音ゲーマニアがVRMMORPGをプレイするようですよ
唐突にVRMMORPGが書きたくなってしまいました…
前方から流れてくる音符を両手に持った仮想の刀で切り伏せる。意識は集中し感覚は極限まで研ぎ澄まされ、ただひたすらに音楽にのって斬り続ける。
<PERFECT!>
<PERFECT!>
<PERFECT!>
<PERFECT!>
虹色に輝く文字が現れては消え、現れては消えと過ぎ去っていく。そしてついにその瞬間は訪れた。流れてくる音符の速度が加速する。そしてついに音符が流れてこなくなり、目の前には半透明のボードのようなものが浮き上がり、そこには楽曲の演奏結果が記されていた。そこには大きな文字で一言。
<ALL PERFECT!!>
そう書かれていた。
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
ついに念願の全楽曲のAP(ALL PERFECTの略)を達成した俺はこみあげてくる嬉しさと達成感を噛み締め、喜びに打ち震えていた。すると目の前に、小さな猫が現れた。その猫はこのゲームのマスコットキャラクターである、ビートキャットだ。
「お疲れ様ですにゃ。あなた様は世界で初めてこのVRゲーム、『Beat Sword Dancer』の全楽曲をALLPERFECTクリアされましたにゃ。それに敬意を表してあなたには運営より特別な称号を進呈させていただきますにゃ」
するとUIの右下にあるメニューのところに一件の通知マークが表示された。
「それとこれはもうどうしょうもにゃいのですがあなた様が全楽曲をALLPERFECTクリアをしたことは『Beat Sword Dancer』をプレイしている全プレイヤーに先程告知させていただきましたにゃ。ご理解のほどよろしくお願いしますにゃ。それでは今後とも『Beat Sword Dancer』をよろしくお願いしますにゃ」
そう言い残すとビートキャットの姿はキラキラと光りデータが露散するように消えていった。先程届いた一件のメッセージを確認すると運営からのメールだった。先程ビートキャットから言われたようなことやここまでプレイしてくれたことへの感謝、そして例の称号が添付されていた。どうやらその称号はこのメールを見た瞬間に自動的に装着され、外すことはできないらしい。このゲームは他のオンラインプレイヤーとセッションする際や交流する際にプレイヤーの上らへんに名前と称号が表示されるので、必然的にこの称号も見られることになるだろう。
「はあ…これはちょっと面倒くさいかもなあ…」
そんなことを思っていると、また新着の通知マークが何件か表示された。メールボックスを確認するとそれは数人からのおめでとう、というお祝いのメッセージや先を越されて悔しいといった内容のメッセージだった。いずれも数少ないフレンドたちからで、顔が少し綻んでしまった。こうして余韻に浸っているのもいいのだが明日は学校がある、時刻を確認するともう午前二時半であった。メールの返信は一旦後回しにしてすぐにログアウトすると急いで眠りにつくのだった。
称号『THE Beat Sword Dancer』
『Beat Sword Dancer』の全楽曲をALLPERFECTでクリアした者に与えられる称号
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翌朝、といっても先程寝たばかりなのだが起きると重たい体を動かし、シャワーを浴びるために部屋を出て階段を降り一階に向かった。リビングのドアが開いていたのでちらりと横目で見ると、どうやら両親と妹はもう起きて朝食を食べているようだった。
風呂場に着くとパジャマとして着用していた、上下黒色のスウェットを脱ぎ捨てシャワーを浴びた。
「ふう…」
シャワーを浴び終わると、寝起きの時よりかは目が覚めた。先程部屋を出るときに持ってきておいた高校の制服に着替え、髪を乾かす。するとちょうど朝ご飯を食べ終えた妹の亜三が洗面所に入ってきた。
「あ、ごめんお兄ちゃん。まだ使ってた?」
「ああ、大丈夫。今ちょうど終わったところだから」
「そう?良かった。それにしてもお兄ちゃんその目の下の隅…また徹夜でリズムゲームしてたの?」
「まあそんなところだな。ようやく『BSD』を完全攻略してさ、今度はどの音ゲーやろうかなって迷ってたんだ。『BSD」以上のものとなるとなかなか思いつかなくてな…」
「ふーん…確か『Beat Sword Dancer』だっけ?お兄ちゃんもたまにはリズムゲーム以外のゲームをやってみたら?」
「健仁~朝ご飯冷めちゃうわよ~」
「ああ、確かにたまにはそういうのもいいのかもしれないな…あ、それじゃあ俺は朝飯食ってくるわ」
「うん」
