絞って説明してくれた。

 どうやら俺は決勝戦が終わった後、意識を失ってステージ上で倒れたらしい。

 その俺を師匠が医務室まで運んでくれたとのことだ。


「そうだったんですか……。すいません、迷惑をかけてしまって……。ありがとうございました、師匠」

「気にしなくていいさ。僕も弟子に良い顔出来て嬉しいよ」


 本当に師匠は出来た人だよなあ……。

 思わず言葉が喉で詰まってしまう。

 話題を無理矢理替えるように俺は気になっていたことを師匠に問いかける。


「……ところで師匠、結局大会はあの後どうなったんですか?」

「いや、大会はまだ終わって無いよ」

「え?」

「だって、君が意識を失ってから、まだ五分くらいしか経ってないからね」


 はは、と笑う師匠の顔を見て、俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 たった五分しか経ってないなら最初に言って欲しかった……何て言うのは止しておこう。


「ああそうだ、GENZI君が起きたら伝えてくれと頼まれていたんだった。どうやら優勝者であるGENZI君に賞金や優勝賞品の授与があるらしくてね。……時間的に今なら観客の方々も残っているだろうから会場に行った方がいいと思うよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、また後で」

「ちょっと待って! やっぱり僕も付き添っていく。GENZI君は病み上がりなんだから、もしもの事があったら大変だしね」





 結局終始無言のまま会場の入り口まで着くと、師匠は控え室の方へと戻っていってしまった。

 師匠と別れ、俺は扉を開き、会場の中へと足を踏み入れた。


「――それでは、第三回Beat Sword Dancer Arenaを……? えっ? GENZI選手?」


 たった今大会を締めくくろうとしていた司会のTさんの視線が俺の方で固定され、何気なしに出た言葉によって観客席の人々の視線が俺へと降り注ぐ。


「あ、えっと。ご迷惑お掛けしたみたいですいません……」

「いえいえ、気になさらないでください! それよりもGENZI選手は大丈夫なんですか?」


 俺が謝ると、Tさんは手をぶんぶんと振って気にしないでくれと言ってくれた。

 それどころか俺のことを心配してくれていたようだ。


「大丈夫ですよ」


 笑みを浮かべて答えると、Tさんは安堵したかのように胸を撫で下ろしていた。


「GENZI選手が戻ってきたので、予定通り賞金と賞品の授与を行いたいと思います」


 Tさんが何やら襟元に着いたマイクに話しかけると、いつでも出てこれるよう準備していたのかと思う程迅速に大きな箱が乗せられた台車が運び込まれる。


「それでは、まずは賞品の授与です。一つ目はBSDの次回作であるBeat Sword Dancer Evolutionのβアクセス権とαアクセス権が手に入るコードをプレゼントしたいと思います!」


 観客席から送られてくるのは盛大な拍手と、様々な野次。

 素直に祝福する声もあれば、羨ましいだの俺にくれだのの妬みを含んだ声もチラホラと聞こえてくる。観客席の人々の熱が冷めやらぬまま、Tさんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。


「皆様、賞品はそれだけではありませんよ。さらに、BSDの新運営会社であるイドラが運営する全てのゲームで一度だけ使用可能な、アイテム交換券をプレゼント致します!」


 とは言え、先程の喧騒も相まって二つ目の賞品であるアイテム交換券の方にはあまり反応が無い。かく言う俺もアイテム交換券の方はさほど気になっていないしな。

 敢え無く聞き流されたことなど気にも留めていないのか、Tさんは平然とした顔で台車に乗せられていた小さい方の箱を手に取り、俺に渡した。


「それでは賞品の授与は完了しました! 続いては……大会の優勝賞金についてです!」


 やはり人というのは金には敏感なんだろう。

 賞金という単語が出た瞬間の観客席の人々の食いつきようは、これまでのそれよりも遥かに速かった。まるで自分のことのように鼻息荒く興奮した観客の人々が見守る中、焦らしに焦らしたTさんの重い口がようやく開かれる。


「第一回、第二回と増額された賞金、今年はさらに増額され何と一千万円です!!」


 い、一千万円……!?

 あまりにも大きな額に頭がくらくらする。

 ただ、俺と同様……いや、それ以上に観客の人々は正に阿鼻叫喚の嵐ともいえる程の混乱を見せていた。でも確かに分かる気がする。

 普通に考えれば一千万何ていう大金は、頑張って働いても中々貯まらない金額だ。

 それをたった一回のゲームの結果で貰えるなんて言うのは美味しい話にも程がある。


「今年のイドラはUEOやBSD、さらには他ゲーム達の売り上げもかなりよく、資金が潤沢だったために去年の倍額という賞金が設定された訳です。それではGENZI選手、これを」

「え、え? え!?」


 混乱と焦りによって冷静さを欠いた俺は、挙動不審となりながらもTさんから渡されたプレートを受け取る。……そう、()()()()()


「流石に現金をこの場でお渡しするわけにもいきませんから。そのプレートを銀行に持って行ってください。そうしてGENZI様本人だと確認が取れ次第銀行に一千万円を振り込むことが出来ますので」


 一千万…………。


「本当に大丈夫ですか、GENZI選手?」

「あっ、ええ、はい」


 危ない、頭が賞金のことで一杯だった。

 本当に俺はこんな大金を一体どう使えばいいんだ……。


「それでは賞品、賞金の授与も終わりましたので、これで第三回Beat Sword Dancer Arenaを終了いたします!」





 大会が終わり、俺宛てのプレゼントや手紙の山を片付けようと控え室へと戻ると、部屋の中にはソファーに座りリラックスしている師匠の姿があった。


「師匠!?」

「ん? ああ、お帰り」


 さも当然のように俺の控え室で待ってたけど何故師匠が俺の控え室に……?


「僕がGENZI君の控え室で待ってたのは君に用があったからだよ」

「さも当然のように心の声を読むの凄いですね……」

「それで君に用っていうのは、GENZI君は最近UEOを始めたそうだね。そこで僕がUEO向けに二つ程君に技を教えてあげようと思ってね」

「技……ですか……?」


 俺が今まで使ってきた技術。あれらは全て師匠から教わった音ゲーの基本を応用したものだ。

 そして師匠は今、新しく教える技術の事をUEO向けと言った。

 こんな音ゲーと関係性が皆無のものに師匠の技術が使えるのかという疑問。

 また、師匠が音ゲー以外の事を俺に教えてくれるといったのが初めてだったので、浮足立つ気持ちがある。


「このUSBメモリの中に保存された映像を見て独学しなさい。僕からヒントをあげよう」


 何が何やらさっぱり状況が読めない。


「ヒントその一、自分から音を消すんだ。そしてヒントその二、自分の音を高めて相手にぶつけてみなさい。この二つがヒントだよ」


 テーブルにUSBメモリを置くと、師匠は颯爽と控え室を後にしていった。

 一瞬の出来事で思考が停止している間に師匠の姿は消え、後にはUSBメモリと師匠のヒントが頭に残る。

 銀色のUSBの裏面にはメモ書きが描かれており、【激難】と、書かれている。

―本当に師匠は俺の事をよく理解してるなぁ……。

この【激難】という文字、恐らくはあえて書いたのだろう。

その目的は俺にやる気を出させるため。

何故なら俺は――。


「押すなって言われたら押すタイプの人間だからな!」


大量のプレゼントを一つの巨大な袋に詰め込み、口の部分を片結びすると肩に担ぐ。季節外れのサンタクロースの如く、巨大なビニールを肩に担いだまま、俺は帰路へついた。


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