母に呼ばれたので急いでリビングに向かった。やはり俺以外の両親と妹は先に朝ご飯を食べ終えたようで、キッチンで母さんが使い終わった食器を洗っていた。父さんはもう会社に行ってしまったのかリビングには居なかった。
「テーブルに朝ご飯置いてあるから早めに食べてね」
「ああ」
椅子を引き席に着くと、ふとテレビの時間を見るともうすぐ家を出なければならない時間だと分かった。テーブルに並べてある食パンとスクランブルエッグ、そしてサラダを口の中に詰め込むようにして急いで食べ終えると、部屋に戻り今日必要な教科書とノートを入れた鞄を持ち玄関へ急いだ。
「気を付けて行ってらっしゃいね~」
リビングを通りかかった際に母に声を掛けられたが急いでいたため、走りながら片手をあげて返事替わりとした。玄関にはちょうど家を出ようとしていた亜三がおり、靴を履いている所だった。
「お兄ちゃんも今行くところ?」
「ああ、いつもより起きるのが遅かったから、少し疲れたけどな」
「それじゃあ学校まで一緒に行こっか」
「そうだな」
ちなみに亜三は俺の一つ年下で高校一年生だ。俺と同じ高校に入学してきて、少し男子達の中では噂になっていたりする。何故かと言えば純粋に亜三が可愛いからである。兄の俺から見ても容姿が整っている方だと思うのだから他の男子達が噂をするのも無理はないだろう。ただ亜三は容姿が良いだけではなくスポーツも勉強も出来るときた。まるでフィクションの中に出てくる完璧超人である。
俺も亜三程ではないが勉強も運動も平均以上には出来るがあそこまで完璧にとはいかない。そんな亜三だが俺と共通している点もある。それはゲームが好きというところだ。学校では仲の良い友達以外には何故か隠しているようだがそんな共通点もあって兄妹仲は悪くはない。今も登校中にゲームの話をしていたところだ。
「それでお兄ちゃんは次にやるゲーム決まった?」
「いんや、決まってない。さっき亜三に言われた通り他のジャンルのVRゲームのことも視野に入れてみたんだけど今まで音ゲー以外のゲームってあんまり手を出したことがなかったから何をやればいいのか分かんなくてさ」
「そっか…あ!それじゃあ私が今遊んでるゲームをやらない?」
「どんなゲームだ?」
「えーっとねえ―――」
~~~~~~~~
話しながら歩いている間に学校の前までいつの間にか来てしまっていた。昇降口から入り、上履きに履き替えると階段を上っていく。俺は二階に付くと自分の教室へ向かった。
「それじゃあ放課後にね、お兄ちゃん」
「ああ、また後でな」
教室に向かう途中肩を叩かれたため後ろを振り返った。
「よっ!おはよ、健仁」
「おはよう、麟」
こいつは鹿ノ基麟。鹿ノ基が苗字で麟が名前だ。珍しい苗字だし名前も女子っぽいけど男で、俺の中の良い友達の一人だったりする。
「昨日あんな深夜に運営から告知があったと思ったらお前が全曲APしたって聞いたからすげえ驚いたんだぜ?それにしてもやっぱりお前に先を越されちまったか…やっぱり悔しいな。それにしてもどうやってあの曲をAP…というかクリアしたんだよ?」
「ん?ああ、それは――」
俺が話そうとしたらチャイムの音が鳴りそれを遮った。
「今は無理そうだから後でな」
「りょうかーい」
ちなみに麟も『Beat Sword Dancer』をプレイしており、かなりのハイレベルプレイヤーである。何せついこの間まで俺とどちらが先に全曲APするかを競っていた一人なのだから。
~~~~~~~~~
ようやく全ての授業が終わり、放課後になった。朝登校中に亜三と買い物に行く約束をしていたため、待ち合わせ場所の校門前に行くとすでに亜三は待っていた。
「悪い、待たせたな」
「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ買いに行こっか」
俺達はそのまま近くのショッピングセンターまで向かった。ショッピングセンターに着くと一直線向かったのは…ゲーム売り場であった。俺達は兄妹で仲良くショッピングセンターにデートをしに来たわけではない。俺達の目的はこのショッピングセンターで亜三の遊んでいるVRゲーム、『Utopia Endless Online』を買いに来たのだ。なぜそうなったのかというと登校中にプレイするゲームを迷っているなら亜三の遊んでいるゲームを一緒にやらないか、という話になったためである。
「んーこの辺にあるはずなんだけど…あ!あった!」
「それがそうなのか?」
「うん!良かった~置いてて。『UEO』ってすごい人気があるから店に置いていることがなかったりするんだよねえ」
「それじゃあそれ買ってきちゃうわ」
レジで会計を済ませ亜三の所に戻ると、すぐに帰って遊ぼうと言われたので休む間もなく速足で家に帰ることになった。家に着くと亜三は俺にチュートリアルを終わらせたら始まりの町の広場に居るから来て、とのことだったので、早くゲーム内に入ることにした。自分の部屋の中に入り頭から被るようにしてVRマシンを取り付けると、『Utopia Endless Online』のソフトを本体に挿入し、ベッドに体を預けると仮想世界へと意識が没入していく感覚が分かった。
気が付くと、そこは真っ白な空間で俺の目の前には一人のメイド服を着た女の人が立っていた。
「ようこそ『Utopia Endless Online』へ。プレイヤーネームはどうなさいますか?」
「そうだな…」
俺は少し考えたが、やはり今まで音ゲーでずっと使っていた名前に愛着があったのでその名前を使うことにした。
「プレイヤーネームはGENZIにしてくれ」
「かしこまりました、それではまずこのゲームの説明からさせていただきます。この『Utopia Endless Online』はオープンワールド型のVRMMORPGです。様々な武器防具やスキル、無数の職業に遊び方。戦闘以外にも釣りや建築、料理などの要素もあり、様々なコンテンツがございます。何をするのもあなたの自由なのでお好きなようにプレイしてください。そしてこのゲーム最大の特徴は終わりがないことです。通常のゲームなら魔王を倒したら世界が平和になって終わり、となるかもしれませんが、このゲームに終わりはございません。永遠にこの世界は続いていくのです」
「それってつまり絶対にクリアできないってことか?」
「プレイヤーの一挙手一投足にて新しく物語がつくられていくのでそうとも言えるかもしれません」
「ふーん…まあいいか、続けてくれ」
「それでは早速キャラクリエイトを行いましょう」
目の前には膨大な量の設定項目欄が現れた。輪郭や骨の長さ、瞼の脂肪などもあり、毎回キャラ作りは面倒臭いと思う。そのためいつものやり方で作ることにした。
「キャラの見た目は現実の俺の見た目を使ってくれ。ただ髪の色は明るめの茶髪に、瞳の色は緑にしてくれ。流石に現実そのままにすると身バレするかもしれないしな」
「かしこまりました。……これでよろしいでしょうか?」
メイド服の女の人が大きめの鏡を手に持ち、自分の姿を確認させてくれた。正面と横から確認したが今までのVRゲームと同じようなキャラになった。ただ、今まで遊んだどのVRゲームよりもグラフィックが奇麗でまるで現実なのではないかと思わされるほどに精巧な作りであった。
「ああ、完璧だ」
「左様ですか。それではGENZI様職業を決めてください」
提示された職業は全部で14。
『騎士』『戦士』『傭兵』『盗賊』『狩人』『魔術師』『聖職者』『採掘師』『木こり』『釣り師』『錬金術師』『鍛冶師』『裁縫師』『無職』
この中から決めるようだ。一つ一つ職業の詳細を確認していった結果、最終候補に残ったのは『傭兵』『盗賊』『狩人』の三つだった。何故この三つに絞ったかというと、どうせなら『BSD』で培った二刀流の技術をこのゲームでも活かしたいと思ったためだ。そうなると剣を二刀流で扱うためにはある程度のSTRとDEXが要求されたためこの三つの職業が残ったのだ。
この三つの職業にはそれぞれ長所がある。まず『傭兵』は単純にこの三つの職業の中でステータスが最も高く、二刀流でも使えるスキルが最初から覚えている所だ。次に『盗賊』だが、短所としてはステータスは全体的に低くSTRは二刀流をするために必要な最低値だ。代わりにAGIが高く、何かと便利そうなスキルを持っている。最後に『狩人』だが、『狩人』もSTRは二刀流をするのに必要な最低値でDEXが高い所は良いだろう。サブ武器として弓を持っているため中・遠距離からの奇襲攻撃が出来る所も良い点だといえる。そして少し考えた末に俺は目の前にいる女の人に言った。
「職業は『狩人』にしてくれ」
「かしこまりました。それではチュートリアルに移行します」
すると、周りの風景が何もない真っ白な空間から草が生い茂り青空の広がる草原に様変わりした。肌を撫でる風も少し感じる土の匂いもどれもがリアルだった。
「それではチュートリアルを開始いたします。まず私の上の辺りをご覧ください。そこに私のキャラクターネームが表示されているはずです」
言われた通り見てみると、頭上に丸いカーソルと『エアリス』という文字が表示されていた。
「エアリス?」
「はい、エアリスでございます。しっかりと確認できたようですね。このゲームではプレイヤーだけでなく、私のようなNPCやモンスターなどにもカーソルが表示されプレイヤーは三角のカーソルが、それ以外は丸いカーソルが頭上に表示されます。そのためプレイヤーとNPCを間違えることはございませんのでご安心ください。次はメニューの説明を行います。口に出してメニューと唱えるか、頭の中でメニューと思い浮かべていただければ正面に表示されるはずです」
「メニュー」
エアリスが言っていた通り目の前にRPGゲームなどでありそうなメニュー画面が出てきた。
「メニューではステータスの確認やステータスポイントの割り振り、スキルのセットに装備の着脱やアイテムの確認・使用などが可能です。アイテムの使用でしたらショートカットに登録しておけばメニューを表示しなくとも使用することができます。またゲームの設定やログアウトなどもメニューから行えるので覚えておいてください」
「実際に武器防具を装備してみましょう。ステータスをタップするとステータス画面がでるのでタップしてください。ステータス画面が表示されましたら、自身の体の隣に空欄があると思いますのでそちらをタップしてください。そうすると左側にステータス画面、右側に所持している装備が表示されていると思います。あとは所持している装備をタップし空欄までドラッグしていけば装備されます。先程選んだ職業の装備品を所持していますので全て装備してみてください」
言われた通りに所持していた装備品を全て装備した。ステータス画面に表示される自分の姿を確認すると、全身に茶色の皮鎧を装備しており、マントの緑色が映えていた。また、装備した三角の皮帽子と、背中に差した弓が狩人らしさを演出していた。腰には右側にショートソード、左側には短剣を差していた。もしも初期装備で剣が二本無かったらどうしようかと思っていたがその心配はいらなかったようだ。
「装備が完了したようですね。続いてスキルセットです。スキルも装備同様職業を選んだ際に獲得しています。スキルセットの仕方は装備同様右の欄に所持しているスキルが表示されているのでそれを左側の空白の欄にドラッグしてください」
確認すると、初期スキルは三つのようだった。すべてのスキルを空欄にセットすると再びチュートリアルが再開した。
「準備が整いましたので、今度は戦闘チュートリアルを行います。今からモンスターを呼び出すのでそのモンスターを撃破してください。GENZI様の場合でしたら弓で中距離から攻撃するのもありですし、ショートソードを使い近距離で戦うことも可能です。またスキルの発動は例外もありますが基本的にはスキル名を唱えることで発動します」
ある程度必要な情報を言い終えると、エアリスが俺の前方に手をかざした。するとそこに一匹の小さな猪が現れた。モンスターの名前は『リトル・ボア』、見た目は茶色の毛並みの普通の猪…の牙だけを異常に発達させたような見た目だ。
リトル・ボアは俺の方に気が付くと牙を前に突き出しながら突進してきた。モンスターと言えど所詮は猪なので直線にしか攻撃ができないらしく、横にスッと退くとがら空きになったリトル・ボアの尻にショートソードを突き刺した。
「モォォァァァ…」
倒したリトル・ボアはふわぁっとポリゴンになり露散していった。戦闘は終了し、戦闘結果が目の前に現れた。そこには、倒したモンスター名と討伐数、ドロップしたアイテムと獲得したお金、そして取得した経験値などが表示されていた。耳元には祝福の音のようなものが鳴っており、どうやらそれは今の戦闘でLVが上がったための様だった。
「おめでとうございます。見事にリトル・ボアを倒しましたね。それによって得た経験値でLVアップしたようです。それではまたメニューを開き、ステータスを確認してみてください。すると、ステータス画面の左上の辺りに未使用のステータスポイント10と表示されていると思います。このゲームには九つのステータスがございます。HP・MP・STR・DEX・VIT・AGI・INT・MND・LUCの九つで、HPとMPは自身の職業LVが上がるとそれに伴って上昇します。ただ、その他の七つのステータスに関してはLVアップしただけではステータスが上がらず、LVアップした際に獲得したステータスポイントを割り振るか、装備や職業の効果で上げる必要があります。早速ステータスポイントを振り分けてみましょう」
少し考えたがDEXとAGIに5ポイントずつふることにした。理由はDEXが上がると弓と、弓の威力が上がり、若干ではあるが二刀流にも補正が加わるようであったからだ。AGIは単純に自分は守るよりも避ける方が得意なため回避に補正のかかるAGIにふったのだ。
「これでチュートリアルは終了です。お疲れさまでした。それではGENZI様を今から始まりの町にテレポートさせます。どうぞ『Utopia Endless Online』の世界をお楽しみください」
エアリスが腰を曲げ奇麗なお辞儀をすると俺の足元が光り、自分がどこかへと転移させられるのが感覚で分かった。少し感じる浮遊感とこれから始める冒険に期待をしながら一度目を瞑りゆっくりとまばたきをして目を開けると目の前に広がっていたのは、奇麗なタイルが敷き詰められた西洋の街並み…ではなく、光をほんの僅かにしか通さない暗い森の中だった。
「は?」